弥富市をもっと子育てしやすい街へ!市民から行政への4つの要望
1. 市役所での「たらい回し」をなくしてください!
〜 1階と3階の壁をなくし、スタッフが寄り添う体制を 〜
市役所で「それは〇階の窓口へ行ってください」と言われ、何度も同じ説明をさせられて疲れてしまうことがあります。 1階(福祉・手続き)と3階(保健・健診)で情報をパソコン上でしっかり共有し、別の窓口に行く必要がある時も、案内図を渡して終わりにせず、担当スタッフが一緒に目的の階まで付き添う「エスコート制」を導入し、利用者の迷子やたらい回しを防ぐ運用を徹底してください。
2. 市役所に行かなくても、いつもの遊び場で相談できるようにしてください!
〜 「ひので・弥生・東部」をもっと頼れる場所に 〜
わざわざ市役所の相談窓口へ行くのはハードルが高いと感じる保護者は少なくありません。 市内にある3つの子育て支援センター(ひので、弥生、東部)に、保健師などの専門スタッフが定期的に出張し、子どもを遊ばせながらの「何気ないおしゃべり」の中で気軽に相談に乗れる仕組みを作ってください。また、各センターの現場スタッフに市の制度について質問しても、しっかり案内ができるよう研修等の充実をお願いします。
3. スマホでの気軽な相談窓口の開設と、夜・休日の施設開放をお願いします!
〜 デジタルの力で、忙しいご家庭のサポートを 〜
日中は仕事で市役所や支援センターに行けない共働き家庭等のために、LINEやZoomを使った「オンライン相談窓口」を新設してください。 さらに将来的には、スマホで予約して電子決済を行い、スマホの鍵(スマートロック)でドアを開ける仕組みを導入するなどして、スタッフがいない夜間や休日でも、地域のみんなで支援センターを使えるようにするなど、未来を見据えた施設の活用検討をお願いします。
4. 子育てのプロたちが「チーム」として支援に専念できる環境を整えてください!
〜 相談員がしっかり市民に向き合える時間の確保を 〜
市役所の相談員が、一般の事務作業などとの「兼務」に追われていては、本当に困っているご家庭にゆっくり寄り添うことができません。 保健師や心理カウンセラーなどの専門スタッフが、「悩みを抱える家庭への訪問」や「相談対応」にしっかり専念できるように人員配置を見直してください。さらに、市役所だけでなく、保育園や学校、病院とも連携し、地域全体がひとつの「チーム弥富」として子どもたちのSOSを見逃さない体制の構築を強く要望します。
結び:私たちが市に求める姿勢
「困ったことがあったら市役所に来てください」と待つ姿勢のままでは、本当に支援を必要としている家庭には届きません。
お買い物のついで、いつもの遊び場、あるいは手元のスマートフォンなど、市民の「いつもの生活」のすぐそばに、さりげなく、でも頼もしいサポートが用意されている。 そんな、誰も孤立させない温かい街づくりを、弥富市が率先して進めてくださるよう強く要望いたします。
愛知県下における子育て支援施設の分類・傾向分析および弥富市のシームレスな支援構築に向けた政策的示唆
(サマリー)
1. 政策的背景と本稿の目的
我が国の子育て支援は「問題発生後の対処」から「妊娠期からの予防的かつシームレスな支援」へとパラダイムシフトを遂げており、その中核として「こども家庭センター」の設置が進められています。
本稿は、県内各自治体のデータ分析を通じ、新たに同センターを始動させた弥富市に対し、真の伴走型支援を実現するための戦略的なロードマップを提示することを目的としています。
2. 愛知県下における傾向と構造的課題
県下の利用者支援事業は、拠点の特性や国のガイドラインに基づき、各自治体で多様な展開を見せています。
【設置拠点に基づく機能分類】
| 拠点カテゴリー | 主な設置場所 | 特性と行政的意義 |
| 行政拠点 | 市役所庁舎内 | 行政手続き(児童手当・保育所入所等)のワンストップ対応に優れるが、心理的な来庁ハードルは高い。 |
| 保健拠点 | 保健センター | 母子健康手帳の交付や健診を通じ、全妊産婦と網羅的な接点を持つ。医療・心理的介入に極めて有効。 |
| 生活拠点 | 子育て支援センター等 | 商業施設や遊び場に併設。保護者が気軽に立ち寄りやすく、潜在的な悩みへのアウトリーチ(予防的介入)に最適。 |
【県下共通の構造的課題】
