弥富市民の皆さん、学校跡地は私たちの未来を託す、かけがえのない財産です。しかし、市が策定した「学校跡地利活用基本方針」は、その活用方法を行政主導で決めるかのような姿勢が見られ、市民の真の声を反映しているとは言えません。
このままでは、十四山中学校跡地で見られるような「結論ありき」の計画が繰り返され、市民と行政の間に深い溝が生まれてしまいます。
私たちは、単なる意見聴取ではなく、計画の策定段階から住民が主体的に参加できる「共創」の仕組みを求めます。地域の未来は、行政が決めるのではなく、市民と行政が手を取り合って築くものです。
弥富市「学校跡地利活用基本方針」:住民参加と地域課題解決の視点から
弥富市が策定した「弥富市学校跡地利活用基本方針」は、私が提言する「住民の直接参加による、科学的で持続可能な行政変革」、そして「地域課題の解決」という観点から評価すると、いくつかの重要な改善点が見られます。
市が公表している基本方針は以下からPDFダウンロードできます
- 策定の背景と目的:形式的なプロセスからの脱却を
方針の記述
少子化に伴う学校規模の適正化、これまでの市民意見聴取(ワークショップ、アンケート、フォーラム)を経て策定された再配置計画、未来構想、再編整備方針に基づき、閉校後の学校跡地等の活用を検討するために本方針を策定する。
評価と提言
- 過去の市民意見の「反映」度合いの不明確さ: 市は過去にワークショップやアンケート、フォーラムで市民意見を聴取したと主張していますが、その実態は評価に値しません。今回の十四山中学校跡地利活用計画のように、市民の意向を十分に踏まえず「硬式野球場ありき」の結論を導き出している現状を見るに、これまでの市民意見聴取は形骸化しており、市民の声を真に反映するものであったとは言えません。
- 「市民の大切な財産」への住民関与の具体性不足: 閉校する学校敷地や建物を「市民の大切な財産」と認識している点は評価できます。しかし、その「大切な財産」の「より良い活用」を検討するプロセスが不明瞭で、市民が今後どのように具体的に関与できるのかが、本方針からは全く読み取れません。
- 「まちづくり及び地域の活性化等」への貢献の理念止まり: 跡地活用がまちづくりや地域活性化に資するという目的意識は重要ですが、これが単なる理念に留まっており、具体的な貢献への道筋や市民参画の機会が示されていません。
提言:
- 過去の市民意見聴取の結果と、それが今回の基本方針にどのように結びついたのかを具体的にまとめた「意見反映報告書」を作成し、公開すべきです。 特に、市民が懸念する「結論ありき」の計画ではないことを明確に示すため、どのような意見があり、それらがどう検討され、なぜ最終方針に反映された(あるいはされなかった)のかを具体的に説明する責任があります。
- 本方針の策定後も、各学校跡地ごとの具体的な利活用計画を検討する段階で、当該地域の住民が主体的に関わる「地域別ワークショップ」や「住民提案制度」を設置し、そのプロセスと結果を透明化すべきです。これにより、「大切な財産」である学校跡地に対する住民の関与を具体化します。
- 利活用の課題:地域課題との連結を強化し、制約を乗り越える視点を
方針の記述
(1) 学校跡地等を取り巻く状況:広い敷地・建物、避難所・地域コミュニティ拠点としての利用、維持管理費用・安全性。早期の利活用と民間連携の必要性。(2) 法令による規制:建物(建築基準法、消防法等)、土地(都市計画法、市街化調整区域における建築制限)。具体的な許可実績(小規模店舗、流通業務施設、社会福祉施設等)を例示。
評価と提言
- 地域課題との連結の弱さ: 跡地利用の課題として維持管理費や法令規制が挙げられていますが、これらの課題が弥富市が抱える具体的な「地域課題」(例:高齢化による地域活動の担い手不足、子育て支援の不足、若年層の流出、地域経済の活性化策など)とどのように関連し、利活用を通じて解決できるのかという視点が不足しています。現状のままでは、単なる施設の処分という印象を拭えません。
