縦割りを打破し、「市民の目」で子どもを守る。
弥富市 公園・類似施設の安全管理アップデートに向けた3つの提言
【要旨】
市内にある「遊び場」の管理が、所管課の違い(都市整備課・福祉課など)によってバラついています。
連絡先が不明な遊具の放置は、事故を招くだけでなく市の**「重大な賠償リスク(管理の瑕疵)」に直結します。 名古屋市の成功事例に学び、全庁的なルール統一と「遊具への連絡先ラベル貼付」**を行うことで、市民を巻き込んだ強靭かつ低コストな安全管理体制の構築を提言します。
1. 現状の構造的欠陥:危機の「縦割り」
市民にとって遊び場はすべて同じ「公園」ですが、行政内部の所管法令の違いにより、安全管理のレベルに深刻な格差が生じています。
| 項目 | 都市公園(建設部管轄) | 児童遊園・広場(福祉課・農政管轄等) |
| 専門性 | 土木技術による高い危機管理・保全意識 | 事務・福祉専門職(ハード面の保全意識が希薄) |
| 現状 | 連絡先の表示や長寿命化計画が機能 | 連絡先や管理者が不明確な施設が散見される |
| 課題 | (比較的良好) | 異常発見時の通報が遅れ、事故リスクが極めて高い |
2. 放置できない「法的・財政的」リスク
遊具に連絡先や管理ラベルがないことは、単なる「不親切」ではありません。
-
国家賠償法上のリスク(管理の瑕疵):
連絡先がないために通報が遅れ、その「空白の時間」に事故が起きた場合、裁判では**「市が危険を回避するシステム構築を怠った(過失)」**と厳しく認定される可能性が高く、甚大な賠償責任を負うリスクがあります。
-
国土交通省・業界指針への不適合:
国の指針やJPFA(日本公園施設業協会)の基準でも、利用者への注意喚起と「異常時の連絡体制の構築」は標準的な義務とされています。
3. 弥富市をアップグレードする「3つの戦略的提言」
行政の巡回人員や予算が限られる中、約30年前から**「市民協働型監視ネットワーク」**を構築している名古屋市の事例をモデルに、以下の施策を提言します。
① 全庁横断的な「安全管理ガイドライン」の策定
-
所管課を問わず、すべての屋外遊び場施設に同一の安全・点検基準を適用する。
-
点検業務の委託や技術監修は、専門知見を持つ「都市整備課」が集約してシェアする。
② 全遊具への「管理ラベル」の貼付と通報窓口の一元化
-
市内の全遊具・付帯施設に、「個体識別番号」「設置年月日」「メーカー名」「緊急連絡先」を明記したラベルを貼付する。
-
QRコードを導入し、市民がスマホから写真付きで直通通報できるシステム(デジタル化)を構築する。
③ 予防保全による「ライフサイクルコスト(LCC)」の劇的縮減
-
市民からの「ボルトが緩んでいる」等の早期通報により、遊具が完全に壊れる前に安価に修繕を行う。
-
結果として、遊具の丸ごと交換といった莫大な財政負担を回避する。
結論:ディフェンシブから「シビック・プライド」へ
すべての遊具にラベルを貼り、連絡先を明示することは、市を法的責任から守る(ディフェンシブ・マネジメント)だけではありません。
**「弥富市は、この小さな遊具の一つに至るまで責任を持って見守っている」という行政の強い覚悟の証明です。そしてそれは同時に、「自分たちの地域の遊び場は、自分たちの目で守ろう」という市民の当事者意識(シビック・プライド)**を育む、最強のパートナーシップの第一歩となります。
地方自治体における公園および類似施設の安全管理体制とリスクコミュニケーションの全庁的統合に関する総合的研究:弥富市を事例とした法的責任と市民協働の分析
序論:公共施設マネジメントの転換期と市民参画の要請
現代の日本の地方自治体は、高度経済成長期に集中的に整備された膨大な公共インフラの一斉老朽化という深刻な直面課題を抱えている。
とりわけ、市民の日常生活に最も密接に機能する都市公園や児童遊園などの屋外遊び場空間においては、施設の物理的劣化が直接的に市民の生命および身体に対する重大な脅威となるため、その維持管理手法の高度化が急務とされている。
従来の事後的な修繕を中心とする「事後保全型」の管理手法から、施設の長寿命化とライフサイクルコスト(LCC)の縮減を企図する「予防保全型」のストックマネジメントへの移行は、国家レベルでの要請であり、弥富市においても「弥富市公園施設長寿命化計画」が策定され、効果的な維持管理や保全・改修に向けた取り組みが進められている。
