ルールは君を縛る鎖じゃない、自分を守る「盾」だ!
〜弥富市20周年。若手職員のための公務員倫理&キャリアUPガイド〜
はじめに:「コンプライアンス」=「怒られる」の勘違い
日々の業務、本当にお疲れ様です!
「公務員倫理」や「コンプライアンス」と聞くと、なんだか「堅苦しい」「怒られそう」「あれもこれもダメと縛られる」といったネガティブなイメージを持っていませんか?
実は、まったく逆なんです。
住民や地元企業との距離が近い中小市町村だからこそ、私たちは時として「地元のしがらみ」や「理不尽な要求」に板挟みになります。
そんな時、不当な圧力や悪しき慣習から君たちを守ってくれる「最強の盾」、それが公務員倫理です。
弥富市の市制施行20周年という節目に向けて、若手職員がいきいきと、そして安心して挑戦し続けるためのポイントをギュッとまとめました!
1. 公務員ならではの「4つの特性」と、潜む落とし穴
民間企業とは違う公務員の仕事。その特別さゆえに、無意識のうちにハマってしまう罠があります。自分に当てはまっていないかチェックしてみましょう。
| 公務員の特性 | 無意識にハマる「ヤバい罠」 | 次世代のマインドセット |
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公益性 (倒産しない) |
「前例通りやっておけば安全」という事なかれ主義。 | 失敗を過度に恐れず、新しい挑戦を模索する。 |
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中立・公平性 (市民と顔見知り) |
「よく知っている人だから」という特別扱い。 | 特別扱いは他者への「差別」。常にフラットに対応する。 |
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権力性 (言うことを聞かせる力) |
許認可などの権限を持つことによる無自覚な傲慢さ。 | 権力を行使する時ほど、真摯で丁寧な姿勢を貫く。 |
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独占性 (ライバル企業不在) |
「市民は他市に乗り換えられない」というサービス精神の甘え。 | 競争がないからこそ、自ら高いホスピタリティを持つ。 |
2. リアルな現場のジレンマ!身近な「NGケーススタディ」
「これくらいなら大丈夫だろう」という気の緩みが、取り返しのつかない事態を招きます。過去の事件やありがちなケースから、絶対NGの境界線を学びましょう。
🚨 「お金をもらっていなければセーフ」は絶対NG!
入札情報(予定価格など)を教えることは、金庫のパスワードを教えるのと同じです。金品の授受がなくても重大な犯罪(官製談合)になります。「昔からの慣習だから」という組織の異常を疑う目を持ちましょう。
🚨 善意のつもりの「日付ごまかし(公文書偽造)」
「自分の処理遅れで市民に迷惑をかけたくない…」と、決裁の日付を書き換える行為。ミスよりも「隠蔽」の方がはるかに重い罪になります。遅れたら「即、上司に相談(エスカレーション)」が唯一の正解です。
🚨 「匿名SNS」と「情報持ち出し」の恐怖
匿名アカウントで職場の愚痴や市民への文句を投稿しても、身元は簡単に特定されます。また「家で仕事を終わらせよう」とUSBを持ち帰って紛失すれば大事故に。公務員の看板は休日も外れません。
🚨 「お菓子一つ」から始まる癒着
「ほんの気持ちだから」と贈り物を受け取ると、人間は無意識に「お返しをしなければ(断りにくい)」と感じてしまいます。どんなに少額なものでも、毅然と断る勇気を持ちましょう。
3. どうやって自分を守り、前向きに働くか?
ダメなことを知るだけでなく、どうすればやりがいを持って働けるのでしょうか。明日から使える3つのアクションです。
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「鉄の掟」を断る最強の口実に使う
業者や有力者からの「飲みに行こう」「ゴルフに行こう」という誘い。
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「せっかくですが、厳しいルールで固く禁じられており、クビになってしまうので…」と、ルールを盾にしてキッパリ断りましょう。
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北風より「太陽アプローチ」でまちを良くする
ただルールを守るだけでなく、心理学を使って市民が自発的に動きたくなる仕掛けを作ったり(ナッジ理論)、無駄なハンコやペーパーレス化など「業務改善」をどんどん提案してみましょう。
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君たちの新鮮な視点が組織を救います。
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「心理的安全性」を自分たちでつくる
「こんなこと聞いたら怒られるかな」という不安がない風通しの良い職場(心理的安全性)が、不正やメンタル不調を防ぎます。
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ランチや雑談を通じて違和感を共有し、もし本当にヤバい不正を見つけたら「内部通報」という最後の砦(自浄作用)を活用してください。
おわりに:未来のまちづくりを牽引する君たちへ
公務員倫理は、決して君たちを萎縮させるためのものではありません。
「市民のために全力で考え、失敗を恐れず新しいことに挑戦するため」の揺るぎない土台です。
前例や古い慣習に流されず、「本当に市民のためになるのか?」を常に自分に問いかけてください。
若手職員である君たちの新しい発想と行動力こそが、これからの地域の未来を決定づけます。
自信と誇りを持って、日々の業務を楽しんでいきましょう!