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組織と空間の壁: 「こども家庭センター」の設置義務化が進む中、保健部門と福祉部門の物理的・文化的な統合が難航している自治体が多い(約30%が未設置・検討中)。
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専門職の兼務問題: 多くの市町村で、保健師や社会福祉士などの専門職が一般行政業務と「兼務」しており、困難事例への対応や家庭訪問(アウトリーチ)に専念できず疲弊している。
3. 先進4事例のメカニズム(ベンチマーク対象)
県内の広範なデータから、弥富市が参考にすべき独創的なアプローチを実践している4自治体が抽出されています。
| 自治体 | 特徴とシームレス化の独自アプローチ |
| 豊川市 | 商業施設(プリオビル)内に支援センターを設置。利用者の生活サイクルに合わせ18時まで開所し、働きながらでも立ち寄りやすい環境を構築。 |
| 美浜町 | ICT(LINE予約、スマートロック、電子決済)を駆使し、職員不在の夜間・休日でも施設を開放するスマートファシリティ管理を実現。 |
| 犬山市 | 親しみやすい名称を採用し、児童センター(遊び場)に専門職を常駐。行政課題化する前の「漠然とした不安」を雑談から掬い上げる。 |
| 田原市 | 圧倒的な集客力を持つ大規模な専用独立施設(親子交流館すくっと)を整備し、「遊びに来る」というポジティブな動機を支援の接点に活用。 |
4. 弥富市の現在地と残存する課題
弥富市は令和7年4月に「こども家庭センター」を設置し、子ども本人が匿名相談できる「やとみっ子お悩み相談室」の開設や、3つの地域子育て支援センター(ひので、弥生、東部)を有するという高いポテンシャルを備えています。
【シームレス化を阻む構造的課題】
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物理的分断: 組織名称は統合されたが、市役所内で「1階(福祉担当)」と「3階(保健担当)」に窓口が分断されたままであり、利用者の「たらい回し感」を生むリスクがある。
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リソースの罠: 他市と同様、専門職の兼務状態によって本来のアウトリーチ機能が十分に発揮されない懸念がある。
5. 弥富市への4つの戦略的提言
抽出された課題を克服し、県下トップクラスの支援環境を構築するための具体的アクションです。
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物理的・心理的距離の克服(1階・3階の連携深化)
情報システムの完全統合による「ワンカルテ(ファミリーカルテ)」化を実施。窓口間の移動が必要な際は、担当者が必ず目的地まで同行する「アテンダント制(同行支援)」を徹底し、縦割りの弊害を無効化する。
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既存3センター(ひので・弥生・東部)のハブ化
市役所に来られない孤立世帯向けに、市役所の専門職が地域の支援センターを定期的に巡回する「アウトリーチ(出向く支援)」を展開。また、各センターのスタッフに市の制度案内ができるコンシェルジュ機能を付与する。
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ICTを活用したスマートファシリティ化
LINEやZoomを用いたオンライン相談窓口を開設し、共働き世帯へのリーチを強化。将来的には美浜町モデルを参考に、地域施設のデジタル認証(スマートロック)による無人開放スキームを検討する。
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専任専門職の確保と多職種連携の定着
専門職が相談業務や困難事例に専念できる「専任ポスト」を段階的に拡充。さらに、医療・保健・福祉・教育(学校等)を交えた多職種ケース会議を定例化し、立体的な支援計画を立案する文化を庁内に定着させる。
結語の要旨