しかしながら、地方自治体における施設管理の実態をマクロ的視点から俯瞰すると、法的な位置づけや所管部署の差異に起因する「管理水準の不均一性」という重大な構造的欠陥が内包されていることが見出される。
一市民からの提言によって提起された「市内の公園および類似施設における遊具・施設の安全管理と連絡先表示の統一化」という課題は、まさにこの行政内部の構造的欠陥が市民社会に対するリスクとして顕在化した事象を鋭く指摘したものである。
市民の視座からは全く同一の「公園(遊び場)」として認識される空間が、行政内部の論理によって「都市公園」「児童遊園」「目的外利用広場」等に細分化され、それぞれ異なる安全基準、点検頻度、そして緊急時の対応体制の下で運用されている現状は、危機管理の観点から看過できない脆弱性を有している。
本報告書は、弥富市における市民提言を分析の端緒とし、地方自治体における屋外遊び場施設の安全管理体制が内包するリスク構造について、国家賠償法に基づく法的責任論、国土交通省および関連機関の技術的指針、さらには先進自治体におけるベストプラクティスを交えながら、網羅的かつ体系的に考察するものである。
さらに、縦割り行政の弊害を克服し、全庁的な安全管理ルールの統一化と市民協働型の「異常早期発見・対応システム」を構築するための、実務的かつ戦略的な政策提言を展開する。
地方公共団体における施設管理の法的根拠と「縦割り構造」のメカニズム
地方自治体が管理する「遊び場」や「広場」の安全管理水準に不均一性が生じる根本的な原因は、施設の設置目的を規定する根拠法令の違いと、それに伴う所管部署の分散にある。この行政機構上の特性を理解することは、全庁的な安全管理体制を構築するための第一歩である。
設置根拠法令の多層性と所管部署の分化
自治体内に存在する屋外施設は、その設立経緯によって適用される法体系が大きく異なる。弥富市の事例を含め、日本の自治体における一般的な施設の法的分類と所管の実態を整理すると、以下の表のように構造化される。
| 施設呼称 | 主たる設置根拠法令 | 施設の主目的・機能 | 弥富市における推定・確認される所管部署 |
|---|---|---|---|
| 都市公園 | 都市公園法、都市計画法 | 都市環境の保全、市民のレクリエーション空間の提供、防災拠点の確保 |
建設部 都市整備課 公園緑地グループ |
| 児童遊園(児童厚生施設) | 児童福祉法 | 児童の健全育成、遊びを通じた情操教育の提供 |
健康福祉部 児童課(児童育成グループ等) |
| 産業振興広場・農村公園 | 農業振興地域の整備に関する法律等 | 農業従事者の福利厚生、地域産業の振興、地域住民の交流 | 産業振興部・農政関連部署 |
弥富市においては、建設部都市整備課が「都市公園」を所管し、これらの施設に対しては「弥富市公園施設長寿命化計画」が適用され、計画的な点検や維持管理がシステム化されている。
一方で、同じ市有の遊び場であっても、海南こどもの国のように児童福祉法に基づく児童厚生施設(児童遊園)としての性格を持つ施設や、各地区の児童館等に付帯する遊び場については、健康福祉部児童課が所管していることが確認できる。
管理主体の専門性と危機管理意識の偏在
この所管の分散がもたらす最大の問題は、維持管理を担う職員の「専門性(保有スキル)」の偏在である。
都市整備課をはじめとする土木・建築系の技術職員は、構造物の強度、材料の劣化メカニズム、設計基準に関する専門的知見を有しており、日常業務の中でインフラの安全管理に対する高い感度を備えている。
したがって、公園に看板を設置し、異常時の連絡先を明記するといったリスクコミュニケーションの手法も、土木管理の標準的アプローチとして自然に導入されやすい。
対照的に、福祉課や産業振興課に配属されている職員の多くは、児童福祉施策の立案や産業振興といった非技術的な行政サービスを専門とする事務系職員あるいは福祉専門職である。
彼らにとって、遊具の金属疲労や溶接部の亀裂といった物理的なハザードを評価することは本質的な業務領域外であり、結果として「遊具の物理的安全性維持」や「異常発生時の迅速な通報体制の構築」といったハード面の危機管理に対する意識が相対的に希薄になりがちである。