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中小市町村における若手職員のための次世代型公務員倫理と自律的キャリア構築に関する総合実践指針:弥富市をはじめとする地域行政の再生に向けて(AI利用)
1. 序論:いま、なぜ若手職員に「公務員倫理」が求められるのか
地方自治体を取り巻く環境は、人口減少、少子高齢化、デジタル化の波、そして社会インフラの老朽化など、かつてない複雑さと多様性を帯びている。
こうした中で、住民の期待に的確に応え、質の高い行政サービスを提供し続けるためには、組織の根幹をなす公務員一人ひとりの「高い職業倫理」が必要不可欠である。
特に、令和8年(2026年)に市制施行20周年という節目を迎える愛知県弥富市をはじめとする中小市町村においては、次代のまちづくりを担う若手職員の意識改革と成長が、行政運営の生命線となる 。
本報告書は、政令指定都市のような大規模かつ細分化された組織とは異なり、職員と住民、あるいは地元企業との距離が極めて近い「中小市町村」に焦点を当てる。
こうした地域特有の環境は、住民ニーズを直接的に汲み取れるという大きな強みを持つ反面、時として血縁や地縁に基づく「なあなあ」の関係を生み、行政の公平性や中立性を歪める構造的なリスク(倫理的脆弱性)を孕んでいる。
事実、2026年2月には、弥富市において現職の建設部長が官製談合防止法違反等の疑いで逮捕されるという、行政に対する住民の信頼を根底から揺るがす極めて重大な不祥事が発生した 。
このような危機的状況を乗り越え、組織を再生するためには、従来の「規則で縛る」だけの受動的なコンプライアンス教育から脱却し、若手職員自身が「住民の幸福」と「自身のキャリアの充実」を結びつけて考えられるような、前向きで親しみやすい倫理の再構築が求められている。
本指針は、名古屋市の職員ハンドブックで示されている普遍的な公務員倫理の原則を理論的基盤としつつ、若手職員が直面しやすい日常的なジレンマ(葛藤)の事例や、全国の中小市町村で実践されている「やる気を引き出す先進事例」を交えて体系化したものである。
公務員倫理とは、決して若手職員を縛り付ける鎖ではない。
それは、不当な要求や悪しき慣習から自らの身を守る「強力な盾」であり、同時に、住民のために創意工夫を発揮するための「揺るぎない土台」であることを論証する。
2. 公務員に求められるもの:公務員倫理の意義と「全体の奉仕者」としての使命
公務員倫理とは、一言で言えば「公務員としての職業倫理」であり、住民の負託と期待に的確に応えるための、公務員としてのあり方そのものである。
もちろん、一般社会人や民間企業の従業員にも、職業人として社会的責任や役割を果たすこと(企業の社会的責任:CSRなど)が強く求められている。
しかし、公務員には、日本国憲法に規定される「全体の奉仕者」としての性格と、「公務の特殊性」から、民間企業を遥かに凌駕する高度な職業倫理が要請されるのである 。
日本国憲法第15条第2項は、「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」と定めている。
また、地方公務員法第30条は、服務の根本基準として「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と規定している 。
地方の政治は、住民全体からの信託を受けたものであり、この信託に基づいて政策を実施する公務員が、特定の有力者や一部の利益団体のためではなく、常に「住民全体の利益を増進すること」を目的として行動することは極めて当然の帰結である。
しかし、頭では理解していても、日常の業務においてこの原則を貫くことは容易ではない。
特に中小市町村においては、「日頃からお世話になっている地元の名士だから」「親戚の知り合いだから」といった個人的な感情やしがらみが、職務上の判断を曇らせるリスクが常に付きまとっている。
だからこそ、公務員一人ひとりが、常に「住民全体の奉仕者」としての強い自覚を持ち、日々の小さな業務の積み重ねの中で、より高い職業倫理の要請に応えていくことが肝要なのである。