真のシームレスな子育て支援とは、行政の都合で設定された窓口に市民を呼びつけるのではなく、市民の日常(商業施設、遊び場、デジタル空間)に支援の網の目を違和感なく溶け込ませることです。弥富市がICTの積極活用と現場へのアウトリーチを深化させることで、「誰も孤立させない伴走型支援」を確実に達成できると結論付けられています。
1. 政策的背景と本稿の目的:シームレスな子育て支援の理論的枠組み
我が国における子育て支援政策は、従来の「問題発生後の対処型(福祉的介入)」から「妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない予防的支援(シームレスな支援)」へとパラダイムシフトを遂げている。
この中核を担うのが、児童福祉法および母子保健法に基づく「利用者支援事業」や「子育て世代包括支援センター」、そしてこれらを発展的に統合した「こども家庭センター」の設置である。
利用者支援事業は、子育て家庭の多様なニーズを把握し、地域に散在する教育・保育施設や地域子育て支援事業等を円滑に利用できるよう、情報提供や相談、関係機関との連絡調整を行う機能を持つ 。
この事業の最大の目的は、行政の縦割りを排し、利用者が制度の迷路で「たらい回し」にされることなく、ワンストップかつ伴走型の支援を受けられる環境を構築することにある。
本稿では、弥富市が今後さらに実質的でシームレスな子育て支援体制を構築するための基礎資料として、愛知県下の各市町村で展開されている利用者支援事業および子育て世代包括支援センターの分布、機能的分類、そして運営の傾向を網羅的に分析する。
提供された膨大な県下施設のデータを多角的に解剖し、空間設計、人員配置、デジタル技術の活用といった視点から先進事例を抽出した上で、弥富市の地域特性に最適化された戦略的な政策提言を行う。
2. 愛知県下自治体における利用者支援事業の類型とマクロ傾向
愛知県下の各市町村で展開されている利用者支援事業は、国のガイドラインに基づく機能的な類型と、各自治体の地域特性を反映した設置場所の選択によって、多様なグラデーションを描いている。
提供された県下市町村のデータを基に、施設の設置場所と事業の性質を分類し、広域的な傾向を分析する。
2.1. 設置拠点に基づく広域データ分類
愛知県下の施設群は、大きく分けて「市役所庁舎内(行政拠点)」「保健センター(保健・医療拠点)」「独立した子育て支援センター等(生活・交流拠点)」の3つのカテゴリーに分類される。
以下の表は、各市町村の主要な設置状況を類型化したものである。
分析結果から推測される第一の傾向は、単一の自治体が複数の拠点カテゴリーを併用する「多層的配置」の一般化である。
例えば、半田市、江南市、大府市、知多市、知立市、岩倉市、日進市、北名古屋市などは、市役所(または子育て支援センター)と保健センターの双方に利用者支援事業を配置している。
これは、行政機能と保健機能の物理的な統合が困難な状況下において、それぞれの強みを活かしつつ、両者間で連携を図ろうとする過渡的な戦略と評価できる。
第二の傾向として、あま市(美和・甚目寺・七宝の各保健センター)や刈谷市(中央・南部・北部の各子育て支援センター)、津島市(東地区・西地区)のように、広大な市域や合併の歴史を持つ自治体において、拠点を一か所に集中させず生活圏ごとに分散配置する「網の目構造」の採用が目立つ。
乳幼児を抱える保護者にとって、物理的な移動距離は支援を受ける上での最大の障壁(バリア)となるため、こうした地域密着型の配置はシームレス化の重要な要件となる。
2.2. 国のガイドラインに基づく機能的類型(基本型・母子保健型・特定型)
利用者支援事業は、国の制度上、提供するサービスの深度と範囲によって「基本型」「母子保健型」「特定型」の3つに明確に区分される 。県下のデータから、この類型ごとの特徴的な運用実態が浮かび上がる。
基本型は、相談、情報提供、助言に加え、関係機関との連絡調整を含めた包括的な支援を行う類型である 。
敷居の低い身近な地域の施設等で相談に応じ、施設利用の支援だけでなく、地域連携による予防的機能を担うことが求められている 。
愛知県下では、豊川市(プリオビル5階)、安城市(子育て支援センター)、あま市(美和保健センター内)、大口町(子育て支援センター)、武豊町(南部子育て支援センター)などで「基本型」としての展開が明記されている。
