【次世代公務員のシン・経営学】「予算消化」から「価値創造」へ!弥富市をアップデートする経営マニュアル
はじめに:「いくらかかるか」ばかり気にしていませんか?
私たち公務員の本当の仕事は、予算を使い切ることではありません。
「投下した税金(コスト)を上回る価値(便益)を市民に届けること」という経営の大原則に立ち返る必要があります。
このハンドブックは、次世代を担う若手職員の皆さんが、旧態依然としたお役所仕事を打破し、自らの手で弥富市の「価値」を最大化するための超実践的ガイドです。
1. 弥富市に潜む「3つの病理」:私たちは何を間違えたのか?
まずは、過去の失敗(構造的病理)から目をそらさず、リアルな現状を共有しましょう。手段が目的化し、コスト思考に陥ると、自治体は次のような危機を招きます。
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財政の硬直化と「見通しの甘さ」 過剰なハコモノ建設(投資的経費)により、弥富市の将来負担比率は県内ワーストクラスという危機的状況に陥っています。特に下水道事業では、国からの補助率を見誤るという致命的な見通しの甘さが、市に巨額の負債をもたらしました。
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「ハコモノを作ること」の自己目的化(弥富駅自由通路事業の闇) 総事業費約50億円という巨額の負担を市が背負うこの事業。補助金を獲得するために、アンケート(CVM)を心理的に誘導し、費用便益分析(B/C)を無理やり「1.0以上」に操作した疑いが指摘されています。より安価な代替案を検討することなく、「とにかく施設を作ること」自体が目的化してしまった典型的な悪例です。
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「現状維持」しか生まないゾンビPDCA 毎年の事務事業評価において、約8割が「現状維持」と判定され、「縮小・廃止」はゼロ。これでは評価ではなく、ただの「シート提出作業」です。予算の再配分機能が完全に麻痺し、無駄な事業が生き残り続けています。
2. お役所仕事をハックする!次世代の「3つのビジネススキル」
この負の連鎖を断ち切るには、民間企業が当たり前に行っている経営アプローチを自治体に取り入れる必要があります。
若手職員が武器にすべき3つのスキルを紹介します。
① ターゲット・コスティング(原価企画)とVEの徹底
「事業内容を詰めれば詰めるほど予算が膨らむ」という昭和の思考を捨ててください。
まずは、市民にもたらす「便益の総額」を計算し、それを予算の絶対的な上限(目標コスト)と定めます。
その上で、バリュー・エンジニアリング(VE)という手法を使い、「もっと安くて、もっと効果的な別の手段(代替案)はないか?」をゼロベースで徹底的に探ります。
② EBPM(証拠に基づく政策立案)とSROIの導入
「イベントを〇回開催した」「施設を作った」というアウトプット(結果)で満足するのはNGです。
重要なのは、「市民の生活がどう良くなったか」というアウトカム(成果)です。
さらに、その社会的・環境的価値を金額換算(SROI:社会的投資収益率)し、データと証拠(エビデンス)に基づいて真の費用対効果を客観的に測定するクセをつけましょう。
③ PFS/SIB(成果連動型予算配分)で投資ポートフォリオを組む
「〇〇の作業をお願いします」と手段を指定する従来の発注から抜け出しましょう。
これからは、「達成された成果」に対してのみ報酬を支払うPFS(成果連動型民間委託)の視点が必要です。
手段の目的化を防ぎ、本当に社会的インパクトのある領域へ、ダイナミックに予算を再配分していく仕組みを作ります。
3. 結語:あなたは「事務処理屋」か、「価値創造者」か?