- 「避難所・地域コミュニティ拠点」の機能維持への住民意見反映の不足: 現在の学校が持つ避難所機能や地域コミュニティ拠点としての役割は、住民にとって非常に重要です。利活用によってこれらの機能が損なわれないよう配慮する記述はあるものの、住民が求める具体的な機能や代替手段について、住民が議論し、意見を形成するプロセスが明記されていません。 十四山中学校の事例で示されたように、防災機能への懸念が強く表明されているにもかかわらず、その対応が不十分です。
- 法令規制の「制約」としての提示に留まる: 法令規制を単なる「課題」や「制約」として提示するだけでなく、「その制約の中で、いかに住民ニーズや地域課題解決に資するクリエイティブな活用方法を見出すか」というポジティブな視点や、愛知県との連携による規制緩和への働きかけの可能性も示唆すべきです。
提言:
- 各学校跡地が位置する地域の具体的な地域課題リストを住民と共有し、それぞれの跡地が持つ特性と課題解決の可能性を紐付けて議論する場を設けるべきです。
- 法令規制を克服し、あるいはその中で最大限の可能性を引き出すための「住民参加型アイデアソン」などを実施し、多様な視点からの活用案を募集すべきです。
- 利活用の基本的な考え方:住民ニーズを最優先に
方針の記述
- 基本方針① 行政需要を踏まえた利活用:市の貴重な財産として、まちづくりや重要施策に留意し、市全体の利益を考慮。
- 基本方針② 地域の活力につながる利活用:地域の意向を踏まえ、まちづくり、地域振興、産業振興等の多様な利活用を検討(行政需要、民間事業者等の需要との検討を含む)。
- 基本方針③ 民間事業者等の需要を踏まえた利活用:市内全体の課題解決や重要施策に寄与し、事業者等の健全性、事業内容の安定性・継続性、市や地域への影響を考慮。
評価と提言
- 「行政需要」の最上位性への疑問: 「行政需要を踏まえた利活用」が第一の基本方針として掲げられていますが、これは往々にして「市の都合」と受け取られかねません。本来、市民の財産である学校跡地の活用は、「住民の幸福と地域課題解決」を最優先すべきです。行政需要はその手段の一つとして位置づけるべきです。十四山中学校跡地における「屋外運動施設の統合」という行政需要が、住民の多様なニーズや地域の歴史的背景を無視している点で、その優先順位の妥当性が問われています。
- 「地域の活力につながる利活用」における「地域の意向」の具体性不足: 「地域の意向を踏まえ」とありますが、その「地域の意向」をどのように把握し、どの程度重視するのかが不明確です。単なる意見聴取に留まらず、地域の住民が主体的に利活用を提案し、実現に向けて協働できる仕組みが必要です。
- 民間事業者等の「需要」と「地域貢献」のバランス: 民間事業者の需要を踏まえることは重要ですが、それが地域住民の利益や地域課題解決に直接繋がるかどうかを厳しく評価する視点が不可欠です。単なる収益性だけでなく、「地域雇用への貢献」「地域住民の交流促進」「子育て支援」など、「持続的な地域貢献」を評価基準の柱にすべきです。 公有地売却が隠れた目的ではないかという市民の疑念を払拭するためにも、この点は明確化されるべきです。
提言:
- 基本方針の優先順位を「住民ニーズと地域課題解決に資する利活用」を第一とし、その上で「行政需要」と「民間需要」を検討するという形に再構築すべきです。
- 「地域の意向」を把握するため、各学校区に「学校跡地利活用推進協議会(仮称)」を設置し、住民が主体となって利活用アイデアを検討し、市へ提案できる仕組みを設けるべきです。
- 民間事業者からの提案を評価する際、弥富市の具体的な地域課題解決への貢献度を明確な評価項目として設定すべきです。
- 利活用の検討体制と進め方:住民の意思決定への参画を
方針の記述
弥富市教育委員会と全庁横断的な「弥富市公共施設マネジメント推進本部会議」が連携し、庁内会議で活用見込みを把握。地域住民等への意見交換会、公有財産アイデア募集、市場調査を実施。最終的に整備計画(案)を策定し、地域説明会・議会で報告・公表。