3. 公務の4つの特性と、そこに潜む落とし穴(倫理的リスク)
公務には、一般の民間企業とは根本的に異なるいくつかの重要な特性がある。名古屋市の職員ハンドブックでも指摘されている通り、主に「公益性」「中立・公平性」「権力性」「独占性」の4つが挙げられる。
これらの特性は、公共の利益を実現し、社会の秩序を維持するために行政にのみ特別に認められたものである。
しかし、その認識が不十分で、公務員としての自覚が希薄になると、たちまち不祥事の発生など住民の厳しい批判を招く危険な「落とし穴」へと変貌する。若手職員は、自らの仕事が持つこれらの特性とリスクの裏表を深く理解しなければならない。
3.1 公益性(Public Interest):利潤動機の欠如が生む「事なかれ主義」の罠
地方公共団体は、道路の整備から福祉の提供、教育の充実まで、公共の福祉増進のために多岐にわたる事業を行っている。
したがって、職員は非常に公益性の高い仕事に従事しているという誇りを持つことができる。
しかし反面、民間企業のように「市場競争に勝ち抜き、利潤を上げる」という明確な動機(インセンティブ)を欠いている。
この「倒産しない」「利益を出さなくても給料がもらえる」という環境は、ともすれば「前例を踏襲していればよい」「新しいことに挑戦して失敗するより、何もしない方が安全だ」という事なかれ主義や、仕事を改善していく意欲の希薄化を招く恐れがある。
公益性を真に追求するためには、与えられた予算を漫然と消化するのではなく、限られた財源の中でいかに住民への還元を最大化するかという、倫理的な緊張感が必要である。
3.2 中立・公平性(Neutrality and Fairness):「特別な計らい」という魔力
公務員は、全体の奉仕者として公平公正に職務を遂行しなければならない。
特定個人に対する過剰なサービスの提供(便宜供与)は許されず、逆に正当な理由なく権利を侵害することも固く禁じられている。
中小市町村において最も直面しやすいジレンマが、この中立・公平性の維持である。
「窓口に顔見知りが来たので、通常は必要な添付書類を省略してあげた」「地元の有力議員からの頼みなので、優先的に処理をした」といった、個人の感覚では「ちょっとした親切」や「柔軟な対応」のつもりで行った行為が、行政全体の公平性を根本から破壊する。
行政における「あなただけ特別」は、他のすべての住民に対する「差別」に他ならないことを肝に銘じるべきである。
3.3 権力性(Authority):住民を萎縮させる「無自覚な傲慢さ」
公務は、一定の法律、条例、規則等に基づいて行われることが多く、行政処分や税金の滞納処分(差し押さえ)、あるいは各種の許認可など、強制力を伴う「公権力の行使」を内包している。
この権力は、あくまで住民の生命と財産を守るための手段として信託されたものに過ぎない。
しかし、許認可の権限を持つ担当者が、事業者に対して横柄な態度をとったり、法的な根拠のない行政指導を強要したりすれば、それは明らかな権力の濫用である。
強制力を伴う仕事であるからこそ、常に自らの言葉や態度が住民に誤解や反発、あるいは過度な萎縮を招かないよう、細心の留意と謙虚さが求められる。
3.4 独占性(Monopoly):競争不在がもたらす「サービス精神の欠如」
住民は、民間企業のサービスが悪ければ、別の会社の製品やサービスに乗り換える(他社に変える)ことができる。
しかし、公務においては業務が独占的である。住民は「A市役所の窓口対応が悪いから、明日から隣のB市役所に住民票の手続きを頼もう」と役所を変えることはできない。
この「住民には選択肢がない(逃げられない)」という独占的な環境こそが、公務員を無意識のうちに増長させる最大の要因である。
サービスの質が低くても、職員の態度が悪くても、顧客(住民)を失うことはない。
この恐ろしい環境に甘んじることなく、「もし自分の部署が民間企業と競合していたら、住民は今のサービスを選んでくれるだろうか」と常に自省する姿勢が不可欠である。
4. 中小市町村における構造的リスクの現実:官製談合事件からの教訓
前述の特性が負の方向に働いた時、組織はいかにして崩壊するのか。
