「憲法論議の視点」(4)新しい人権(プライバシー、AI) 山本龍彦・慶応大学教授 2018.3.15
1. 重要なキーワード(用語)
講義の骨格を成す、AI・情報社会と憲法を繋ぐ重要な概念です。
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古典的プライバシー権(Right to be let alone): 他者の視線にさらされない、私生活をみだりに公開されない「消極的」な権利。
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自己情報コントロール権: 自分の情報を相手によって「開いたり閉じたり(出し引き)」し、主体的に管理する「積極的」な権利。
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ペルソナ(社会的・関係的な人格): 相手(家族、同僚、SNSなど)に応じて情報をコントロールすることで構築される、社会的な顔。
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プロファイリング: ビッグデータをAIが解析し、個人の趣味嗜好、健康、政治信条、信用力などを予測・類別すること。
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自動化バイアス: コンピュータやAIによる判断を人間が過信し、無批判に受け入れてしまう認知傾向。
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バーチャルスラム: AIの不透明な評価によって、特定の属性を持つ人々が理由も分からないまま社会的に排除され続ける仮想の貧困層・分断状態。
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GDPR(EU一般データ保護規則): プロファイリングへの異議申立権や、自動処理のみに基づく決定に服さない権利を保障する欧州の強力なルール。
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フィルターバブル / デジタル・ゲリマンダリング: 自分の好む情報だけに囲まれて思想が極端化したり、SNSの分析によって有権者の投票行動が密かに操作されたりする民主主義へのリスク。
2. 刺さる言葉(印象的なフレーズ)
教授の主張の核心を突く、説得力のある言葉の抜き書きです。
「私たちは自分の情報を相手を選んで出し引きしながら生きている。(中略)情報をうまく出し引きしながら、社会的な人格としてのペルソナを主体的に作り上げている。」
「個人情報保護のための個人情報法になってしまい、何のための個人情報なのかが分からなくなっている。理念なき個人情報保護に陥っている。」
「個人がベルトコンベアに乗せられて、属性をセンシングされて類型ごとにAIにパパッと仕分けされるような世界。」
「過去の『若気の至り』が信用力と相関しているとAIが考えた時、人はずっと過去に拘束され、人生を再創造していくことができなくなる。」
「ネットワークシステムに埋め込まれ、ただAIに情報提供するだけの存在になるのか、それとも主体性を確保し、AIを使う存在になるのか。」
3. 論点整理(講義の構造と要旨)
講義の議論の流れを4つのフェーズに分けて論点整理しました。
① プライバシー権の概念的アップデートが必要
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過去(古典的): 「一人にしておいてほしい」「見ないでほしい」という防御的・消極的な権利。(例:写真週刊誌からの保護など)
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現在(情報社会): 技術の発達により、「勝手に情報を集められ、分析される」リスクが増大。情報を隠すだけでなく、コミュニティに応じて「誰に・何を・どこまで教えるか」を自分で決定する「自己情報コントロール権」へのアップデートが不可欠である。
② 学説と実務(判例・法律)のギャップ
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実務の遅れ: 最高裁や現在の個人情報保護法制は、いまだに「情報が漏洩しないこと(セキュリティ)」や「古典的な目線からの保護」に留まっている。
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弊害: 憲法的な理念(個人の尊厳、ペルソナの保護)が意識されないため、「とりあえず同意をとる」「なぜ保護するのか分からないがルールだから守る」という形骸化を招き、高度なプロファイリング等に法が追いついていない。
③ AI・ビッグデータ社会がもたらす深刻な「憲法的リスク」
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センシティブ情報の丸裸化: 購買履歴などの何気ない情報から、AIが妊娠、病気、政治信条などを本人すら気づかぬうちに予測してしまう。
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不透明な社会的排除(バーチャルスラム): AIによる採用・融資などの自動決定において、ブラックボックス化により「なぜ自分が落とされたのか」分からず、反論も自己改善もできないまま排除される。
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民主主義の危機: フィルターバブルによる社会の分断や、プロファイリングを利用した見えない選挙操作(デジタル・ゲリマンダリング)が起こり得る。
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生まれや過去による差別: AIが予測精度を上げるために「遺伝情報」や「過去の過ち」を永遠に評価に使い続けることで、個人の「やり直す自由(人生の再創造)」が奪われる。
④ 憲法改正の意義と「どう書き込むべきか」
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ただ「プライバシー」と書くのは無意味・有害: 現状の消極的な解釈(古典的プライバシー)を追認するだけになってしまう。
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書き込むべきは「主体性(情報の管理・コントロール)」: EUのGDPRのように、AIの評価に自動的に従属しない「透明性」や「人間の関与」を求めるための推進力(Driving Force)として、自己情報コントロールの理念を明記する意義は大きい。
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グローバル基準との同期と民主的統制: 憲法レベルで情報管理の主体性をうたうことで、国際的なデータ流通の信頼を得るとともに、外国(EU等)の基準がなし崩し的に流入する現状に対し、主権者たる国民の「同意」を与えることができる。