人口減少と財政難が同時進行する今の時代、市役所に「ただ書類を処理するだけの事務員」の居場所はありません。
皆さん一人ひとりが、地域社会の価値を最大化する「バリュークリエイター(価値創造者)」へと進化しなければなりません。
今日から、以下の3つのマインドを胸に刻んで業務に向き合ってください。
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「予算=消化するコスト」ではなく「価値を生むための投資」と心得る 投下した公金を上回る市民価値を提供できなければ、それは行政としての背任行為です。
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「便益」から逆算して手段を選ぶ 便益の総額を予算の上限とし、最も賢く、安く、効果的な手段を執念深く探求してください。
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客観的評価で「ゾンビ事業」を終わらせる 形骸化した自己評価(お手盛り)を捨て去りましょう。成果連動型のシビアなアプローチで、大胆な予算の再配分(スクラップ&ビルド)を仕掛けてください。
過去の失敗を教訓に、弥富市の未来をより豊かで持続可能なものに変えるのは、しがらみのない若手職員であるあなたたちの論理と行動力です。
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自治体経営における総合計画の再構築と価値創造メカニズムの導入——次世代の行政運営に向けたオンライン職員ハンドブック(AI利用)
1. 序論:総合計画の本質的意義とパラダイムの転換
地方自治体における「総合計画」とは、その自治体が将来どのような状態を目指すのかという最上位の目標を定め、それを実現するための施策や事業を体系的にまとめた行政運営の最重要指針である。
しかし、多くの自治体において、この総合計画が単なる「各部署からの要望をまとめた請求書の束」に成り下がっている現状が散見される。
本稿は、今後の自治体運営を担う若手職員に向けた「オンライン職員ハンドブック」として、総合計画策定プロセスにおける最大の課題である「事業規模の適正な見積もり」と「費用対効果に基づく手段の選択」について、学術的見地および実務的観点から徹底的に分析し、次世代の行政経営のあり方を提示するものである。
1.1 「いくらかかるか」の積み上げ思考からの脱却と価値創造の要請
自治体の総合計画において、新規事業や既存事業の規模を見積もる際、「事業予算は検討してみないとわからない」「事業内容を細かく詰めていくと金額が変わってくる」といった言説が、行政側の弁明として頻繁に用いられる。
しかし、総合計画に基づく進捗管理や自治体経営という観点からすれば、この言い訳は決定的な誤りである。
民間企業の中期経営計画において、投下した原価(コスト)と同額の売上しか立たなければ利益は出ず、企業は倒産する。
自治体経営も本質的にはこれと全く同じ構造を持つ。
例えば、年間予算200億円、10年間で2000億円の予算を投入するということは、対象となる市民に対して2000億円のコストを上回る「社会的価値(市民の便益)」を提供することが絶対的な前提となる。
それが1割増しの価値なのか、2割増しなのか、あるいは2倍、3倍の価値を生み出せるのかという点にこそ、総合計画を立案する行政職員の真の手腕が問われているのである。
したがって、10年間で2000億円を使うから2000億円の予算を計上する、というような単なる支出の積み上げに基づく計画は、本来「計画」とは呼べない。
市民(エンドユーザー・顧客)から見たときに、どれだけの価値(便益)が提供できるかを見極め、その価値を最大化するように予算、とりわけ投資的経費を配分することが、真の総合計画の策定である。
自治体経営において、価値創造の意識が欠落したまま作成される総合計画は、まさに公務員が自らの活動予算を正当化するための「単なる請求書の束」に過ぎない。
1.2 総合計画の階層構造と「手段の目的化」の回避
一般的な自治体の総合計画は、「基本構想」「基本計画」「実施計画」の3層構造で構成されている。
愛知県弥富市の「第2次弥富市総合計画」を例にとると、以下のような構造と期間が設定されている。
| 計画の階層 | 定義と役割 | 計画期間 |
|---|---|---|
| 基本構想 | 自治体の特性や時代の潮流を勘案し、目指す将来像と最上位目標(どういう状態にしたいか)を定める。 |
10年間(2019年度~2028年度) |
| 基本計画 | 基本構想に基づき、推進する主要施策や主要事業の方向性、成果指標を示す。社会情勢の変化に対応するため分割される。 |
前期5年間・後期5年間 |
| 実施計画 | 基本計画に基づき、具体的に実施する事業の内容、優先順位、財源などを示す。毎年度予算との連動を図る。 |
向こう3年間(毎年度ローリング・見直しを実施) |