これを対岸の火事としてではなく、極めて身近な現実の危機として捉えるために、弥富市において発覚した官製談合事件の深層を分析する。
この事件は、決して「一人の悪人が起こした特殊な事例」ではなく、長年にわたって蓄積された組織風土と倫理的感覚の麻痺が引き起こした構造的な帰結である 。
4.1 「金品を受け取らなければ罪にならない」という致命的な誤解
2026年2月、弥富市の建設部長が、公共工事の入札において秘密事項である設計金額(予定価格の基礎となる情報)を特定の業者に漏洩したとして、官製談合防止法違反の疑いで逮捕された 。
特筆すべきは、現時点でこの職員が業者から直接的な現金や接待などの賄賂を受け取っていたという報道がなされていない点である 。
ここに、地方行政に根強く残る恐ろしい規範意識の欠如がある。
「直接的に金をもらっていなければ、地元の業者に少し情報を教えてあげるくらいは『便宜供与』の範囲であり、犯罪ではない」という時代遅れの誤解である 。
しかし、公共事業における「予定価格」の情報は、それ自体が数千万円、数億円の価値を持つ「金銭そのもの」である。
情報を漏らすことは、市民の血税が保管された金庫のパスワードを特定の業者に教える行為と同義であり、金銭授受の有無にかかわらず、公平な競争を歪めた時点で重大な犯罪が成立する 。
4.2 異常値の常態化(逸脱の標準化)
同市の入札では、長年にわたり「予定価格の99%以上」という極めて不自然な金額での落札が繰り返されていた 。
一般競争入札において、業者が市の積算した予定価格とほぼ1円単位で一致する金額を入札することは、確率論的にあり得ない。
会計検査の常識では、95%を超える落札率は「談合の疑義あり」として即座に調査対象となるレッドフラグである 。
しかし、組織内部ではこれが「長年の慣習」として処理され、「不自然と思わなかった」と見過ごされてきた 。
社会学でいう「逸脱の標準化(Normalization of deviance)」である。
異常な状態が長く続くと、組織はその異常を「通常」として受け入れてしまう。
若手職員は、配属された職場の「当たり前」が、社会全体の「当たり前」と乖離していないかを常に疑う批判的思考(クリティカル・シンキング)を持つことが求められる。
4.3 若手職員を守るための「鉄の掟(厳格なルール)」の重要性
なぜこのような癒着が生じるのか。
それは、多くの場合、若手時代からの「酒席」や「ゴルフ」といった個人的な付き合いから始まる。
弥富市の隣接自治体である名古屋市では、過去の汚職事件の痛烈な教訓から、「名古屋市職員の倫理の保持に関する条例」という極めて厳格なルール(鉄の掟)を運用している 。
| 項目 | 旧来の甘い認識(リスクの温床) | 名古屋市等の先進的な倫理基準 | 倫理的意義とリスク回避の理由 |
|---|---|---|---|
| 利害関係者との飲食 | 「自分の分は自分で払う(割り勘)」なら問題ない。 | 原則禁止。自己負担であっても、夜間の会食等は事前に所属長の許可が必要。 |
割り勘であっても、酒食を共にすることで醸成される「情」や「貸し借り」の意識が、将来的な不正の温床となるため 。 |
| ゴルフ・麻雀・旅行 | 休日に行う私的な遊興であり個人の自由。 | 絶対禁止。 |
長時間にわたり密室的な空間を共有し、実質的な金銭授受(賭け事等)が行われやすいため 。 |
| 利害関係者の範囲 | 現在契約している業者の担当者のみ。 | 過去3年間の関係者等も含む。同級生や親族であっても要注意。 |
異動後の「追っかけ癒着」を防ぎ、親しい間柄であっても職務の公正性に疑念を招く接触を徹底的に排除するため 。 |
若手職員にとって、年配の地元有力者や親しい業者からの「食事に行こう」「割り勘だから大丈夫」という誘いを断ることは、人間関係の観点から非常に心理的負担が大きい。
しかし、組織に上記のような厳格なルールが存在すれば、「せっかくのお誘いですが、市の条例で厳しく禁じられており、発覚すれば懲戒処分になってしまいますので」と、制度を理由に毅然と断ることができる。
厳格なコンプライアンス規則は、職員を縛り付けるものではなく、不当な要求や癒着の罠から若手職員を守るための「強力な盾」として機能するのである 。
