日本記者クラブ「憲法96条改正問題」小林節 慶応大学教授 2013.6.17
【キーワード】
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護憲的改憲派(日本国憲法は良いものだが、古くなった部分はモデルチェンジすべきという立場)
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憲法の宛名人(憲法が縛る相手。国民ではなく「国家権力」である)
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憲法と法律の違い(憲法は最高法規として権力を縛り、法律は国民の間のルールを定める)
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憲法96条先行改正(発議要件を2/3から1/2へ引き下げることへの強い反対)
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硬性憲法(権力者が簡単にルールを変えられないように彫刻の石のように固く作られた憲法)
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改正と解約(改悪)(自由と平和を増進するのが改正、害するのが改悪)
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優越的人権(表現の自由など、自由と民主主義の根幹をなす最も重要な人権)
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立憲民主主義と多数決民主主義(多数決で決める原則と、多数決でも奪えない人権を守る原則)
【ささる発言(抜き書き)】
「昔から自分のことを護憲的改憲派つまり日本国憲法は良いもので良いものだけども古くなったからモデルチェンジしたらいかがですかという(中略)当たり前なこと言ってる」
「これまで実はですね憲法論議をしていながら憲法って何憲法って何なんだろうというところがですね実はほとんどの論者によって理解されずに問題が扱われてきていた」
「国民に国を愛してほしいと思ったら良い政治をすれば住むだけのことじゃないんですか」
「国民が国に命令を出す道具を使って国民に命令を出すことがアウト」
「法は道徳に踏み込まずこんなのはもうローマ以来の古来の法格言でありましてこんなことが忘れられてることが情けない」
「権利を得たかったら義務を終えという議論は結構すんなり入りますよねだけど(中略)義務という代金を払わなかったら権利はもらえないってのはこれトリックなんですよ権利は権利として単独に持ちうるんですよ」
「憲法が憲法でなくなって法律と同じになってしまうってことは憲法改正ではなくて憲法破壊ですよね」
「会見派と護憲派ってのをなぜか同席しないんですよね。これはね論客として非常に不誠実なもんです」
「私はあの、志を失わずに生きてきたしこれからも生きて死ぬまで生きていくしという思いを込めてあの論じ合いながら前に前に進みたい」
【講演内容の要約・構造化】
1. 小林教授の基本スタンス
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自身は**「護憲的改憲派」**である。日本国憲法の理念は素晴らしいが、時代に合わせてモデルチェンジ(改正)が必要だと考えている。
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しかし、昨今の憲法論議は「そもそも憲法とは何か」という前提を理解しないまま進んでおり、非常に危険な状態(病名を知らずに治療しているようなもの)である。
2. 「憲法」の本来の役割とは何か?
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憲法の歴史的背景: アメリカのジョージ・ワシントンが、王政(世襲)を拒否して選挙で大統領を選ぶ仕組みを作り、自ら2期で辞めることで権力の独占を防いだ。人間は不完全であるという前提に立っている。
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六法の中での憲法の位置づけ:
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民法・商法・民事訴訟法:私人間のトラブル予防と解決。
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刑法・刑事訴訟法:犯罪と刑罰のルール。
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憲法:国家権力の暴走を縛るためのルール。
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国家権力(警察・軍隊・徴税などを持つ最強の腕力)が暴走した際、国民には抵抗権(暴力革命)しか残されない。それを防ぐため、紙に書かれた文字で最高権力を縛るのが憲法である。
3. 自民党改憲草案の問題点(怪しい憲法観)
小林教授は、自民党の改憲案(特に第二次草案)に対して致命的な限界があると厳しく批判しています。
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憲法の「宛名人」の誤解: 憲法は「国民が国家を縛るもの」なのに、草案には「国民に国を愛する責務」「家族は助け合わなければならない」など、国家が国民に道徳を命令する条項がある(法と道徳の混同)。
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権利と義務のすり替え: 「義務を果たさなければ権利を与えない」というトリックを用いているが、基本的人権は無条件に保障されるべきものである。
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優越的人権(表現の自由)の軽視: 表現の自由(第21条)は民主主義の根幹であり最も重要な人権だが、草案ではわざわざ「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを結社することは、認められない」と制限を強めている。
4. 96条先行改正への強い反対
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硬性憲法の破壊: 憲法の改正発議を国会議員の「3分の2」から「過半数(2分の1)」に下げることは、憲法をただの法律と同じレベルに引き下げること。これは憲法改正ではなく**「憲法破壊」**である。
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権力者のフリーハンド: 改正ハードルを下げることは、憲法に縛られているはずの権力者が、自らを縛るルールを簡単に変えられるようにしてしまう行為である。
5. 「改正」と「改悪」の明確な違い
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改正: 人間の幸福の条件である「自由」「豊かさ」「平和」を増進させるもの。
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改悪: これらを害するもの。自民党案の多くは改悪の兆しを見せているため許してはならない。
6. 空想的護憲派・改憲派の不毛な対立構造
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議論からの逃避: 護憲派と改憲派の学者が同席して議論しようとしないことは論客として不誠実である。
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空想的9条愛好家(護憲派)への批判: 国内の警察は否定しないのに、国際社会においてのみ「無防備でいれば平和になる」と考えるのは現実離れしている。独立主権国家として自衛権(自衛軍)は持つべき。
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空想的明治憲法愛好家(改憲派)への批判: 戦前の日本が権利と義務の対立がない美しい国だったと美化するのは歴史の検証不足である。
7. 質疑応答(Q&A)ハイライト
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Q. 96条の手続きを使って96条自身を改正することは論理的に可能か?
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A. 憲法学的には「制定権力」と「改正権」の論理矛盾とされるのが標準的見解だが、現実の政治・司法の場(統治行為論)では裁判所は介入しないため、理屈の上での無効論よりも「内容の危険性」を直接議論すべき。
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Q. 国民の過半数が改憲に賛成しているという世論調査についてどう見るか?
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A. 「改憲論議タブーがなくなった」ことへの賛同であって、具体的な中身に賛成しているわけではない。9条については「自衛軍の保持」と「国連決議・国会承認を条件とした国際貢献」を明記すれば、他国を侵略する危険も、される危険もなくなる。
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Q. 議論の土台となる政治思想は何を持つべきか?
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A. 「自由」と「民主主義」の共有が必須。特に、多数決で決める「多数決民主主義」だけでなく、個人の人権を多数決からも守る**「立憲民主主義」**の概念を双方が理解し、歩み寄らなければ議論は成立しない。
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Q. 1票の格差で「違憲状態」の国会に、改憲を議論する正当性はあるか?
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A. 憲法は「平等」を求めているが、具体的な制度は国会の裁量に委ねている。国会が格差是正の努力をしている限り、国会としての正当性や仕事をする権限は失われない。むしろ憲法に選挙区割りのルールを明記する改憲も一つの解決策である。
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