これらの多くが、行政庁舎の窓口ではなく、親子が日常的に集う支援施設や複合施設に設置されている点は、基本型が持つ「敷居の低さ」という本質的な要請に合致している。
母子保健型は、主に保健センターに設置され、母子保健法に基づく妊娠・出産・育児期の身体的・精神的な健康支援を主眼とする類型である。豊川市、津島市、碧南市、安城市、みよし市、あま市、大口町、蟹江町、阿久比町、武豊町などで明確にラベリングされている。
保健師や助産師等の医療系専門職が中心となって機能しており、乳幼児健診などの機会を捉えた悉皆的なリスクスクリーニングの中核を担っている。
特定型は、主として市町村の行政窓口に配置され、子育て家庭のニーズと特定の施設・事業を適切に結びつけ、利用調整を図る「ガイド役(案内人)」としての機能に特化した類型である 。
豊川市(市役所保育課)に設置されている事例が代表的であり 、保育所入所の調整や各種手当の案内など、具体的な制度利用に向けた手続き支援と極めて親和性が高い。
2.3. ブランディングとアウトリーチ手法における名称戦略
各自治体は、支援を必要とする保護者が心理的抵抗感なく相談できるよう、親しみやすい独自の事業名称や愛称を付与するブランディング戦略を展開している。
この名称の傾向は、自治体が市民に提供したい価値(バリュー)の方向性を色濃く反映している。
第一の方向性は「コンシェルジュ型」である。刈谷市(子育てコンシェルジュ)、蒲郡市、稲沢市(保育コンシェルジュ)、尾張旭市(あさぴー子育てコンシェルジュ)、あま市などが採用している。コンシェルジュという言葉は、ホスピタリティと高い専門性を想起させる。
単にパンフレットを渡すだけの窓口対応ではなく、各家庭の個別具体的な事情(働き方、家族構成、経済状況)をヒアリングし、オーダーメイドで最適な保育サービスや支援策を提案する「案内人」としての姿勢を強調する名称である。
第二の方向性は「寄り添い・応援型」である。犬山市の「子育ち応援隊」「すくすくいぬまる」「ぷらっと」 や、常滑市の「妊娠・出産・子育てつながる支援事業」、愛西市の「あいさいっ子相談室」などがこれに該当する。
行政機関特有の堅苦しさや権威主義的な響きを排除し、保護者と同じ目線で共に歩む姿勢をアピールしている。
「相談」という言葉すら重く感じる保護者に対し、気軽な「おしゃべり」の延長線上に公的支援を滑り込ませる意図が見て取れる。
第三の方向性は「未来・希望志向型」である。
美浜町の「mirai’M(未来夢)」 や、高浜市の「こども発達センター」など、次世代育成のポジティブな側面を前面に打ち出している。
支援を「問題解決の手段」としてのみ捉えるのではなく、子どもの健やかな成長と地域の未来を創る前向きなプロジェクトとして再定義する試みであると言える。
3. 愛知県下における構造的課題:「こども家庭センター」への移行と専門職配置の実態
利用者支援事業や子育て世代包括支援センターの整備が進む一方で、制度の運用実態には深い構造的課題が潜んでいる。
児童福祉法等の改正に伴い、従来別々に機能していた「子育て世代包括支援センター(母子保健部門)」と「子ども家庭総合支援拠点(児童福祉部門)」を一体化させた「こども家庭センター」の設置が全国的に義務化(努力義務から段階的義務化)された。
これにより、真のシームレス化が実現すると期待されている。
しかし、2024年に実施された愛知自治体キャラバンの調査結果によれば、制度開始に合わせてこども家庭センターの設置を完了した自治体は県下38市町村(約70%)に留まり、16市町村(約30%)は依然として検討中という段階であった 。
この遅れの背景には、組織の統廃合に伴う庁内調整の難しさや、保健部門(健康推進課等)と福祉部門(児童課・子育て支援課等)の間に立ちはだかる物理的・文化的な壁が存在していると推測される。
長年培われてきた専門性のアプローチの違い(保健的アプローチと福祉的アプローチ)を統合することは、単なる組織図の変更では完遂されない。
さらに深刻な課題として浮き彫りになったのが、専門職の人員配置状況である。
同調査によれば、こども家庭センター長はすべての設置自治体で正規職員が配置されているものの、「専任」で配置されているのは岡崎市などわずか6市町村のみであり、他の大多数の市町村においては既存業務との「兼務」であることが判明している 。