5. 日常業務に潜む倫理的ジレンマ(ケーススタディ)と予防策
公務員の不祥事は、業者との癒着だけにとどまらない。日々の事務処理や、ふとした気の緩み、あるいはSNSの利用など、日常の中に数多くの落とし穴が存在している。
ここでは、若手職員が直面しやすい具体的な事例(ケーススタディ)を通じて、何がコンプライアンス違反となるのか、その判断基準を学ぶ 。
事例1:善意とミスの隠蔽が招く「公文書偽造」の罠
【状況】
ある若手職員Aは、住民からの補助金申請の受付を担当していた。要綱では「3月末日締め切り、年度内決裁」が必須であったが、窓口業務の繁忙に追われ、一部の決裁手続きが4月にずれ込んでしまった。
上司から「なぜ年度内に処理しなかったのか」と叱責されることを恐れたAは、申請書の受付印や決裁書の日付を意図的に「3月31日」に書き換え(遡らせて)処理を行った。結果として住民には無事に補助金が支払われた 。
【倫理的分析と影響】
A職員の心境としては、「住民に迷惑をかけてはならない」「自分のミスで課全体の評価を下げたくない」という一種の責任感(善意)があったかもしれない。
しかし、この行為は「公文書偽造」および「虚偽有印公文書作成」という重大な犯罪行為である 。
公務は法律に基づく「プロセス(手続き)」の正確性がすべてであり、事実と異なる記録を残すことは、行政全体の記録の真正性を破壊する行為である。
後日の監査でこれが発覚すれば、自治体は住民からの信用を失い、A職員は懲戒処分の対象となる。
【取るべき姿勢】
ミスや事務処理の遅延は誰にでも起こり得る。最も重要なのは、遅延が判明した(あるいは遅延しそうだと分かった)時点で、ただちに上司に報告(エスカレーション)することである。
組織として事実に基づいた例外処理やリカバリー策を講じることが、唯一の正解である。「隠蔽」は常に最初のミスよりも重い罪となることを深く認識すべきである。
事例2:デジタル時代の死角「情報セキュリティの軽視」
【状況】
若手職員Bは、週末に自宅で企画書の作成(残務処理)を行うため、担当地域の住民の個人情報リストが保存されている公用のUSBメモリを、上司の許可を得ずに無断でカバンに入れて持ち帰った。
しかし、帰宅途中に立ち寄った飲食店でカバンごと紛失してしまった 。
また、若手職員Cは、市民向けイベントの案内メールを一斉送信する際、本来「BCC」に設定してアドレスを隠すべきところを、誤って「TO」や「CC」に設定して送信してしまい、数百人分の個人アドレスが流出する事故を起こした 。
さらに、若手職員Dは、勤務時間中に業務用のパソコンを使って、業務とは無関係な株価情報や旅行サイトを連日閲覧していた 。
【倫理的分析と影響】
現代の行政において、情報漏洩の最大のリスクはサイバー攻撃ではなく、職員の不注意(ヒューマンエラー)とルール無視である。
地方公務員法第34条は厳格な守秘義務を定めており、USBメモリの紛失は、本人の意図にかかわらず重大なコンプライアンス違反となる 。また、勤務時間中の私的なウェブ閲覧は「職務専念義務違反」であり、減給などの懲戒処分の対象となる 。
【取るべき姿勢】
「仕事熱心だから自宅でやろう」「少しくらい息抜きをしてもバレないだろう」という個人の甘い判断が、数万人規模の市民に被害を及ぼす。業務の手順をルールとして明文化し、データの持ち出しは厳格な許可制とするなど、組織的な仕組みを遵守することが求められる 。
事例3:SNSの不適切利用と「匿名性」の錯覚
【状況】
若手職員Eは、職場の人間関係や住民からのクレームにストレスを抱えており、匿名のアカウントを用いてX(旧Twitter)に「今日の窓口に来た〇〇地区のジジイ、本当にクレーマーでウザい。税金泥棒はお前だ」と投稿した。
また、特定のマイノリティに対する差別を肯定するような内容をリポスト(拡散)した 。
【倫理的分析と影響】
個人の表現の自由は憲法で保障されているが、公務員には地方公務員法に基づく「信用失墜行為の禁止」(第33条)が課せられている 。
匿名アカウントであっても、過去の投稿内容(通勤経路、周辺の風景、仕事の愚痴のタイミング等)から、個人および勤務先の役所が特定されることは極めて容易である。
