幼児教育・保育の無償化が、特に私立保育園・認定こども園の運営に与えた影響、そして公定価格の構造的な問題点について、まさにその点に焦点を当てた研究やレポートは複数存在します。また、無償化以前の自治体ごとの保育料の差や、無償化後の財政支援に関する研究も行われています。
ここでは、ご指摘の課題意識に沿った情報を提供するために、関連する研究論文やレポートの傾向、そして具体的な引用事例について解説します。
- 無償化前後の保育料と公定価格、運営費に関する影響
ご指摘の「公定価格が事実上の利用料となり、それ以前よりも実質的な運営費用が高くなっている」「配置基準と公定価格の乖離が特に私立で経営を圧迫している」という点については、多くの研究者が指摘している課題です。
研究の傾向と論点
- 公定価格の構造的課題: 公定価格は、職員配置基準に基づいて算出される「人件費分」が主な構成要素ですが、この基準が最低基準であり、実際の運営に必要な手厚い配置や、施設維持費、研修費、事務費といった「運営上必要な経費」を十分にカバーしきれていないという指摘があります。
- 特に、ご指摘の「25人に1人」の配置基準で26人目の子どもが入園した場合、保育士は2人必要になるにもかかわらず、公定価格は1人分の加算にしかならない、あるいは加算がないといった定員超過時の費用発生と収入のミスマッチは、私立園の経営を直接的に圧迫する要因として繰り返し議論されています。
- 私立と公立の経営状況の差: 公立園は一般会計からの繰り入れ(税金投入)が可能であるため、公定価格だけでは賄えない部分を補填できます。一方、私立園は自主財源や借入金などで対応せざるを得ず、経営の安定性が大きく異なる点が指摘されています。これにより、公立と私立で提供される保育の質や、職員の待遇に差が生じる可能性も指摘されています。
- 無償化による収入構造の変化: 無償化により保護者からの利用者負担金がなくなることで、保育園・幼稚園の収入はほぼ全額が公定価格(施設型給付費)に一本化されました。これにより、公定価格の多寡が経営に与える影響がより直接的になり、公定価格が実態と乖離している場合の経営リスクが顕在化しました。
- 無償化以前は、自治体によっては公定価格に加えて、上乗せ徴収や独自の補助金制度が存在し、それが園の運営を支えていたケースもあります。無償化によりそれらの収入源が失われた、または補填が不十分である場合、実質的な収入減となる可能性も指摘されています。
関連する研究論文・レポート(例)
具体的な研究機関や学会、政府系の調査報告書でこれらの論点が取り上げられています。以下に代表的なものを挙げますが、個別の論文は各大学や学会のデータベースで「幼児教育無償化 影響」「公定価格 経営」「保育所 財政」などのキーワードで検索いただくと、より詳細なものが見つかります。
- 日本保育学会: 学会誌や研究大会発表において、無償化後の保育実践や経営実態に関する研究が多数発表されています。特に、経営的な観点からの発表は、ご指摘の課題に直結する内容が多いです。
- 各大学の研究室: 教育経済学、社会福祉学、保育学などを専門とする研究室が、無償化の影響に関する実証研究や提言を発表しています。
- シンクタンク・研究機関:
- 三菱UFJリサーチ&コンサルティング: 幼児教育・保育の無償化に関する調査研究や提言を行っています。無償化前後の経営状況の変化や課題を分析したレポートが見られます。
- 野村総合研究所: 同様に、少子化対策や子育て支援策の一環として、保育事業の分析レポートを発表していることがあります。
- 自治体による調査報告書: 無償化後の域内保育施設の経営実態調査や、運営に関するヒアリング調査結果を公表している自治体もあります。これは、具体的な数値や現場の声が反映されているため、参考になります。
- 内閣府・こども家庭庁: 幼児教育・保育の無償化に関する政策評価や検証報告書を公開しています。ただし、政策を評価する立場であるため、構造的な課題の指摘は慎重な表現になっていることが多いです。
具体的な引用例の探し方: これらの機関のウェブサイトで、**「幼児教育・保育の無償化 課題」「公定価格 私立保育園 経営」「保育所運営費 基準」**といったキーワードで検索すると、ご希望の情報が見つかる可能性が高いです。特に、**制度導入後数年が経過した時点(2022年以降)**のレポートは、より詳細な影響分析が行われている傾向があります。
