請願反対議員の「無理筋な論理」と、親の「誠実な願い」の対立
弥富市議会厚生文教委員会で行われた請願審査は、子どもの安全を第一に考える親たちの切実な願いと、計画ありきで進めようとする市側・一部議員の間に大きな溝があることを浮き彫りにしました。以下に、反対議員の主張と、それに対する請願者の誠意ある姿勢を対比させて整理します。
1. 「署名の集め方」と「住民の理解度」を疑う姿勢
請願反対議員の主張:
- 「正確な情報が提供されたか疑問」:請願署名に際して、市が示した新しい増築案(全校生徒が新校舎に収まる案)が十分に説明されておらず、単に「古い校舎より新しい方が良い」という印象操作で署名を集めたのではないか、と繰り返し質問しました。(鈴木委員)
- 「個人的な図面で誤解を招いた」:請願書に添付された、市の関与しない新築設計図が「ハロー効果」を狙った印象操作であり、請願のあり方として問題ではないか、と厳しく追及しました。(鈴木委員、平居委員)
- 「詳しい説明をしなくても署名が集まった」:佐藤議員の発言を引用し、説明を省略して署名を集めたのではないかと質問しました。(鈴木委員)
請願者(紹介議員・横井委員)の反論と誠意:
- 「事実に基づいた請願」:市の新しい増築案の説明を受けた上で、それでも「安全性を最優先に考える」という理由から、あえて十四山中学校跡地での新築を求めている。請願理由に記載された地盤や標高、交通安全といった具体的な問題点を丁寧に説明し、保護者たちが決して感情的ではなく、冷静に判断していることを示しました。
- 「イメージ図であり印象操作ではない」:添付された図面はあくまで「イメージ図」であり、安全で魅力的な学校の姿を示すものだと反論しました。請願代表者は「ハロー効果など狙っていない」と怒りを表明し、署名した人々の真剣な思いを踏みにじるような質問に不快感を示しました。
- 「後出しじゃんけんへの不満」:請願活動を始めた後に市が浸水対策(嵩上げ)などの計画を発表したことに対し、「後出しじゃんけんのようだ」と不信感を示しました。当初から安全性への配慮が十分にあれば、請願の必要はなかったと述べています。
対立の本質: 反対議員は、請願そのものの正当性や署名した人々の知性を疑い、「署名プロセス」という表面的な部分に固執しました。しかし、その追及の過程で、請願者が市の説明を理解した上で、より本質的な安全性の問題を懸念しているという事実が、かえって浮き彫りになりました。
2. 「防災対策の限界」と「命の価値」をめぐる対立
請願反対議員の主張:
- 「標高問題は弥富市全体の問題」:西部小学校の標高(マイナス1.9m)の危険性は弥富市全体の問題であり、他の学校や保育所も低いことを理由に、西部小学校だけを特別視するべきではないと主張しました。(平居委員)
- 「垂直避難で命は守れる」:止水板や嵩上げで浸水を防ぎ、それでも浸水した場合は上の階に垂直避難すれば命は守れる。職員室や放送室の備品を守ることより、命を守ることの方が重要だ、と述べました。(平居委員)
- 「不安を煽るな」:請願理由が住民の不安を煽るようにしか思えない、と指摘しました。(平居委員)
請願者(紹介議員・横井委員)の反論と誠意:
- 「これから作る場所だからこそ」:他の学校が低いからといって、これから新しく作る学校まで低い基準で良いはずがないと反論しました。新しい学校をより安全な基準で建設することで、将来的な防災レベルを市全体で引き上げることが重要だと訴えました。
- 「怪我のリスクを軽視しない」:不同沈下で校舎が倒壊しないとしても、怪我をするリスクや、避難所としての機能が失われること、給食が提供できなくなることなど、子どもたちの「命」以外の部分(QOL)まで見据えた懸念を示しました。
- 「想定外を考えるのが防災」:市が排水機場の整備で万全だと主張する一方で、「想定外のことが起こるのが災害」であり、最悪の事態を想定した防災対策こそが必要だと述べました。
対立の本質: 反対議員は、「命が助かれば良い」という最低限の防災対策に論点を限定しようとしました。しかし請願者は、単に命が助かるだけでなく、子どもたちの怪我のリスクや、学校の機能維持、そして地域住民の避難所としての機能まで、より包括的な安全性を求めていました。これは、親や地域住民が我が子や地域を思うからこその、切実で誠実な願いです。
3. 「工期」と「ライフサイクルコスト」をめぐる対立
請願反対議員の主張:
- 「令和10年4月の開校は現実的ではない」:請願が求める令和10年4月開校は、行政手続きや設計、工事の時間を考えると現実的ではない。市が示す現行案を進めるべきだと主張しました。(鈴木委員)
- 「ライフサイクルコストの算出に疑問」:将来的な人口減少を考慮すると、請願が主張する「新築と改修のコストが同額になる」という見込みは非現実的だと指摘しました。(平居委員)
請願者(紹介議員・横井委員)の反論と誠意:
- 「専門家の見解に基づいている」:市内在住の建築士(元々西部小の建設に携わったベテラン)の見解として、十四山中学校跡地の方が工事がシンプルに進むため、工期短縮が可能であり、令和10年4月の開校は十分に可能であることを示しました。
- 「安全あってのライフサイクルコスト」:ライフサイクルコストを考える以前に、まず子どもの安全を確保することが第一だと主張しました。老朽化した既存校舎を使い続けるリスクや、それによる「想定外」の費用発生を懸念し、長期的な視点で安全性を確保することこそが、最終的にコスト削減につながるという考えを示しました。
対立の本質: 反対議員は、請願の実現可能性を「工期」や「コスト」といった行政的な都合に限定して否定しようとしました。これに対し請願者は、専門家の意見や現実的な工事リスクという事実に基づき、請願の実現可能性を示しました。また、コスト議論においても、「安全性」という親にとって何よりも重要な価値を考慮しない議論は無意味であると訴え、根本的な価値観の違いを明らかにしました。
結論:親の誠意と議員の不信
この請願審査は、反対議員が請願者の意図を「印象操作」「不安を煽る」と疑い、請願書に込められた親たちの誠実な願いを理解しようとしない姿勢を示した一方で、請願者が冷静かつ広範な視点で子どもの安全を考えていることを、図らずも証明する形となりました。
「我が子の命は、相対的に他の学校の子どもより劣って良いと、どこの親が思うのでしょうか」という横井議員の言葉は、請願の根底にある親たちの切実な願いを象徴しています。最終的に請願は不採択となりましたが、議事録からは、子どもの安全に対する親の誠意に勝るものはないという請願の「意味と価値」が強く伝わってきます。