ひとたび「〇〇市の職員が差別発言をしている」と炎上すれば、役所の電話は抗議で鳴り止まなくなり、業務は完全に麻痺する。
国家公務員等の事例でも、ソーシャルメディア上での不適切な発信によって減給等の処分を受けるケースが後を絶たない 。
【取るべき姿勢】
インターネット上に完全にプライベートな空間は存在しない。
「公務員」という看板は、退庁後や休日であっても外れることはないという自覚を持ち、公務員としての品位を損なう発言は厳に慎まなければならない。
事例4:利害関係者からの「少額の贈り物」と返報性の原理
【状況】
若手職員Fは、許認可の窓口を担当している。
ある日、日頃から申請手続きに訪れる地元企業の社長から、「いつも丁寧に教えてくれてありがとう。
これは個人的なほんの気持ちだから」と、数千円程度のお菓子(お中元)を差し出された。Fは「これくらいなら社交辞令の範囲だろう」と考え、ありがたく受け取った。
【倫理的分析と影響】
国家公務員倫理法や多くの自治体の倫理規程において、利害関係者からの金銭・物品の贈与を受けることは、金額の多寡にかかわらず、また「お中元」「お歳暮」「せん別」といった名目にかかわらず厳格に禁止されている 。
心理学には「返報性の原理(好意を受け取ると、お返しをしなければならないと感じる心理)」がある。
少額であっても贈り物を受け取ってしまえば、次回その社長が少し無理な申請を持ってきた際に、厳格な審査ができなくなる。
行政の意思決定が物品によって左右されるという「疑惑」を住民に抱かせた時点で、公務員としての信用は失墜する。
【取るべき姿勢】
「お気持ちは大変ありがたいのですが、職員の規則により、市民の皆様からの品物は一切受け取れないことになっております。
お持ち帰りいただけますでしょうか」と、丁寧に、しかし断固として辞退しなければならない 。
6. やる気を引き出す「太陽アプローチ」:中小市町村における先進事例と組織風土改革
ここまで、法令遵守や不祥事防止といった「してはならないこと(北風アプローチ)」を中心に述べてきた。服務規律の確保や綱紀の保持は、公務員として取るべき「最低限の行動規範」である 。
しかしながら、名古屋市のハンドブックが示す通り、単に義務付けられていることを守るだけでは、住民の積極的な信頼を得ることはできない。
義務付けられていないことでも、市民の立場に立って物事を考え、「した方が望ましいとされる行動」を積極的に取る姿勢(太陽アプローチ)こそが、若手職員のモチベーションを高め、次世代の行政サービスを創造する鍵となる 。
ここでは、全国の中小市町村で実践されている、若手職員が躍動する先進的な事例を紹介する。
6.1 ナッジ理論の活用(京都府宇治市の事例):強制から「自発的な行動」へのシフト
京都府宇治市では、若手職員が中心となって「ナッジ(Nudge:そっと後押しする)」という行動経済学の知見を行政課題の解決に応用する勉強会を立ち上げ、大きな成果を上げている 。
例えば、ハザードマップ対象地域の住民から同意書を回収する業務において、単に「提出してください」という事務的な封筒を送るのではなく、封筒のメッセージやデザインに心理学的な工夫(ナッジ)を凝らすことで、住民が「自発的に」返送したくなるような仕掛けを作った 。
【倫理的意義とモチベーション】
条例を改正して罰則を設けたり、多額の予算をかけてキャンペーンを行ったりするのではなく、既存のリソースを活用し「住民の心理に寄り添いながら、より良い行動を促す」というアプローチは、住民の立場に立った極めて高度な倫理的実践である。
「自分たちの工夫で住民の行動が変わり、社会が良くなった」という成功体験は、若手職員に大きなやりがい(内発的動機付け)をもたらす 。
6.2 ボトムアップの業務改善提案制度(大分県「OITAチャレンジ運動」等の事例)
多くの自治体で、現場の職員から業務改善のアイデアを広く募集する「職員提案制度」が導入されている。
例えば大分県が実施している「OITAチャレンジ運動」では、年間数百件もの改善報告やアイデア提案が寄せられ、優秀な提案は表彰・全庁共有されている 。