例えば、豊橋市や一宮市などの中核都市規模であっても、保健師や社会福祉士、公認心理師等の専門職が兼務で対応しているケースが散見される 。
シームレスな伴走型支援を実現するためには、複雑困難なケース(虐待リスク、ヤングケアラー、特定妊婦など)に対する家庭訪問(アウトリーチ)や、関係機関との綿密なケース会議が不可欠である。
しかし、専門職が日常的な行政実務(窓口対応、書類作成、一般の健診業務)と兼務状態にあっては、時間的・心理的なリソースが枯渇し、潜在的なリスクの早期発見や丁寧な個別支援といった本来の機能が十分に発揮されない懸念がある。
この「仏作って魂入れず(ハコモノや制度はあるが実動部隊が疲弊している)」の状況は、弥富市が今後支援体制を拡充する上で最大の反面教師とすべきポイントである。
4. 特徴的な先進事例の解剖:シームレス化の具現化モデル
県下の広範なデータの中から、弥富市の参考となる独創的なアプローチでシームレスな支援を体現している先進4事例(豊川市、美浜町、犬山市、田原市)を抽出し、そのメカニズムを詳細に分析する。
4.1. 豊川市:商業施設一体型と機能の完全分担戦略(プリオビル)
豊川市は、利用者支援事業の3類型(基本型・母子保健型・特定型)を空間的・組織的に明確に切り分け、それぞれに最適な機能を持たせている点で極めて戦略的である 。
基本型を「豊川市子育て支援センター(プリオビル5階)」、母子保健型を「保健センター」、特定型を「市役所保育課」に配置している 。
特に注目すべきは、基本型が配置されている「プリオビル」である。この施設はショッピングセンター、学習センター、市民プラザ、美容室などが同居する複合商業ビルであり、保護者が日常の買い物や用事のついでに自然な動線で立ち寄れる環境が整っている 。
さらに、子育て支援センターの相談時間が「10:00~18:00」に設定されている点が見逃せない 。
一般的な市役所の閉庁時間(17:00や17:15)以降も開所していることで、フルタイムで働く保護者が退勤後や保育園の迎えの後に立ち寄ることが可能となっている。
行政の都合ではなく、利用者の生活サイクルに合わせた時間設定と、サードプレイス(商業施設)の活用を掛け合わせた秀逸なモデルである。
4.2. 美浜町:多世代交流とデジタル管理による柔軟な空間運用(みはまーれ・mirai’M)
美浜町は、子育て世代包括支援センター「mirai’M(未来夢)」とともに、多世代交流型子育て拠点施設「みはまーれ」を整備し、革新的な施設運営を行っている 。
この施設の最大の特徴は、企業版ふるさと納税を活用した積極的な財源確保 と、ICT技術を駆使した無人・柔軟な空間運用にある。
「みはまーれ」は、地域住民が相互にふれあう地域交流スペースと子育て支援拠点を兼ねており、美浜音頭の練習会など多世代が交流する場として機能している 。
特筆すべきは、施設の利用時間と管理手法である。日中(平日・土曜の午前9時~午後5時)はコワーキングスペース等に職員が常駐するが、夜間(午後5時~午後9時)や日・祝日については、職員不在のまま地域住民に施設を開放している 。
この無人運用のセキュリティと利便性を担保しているのが、スマートロックとキャッシュレス決済である。
利用者は事前の講習を受けた上でLINEから予約を行い、PayPay等の電子決済で利用料金(多世代交流室は1時間800円等)を支払う 。
その後、LINEに通知されるパスコードを用いて、利用者自身の責任で施設の入口のキーパッドを操作し、開錠・施錠を行う仕組みである 。
さらに、高校生世代までは個人使用や多世代交流室の利用が無料となっており、子育て世代に限らず、学生の勉強やダンスの練習場としても開放されている 。
行政の人的リソースには限りがあるが、デジタル技術を導入することで、人件費を抑えながら施設の稼働時間を最大化し、地域に「開かれた居場所」を持続的に提供している。
このスマートファシリティ管理は、全国の自治体がベンチマークすべきモデルケースである。
4.3. 犬山市:重層的なコーディネーター配置と心理的障壁を下げるブランディング(すくすくいぬまる)
犬山市は、利用者の心理的ハードルを下げるブランディングと、生活空間へのアウトリーチ(出向く支援)において卓越している。
市役所内の利用者支援事業を「子育ち応援隊」と命名し、窓口だけでなく市内の子ども未来園(保育園等の施設)にも職員を配置している 。