評価と提言
- 検討体制における住民の「位置付け」の弱さ: 庁内組織間の連携は評価できますが、検討体制図において、住民や地域が「意見交換・連携等」の項目に留まっており、意思決定プロセスの中核に位置付けられていません。 これでは、これまでの「市民意見を聞いたふり」という姿勢から脱却できていません。
- 「意見交換会」の限界と「提案」への昇華: 意見交換会は重要ですが、単に「意見を出す場」に留まっています。住民が自分たちのアイデアを具体化し、市の検討プロセスに直接「提案」できる仕組みが必要です。
- 「整備計画(案)策定」前の住民参加の重要性: 整備計画(案)が策定されてから地域説明会や議会報告を行うのでは、住民意見が十分反映されない「後出し」になる可能性があります。計画策定の初期段階から住民が参画すべきです。
提言:
- 検討体制図に、「住民代表・地域協議会」を明確な意思決定への参画者として位置づけ、庁内組織と同等のレベルで連携するよう改めるべきです。
- 「公有財産アイデア募集」を、単なる募集に留めず、「住民提案制度」として制度化し、優れた提案に対しては市が実現に向けた具体的な支援(専門家派遣、補助金申請支援など)を行うべきです。
- 「整備計画(案)策定」の前に、「住民参加型計画策定会議」を設け、地域住民が具体的な利活用案の検討に深く関与する機会を設けるべきです。
- 利活用に当たっての配慮事項:単なる「配慮」ではなく「協働」を
方針の記述
- 配慮事項① 地域防災への配慮:避難所機能維持、代替施設の指定、民間事業者への防災協力・配慮の条件付与。
- 配慮事項② 国庫補助金等の活用:市民負担軽減のため最大限活用。
- 配慮事項③ 暫定的な施設の利用:必要最小限の経費で維持管理、利用希望があれば限定的に認める。
評価と提言
- 地域防災への「配慮」から「協働」へ: 地域防災は極めて重要な要素です。単に「配慮」するだけでなく、地域住民が防災機能の維持・向上に主体的に関わる「共助」の仕組みを利活用計画に組み込むべきです。例えば、地域の防災訓練の場として活用するなど、実践的な協働体制を築くべきです。
- 暫定利用の「積極的」活用: 利活用決定までの「暫定的な施設の利用」は、単なる維持管理費削減のためだけでなく、地域コミュニティの醸成や新たな利活用アイデアの発掘の機会として、より積極的に活用すべきです。
提言:
- 地域防災への配慮に関して、地域住民と連携した「防災拠点としての学校跡地活用計画」を策定し、具体的な訓練や備蓄体制の維持に住民が参画できる仕組みを検討すべきです。
- 暫定的な施設の利用については、「地域活性化トライアル事業」として、住民団体やNPOが安価で自由に利用できる期間を設け、新たな利活用モデルや地域コミュニティ活動の創出を促すべきです。
結論:弥富市の未来を「市民との協働」で拓くために
弥富市が策定した「学校跡地利活用基本方針」は、学校跡地活用に向けた第一歩として評価できません。2040年問題が迫る中、単なる施設の効率的な処分や行政側の都合を優先するのではなく、「住民の直接参加」と「地域課題の解決」という視点を、この基本方針の根幹に据え、具現化していくことが不可欠です。
現在の方針では、住民の声を聞く機会は設けられているものの、その意見が意思決定プロセスにどう反映されるのか、住民が主体的に計画を「提案」し「実現」できるのかという点で、依然として行政主導の姿勢が見受けられます。
弥富市の未来は、行政が「答え」を出すのではなく、市民と共に「問い」を立て、「答え」を創造していくプロセスを通じてのみ、強くしなやかなまちとして築かれていくでしょう。
この基本方針が、弥富市が市民と真に協働し、地域の活力を最大限に引き出すための、より戦略的で市民に開かれた羅針盤となるよう、上記の建設的評価と提言が弥富市の行政運営に貢献することを強く期待します。