- 2歳児未満の無償化の影響と地方財政
2歳児未満の保育料は無償化の対象外ですが、無償化以前と以後での地方自治体の財政支援や料金設定の傾向については、以下のような研究テーマが存在します。
研究の傾向と論点
- 無償化以前の保育料格差: 無償化以前は、自治体や施設種別(認可・認可外、公立・私立)によって保育料に大きな差がありました。これは、自治体ごとの財政力や子育て支援に対する考え方の違いが反映されていたためです。この格差が、保護者の居住地選択や施設選択に影響を与えていたという研究もあります。
- 無償化以降の財政援助: 2歳児未満に関しては、無償化の対象外であるものの、地方自治体独自の補助金や軽減措置を設けている場合があります。国や県からの財政援助が直接的に増えたというよりは、無償化による財源を、地方自治体が2歳児未満への独自支援に充てているケースや、保育士の処遇改善費に充てているケースなど、その使途は様々です。
- 無償化の財源は国費と地方負担(都道府県・市町村)で構成されており、無償化対象外の経費に対して直接的な「財政援助の増加」があったかどうかの判断は、各自治体の財政状況や予算編成方針に依存します。
- 公立園の料金設定と赤字補填: 公立園の保育料は、私立園に比べて安価に設定されていることが多く、これはご指摘の通り、一般会計からの繰り入れによって運営費の不足分が補填されているためです。
- 「公立がコスト計算をすると民間より高いと言われてしまう」という点も、まさにその通りで、公立は基準以上の職員配置や手厚い運営が可能であるため、それを人件費等に換算すれば私立の公定価格収入で運営している園よりも「コストが高い」と見えます。しかしこれは、公立が適切な人員配置や環境整備を行っている結果であり、私立が「本来もらえるべきお金をもらっていない」ために「安い」という相対的な状況であるという指摘は、研究でもなされています。
- 地方税収入との関係: 地方税は地方自治体の重要な財源であり、公立園の運営費補填や2歳児未満への独自支援、あるいは保育士の処遇改善といった施策の財源となります。無償化により国からの財源が明確になったことで、地方自治体は独自の予算配分を検討しやすくなった側面もあります。
関連する研究論文・レポート(例)
- 地方自治体の財政課、子ども家庭担当部局の報告書: 各自治体が公開している決算資料や、子ども・子育て支援事業計画に関する報告書には、保育関連予算の内訳や、無償化後の財政影響に関する記述が含まれることがあります。
- 地方財政に関する研究: 地方財政学を専門とする研究者や学会が、子ども・子育て支援分野への地方財政の投入状況について分析した論文を発表しています。
- 国立教育政策研究所: 幼児教育や保育の政策評価の一環として、無償化の影響に関する調査研究を行っています。
- 独立行政法人福祉医療機構(WAM): 保育所等の経営状況に関する調査報告書を定期的に発表しており、公立と私立の経営実態の比較分析なども行っています。
具体的な引用例の探し方: 「2歳児未満 保育料 格差」「幼児教育無償化 地方財政」「公立保育園 経営 公定価格」といったキーワードで検索し、特に各自治体の財政白書や子ども・子育て支援事業計画の進捗報告などを確認すると、地域ごとの具体的な状況が把握できます。
まとめ
幼児教育・保育の無償化は、保護者負担軽減という大きなメリットがある一方で、ご指摘のように、特に私立保育園・認定こども園の経営を圧迫する構造的な課題を顕在化させた側面があるという研究は多数存在します。公定価格が現実の運営費を十分にカバーできていない点、そして公立と私立の財政基盤の違いによる経営格差は、保育の質の維持・向上を図る上で重要な論点として、現在も活発に議論されています。
これらの研究は、単に問題を指摘するだけでなく、より持続可能で質の高い保育・教育を提供するための政策提言にもつながっています。ご自身の研究や分析の参考として、これらの情報源を多角的に活用されることをお勧めします。
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