この階層構造において最も留意すべきは、基本構想や基本計画の段階で「特定の手段(とりわけ巨額のハード事業など)」に縛られてはならないということである。
文化、体育、福祉などいかなる分野においても、目指すべき最上位目標(例:支援が必要な人々の状態を改善する、市民の利便性を向上させる)に対するアプローチには無数の選択肢が存在する。
それらの多様な手法を見比べ、最も費用対効果の高い(ベターな)方法を選択していくプロセスが不可欠である。
特定の手段をあらかじめ計画の初期段階で固定化してしまうと、「その手段を使うこと」自体が自己目的化し、費用対効果の概念が完全に飛散してしまう「手段の目的化」という重大な病理を引き起こす。
2. 財政構造の硬直化と隠れ借金の実態:弥富市の事例分析
行政が「いくらかかるか」というコスト積み上げ型の思考から脱却できず、手段が目的化した事業を推し進めた結果、自治体財政はどのような末路を辿るのか。
本セクションでは、具体的な事例として愛知県弥富市の財政および事業運営の現状を取り上げ、既存の総合計画に潜む構造的な課題を抽出する。
2.1 投資的経費の暴走と破綻する財政指標
弥富市の財政指標は、過剰な投資的経費と過去の計画見通しの甘さにより、極めて危機的な状況にある。
令和5年度決算等に基づく主要な財政指標を分析すると、同市が将来の世代に莫大な負債を先送りしている実態が浮き彫りになる。
| 財政指標(2024年度決算等に基づく) | 弥富市の数値 | 愛知県内市町村における位置づけ・評価 |
|---|---|---|
| 将来負担比率 | 95.4%(前年比+10.8pt) |
県内の市でワースト1位(最高値)。投資的経費の増大による隠れ借金の急増を強く示唆する。 |
| 経常収支比率 | 94.4% |
財政の極度な硬直化。義務的経費の増加により、新規の独自施策に充てる余裕がほぼ喪失している。 |
| 実質公債費比率 | 5.4% |
県内の市でワースト4位。毎年の負債返済が一般財源を重く圧迫し、政策の自由度を奪っている。 |
| 実質単年度収支 | △9,220万円(令和5年度) |
実態としての赤字運営。恒常的な基金(貯金)の切り崩しに依存しており、中長期的な持続可能性が破綻している。 |
全国の多くの自治体が、高齢化による社会保障費(扶助費)の爆発的な増大に備え、投資的経費(建設事業費など)をピーク時の3分の1程度にまで抑制しているマクロトレンドが存在する。
しかし弥富市は、そうした流れに完全に逆行し、借金を重ねてハコモノ建設を推進するという致命的な誤謬を犯している。
一般会計の予算規模が約150億円であるのに対し、借金残高(市債現在高)は一般会計のみで113億円、下水道事業などの特別会計・企業会計を含めると総額約231億〜242億円という途方もない規模に膨張しているのである。
2.2 事前見通しの甘さと下水道事業という時限爆弾
この負債膨張の最たる要因の一つが、長年にわたる公共下水道事業の破綻である。
弥富市の下水道整備は、当初の計画から大幅に遅延を繰り返し、実に約270億円もの莫大な費用を要する巨大計画となっている。
この計画が孕む最大の悲劇は、事業着手前の財政見通しと費用負担計画の致命的な甘さにある。
事業推進の当初、総事業費のほぼ100%が地方交付税等で国から補填されるという極めて楽観的な見込みのもとに計画が進められた。
しかし、実際には国からの補填(補助率)は3割程度に留まり、残りの約7割(約179億円)が市の過大な負債として市民にのしかかる結果となった。
このように、事業規模を正確に見積もらず、「国が払ってくれるだろう」「やりながら費用を詰めればよい」という無責任な姿勢で開始された事業は、結果として自治体の存立基盤そのものを脅かす時限爆弾と化すのである。
3. 「手段の目的化」の病理と費用便益分析の歪曲:弥富駅自由通路整備事業
総合計画における「手段の目的化」がもたらす最大の弊害は、費用対効果の概念が完全に消失し、本来の目的から乖離した事業に対して際限のない予算投入が行われることである。
その最たる例であり、行政の暴走の象徴とも言えるのが、現在弥富市で進行している「JR・名鉄弥富駅自由通路及び橋上駅舎化事業」である。
3.1 巨額の事業費と不均衡な負担構造
本事業の総事業費は約46億〜50億円と見込まれており、新市庁舎建設(約55億円)に次ぐ同市歴代2位の巨大プロジェクトである。
本来、駅のバリアフリー化や交通アクセスの改善が目的であるならば、その恩恵を最も受けるのは営業用資産の価値が向上する鉄道事業者(JR東海・名鉄)である。
地方財政の原則に照らせば、原因者負担の原則に基づき、鉄道事業者が応分の費用を負担すべきである。
しかし、総事業費に対する負担割合を見ると、鉄道事業者の負担はわずか約1億〜1.1億円(約2%)に過ぎない。
残りの約98%は、国の補助金(約17億円)と弥富市の単独負担(約28億〜37.8億円)という公金によって賄われる構造となっている。