さらに、「子育て支援コーディネーター業務 ぷらっと」として、東児童センター内に窓口を設け、「最近、子育てがしんどい」「子どもが落ち着きがない」といった、明確な「行政課題」となる前の「漠然とした不安」を掬い上げる仕組みを構築している 。
市役所の窓口は、明確な用件(申請や相談)を持った人間しか訪れない場所である。
しかし、児童センターという「遊び場」に専門職(コーディネーター)を常駐させることで、保護者との何気ない雑談の中から、虐待のリスク、発達の遅れ、介護とのダブルケア(ヤングケアラーや老親介護)といった複合的な課題を早期に発見することが可能になる 。
4.4. 田原市:専用の独立型大型拠点による求心力の確保(親子交流館すくっと)
田原市は、市役所の一部や保健センターへの機能付加というアプローチではなく、「親子交流館(すくっと)」という専用の大型独立施設を整備し、そこを利用者支援事業のメイン拠点としている 。
「見学だけ、相談まで、ご要望に応じて対応」というスタンスを明記しており 、子どもが思い切り遊べる大規模なエンターテインメント空間と、専門的な相談機関を不可分に結びつけている。
このような専用施設は、圧倒的な集客力(マグネット効果)を持つ。
育児に疲弊し、社会的に孤立しがちな家庭であっても、「子どもを遊ばせるため」というポジティブな動機付けによって施設を訪れる。
結果として、行政側はハイリスク家庭と自然な形で接点を持つことができ、公的な支援網へと接続させることが容易になる。
5. 弥富市における現在地と支援体制のポテンシャル評価
上記の愛知県下の広域的な動向および優れた先進事例を踏まえた上で、弥富市の現在の支援体制の構造を分析し、そのポテンシャルと残存する課題を抽出する。
5.1. こども家庭センターの始動と機能統合の第一歩
弥富市は、すべての妊産婦や子育て世帯が安心して妊娠・出産・子育てができる環境を整えるため、令和7年(2025年)4月に「弥富市こども家庭センター」を設置した 。
この組織改編において、市役所1階の児童課に置かれていた「子ども家庭総合支援拠点(児童福祉対応)」と、市役所3階の健康推進課(保健センター)に置かれていた「子育て世代包括支援センター(母子保健対応)」の機能を一体化させている 。
児童福祉と保健指導の専門知識を融合させ、多様化するニーズに切れ目なく対応するという理念は、まさに国が推進するシームレス化の具現化である 。
制度的・組織的な統合を果たしたことは、弥富市が次世代の支援体制へと舵を切った重要なマイルストーンと評価できる。
5.2. 多様な相談チャネルと子ども中心のアプローチ
弥富市の支援体制の特徴として、相談窓口の多様性と、子ども本人に直接リーチしようとする姿勢が挙げられる。
0歳から18歳未満を対象とした「家庭児童相談」では、しつけや発達、非行、虐待の疑いなどについて、保護者のみならず親戚や近所からの相談も電話・対面・家庭訪問のマルチチャネルで受け付けている 。
さらに特筆すべきは、「やとみっ子お悩み相談室」の存在である 。
これは児童・生徒本人が、いじめ、家族の悩み(ヤングケアラー等)、学校の問題について、匿名で気軽に相談できる窓口である 。
専用電話の設置に加え、専用メールアドレスへの送信、さらには小学校や児童館に設置された専用ポストへの手紙投函という、デジタルとアナログを組み合わせた重層的なアプローチを採用している 。
大人の目を介さずに子どものSOSを直接キャッチするこの仕組みは、こども基本法の理念である「こどもまんなか社会」の実現に極めて合致している。
5.3. 地域サテライト拠点としての3つの子育て支援センター
弥富市には、市役所本庁舎の機能とは別に、地域に密着した3つの子育て支援センター(ひので、弥生、東部)が整備されている 。
これらはそれぞれ「さくら児童館西側」「弥生児童館内」「東部児童館内」に位置しており、乳幼児のいる親子の交流や育児不安の相談指導、子育てサークルへの支援を担っている 。
午前9時から午後4時まで開所し、親子が心地よく過ごせる環境を提供しているこれらの施設は 、犬山市の「児童センター」や刈谷市の「地区センター」と同様に、生活圏に根ざした身近なサードプレイス(第三の居場所)としての高いポテンシャルを秘めている。
5.4. 抽出される構造的課題:物理的分断と兼務の罠
