市民の切実な願いをはぐらかす弥富市の答弁
弥富市議会での一般質問は、子どもの安全を最優先に考える市民の切実な願いと、それに応えようとしない市側の不誠実な答弁との対立を浮き彫りにしました。以下に、市民側が投げかける具体的な疑問と、それに対する市の「はぐらかし」答弁を整理します。
1. 「比較すれば中学校跡地の方が良いのに、なぜダメなのか」への無回答
佐藤議員は、3,300人を超える住民の署名が示しているのは「中学校跡地での新築が明らかに優れている」という比較検討の結果だと主張しました。しかし、市側の答弁は、この根本的な疑問に答えようとしません。
市民・議員からの質問:
- 「なぜ小学校跡地が良くて、中学校跡地がダメなのか、市民が納得できる理由を明確に示してください。」
- 「中学校跡地の方が広さ、標高、交通の便など様々な面で優れているのは明らかです。なぜ中学校跡地を選ばないのですか?」
- 「議会が全会一致で中学校跡地での新築を求めているのに、なぜ対話に応じないのですか?」
市の「はぐらかし」答弁:
- 「十四山西部小学校の位置は、決して危険な場所ではございません。」
- 「既存校舎は耐震工事を終えており、安全安心な建物であり倒壊する危険性は低い。」
- 「新築校舎は液状化の影響を考慮した新耐震基準で設計を進めており、安全安心な校舎です。」
- 「これまでの計画通り、令和10年4月に地域に愛される再編校を開校できるよう事業を進めてまいります。」
はぐらかしのポイント: 市は「小学校も安全です」「一生懸命やってます」と繰り返すだけで、中学校跡地と比較した場合の優劣については一切触れていません。市民が求めているのは「どちらがより安全か」という比較検討の結果であり、「小学校でも問題ない」という断定的な答弁は、対話を拒否しているに等しい姿勢です。佐藤議員が「会話になっていない」と指摘したように、議論が全くかみ合っていません。
2. 「高潮災害の教訓」を軽視する論理
佐藤議員は、過去の伊勢湾台風の教訓から、公共施設は盛土で嵩上げされてきた弥富市の歴史的経緯に言及し、災害拠点としての役割を強調しました。
市民・議員からの質問:
- 「弥富市の公共施設は、高潮被害の教訓から盛土で嵩上げされています。なぜ小学校は『2階に逃げれば良い』というだけの対策で済ませるのですか?」
- 「単に命が助かるだけでなく、災害時の救助・復興拠点となる**『機能性』をなぜ考慮しないのですか?**」
- 「建築物の入口の標高ではなく、**『1階の床の高さ』**で安全性を比較すべきではありませんか?」
市の「はぐらかし」答弁:
- 「2階床高が4.15mあることから、2階以上であれば安心でございます。」
- 「3階には広さのあるマルチルームがあり、垂直避難をすることで避難が完了します。」
- 「電源確保のため、キュービクルを屋上に配置する計画です。」
- 「(建物の入口付近の標高は)建物の入口付近の標高でございます。」
はぐらかしのポイント: 市は「垂直避難」という最低限の対策で「安心」だと繰り返し、災害時に学校が果たすべき**「拠点機能」**については触れていません。また、佐藤議員が求めた「1階の床の高さ」という具体的な数値での比較を避けることで、議論の核心部分から逃げています。市長や吉川博氏の歴史的偉業に言及されても、その教訓を今回の計画にどう活かしているのか、明確な説明はありませんでした。
3. 「間に合わない」という理由の崩壊と、真の理由への沈黙
市はこれまで「中学校跡地では令和10年4月の開校に間に合わない」と主張してきました。しかし、佐藤議員は専門家の見解を根拠に、その理由が成立しないことを指摘しました。
市民・議員からの質問:
- 「日の出小学校が20ヶ月で建設できているのに、なぜ中学校跡地での新築が間に合わないのですか?」
- 「専門家は『再来年着工すれば余裕で間に合う』と言っています。それでも小学校にこだわる理由は何ですか?」