さらに、市が事業主体となって鉄道会社に「鉄道委託工事」として発注するスキームを採用しているため、市側には特殊な鉄道工事の費用を適正に査定する技術的知見がなく、JR側から提示された高額な請求(言い値)や約11億円に上る線路移設費などの不透明な管理費をそのまま受け入れざるを得ない構造的搾取に陥っている。
完成した巨大駅舎は鉄道事業者の財産となるにもかかわらず、市は巨額の建設費を負担するだけでなく、完成後もエレベーターの保守や清掃など莫大な維持管理費を恒久的に負担し続けなければならない。
3.2 恣意的な費用便益分析(B/C)とアンケートの悪用
公共事業を実施し、国から社会資本整備総合交付金や都市・地域交通戦略推進事業等の補助金を得るためには、費用便益分析(B/C)において「効果が費用を上回る(B/Cが1.0以上)」ことを厳密に証明する必要がある。
弥富市はこの数値を「1.7(協定変更後1.57)」と算出し、事業の正当性を主張しているが、その根拠となる便益の算出方法には極めて恣意的かつ非科学的な捏造が介在している。
通常、交通インフラ整備の費用対効果は、移動時間の短縮や経費節減、実体経済への波及効果などの客観的なデータを積み上げて算出される。
しかし本事業では、実体経済への効果の検証を放棄し、「仮想市場評価法(CVM)」というアンケート手法を悪用して、市民の主観的な支払意思額(WTP: Willingness to Pay)を合算し、無理やり便益を作り出している。
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アンカリング効果による心理的誘導:1,000人を対象としたアンケートにおいて、「1人1ヶ月あたり1万円」といった極端に高額で非現実的な選択肢をあえて提示した。これにより回答者に「相場は数千円程度なのか」という錯覚を起こさせ、中間層にある「500円」という金額を心理的に安く見せて誘導する手法が使われた。
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生涯負担額の隠蔽:アンケートで提示された「月額500円」は一見少額に見えるが、50年間の施設評価期間(メンテナンス期間を含む)で計算すれば、市民1人当たり約30万円もの重い負担を強いることを意味する。この巨額の生涯負担の事実を伏せ、少額に見せかける巧妙な手口が使われたのである。
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多数派の民意の黙殺:回答者の過半数(53.3%〜55.9%)が「負担額0円(払いたくない)」と明確に回答し、その約3割は「そもそも事業の必要性がない」と事業自体を否定していた。しかし行政側は、この最多の民意を実質的に黙殺した。そして、2番目に多かった「500円(24.3%)」という都合の良い数値をベースに計算を強行し、「市民は50億円の費用に対し、1.7倍の便益を感じている」という結論を捏造したのである。
これは、真の費用対効果の検証ではなく、事業を強行し補助金を獲得するためにB/Cの数字を合わせる「手段の目的化」の最悪の形態である。
3.3 代替案の検討不足とサンクコスト(埋没費用)の呪縛
最上位目標が「駅周辺の利便性向上」や「南北の交通アクセス改善」であるならば、「自由通路・橋上駅舎化」はその目標を達成するための一つの例示的な手段に過ぎない。
しかし、本事業では他の安価な代替案との比較検討が完全に欠落している。
他自治体の事例を見れば、愛知県新城市のJR新城駅では、エレベーター付きの跨線橋を約5億円という安価な費用で設置している。
また、既存の地上駅舎を残したまま安価に改札を追加する手法を採用している自治体も多い。
弥富市は、こうした数億円規模で済む安価な代替手法と、約50億円を要する最も高額な橋上駅舎化手法との間で、厳密な費用対効果(B/C)の比較評価を行わず、最初から「橋上駅舎化ありき」で計画を強行したのである。
さらに致命的なのは、50億円もの巨費を投じて橋上駅舎を建設しても、自動車交通を南北に分断し渋滞の温床となっている「開かずの踏切」はそのまま残るという事実である。
愛知県知立市(約1,000億円)や布袋駅(約188億円)の連続立体交差事業(高架化)は、莫大な費用がかかるものの、踏切を完全に消滅させ、都市の分断を解消するという明確な抜本的解決をもたらす。
対して弥富駅の計画は、駅の上に人が歩ける通路ができるだけであり、慢性的な交通渋滞の解消には一切寄与しない。
一度、橋上駅舎という巨大な「サンクコスト(埋没費用)」を形成してしまえば、将来的な高架化や地下化といった抜本的解決の道は、財政的にも物理的にも完全に閉ざされることになる。
次世代に問題の根本解決を先送りしたまま、見栄えだけを整えるこの事業は、まさに手段の目的化が引き起こした「インフラの終活の欠如」である。
4. 行政評価システムの形骸化と「現状維持」のメカニズム