市民提言が指摘する「他課が管理している事実上の公園において、管理責任者や異常時の連絡先がほとんど明示されていない」という現象は、この専門性の偏在と縦割り行政が引き起こした必然的な帰結といえる。
市民にとっては、利用している施設が都市公園法に基づくか児童福祉法に基づくかは全く無関係である。
遊具が崩落した場合の物理的被害は所管法令によって軽減されるものではなく、すべての施設において均質な安全基準と迅速な通報体制が保障されなければならない。
国家賠償法に基づく「管理の瑕疵」と自治体の損害賠償リスク
公共施設における安全管理の欠落、特に「連絡先が明示されていないことによる通報の遅滞」は、単なる行政サービスの低下にとどまらず、地方公共団体に対する甚大な損害賠償責任を直接的に惹起する。その根拠となるのが、国家賠償法第2条第1項の規定である。
「管理の瑕疵」の法的解釈と通常有すべき安全性
国家賠償法第2条第1項は、「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる」と定めている。
最高裁判所の判例体系において、この「瑕疵」とは、営造物が「通常有すべき安全性を欠いている状態」を指すと解されている。
遊具事故に関する裁判実務において、「通常有すべき安全性」が維持されていたか否かを判断する際、裁判所は単に遊具が壊れたという結果だけでなく、以下の要素を総合的に衡量する。
第一に、当該営造物の構造および用法である。
遊具は本質的に児童が利用するものであり、児童はしばしば予期せぬ不規則な行動をとるという前提の下で、高度な安全性が要求される。
第二に、危険の予見可能性と結果の回避可能性である。
管理者が物理的な危険(ハザード)の発生を予見できたか、あるいは予見すべきであったか。
そして、その危険を認識した後に、事故という結果を回避するための適切な措置(利用禁止措置や修繕)を講じることが可能であったかが極めて厳しく問われる。
通報体制の不備と「時間的遅滞」による過失の認定メカニズム
市民提言において強く危惧されている「連絡先が不明であれば通報が遅れる」という事態は、法廷において自治体側を決定的に不利な立場に追い込む要因となる。
この点に関して、行政がらみの事件における重要な裁判例(判例時報No.2037等)の論理構造を分析すると、営造物の瑕疵に基づく責任認定の核心が「時間的要素」にあることが明らかになる。
当該判例においては、営造物(標識等)の安全性に欠如が生じた際、管理者がその事実を認識した後、「時間的に遅滞なく一定の措置を講じて営造物の安全性を確保したか」が責任の分水嶺となっている。
この事案では、事故の翌日には標識をチェーンで固定し、抜かれた穴の埋め戻しを行うという応急措置が実施されていた事実から、「区が応急の措置により利用者に危険が及ばないようにすることが可能であった」と認定されている。
この判例の論理を遊具の管理体制に裏返して適用すれば、重大な法的リスクの構図が浮き彫りになる。
仮に、ある児童遊園のブランコの吊り金具に亀裂(ハザード)が生じていたとする。連絡先が明示されていれば、これを発見した保護者が即座に市役所に通報し、市は即日中に当該ブランコをチェーン等で固定して利用を停止する(結果の回避)ことが可能である。
しかし、連絡先表示が存在しないために保護者が「どこに電話すればよいか分からない」と通報を諦め、その数日後に別の児童が当該ブランコを利用して金具が破断し、墜落・負傷する事故が発生した場合、どうなるか。
裁判所は、この「数日間の放置」を不可抗力とは認めない。
連絡先を明示し、市民からの通報を受け付けるシステムを構築していれば容易に危険を察知し回避できたにもかかわらず、そのシステム構築を怠ったこと自体が「管理システム全体としての瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)」と認定される可能性が極めて高い。
つまり、通報先の未表示は、異常発生から行政の対応までの「時間的空白(デッドタイム)」を人為的に長期化させる行為であり、市として重大な賠償責任を負うリスクを飛躍的に高める要因なのである。
国土交通省指針と業界標準にみる安全確保の要請
地方自治体が「通常有すべき安全性」を担保するためには、関係省庁が策定した技術的ガイドラインや、専門機関による業界標準を遵守することが必須条件となる。これらの基準は、事故発生時における過失認定の客観的な指標として機能する。
