2019年11月23日(土)小金井を住みよくする会例会 日韓対立と北東アジアの平和問題 講演 吉田 裕さん(一橋大学名誉教授・特任教授)
吉田裕氏の講演記録から、日韓関係や戦後日本の歴史認識に関する重要なポイントを抽出・整理しました。
1. キーワード(論点を構成する重要語句)
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歴史認識の欠如: 植民地喪失の「自動的」な性質、戦争体験記からの植民地体験の抜け落ち。
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戦争責任のダブルスタンダード: 対外的(東京裁判受諾)には責任を認めつつ、国内的(教科書検定など)には否定・不問にする使い分け。
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冷戦体制と米国の圧力: 東京裁判での天皇免責、サンフランシスコ講和条約の寛大さ、日韓基本条約締結の背景。
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日韓基本条約(1965年): 経済援助優先(韓国の開発独裁)と冷戦構造(ベトナム戦争)の産物であり、植民地支配への反省が欠如していた。
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個人請求権: 国家間の賠償・請求権放棄とは別に、個人の被害に対する権利が消滅したかどうかの解釈の相違。
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軌道修正と談話: 宮澤談話(近隣諸国条項)、河野談話、村山談話(植民地支配と侵略への反省とお詫び)。
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歴史修正主義と謝罪の打ち切り: 安倍元首相の戦後70年談話に見られる、主体的な謝罪の回避と植民地支配の軽視。
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記憶の構築と和解: 歴史の記憶はどう作られ、何を忘却してきたかの検証。日中の民間レベルの和解と、日韓の政府介入による対立の対比。
2. 刺さる言葉(印象的で核心を突くフレーズ)
「日本の場合は戦争敗戦によって自動的に(植民地を)失う結果となった。そのため、戦後日本社会では植民地支配の歴史が十分に問い直されてこなかった。」
「膨大な量の戦争体験記はあるんですけど、植民地体験についての体験記がほとんど抜け落ちている。」
「戦争責任に関する一種のダブルスタンダードがこの時期に成立する。対外的には最小限度の戦争責任を認めるが、国内的には認めないという使い分けです。」
「(日韓基本条約は)日本側に植民地支配の歴史に対する反省がなかった。にもかかわらず妥結したのは、アメリカの存在が大きい。」
「安倍首相の(戦後70年談話での)答弁は、自分の認識として植民地支配が間違っていましたとは一言も言っていない。報告書を朗読しただけ。」
「『戦争には関わりのない世代に、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません』。これは事実上の謝罪の打ち切り宣言です。」
「なぜ(日中間に見られるような)民間レベルの処理で和解に委ねられないのか。日韓の問題だけ政府が介入して『解決済みだ』と蓋をするのは、非常に大きな疑問です。」
3. 論点整理(戦後日本の歴史認識はどう変遷したか)
講演の骨子を、時間軸とテーマに沿って4つの論点に整理しました。
① 植民地支配の記憶の「忘却」とダブルスタンダードの形成
日本は敗戦により「自動的」に植民地を喪失したため、国民的議論を経て植民地支配を清算する機会を逸しました。
さらに、冷戦を背景としたアメリカの思惑により、東京裁判やサンフランシスコ講和条約では天皇の免責や賠償の放棄など「寛大な処理」が行われました。
結果として、対外的には一定の戦争責任を認めつつも、国内では教科書検定等を通じてそれを曖昧にする「ダブルスタンダード」が定着し、人々の戦争体験からも植民地の記憶がすっぽりと抜け落ちていきました。
② 反省なき日韓基本条約と政治的妥協
1965年の日韓基本条約は、植民地支配への真摯な反省に基づくものではありませんでした。
ベトナム戦争への韓国軍派遣を促したいアメリカの圧力と、経済援助を最優先する韓国の軍事政権(開発独裁)、そして冷戦下で防衛の壁を構築したい日本の思惑が一致した「政治的妥協の産物」です。
ここでの「個人請求権」の扱いの曖昧さが、現在に至る徴用工問題などの禍根となっています。
③ 1980〜90年代の「軌道修正」と歴史修正主義の台頭
80年代以降、アジア諸国の経済成長や民主化に伴い、日本の歴史認識に対する国際的な批判が高まりました。
これを受け、日本政府は近隣諸国条項の導入(宮澤談話)、慰安婦問題への関与認定(河野談話)、そして植民地支配と侵略を公式に謝罪した村山談話(1995年)へと軌道修正を図ります。
また、天皇(昭和・平成)も独自の立場で反省の言葉を紡ぎました。
しかし、この流れに反発する形で「新しい歴史教科書をつくる会」などに代表される歴史修正主義が台頭し、国内の世論は二極化していきます。
④ 安倍政権以降の「謝罪打ち切り」と今後の和解のあり方
2015年の安倍首相による戦後70年談話は、形式上は村山談話を継承しつつも、自らの言葉としての謝罪を避け、「謝罪を続ける宿命を背負わせない」という事実上の打ち切り宣言を行いました。
これにより、日韓間の溝はさらに深まりました。
吉田氏は、中国人強制連行問題において民間企業レベルでの和解(補償や記念碑の建立)が一部成立している事実を挙げ、なぜ韓国の徴用工問題では政府が介入して民間レベルの和解を妨げるのかと疑問を呈しています。
解決の糸口は、「自国の歴史的記憶がいかに作られてきたか」を内省的に検証し、複眼的な視点を持つことにあると結んでいます。