
弥富市の保育所民営化、本当に「お得」なの?
4月から、弥富市で公立だった「ひので保育所」が民営化され、「ひのではばたきこども園」になりました。市は「民営化すれば年間3600万円も費用が減らせて、サービスも良くなる」と言っているようですが、本当にそうなるのか、疑問点がたくさんある、というのがここでの問題提起です。ただし、3600万円の費用算定の詳細は明らかにされていませんので、一部推測による論考であることをお断りしておきます。
- 「年間3600万円節約&サービス向上」は本当に実現できるの?
市は民営化で費用が減り、サービスが良くなると言っていますが、計画は立派だが、実際には実現しそうにないかもしれません。
なぜそう言えるのでしょうか?
- 民営化された「こども園」のお金の話
民営化された「ひのではばたきこども園」は、国が定めた「公定価格(こうていかかく)」という基準でお金をもらって運営することになります。
- 3歳〜5歳の子どもたち:国の公定価格で運営されます。
- 0歳〜2歳の子どもたち:弥富市が条例で決めた料金しか受け取れません。
- 入園金など一般の市立の園で徴収しているお金は集められません。
- 公立保育所だった頃は、こんなに手厚かった!
「ひので保育所」が公立だった頃は、ただ子どもを預かるだけの「サービス施設」ではありませんでした。子どもたちが安心して生活し、それぞれの成長に合わせてきめ細やかな配慮がされる「生活の場」として運営されていました。
具体的に、国が定める最低限の基準を超えて、手厚い環境を提供してきました。
- 保育士の加配(かはい):国が定める保育士の人数基準だけでは足りない場合、さらに保育士を増やして配置していました。これは、発達に様々な配慮が必要な子どもたちにも、十分な目が行き届くようにするためです。増えた保育士の人件費は、もちろん市の負担でした。
- 良い施設・設備:丈夫で質の高い建物、広い園庭、しっかりした遊具、保護者向けの駐車場など、これらも国の基準以上の良い環境を提供していました。
- 質の高い給食:外部の業者に給食を運ばせるのではなく、アレルギー対応もできる温かい給食やおやつを、園の中で手作りしていました。これは「食育(しょくいく)」にも力を入れていた証拠です。
- 食育:食べ物に関する知識や、健康的な食習慣を身につけるための教育のことです。
これらは全て、弥富市が公立保育所として、国の基準以上のことをやってきたからです。
- 保育所と幼稚園、働き方の違いがコストに影響する
保育所と幼稚園では、子どもの預かり時間や働き方が大きく異なります。これが人件費に大きく影響します。
- 幼稚園の場合:例えば午前10時から午後2時までの4時間だけ子どもを預かるため、先生の勤務は午前9時から午後5時など、比較的決まった時間で済みます。園児が帰った後の記録や翌日の準備なども、その時間内に一人の先生で完結できます。
- 保育所の場合:子どもたちの「生活の場」なので、朝早い子だと午前7時半から、夜遅い子だと午後6時半まで預かります。合計で11時間も開園しているため、一人の保育士では対応できません。必ず「早番(早く出勤する人)」や「遅番(遅くまで残る人)」といったシフト勤務が必要です。このシフト分の人件費がかかります。
結論として、もしこれが幼稚園であれば、民営化しても公立と私立で大きな差は出にくいかもしれません。しかし、保育所は子どもの生活の場であり、手厚いケアが必要なため、現状では国が定めた基準の金額だけでは、従来の弥富市民が求めるような質の高い保育環境は提供できない可能性が高い、ということが言えます。
弥富市は、公立の時には、国の基準よりも3600万円も多くの予算をかけて、子どもたちが伸び伸びと生活し、学べる環境を提供してきました。
- 民営化で「質の維持」はできるの?
では、民営化された時に、この「3600万円の差額」はどうなるのでしょうか?
「民間だから人件費が安く、国の基準通りのお金で弥富市と同じことができる」というのは、考えにくい、と指摘されています。
- 人件費以外のコスト:例えば、園を運営する理事長の人件費や、事務作業を行う間接部門の経費など、民間ならではのコストがかかります。
- 複雑な事務作業:国から公定価格をもらうためには、非常に多くの複雑な書類を作成しなければなりません。この事務作業にかかる費用も決して安くありません。
- 市との協定による追加業務:「ひのではばたきこども園」は弥富市との協定により、公立の「ひので保育所」時代にやってきたことを全て引き継ぐことになっています。
- 日の出小学校との交流
- 食育や特別支援教育の実施
- 保護者からの苦情に対応するための組織作り
- 保護者を含めた「三者協議会(さんしゃきょうぎかい)」を設けること
- 弥富市からの指導やチェックへの対応
これらは全て、対応するための「手間」がかかります。そして、その手間は結局「人件費」という形で費用が発生します。純粋な民間の保育園であれば、自分たちの教育方針に基づいて自由に運営できるため、わざわざ外部に説明したり、報告したり、チェックを受けたりする手間はかかりません。しかし、協定でこれらを行う以上、費用が発生してしまうのです。
- 見えないコストと将来の不安
さらに、公立保育所だった時には意識されていなかった、以下のような「見えないコスト」も問題になります。
- 本庁(市役所の本体)の間接経費:公立保育所の時は、市役所の管理職や事務職員が、保育所の運営を間接的にサポートしていました。これらの費用は、保育所単体の経費には計上されていませんでしたが、市全体としては発生していました。
- 大規模修繕や建て替え費用:園舎の大きな改修や建て替えに必要な費用は、国の公定価格の中で積み立てることになっています。10年後、20年後といった長期で見たときに、園の施設を維持するための資金が足りなくなるのではないかと心配されています。
結局、「絵に描いた餅」にならないか?
これらの点を総合すると、「年間3600万円の節約」という市の見込みは、あくまで表面的な数字であり、実際には「民間は安いから」という単純な理由で全てを賄えるはずがない。
「ひのではばたきこども園」が4月から始まったばかりなので、具体的な決算を見なければ最終的な判断はできません。
結論として
弥富市民が求める「子どもたちが伸び伸びと生活し、学び、育つ環境」は、国の基準以上の予算をかけなければ維持できませんでした。民営化によってその予算が削られた時に、果たして同じ質のサービスが提供できるのか、そして、長期的に安定した運営ができるのか、という点が大きな課題です。
もし、民営化で保育の質が低下したり、将来的に運営が立ち行かなくなったりするようであれば、弥富市はもう一度、子育て支援に手厚い本来の姿に戻し、公立保育所として運営していくことになるのかもしれません。
この問題は、弥富市の子育て環境の未来に関わる大切なことです。今後も、市議会での議論や、こども園の決算状況に注目していく必要があるでしょう。