国土交通省「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」の分析
国土交通省は、遊具に関する重大事故の発生を重く受け止め、「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」を策定・改訂し、全国の施設管理者に対して厳格な安全管理を求めている。
本指針は、遊具の設計・製造から設置、そして維持管理に至るライフサイクル全般をカバーする体系的なマニュアルである。
本指針では、遊具の選定段階から綿密なリスクアセスメントが要求されている。
具体的には、地域ニーズや誘致圏の人口・年齢構成を把握し、当該遊具を利用する子どもの年齢層や地域の実状に応じた施設を選定することが明記されている。
また、製品の購入に際しては、設計時と同様の観点を持ち、遊具の品質および安全性が客観的に保証されているものであるかを厳格に確認する必要があるとしている。
さらに維持管理の側面において、本指針および消費者庁の関連統計が強く示唆しているのが、「ハザードを発見した場合の管理者への連絡体制の構築」である。
遊具事故の発生要因の多くが、管理者による対応・点検体制の不備に起因していることが指摘されており、行政による定期点検(年に数回程度)だけでは、日々変化する遊具の劣化状況を完全に捕捉することは不可能であるという認識が前提となっている。
したがって、日常的に公園を利用する市民がハザードを発見した際に、迷わず管理者へ連絡できるシステム(表示義務)を整備することは、国が求める標準的な安全管理体制の不可欠な要素として位置づけられている。
日本公園施設業協会(JPFA)の安全基準とリスクコミュニケーション
国の指針をより具体的な実務レベルの基準として具現化しているのが、一般社団法人日本公園施設業協会(JPFA)が運用する各種の安全制度である。
JPFAは、遊具の品質・安全性を証明する独自の認証制度として「SPマーク(Safety Playground equipment)」および「SPLマーク」を制定し、製造から設置までの基準を厳格化している。
自治体が遊具を調達する際、これらのマークの有無が、前述の国土交通省指針が求める「品質と安全性の保証」を確認する重要な指標となる。
さらに注目すべきは、JPFAが物理的な構造基準だけでなく、利用者に対するリスクコミュニケーション・ツールとしての「安全利用表示シール」の標準化を推進している点である。
このシール制度は、遊具事故の原因が施設の劣化のみならず、利用者の不適切な遊び方(人的なハザード)にも起因するという分析に基づいている。 JPFAが展開するシールには、以下のような体系的なバリエーションが存在する。
これらの業界標準に基づくラベル・シールの貼付は、単なる親切心からの情報提供ではない。
施設管理者が「想定される危険を事前に利用者に告知した」という事実を形成し、利用者の自己責任原則を適切に機能させるための重要な法的防衛手段(ディフェンシブ・マネジメント)でもある。
弥富市内の施設において、これらの表示が徹底されていない状態は、安全管理上の大きな欠落であると評価せざるを得ない。
先進自治体(名古屋市)における実証的アプローチと協働型システムの優位性
市民からの提言書において、具体的な改善事例として挙げられている名古屋市の取り組みは、都市公園管理における「クラウドソーシング型安全監視システム」の先駆的かつ極めて完成度の高いモデルとして、全国の自治体が参照すべきベンチマークである。
約30年という長きにわたり機能しているこのシステムの優位性は、大きく二つの側面に分解して分析することができる。
遊具ごとの個別ラベル表示による「個体管理(トレーサビリティ)」の徹底
名古屋市の手法における第一の革新性は、行政内部の書類(台帳)上でのみ行われがちな施設管理を、現場に存在するすべての物理的遊具(ブランコや滑り台の一つ一つ)と直接リンクさせた点にある。
すべての遊具に「設置年月日」と「メーカー名」を明記したシールを貼付することにより、高度な個体管理(トレーサビリティ)を実現している。
この徹底した個体管理は、自治体の維持管理業務において劇的な効率化をもたらす。
現場を巡回する作業員や点検委託業者は、シールを見るだけで当該遊具の供用年数を瞬時に把握でき、部材の寿命予測や重点的な点検項目の絞り込みが可能となる。