- 「昨日の市長の答弁(事件があったから中学校は難しい)が本当の理由だとしたら、地域に永遠の分断を残すことになります。なぜその理由を市民に隠すのですか?」
市の「はぐらかし」答弁:
- 「再編事業は…令和10年4月に十四山西部小学校の位置に開校するよう、進めてまいりました。」
- 「(市長が事件に言及した発言について)通告外ですよね、思いっきり。」
はぐらかしのポイント: 「間に合わない」という理由が専門家によって否定されても、市は計画の変更に後ろ向きです。さらに、市長が別の場で事件に言及したことを追及されると、議長は「通告外」として答弁を遮りました。これは、市の計画が客観的な根拠ではなく、別の「隠された理由」に基づいている可能性を示唆しており、市民との間に決定的な不信感を生んでいます。
4. 「子どもに選べない学校」の安全格差をめぐる認識の欠如
佐藤議員は、学校保健安全法に基づき、**子どもに学校を選ぶ権利がない以上、行政が安全性を最大限に確保する「組織的責任」**があることを強調しました。
市民・議員からの質問:
- 「石巻市大川小学校の裁判で、組織的責任が認められた教訓をどう捉えていますか?」
- 「憲法や法律が定める『学校の環境や安全に格差があってはならない』という認識はありますか?」
- 「『倒壊しないから逃げ出す時間がある』という耐震基準では、中学校での新築と比べて格差があるのではないでしょうか?」
市の「はぐらかし」答弁:
- 「既存校舎は耐震工事を終えており…倒壊する危険性は低いものでございます。」
- 「新築校舎は…新耐震基準で設計を進めており、安全安心な校舎でございます。」
はぐらかしのポイント: 市は、法律や過去の教訓に対する認識を具体的に示すことなく、抽象的な「安全安心」という言葉を繰り返すに留まりました。「倒壊しない」という最低限の基準と、新築校舎の「新耐震基準」を同列に語り、安全性に「格差」があるという市民の懸念には正面から向き合おうとしません。市民の質問は「なぜもっと安全な中学校跡地にしないのか」という比較論であるにもかかわらず、その比較を頑なに拒んでいます。
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令和6年12月定例会 一般質問 要約
1. 十四山中学校跡地に小学校再編校を新設することについて
9月議会、12月議会を通して質問してきましたが、市のこれまでの回答では、再編校はあくまで十四山西部小学校を増改築し、令和10年4月に開校するとのこと。一方で市民は「十四山中学校跡地に新築すること」を希望し、関係するエリアだけで3週間で3394人の署名が集まりました。
多くの中学校跡地を望む市民の声にも「小学校でもいいんじゃないの」を繰り返すばかりで「比較をすれば中学校跡の方が様々な面で良いのに、なぜ中学校跡地がダメなのか」という疑問に答えようとはしていません。また、議会は全会一致で中学校跡地に新築することを提案しているのに、対話をしようとしません。
●問題点1:組織的な安全は確保できるのか
佐藤:2011年、東日本大震災の津波で多くの児童が逃げ遅れて犠牲になった石巻市の大川小学校。亡くなった子どもたちの親が「何が起きたかが具体的に検証されていない」と裁判を起こし、最高裁で行政の組織的過失が認められました。
そのポイントは学校保健安全法です。文科省では水害の教訓を踏まえて「水害リスクを踏まえた学校施設の水害対策の推進のための手引き」として、「統合小学校は水害等のおそれがある危険な場所に作らない」ということを、学校保健安全法のもとに、学校設置者である市長の組織的責任として指示を出しています。
通学区域は教育委員会が指定します。子どもや親は学校を選べない。だから学校の環境も安全も格差があってはならないことを憲法と法律が定めています。行政の組織的な安全確保の責任は大きいのです。小学校と比べれば、広くて、高台にある中学校跡地で新築するのが、安全確保の面でベストではないでしょうか。