総合計画に掲げられた基本目標を単なる「絵に描いた餅」やスローガンに終わらせないためには、毎年度の実施計画において厳密な事業評価(PDCAサイクル)を行い、費用対効果の低い事業を廃止して資源を再配分するシステムが不可欠である。
自治体においてこの役割を担うのが「行政評価(施策評価および事務事業評価)」であるが、その実態は驚くほど形骸化している。
4.1 事務事業評価データの分析:機能不全の実態
弥富市における直近5年間の事務事業評価(実施計画事業評価)の判定結果を集計した以下の表は、自治体内部の自己評価がいかに甘く、実質的な資源の再配分機能が麻痺しているかを明確に示している。
| 実施年度(評価対象年度) | 対象事業数 | 改善・拡大の判定 | 現状維持の判定 | 終期設定の判定 | 縮小・廃止・休止の判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 令和5年度(R4実施事業) | 138事業 | 30事業 (21.7%) | 106事業 (76.8%) | 2事業 (1.5%) |
0事業 (0%) |
| 令和4年度(R3実施事業) | 134事業 | 26事業 (19.4%) | 106事業 (79.1%) | 2事業 (1.5%) |
0事業 (0%) |
| 令和3年度(R2実施事業) | 135事業 | 36事業 (26.7%) | 95事業 (70.4%) | 2事業 (1.5%) |
2事業 (1.5%) |
| 令和元年度(H30実施事業) | 134事業 | 73事業 (54.5%) | 57事業 (42.5%) | 0事業 (0%) |
3事業 (2.2%) |
毎年度、対象となる約130〜140の事業のうち、70%〜80%以上の事業が「現状維持」と判定されている。
特筆すべきは、令和4年度および令和5年度の評価において、「縮小」や「廃止・休止」と判定された事業が完全にゼロ(0事業)であるという異常な事態である。
終期設定がなされたわずかな事業も、火葬場建設や資料館移転など、単に事業が完了した物理的な結果を追認しているに過ぎない。
4.2 評価シート作成という「手段の目的化」
なぜこのような結果に陥るのか。
その背景には、行政組織特有の無謬性の神話(行政は間違えないという前提)と、予算獲得ゲームの構造がある。
所管する部署は、自らの事業が「効果が薄い」「廃止すべき」と評価されることを極端に恐れる。
事業の縮小は予算や人員の削減に直結し、組織内での影響力低下を意味するからである。
その結果、政策評価法の理念やニュー・パブリック・マネジメント(NPM)の「より低コストでより高水準な成果を出す」という本来の目的は忘れ去られる。
施策や事務事業を所管する職員にとって、評価結果を真摯に受け止めて事業を見直すことではなく、「期限までに評価シートの空欄を埋めて提出すること」自体が最終的な目的となってしまうのである。
これが、行政評価制度における「手段の目的化」の典型例である。
評価システムのコスト(職員の作業時間など)ばかりが膨らみ、それによるベネフィット(事業の最適化や予算削減)が全く得られないのであれば、その行政評価システム自体が費用対効果の観点から最も「廃止」に該当すべき事業となってしまう。
5. 事業規模の適正な見積もり:便益を「費用の上限」とする経営思考
総合計画や実施計画を策定する若手職員が肝に銘ずべき絶対的なルールがある。
それは、「かける費用(コスト)は、それによって得られる効果(便益・価値)を上回るはずがない」という大原則である。
前述の「事業予算は検討してみないとわからない」「内容を詰めていくと予算が変わってくる」という主張は、この経営の大原則を根底から否定している。
5.1 ターゲット・コスティング(原価企画)の自治体への導入
民間企業の製品開発やプロジェクトマネジメントにおいて広く用いられている手法に「ターゲット・コスティング(Target Costing:原価企画)」がある。
これは、「製品を作るのにいくらかかるか(原価)」を計算し、それに利益を上乗せして販売価格を決めるという旧来の「コスト・プラス方式」とは正反対のアプローチである。
トヨタ自動車などが得意とするこの手法では、コストは所与のものではなく、最初から「作り込まれる」ものである。
ターゲット・コスティングのプロセスは以下の通りである。
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まず、「市場(顧客)がその製品に対していくらなら支払う価値があるか(許容される価格)」を市場調査等によって決定する。
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そこから、企業が確保しなければならない「目標利益(利益マージン)」を差し引く。
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残った金額が、「達成しなければならない目標原価(ターゲット・コスト)」となる。