また、特定のメーカーの特定ロットにおける製造不良やリコールが発覚した際にも、市内に点在する膨大な遊具の中から対象となる個体を即座に特定し、迅速な利用停止措置を講じることができる。
これは、国土交通省の指針が求める「遊具の品質、安全性の確認」を、設置後数十年にわたって持続させるための極めて有効なメカニズムである。
通報先の明示による「市民協働型監視ネットワーク(市民の目)」の構築
第二にして最大の革新性は、ラベルを利用者に向けて開放し、「破損等の異常を見つけたら、〇〇土木事務所(電話番号)へご連絡ください」という通報先を明記したことである。
地方自治体において、広大な市域に点在する数百、数千の遊具に対して、限られた人数の行政職員が毎日あるいは毎週巡回点検を行うことは、予算的にも人員的にも完全に不可能である。
この物理的限界を突破するソリューションが、毎日公園を訪れる数万人の市民(保護者、地域住民、児童の引率者など)を、事実上の「広域安全監視員」としてネットワーク化することである。
市民は、ボルトの緩みによる異音、木材の腐朽、ロープの摩耗といった初期段階のハザードを発見した際、遊具に貼られたシールを見て、スマートフォン等から即座に指定された土木事務所へ直接通報することができる。
このシステムは、前章で詳述した国家賠償法上の「時間的遅滞による過失認定リスク」を極限まで圧縮する。
行政側は、自らの巡回コストをかけることなく「市民の目」という無数のセンサーを通じて異常を最短ルートで察知し、重大事故が発生する前に補修やブルーシート等による閉鎖措置を完遂させることができる。
30年前に構築されたこの仕組みが現在も機能しているという事実は、費用対効果の観点からも極めて合理的なリスクマネジメントの実証である。
弥富市への戦略的提言:全庁的統合と予防保全の実現に向けて
これまでの法体系、国の指針、および先進事例の分析に基づき、弥富市が直面している「縦割り行政に伴う安全管理の不均一性」という課題を根本的に解決し、市民協働型の強靭なリスクマネジメント体制へと移行するための、具体的かつ実行可能な政策提言を以下に提示する。
1. 全庁横断的な「屋外遊び場施設・安全管理統合ガイドライン」の策定
現在の組織構造において、都市整備課と福祉課等で分断されている安全基準を一本化するため、市長部局の主導のもと、市内のすべての遊具設置施設に適用される「全庁統一ルール」を早急に策定すべきである。
-
施設種別による管理格差の撤廃: 行政内部の呼称が「都市公園」「児童遊園」「目的外広場」のいずれであっても、市民に対して開放され、遊具が設置されている以上、すべての施設に対して同一の点検基準(日常点検・定期点検・精密点検の頻度と項目)を適用することをガイドラインに明記する。
-
技術的知見の集約と業務の共同化: 福祉課や産業振興課の職員に対し、土木技術の専門的知識を新たに習得させることは非効率である。したがって、遊具に関する定期安全点検業務(外部の専門業者への委託を含む)については、都市整備課が全庁分を取りまとめて一括発注する、あるいは技術的監修を都市整備課が担うといった「庁内シェアードサービス」の仕組みを構築することが望ましい。これにより、施設所管課の本来業務(福祉や産業振興)を圧迫することなく、市全体の安全水準を底上げできる。
2. 全遊具・施設への統一規格「管理ラベル(連絡先等)」の貼付と通報体制の一元化
市民提言の核心である管理ラベルの全数貼付を、弥富市内の全施設において速やかに実行に移す。これは単なる表示作業ではなく、市全体の危機管理インターフェースの構築である。
-
記載情報の標準化: 名古屋市の事例を応用し、市内の全遊具および公衆トイレ等の付帯施設に貼付するラベルには、以下の情報を必須項目として網羅する。
-
施設名および個体識別番号: (例:「海南こどもの国-遊具05」)通報者が遊具の正式名称を知らなくても、対象物を一意に特定できるようにする。
-
設置年月日・メーカー名: 経年劣化の指標およびリコール時のトレーサビリティ確保として機能させる。
-
JPFA安全利用表示(ピクトグラム)の併記: はん登棒やすべり台等の特性に応じた危険行為の禁止事項を視覚的に表示し、人的ハザードを抑止する。
-