【倫理的意義とモチベーション】
「ハンコ文化の廃止」や「申請書のオンライン化」、「ペーパーレス化」など、日常の業務で感じる「非効率」や「無駄」を放置せず、組織の生産性を高めるための提案を行うことは、市民の税金(人件費)をより有効に活用するという点で、立派な公益的行動である。
若手職員は「前例がない」という言葉に萎縮せず、新鮮な視点でどんどん組織の当たり前に疑問を投げかけ、改善を提案していくことが期待されている 。
6.3 心理的安全性の確保と風通しのよい職場づくり(岐阜県等の事例)
不正の温床は、上司に相談しにくい、ミスを隠蔽せざるを得ない「閉鎖的で硬直化した職場環境」にある。
これを打破し、コンプライアンスを機能させるためには、組織内の「心理的安全性(Psychological Safety:何を言っても罰せられない、拒絶されないという安心感)」を高めることが不可欠である。 岐阜県では、若手職員による「ランチミーティング」を定期的に開催し、昼食をとりながら打ち解けた雰囲気の中で、業務の課題や職場環境の改善に向けた意見交換を行っている 。
また、毎朝の朝礼で職員が交代でスピーチを行う機会を設け、職責や年次にとらわれない自由な議論ができる風通しのよい職場を目指している 。
【倫理的意義とモチベーション】
「こんなことを聞いたら怒られるのではないか」という不安を取り除き、風通しの良いチームワークを構築することは、業務の効率化だけでなく、メンタルヘルスの維持やハラスメントの防止にも直結する 。
若手職員は、受け身になるのではなく、自ら進んでコミュニケーションの輪に入り、小さな違和感を共有する姿勢が求められる。
6.4 内部公益通報制度の積極的な活用(自浄作用の担保)
最後に、最も勇気のいる、しかし最も重要な行動について触れておく。
弥富市をはじめ多くの自治体では、公益通報者保護法に基づき、「職員等内部公益通報制度」が整備されている 。
もし、職場の先輩や上司が、明らかな法令違反、公金の不正利用、あるいは業者との不適切な癒着を行っていることを知ってしまった場合、見て見ぬふりをして同調することは、自身も不正に加担することに等しい。
通報者は法令と制度によって不利益な取り扱いから厳格に保護される 。組織の腐敗から住民の利益を守り抜く「最後の砦」は、他ならぬ職員自身の勇気ある声(自浄作用)であることを忘れてはならない。
7. 結語:目指すべき職員像と、未来のまちづくりを牽引する君たちへ
公務員に求められるものとは何か。 昨今の多様化・複雑化する住民ニーズを的確に捉え、その期待に十分応える行政サービスを提供するためには、組織全体で課題を体系化し、業務目標を掲げ、それを効率的に達成していかなければならない。
そのためには、職場においてチームワークを良好に維持するよう努力し、若手職員自らが進んで、業務目標の達成への意欲と「自己の向上への意欲(自己研鑽)」を持って、その力を十分に発揮することが極めて重要である。
そのすべての基盤となるのが、本指針で述べてきた「公務員倫理」である。
職員一人ひとりが職務の内外を問わず法令等を厳格に遵守し、高い倫理観を保持することなしに、住民の信頼を確保することは決してできない。
一度失われた信頼を回復するためには、途方もない時間と労力を要することは、近年の不祥事事例が痛烈に物語っている。
しかし、恐れる必要はない。
公務員倫理とは、君たちを不当な要求から守る「盾」であり、住民のために全力で働くための「土台」である。
公務員は、高い職業倫理と職務への情熱を持つとともに、常に「市民の立場に立って物事を考えて仕事に取り組む」ことにより、組織としての力を向上させ、行政サービスの質を無限に高めていくことができる。
市制施行20周年という大きな節目を目前に控える今、これからの地域社会のあり方を決定づけるのは、紛れもなく新しい世代の君たちの思考と行動である 。
慣習に流されず、常に「何が住民のためになるのか」を自問自答し、失敗を恐れずに新たな挑戦(太陽アプローチ)を続けてほしい。
全体の奉仕者としての誇りを胸に、地域住民から心から信頼され、未来のまちづくりを力強く牽引するプロフェッショナルへと成長していくことを、強く期待する。