市の答弁:十四山西部小学校の位置は、決して危険な場所ではない。既存校舎は耐震工事を終えており、また躯体のコンクリートの強度は、耐力度調査によりその強度は確認しているので、安全安心な建物であり倒壊する危険性は低い。また、新築校舎は、液状化の影響を考慮した新耐震基準で設計を進めており、安全安心な校舎です。
佐藤:安全性を比較すれば中学校跡の方がいいと言っているのです。新築すれば建物もしっかりします。
●問題点2:高度成長期に建てられた躯体のリスクを甘く見ている
佐藤:十四山西部小学校は昭和47年に建設。建築の専門家あるいは、設計サイド、施工サイドのいろんな方に意見を聞くと、同じ鉄筋コンクリート構造物でも、昭和56年6月(建築基準法改正で耐震基準が新しくなった)以前と以後の建物では柱の太さも違えば中身が全然違います。
この写真は西部小学校の躯体の壁です。構造的に必要な壁にひびが入って、柱にも無数のクラックが入っています。右側の写真は2階の軒先ですが、ボロボロ落ちてきています。この躯体の安全性を保証できるのでしょうか。
市の答弁:既存校舎の躯体の強度については、専門家による耐力度調査を実施し、その強度を確認しており、安全な校舎です。
佐藤:専門家が耐震基準を満たしているというのは、壊れるけど、倒壊しないから逃げ出すだけの空間と時間があるよということなので、中学校跡で新築するのとは比べものになりません。地域として納得はできない。
●問題点3:高潮災害の教訓を軽視している
市の答弁:高潮浸水による被害について、十四山西部小学校における南海トラフ地震発生時の想定津波が2.5mとされていますが、2階床高が4.15mあることから、2階以上であれば安心です。
佐藤:十四山中学校は高台になっていて、海抜0メートルぐらいのところに1階が来るように盛土してあります。伊勢湾台風を経て昭和60年頃に建て替える時、「水害に強いように盛土をしよう」と。新庁舎をはじめ弥富市の公共施設は全部、道路よりも高い。ただ単に2階に逃げればいいってことじゃなくて、災害が起きて水がついてしまったらば、そこが救助、復興の拠点になるように、必ず盛土をしてきたんです。教訓に基づき、なすべき事をなしましょう。歴史が証明し、末代までそれが残るのですから。
●問題点4:市の主張「新築では間に合わない」は事実ではない
佐藤:日の出小学校が実質着工から20カ月でできています。中学校跡に新築する場合でも、地元説明・建築解体をやった後、再来年に着工すれば令和10年4月に間に合います。建築の専門家も余裕で間に合うと言っています。それでも西部小学校にこだわる理由は何なのでしょうか。
●問題点5:スクールバスが使いやすい広い学校が必要
佐藤:南北15キロの長い弥富としてはスクールバスを使う学校が絶対に1校は必要です。ならばやっぱり駐車場が二百何十台も確保でき、県道からのアクセスもしやすい中学校跡地の方がいい。
昨年、右図のように市民提案として意見が出ていますが、それを放置したことも問題です。
●問題点6:十四山中学校に新築しない真の理由は?
佐藤:2021年11月24日、中学校で事件が起こりました。市長は他の議員の質問に、「ご遺族の現在の心情、また関係者の方の気持ちを察しますと、私はまだまだ癒えることがない。このような思いに対しましては、しっかりと寄り添ってまいりたいと思っているところでございます。そういったご意見もある中で、十四山中学校として建築を進めていくことは、これはなかなか難しいことで、検討させていただいた結果、十四山西部小学校でということに本市は決めてまいりました」と自ら挙手されて発言された。もしこれが理由だとしたら、地域の中に未来永劫分断を残してしまう。亡くなった生徒や関係者に対しても失礼です。勇気を持って中学校跡に新築すれば新しいスタートが切れます。