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この目標原価の枠内で、デザイナー、エンジニア、購買担当者が徹底的なコスト削減努力と機能の最適化を行い、製品を設計する。
これを地方自治体の総合計画および事業計画の策定プロセスに当てはめると、以下のようになる。
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事業目的の定義:最上位目標に対して、市民(顧客)にどのような価値(便益)を提供するのかを明確にする。
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提供価値(便益)の算定:その価値は、中長期的な視点で金銭に換算して総額いくらに相当するのか。この「得られる便益」こそが、事業に投下できる「費用の絶対的な上限」となる。
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目標コスト(予算上限)の設定:提供価値を上回らない範囲で、より高い費用対効果を生むための予算上限(ターゲット・コスト)を設定する。
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最適な手段の選択:設定された目標コスト内で実現可能な、最適な手法(ハード面の整備か、ソフト面での支援か)を無数の選択肢の中から選定し、仕様を決定する。
つまり、総合計画において事業規模(予算)を見積もる際、「事業の内容を詰めていくと予算が変わる(膨らむ)」というのは、手段(どのような施設を作るか等)を先に決定してしまい、それに伴うコストを無批判に積み上げているに過ぎない。
正しくは、「市民に提供できる価値(便益)」があらかじめ存在し、それが各政策や事業の「予算の上限額」となるのである。
得られる便益に耐えられる将来的な価値が上限であり、それを「何割引きのコストで実現できるか」が政策手段の決定プロセスでなければならない。
5.2 バリュー・エンジニアリング(VE)による機能とコストの最適化
目標コスト内で最大の機能(価値)を引き出すための強力な手法が「バリュー・エンジニアリング(VE:Value Engineering)」である。
VEでは、製品やサービスの「価値(Value)」を、果たさなければならない「機能(Function)」と、それにかかる「コスト(Cost)」の関係(V = F / C)として定義する。
自治体の公共事業や施策においてVEを導入する場合、以下の原則が適用される。
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機能本位の原則:「モノ(手段)」ではなく「機能(目的)」で思考する。例えば、「巨大な橋上駅舎を建てる」ではなく、「安全に線路を越え、バリアフリーに移動する機能を提供する」と定義する。
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使用者優先の原則:行政や事業者の都合ではなく、エンドユーザーである市民の視点で本当に必要な機能は何かを評価する。
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創造による変更の原則:既存の仕様や過去の踏襲にとらわれず、機能を満たす安価で新しい代替案(例えば、安価な跨線橋の設置や、既存駅舎を活用した改札の増設など)をゼロベースで模索する。
一部の先進的な地方自治体においては、設計段階で組織横断的なVE検討チームを編成し、外部のVE専門家(アドバイザー)を交えたワークショップ形式で機能とコストの最適化を図る「設計VE」の導入が始まっている。
これにより、無批判に業者からの見積もり(請求書)を受理するのではなく、行政側から主体的かつ科学的にコストダウンと機能向上を要求することが可能となる。
6. 民間経営手法による価値創造メカニズムの確立
総合計画において「市民に提供する価値」を最大化し、それを予算配分の根拠とするためには、その「価値」を正確に測定する評価指標が不可欠である。
従来のようなアウトプット(事業の実施回数や建設物の規模)の測定から、アウトカム(市民生活や地域社会に生じた実質的な変化)の測定へとパラダイムを転換しなければならない。
6.1 EBPM(証拠に基づく政策立案)とロジックモデルの活用
ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)の進化形として、現在国や先進的自治体で推進されているのが「EBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)」である。
限られた財源の中で、感覚や前例踏襲ではなく、客観的なエビデンスに基づいて政策の有効性を検証するアプローチである。
