OLYMPUS DIGITAL CAMERA
はじめに:弥富市の認定こども園化が進む背景
弥富市では、公立保育園が私立の認定こども園へと移行し、さらにその動きが続くとのこと。市としては、**「幼稚園が少なく、私的契約児といって高額な費用を払って保育園に通っている保護者の不満を解消できる」**ことを大きなメリットとして挙げています。これは、幼児教育・保育の無償化以降、幼稚園は無償である一方、保育園は3歳未満児の保育料が発生することによる、保護者間の金銭的負担の不均衡を解消したいという意図があるようです。
しかし、この問題の**本当の当事者は「子どもたち」**であり、大人の都合や経済的な理由だけで、子どもたちの育ちの場が決まってしまうことへの懸念も存在します。本レポートでは、弥富市の認定こども園化の背景にある課題意識を深掘りし、子どもの主体性や多様な保育・教育のあり方を保障するために何が必要か、関連する研究や議論を基に考察します。
- 幼稚園と保育所の本質的な違いとそれぞれの重要性
幼稚園と保育所は、日本の幼児期の育ちを支える二つの柱ですが、その成り立ちと本質的な役割は異なります。
- 幼稚園の本質:幼児教育の場としての多様性と選択の自由
- 幼稚園は、学校教育法に基づく教育機関であり、幼児期の教育を通じて子どもの健全な発達を促すことを目的としています。
- ご指摘の通り、私立幼稚園には「森の幼稚園」「食育重視」「モンテッソーリ教育」など、多様な教育理念や特色を持つ園が多数存在します。保護者は、自身の教育方針や子どもの特性に合わせて、自由に園を選択する権利があり、その選択が尊重されるべきです。
- 関連研究: 幼児教育における多様なカリキュラムや実践が、子どもの発達に与える影響に関する研究は多く、各教育理念に基づく研究会(例:日本モンテッソーリ協会、森のようちえん全国ネットワーク等)も活発に活動しています。
- 【出典例】:
- 「幼児教育の多様性と質の保障に関する研究」(日本乳幼児教育学会誌、各種大学紀要など)
- 「森のようちえんの実践と子どもの発達に関する研究」(環境教育学会誌、教育心理学研究など)
- 【出典例】:
- 保育所の本質:保育の社会化と子どもの生活保障
- 一方、保育所は児童福祉法に基づく福祉施設であり、保護者が「保育に欠ける」場合に、子どもたちの生活と育ちを保障する役割を担ってきました。かつては「措置」という言葉が使われることもありました。
- 現代の保育所は、保護者の就労支援という側面も持ちますが、その本質は、**子どもの人権を保障し、育ちの場を社会全体で支える「保育の社会化」**にあります。これは、高齢者の介護の社会化と同様に、家族のみに負担を押し付けず、社会全体で子どもの育ちを支えるという重要な理念に基づいています。
- 保育所は、子どもたちが一日の大半を過ごす「生活の場」であり、その中で自立心、社会性、豊かな感性を育むための保育実践が行われています。保育士は専門職として、子どもの発達や保育に関する専門知識を学び、継続的な研修を通じて質の向上に努めています。
- 関連研究: 保育の社会化の意義、保育の質と子どもの発達に関する研究、保育士の専門性に関する研究は、保育学会や児童福祉学会で多数発表されています。
- 【出典例】:
- 「現代社会における保育の社会化の意義と課題」(日本保育学会誌、日本児童学会誌など)
- 「保育の質と子どもの発達に関する実証研究」(国立教育政策研究所、各大学の研究報告書など)
- 【出典例】:
- 認定こども園化がもたらす影響と懸念される「歪み」
弥富市が公立保育園を認定こども園へ移行させる理由は、幼稚園が少ない現状を解消し、保護者の費用負担の不満を解消することにあるとされています。しかし、この認定こども園化は、子どもたちの育ちの場にどのような影響を与えるのでしょうか。
- 認定こども園の目指すもの:
- 認定こども園は、幼稚園と保育所の両方の機能を持つ施設として、幼児教育と保育を一体的に提供することを目指しています。保護者の就労状況に関わらず利用できるため、選択肢の拡大や待機児童の解消に貢献すると期待されています。
- 弥富市での「歪み」の懸念:
- 弥富市で進められている認定こども園化は、幼稚園機能の強化を意図しているとのことですが、その結果として、これまでの保育所が培ってきた**「家庭の延長としての生活の場」**という側面が薄れてしまう懸念があります。
- 朝7時台から登園する子どもと9時頃に登園する子どもが混在する中で、「画一的な教育プログラム」(例:英語や体育の導入)を導入することが、すべての子どもにとって最適とは限らず、かえって負担や歪みを生じさせる可能性があります。
- 特に、保育所では「統率」よりも「個々の発達段階に応じた見守り」が重視される傾向があります。幼稚園的な教育が導入されることで、子どもたちが「きつい」と感じるような状況が生まれるという苦情が寄せられていることは、現場でのミスマッチを示唆しています。