緊急連絡先(一元化された窓口): これが最も重要である。所管課ごとに異なる直通番号を記載する方式も考えられるが、市民の利便性を最大化し、たらい回しを防ぐためには、代表電話番号や「市役所総合コールセンター(または施設通報専用ダイヤル)」等の単一の窓口を記載することが理想的である。受電した一次対応窓口が、個体識別番号を基に庁内の適切な所管課(都市整備課や児童課など)へ迅速にエスカレーションするバックオフィス体制を構築する。
-
-
デジタル・トランスフォーメーション(DX)の導入: ラベル内に二次元コード(QRコード)を印刷し、市民がスマートフォンから現場の写真や位置情報(GPSデータ)を添付して直接通報できる「電子通報フォーム」へ誘導する仕組みを導入する。これにより、市役所側は電話口での曖昧な状況説明に頼ることなく、現場の損傷具合を正確な画像データとして瞬時に把握し、危険度のトリアージ(緊急出動の要否判定)を的確に行うことが可能となる。
3. ライフサイクルコスト(LCC)の縮減と計画への統合
この全庁的なラベル貼付と通報受付システムの構築に要する初期投資(シールのデザイン、印刷、現地での貼付作業費、および通報フォームのシステム改修費)は、施設全体の長期的な更新費用や、万が一重大事故が発生した際に市が負担すべき賠償金、および社会的信用の失墜といった甚大なコストと比較すれば、極めて少額であり、投資対効果は絶大である。
むしろ、市民からの早期通報システムの稼働は、弥富市がすでに推進している「公園施設長寿命化計画」の基本理念である「ライフサイクルコストの縮減」を強力に後押しする。
例えば、ブランコの吊り金具からの微小な異音や、木製遊具の初期のひび割れといった「軽微な不具合」の段階で市民から通報が寄せられれば、安価な部品交換や防腐処理のみで修繕が完了する。
これを放置して基幹構造部が完全に破損した場合、遊具全体の撤去・新設という莫大なコストが発生する。市民による異常の早期発見は、結果として弥富市の財政負担を大幅に軽減する合理的なストックマネジメントの要となるのである。
結論:ディフェンシブ・マネジメントからシビック・プライドの醸成へ
本報告書は、一市民の鋭敏な観察眼から提出された提言に基づき、弥富市における公共施設管理の現状、国家賠償法に潜む法的リスク、そして先進事例に裏打ちされた改善策を網羅的に検証した。
行政機構における「縦割り」は、関連法規の複雑化と専門分化の過程で生じた不可避的な構造ではあるが、市民の生命と身体の安全を保護するという地方自治体の最上位の使命の前では、それを維持する正当な理由は存在しない。国家賠償法の判例が厳しく示す通り、行政が危険を察知するための適切なシステム構築を怠り、結果としてハザードを放置したまま事故が発生すれば、それは不可抗力ではなく明確な「行政の管理の瑕疵」として指弾される。
市民提言が求めている「すべての施設への連絡先の明示と管理ルールの全庁的な統一」は、単に市を法的責任から防衛するための消極的なリスク管理(ディフェンシブ・マネジメント)にとどまるものではない。それは、限界を迎えつつある公共インフラの維持管理という重い課題を、行政の単独責任から「市民と行政の建設的な協働(パートナーシップ)」へと昇華させるための、極めて積極的な公共政策への転換点である。
市内のあらゆる公園、児童遊園、広場の遊具の一つ一つに、設置年月日と通報先が明記されたラベルを貼付することは、「弥富市は、この小さな遊具の一つに至るまで責任を持って見守っている」という行政の強い意志(コミットメント)を、視覚的かつ直接的に市民へ宣言する行為にほかならない。
そして、そのラベルを見た市民は、行政に対する信頼を深めると同時に、「自分たちの地域にある子どもたちの遊び場は、自分たちの目で安全を見守ろう」という当事者意識(シビック・プライド)を育むこととなる。
弥富市におかれては、すでに進行中である都市公園における長寿命化の取り組みの成果をレバレッジとし、児童遊園やその他の広場を含むすべての公共空間へと安全管理の網を拡張することが強く求められる。
名古屋市の成功事例や国土交通省の安全指針を確固たる論拠とし、部門間の壁を取り払った「全庁統一の遊具安全基準および市民協働型通報システム」を構築することこそが、現在および未来の市民に対する地方公共団体の最大の責務であると結論付ける。
市民から寄せられたこの建設的かつ専門的な提言は、弥富市の行政運営を次の次元へと引き上げるための、最も貴重なトリガーとして最大限に活用されるべきである。