EBPMを実践するためのフレームワークとして「ロジックモデル」の構築がある。
ロジックモデルとは、事業が目指す最終的な成果に至るまでの論理的な因果関係を図式化したものである。
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インプット(投入):予算、人員、時間などの資源。
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アクティビティ(活動):事業そのもの(例:研修の開催、施設の建設)。
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アウトプット(直接的な結果):活動によって直接生み出されたもの(例:参加者数、完成した施設)。
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アウトカム(成果):事業の結果として対象者や社会にもたらされた意識・行動・状態の実質的な変化(初期、中期、長期に分かれる)。
行政評価が形骸化する原因の多くは、目標設定や指標が「アウトプット」に留まっていることにある。
総合計画の基本計画や実施計画においては、投下された予算(インプット)に対して、市民の生活や地域の状態がどう改善したか(アウトカム)を厳密に測定し、それがインプットの価値(コスト)を明確に上回っているかを検証しなければならない。
6.2 SROI(社会的投資収益率)を用いた真の価値の測定
アウトカムを定量化し、貨幣価値に換算して包括的な費用対効果を測定する高度な評価手法が「SROI(Social Return on Investment:社会的投資収益率)」である。
SROIは、経済的収益のみに着目するROI(投資収益率)の概念を公共部門や社会的事業に応用し、事業が創出する社会的・環境的価値を含めて貨幣換算し、投下資本に対してどれだけの社会的価値を生み出したかを示す指標である。
例えば、若年無業者への就労支援事業を行う場合、単なる「就職者数」や「相談件数」といったアウトプットを測定するのではない。
「就労による将来の生活保護費の削減額」「納税額の増加」「本人の精神的健康度の改善による医療費削減額」などを貨幣価値(財務プロキシ)に換算する。
これにより、「1億円の事業費(インプット)が、社会全体に対して3億円の社会的価値(SROI = 3.0)を生み出した」といった具体的な定量検証が可能になる。
弥富市の弥富駅自由通路事業のように、特定の設問への誘導を意図したCVMアンケートによって恣意的に便益を作り出すのではなく、SROIのように客観的なデータ(将来の行政コストの削減効果や実体経済への波及効果)に基づき、事業のライフサイクル全体を見据えた厳密な価値評価を行うことが、次世代の総合計画マネジメントには不可欠である。
7. 成果連動型予算配分による「真のバランス」の実現
総合計画を単なる「請求書の束」から、持続可能な「価値創造のポートフォリオ」へと昇華させるためには、予算の配分システムそのものを根本から改革する必要がある。その切り札となるのが「成果連動型」のマネジメント手法である。
7.1 PFS(成果連動型民間委託契約方式)とSIBの導入
現在、内閣府や厚生労働省、経済産業省が旗振り役となり、一部の先進自治体で導入が急速に進んでいるのが「PFS(Pay For Success:成果連動型民間委託契約方式)」である。
従来の公共事業や民間委託は「仕様発注型」であり、行政が定めたプロセス(手段)を民間事業者が実施すれば、成果の有無にかかわらずあらかじめ決められた委託費が支払われる。
これに対しPFSは、解決を目指す行政課題に対応した「成果指標(アウトカム)」をあらかじめ設定し、民間事業者に支払う委託費をその「成果指標の改善状況(達成度)」に直接連動させる仕組みである。
さらに、PFS事業にかかる初期の事業資金を金融機関や財団などの民間投資家から調達し、事業の成果に応じて行政が投資家に元本と配当を償還する仕組みを「SIB(Social Impact Bond:ソーシャル・インパクト・ボンド)」と呼ぶ。
PFS/SIBが自治体にもたらす変革的メリット:
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手段の目的化の完全な防止:行政は「達成すべき目標(成果指標)」のみを指定し、具体的な手法(手段)は民間の創意工夫と専門性に委ねる。これにより、行政が手段を固定化し、それが目的化するリスクが根本から排除される。
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財政リスクの転嫁と防御:万が一期待された成果が出なかった場合、その財務リスクは民間事業者や投資家が負うため、税金の無駄遣いを未然に防ぐことができる。