- 全国的な研究の視点:
- 認定こども園制度の導入後、全国各地で様々な研究や検証が行われています。特に、**「幼保一体化による保育の質の変化」「教育と保育の融合の課題」「職員配置とカリキュラム編成の難しさ」「子どもの生活リズムへの影響」**などが主要な研究テーマとなっています。
- 多くの研究では、幼保連携型認定こども園において、幼稚園と保育所のそれぞれの良さを融合させる難しさや、職員間の専門性の違いによる連携の課題などが指摘されています。画一的な教育プログラムの導入が、全ての子どもの主体性や多様な育ちに対応しきれない可能性も示唆されています。
- 【出典例】:
- 「幼保連携型認定こども園における教育・保育の現状と課題」(日本保育学会、日本乳幼児教育学会などの共同研究、学会誌)
- 「認定こども園制度の導入が保育実践に与える影響に関する全国調査報告書」(国立教育政策研究所、各種大学研究機関の報告書)
- 「認定こども園における幼児教育・保育の質の確保に関する研究」(こども家庭庁、文部科学省等の政策関連報告書)
- 子どもの主体性と多様な選択肢を保障するために
この問題の根源には、子どもの主体性が十分に尊重されていないという課題があります。子どもは、親の都合や自治体の財政事情、特定の教育方針によって一方的に育ちの場を決められる存在ではありません。子ども一人ひとりの個性や発達段階、家庭環境に合った多様な選択肢が保障されるべきです。
- 保護者の選択権の尊重: 弥富市が掲げる「幼稚園の選択肢の少なさ」という問題意識自体は理解できますが、それが**「既存の保育所の本質を変える」ことで解決されるのが最適解なのか、という問いは残ります。保護者は、それぞれの家庭の価値観や子どもの特性に基づいて、「幼稚園」という教育機関としての選択肢と、「保育所」という生活保障と社会性育みの場としての選択肢**を、明確に区別して選べる自由が保障されるべきです。
- 多様な保育・教育の質の確保:
- 弥富市が必要とするのは、単に「幼稚園の数を増やす」ことだけでなく、多様な教育理念を持つ私立幼稚園が地域に根付き、健全に運営できる環境を整えることかもしれません。
- また、保育所においては、「働く親のためのサービス」という見方を排し、子どもたちの生活の場としての質の向上に注力することが求められます。英語や体育などの活動も、あくまで子どもの生活や遊びの中から自然に生まれるものであるべきであり、画一的な「お稽古」のようになることには慎重な検討が必要です。
- 子どもの声の聴取と検証:
- 認定こども園化が子どもたちにどのような影響を与えているか、本来は子どもたちの声(遊びの様子、表情、発言など)を丁寧に観察し、客観的な研究に基づいて検証する必要があります。
- 現場の保育士や保護者から寄せられる懸念の声は、単なる「苦情」としてではなく、子どもの最善の利益を考える上で重要な情報として受け止め、改善に繋げる姿勢が不可欠です。
結論:弥富市に求められる今後の視点
弥富市における公立保育園の認定こども園化は、幼児教育・保育の無償化という国の大きな流れの中で、地域のニーズに応えようとする試みです。しかし、その過程で、子どもたちの主体性や、保育・教育の本質が見失われてはなりません。
弥富市には、以下の視点での取り組みが求められます。
- 多様な選択肢の保障: 既存の公立保育園を認定こども園化するだけでなく、多様な教育理念を持つ私立幼稚園の誘致や支援、あるいは公立保育園としての質を維持・向上させる選択肢も検討すること。
- 子どもの最善の利益の追求: 認定こども園における教育・保育実践が、本当に子どもたちの健やかな成長に繋がっているのか、外部の専門家や研究機関と連携し、客観的な視点から定期的に検証し、改善を重ねること。
- 保護者や現場の声を傾聴: 認定こども園化によって生じる現場の負担や、保護者からの懸念の声に真摯に耳を傾け、子どもたちの育ちの質が損なわれないよう、きめ細やかな対応を行うこと。
無償化という制度の目的は、子どもたちが等しく質の高い幼児教育・保育を受けられるようにすることです。その目的を達成するためには、大人の都合だけでなく、子どもたち一人ひとりが主役となり、それぞれの個性に合った場所で輝けるような環境を、地域社会全体で作り上げていく視点が不可欠です。
子どもたちの「最善の利益」を最優先とした、多様で質の高い幼児教育・保育の実現に向けて
弥富市が進める公立保育園の認定こども園化は、幼児教育・保育の無償化という国の政策を背景に、「幼稚園不足の解消」や「保護者の費用負担の不均衡解消」を目的としていると理解いたします。しかし、この重要な移行プロセスにおいて、「子どもたちの主体性」と「多様な育ちの保障」という、最も本質的な視点が見過ごされているのではないかという強い懸念を抱いています。
私たちは、弥富市が未来を担う子どもたちのために、以下の点を深く考察し、政策決定と実行に反映させることを強く提言いたします。
1. 幼稚園と保育所の「本質的役割」を明確に再認識せよ
幼稚園と保育所は、それぞれ異なる理念と目的を持つ、日本の幼児教育・保育を支える二つの柱です。
- 幼稚園:幼児教育の「多様性」と「選択の自由」の尊重
- 幼稚園は学校教育法に基づく教育機関であり、多様な教育理念を持つ私立幼稚園が存在することで、保護者は自身の教育方針や子どもの特性に合わせて自由に園を選択できます。この**「多様な選択の自由」**は、子どもの個性を育む上で極めて重要です。
- 保育所:保育の「社会化」と「生活保障」という子どもの人権
- 保育所は児童福祉法に基づく福祉施設であり、保護者が「保育に欠ける」場合に、子どもの生活と育ちを社会全体で保障する**「保育の社会化」**という理念に基づいています。子どもたちが一日の大半を過ごす「生活の場」として、個々の子どもの発達段階に応じたきめ細やかな保育実践が何よりも求められます。
【提言】 弥富市は、認定こども園化を進めるにあたり、幼稚園と保育所それぞれの本質的な役割と意義を深く理解し、その特性が失われることのないよう、慎重な制度設計を行うべきです。 単に数を増やすだけでなく、それぞれの特性を尊重した多様な幼児教育・保育の選択肢を地域全体で保障することを、政策の基軸とすべきです。
2. 「認定こども園化」がもたらす「歪み」を直視し、子どもへの影響を徹底検証せよ
弥富市で進む認定こども園化は、幼稚園機能の強化を意図しているとのことですが、その結果として、これまでの保育所が培ってきた**「家庭の延長としての生活の場」**という側面が薄れ、子どもたちに「歪み」が生じる懸念があります。
- 画一的な教育プログラムへの懸念: 朝7時台から登園する子どもと9時頃に登園する子どもが混在する中で、「画一的な教育プログラム」(例:英語や体育の導入)を導入することは、すべての子どもにとって最適とは限りません。特に保育所が重視する「個々の発達段階に応じた見守り」が損なわれる可能性があり、子どもたちが「きつい」と感じる状況を生み出しかねません。
- 全国的な研究が示す課題の共有: 全国各地で行われている認定こども園制度導入後の研究では、「幼保一体化による保育の質の変化」「教育と保育の融合の課題」「職員配置とカリキュラム編成の難しさ」「子どもの生活リズムへの影響」などが主要なテーマとして指摘されており、画一的な教育プログラムの導入が、全ての子どもの主体性や多様な育ちに対応しきれない可能性が示唆されています。
【提言】 弥富市は、認定こども園化が子どもたちの発達や生活リズムに与える影響について、外部の専門家や研究機関と連携し、客観的かつ多角的な視点から定期的な検証を行うべきです。 現場の保育士や保護者から寄せられる懸念の声は、単なる「苦情」としてではなく、「子どもの最善の利益」を考える上で極めて重要な情報として真摯に受け止め、即座に改善に繋げる姿勢が不可欠です。
3. 「子どもの主体性」を尊重し、真に多様な選択肢を保障せよ
この問題の根源には、子どもの主体性が十分に尊重されていないという課題があります。子どもは、親の都合や自治体の財政事情、特定の教育方針によって一方的に育ちの場を決められる存在ではありません。
- 保護者の選択権の尊重: 弥富市は、保護者がそれぞれの家庭の価値観や子どもの特性に基づいて、「幼稚園」という教育機関としての選択肢と、「保育所」という生活保障と社会性育みの場としての選択肢を、明確に区別して選べる自由を保障すべきです。
- 質の高い保育・教育環境の実現: 弥富市に求められるのは、単に「幼稚園の数を増やす」ことだけでなく、多様な教育理念を持つ私立幼稚園が地域に根付き、健全に運営できる環境を整えること、そして保育所においては、「働く親のためのサービス」という見方から脱却し、子どもたちの生活の場としての質の向上に注力することです。
- 子どもの声の聴取と検証の可視化: 認定こども園化が子どもたちにどのような影響を与えているか、本来は子どもたちの声(遊びの様子、表情、発言など)を丁寧に観察し、客観的な研究に基づいて検証し、その結果を市民に可視化すべきです。
【提言】 弥富市は、「大人の都合」ではなく、「子どもの最善の利益」を政策の中心に据えるべきです。 認定こども園化の推進にあたっては、形式的な移行にとどまらず、多様な保育・教育の選択肢を確保し、その質を高めるための具体的な計画を策定し、市民に明確に提示することが強く求められます。未来を担う子どもたち一人ひとりが主役となり、それぞれの個性に合った場所で輝けるような環境を、地域社会全体で作り上げていく視点が不可欠です。