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継続的な改善への強力なインセンティブ:事業の成果が高まるほど事業者の報酬が増加するため、事業者は自発的にPDCAサイクルを回し、サービスの質の向上に努める。
7.2 総合計画における「バランスの取れた配分」の真意
本稿の冒頭で提起された「総合計画で予算を総合的に10年間の総費用としてバランスよく配分する」という言葉の真意は、決して「各部局からの予算要求を均等に、薄く広く配分する(いわゆるバラマキ)」ということではない。
それは旧来の予算獲得ゲームの悪習そのものである。
真のバランスとは、「どの政策領域(福祉、教育、インフラ維持、産業振興)に予算を重点投資すれば、自治体全体として最も高い社会的インパクト(SROI等の価値)を創出でき、かつ自治体の財政的持続可能性が保たれるか」を総合的に比較考量し、最適な投資ポートフォリオを構築することである。
民間企業が中期経営計画において、最も成長が見込める事業や顧客満足度(LTV)を高めるサービスに投資を集中させ、不採算部門からは勇気を持って撤退するのと同じである。
年間200億円、10年間で2000億円の予算があるならば、それを各部署の前例踏襲の事業に漫然と割り振る(いくらかかるから積み上げる)のではなく、「市民に対する2000億円分以上のアウトカムの提供契約」とみなし、事業計画(実施計画)を競争的に評価・選定・統廃合しなければならない。
8. 結論:次世代の自治体職員に求められる「価値創造者」としての視座
自治体を取り巻く環境は、人口減少、少子高齢化による社会保障費の爆発的な膨張、そして高度経済成長期に建設された膨大な公共インフラの老朽化により、かつてないほど過酷な制約下に置かれている。
国からの地方交付税や補助金に過度に依存し、右肩上がりの経済成長を前提とした「いくらかかるから予算をつける」という旧態依然とした総合計画の策定手法は、もはや完全に破綻している。
本稿で詳細に分析した弥富市の財政硬直化の実態や、弥富駅自由通路事業におけるCVMの悪用と「手段の目的化」の事例、そして行政評価システムの形骸化は、決して一自治体特有の問題ではない。
これは、経営的視点を欠いたまま行政運営を続けてきた日本全国の地方自治体が共通して陥りやすい、構造的な病理である。
今後の自治体経営、とりわけ新たな総合計画や実施計画を策定する責務を負う若手職員および実務担当者には、以下のパラダイムシフトが強く求められる。
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「予算=単なるコスト」から「予算=投資による価値創造」への転換 投下する予算(公金)は、必ずそれを上回る便益(市民価値)を生み出すための原資である。得られる効果を上回る費用をかけることは、民間企業における背任行為と同義であるとの厳しい認識を持つべきである。10年で2000億円の予算を使うならば、2000億円以上の価値をいかにして提供するかを論証できなければならない。
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ターゲット・コスティングの徹底による予算管理 事業予算は「検討してみないとわからない」ものではない。目指すアウトカムから逆算された「便益の総額」が絶対的な予算上限(ターゲット・コスト)であり、その範囲内で最も優れた手段を選択する努力を怠ってはならない。
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「手段の目的化」に対する厳格な監視と代替案の比較 基本構想や基本計画の初期段階で特定のハード整備などの手法に固執せず、常に「最上位の目的(市民の課題解決)」に立ち返る。手段の決定においては、バリュー・エンジニアリング(VE)の思考を持ち、複数の安価な代替案について厳密な費用便益分析(B/C)や社会的投資収益率(SROI)の比較を行う。
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客観的評価と成果連動型アプローチの確立 「現状維持」が大半を占める形骸化した事務事業評価を打破し、EBPMに基づく厳格なPDCAサイクルを回す。投資効果の低い事業には明確な終期を設定し、PFS(成果連動型委託)などの新しい官民連携手法を積極的に取り入れることで、予算の再配分をダイナミックかつ戦略的に行う。
総合計画とは、単なる「請求書の束」でも、国や外部コンサルタントが作成するお仕着せの作文でもない。
それは、自治体がその地域の限られた資源を最大限に活用し、住民に持続可能な価値を提供するための「経営戦略書」である。自治体職員は、単なる法令に則った事務処理のプロフェッショナルから、地域社会の価値を最大化する「バリュークリエイター(価値創造者)」へと進化しなければならない。
この経営者としての視座を共有し、日々の業務と計画策定プロセスに反映させることこそが、困難な時代における自治体の未来を切り拓く唯一の道である。