しかし、弥富市の体制にはシームレス化を阻害しうる構造的な課題も残存している。
第一の課題は、「こども家庭センター」として組織名称は統合されたものの、物理的な配置は依然として「市役所の1階(児童課)」と「3階(健康推進課)」に分かれたままである点だ 。
利用者の視点(カスタマージャーニー)から見れば、妊娠期から乳児期前半は3階の保健部門に通い、その後、保育所の入所手続きや児童手当の相談になると1階の福祉部門に降りるという「空間的な分断」が存在する。
組織が統合されても物理的な距離が離れていれば、職員間の日常的な雑談や暗黙知の共有が阻害され、縦割り行政の弊害が復活するリスクがある。
第二の課題は、愛知県下の多くの自治体で露呈した「専門職の兼務問題」である 。
弥富市のこども家庭センターにおいて、保健師や家庭相談員等の専門職が、他の一般行政業務とどれだけ切り離され、困難事例への対応やアウトリーチに「専念」できる体制が確保されているかが問われる。
6. 弥富市への戦略的提言:真のシームレス化に向けた次世代型ロードマップ
これまでの分析と抽出された課題に基づき、弥富市が「こども家庭センター」を中心としたシームレスな子育て支援を実質化し、県下トップクラスの支援環境を構築するための4つの戦略的提言を行う。
6.1. 庁内分散型(1階・3階)の物理的・心理的距離の克服と連携の深化
市役所庁舎内における1階(児童福祉)と3階(母子保健)という物理的な分離を放置すれば、利用者のたらい回し感に直結する。この距離を克服するためには、「ソフト面(運用ルール・情報共有)」での完全なシームレス化が急務である。
情報システムの完全統合と「ワンカルテ」化:
妊産婦の健診データ、保健師の面談記録(3階)、保育所入所状況や児童手当等の福祉情報(1階)を統合管理し、電子的な「ファミリーカルテ」を構築する
1階と3階のどちらの窓口を訪れても、担当者が端末上で世帯の全体像と支援履歴を即座に把握できる体制を整える必要がある。
「ワンストップ・アテンダント(同行支援)」ルールの徹底:
複雑な相談(例:予期せぬ妊娠と経済的困窮が複合しているケース等)が生じた際、利用者に「1階へ行ってください」「3階へ行ってください」と案内図を渡す対応を厳禁とする。
必ず担当者が対象階まで物理的に同行(エスコート)し、担当者間で直接引き継ぎを行う「アテンダント制」を導入することで、利用者の心理的負担を劇的に軽減できる。
6.2. 既存の3支援センター(ひので・弥生・東部)のハブ化・サテライト機能強化
行政の窓口に自発的に足を運べる家庭は、相対的に支援の必要性が低い傾向がある。
真に支援を必要とする孤立世帯やハイリスク世帯に対し、生活圏に存在する「ひので」「弥生」「東部」の子育て支援センターを前線基地(サテライト)として高度に活用すべきである。
「巡回型コンシェルジュ」のアウトリーチ展開:
犬山市の事例 を参考に、市役所内のこども家庭センターの専門職(保健師や社会福祉士)が、定期的に3つの支援センターを巡回する仕組みを構築する。
日常の遊びの空間に専門職が「出張」し、保護者との何気ない会話の中から産後うつや発達の遅れ、虐待の兆候といった潜在的なリスクをスクリーニングする体制を敷く。
「特定型(ガイド機能)」の各センターへの付加:
豊川市のモデル を応用し、各支援センターの現場スタッフに対し、市の制度に関する定期的な研修を実施する。
これにより、市役所窓口に行かなくとも、地域のセンターで「こども誰でも通園制度」や各種手当の案内など、適切な制度への「ガイド(橋渡し)」ができるようコンシェルジュ機能を強化する。
6.3. ICTを活用した「見えない支援窓口」の拡充とスマートファシリティ化
美浜町の「みはまーれ」がLINEとスマートロックを活用して施設の利用ハードルを劇的に下げたように 、デジタル技術は物理的・時間的制約を超える強力なツールである。
弥富市は保護者向けのデジタル・インターフェースをさらに強化すべきである。
オンライン相談・LINEコンシェルジュの導入:
日中に市役所や支援センターに足を運べない就労家庭や、外出が困難な妊産婦向けに、LINEやZoomを活用したオンライン相談窓口(デジタル空間上の利用者支援事業)を開設する。
豊川市の施設が18時まで開所しているように 、共働き世帯へのリーチ手段としてデジタル空間の活用は極めて費用対効果が高い。
支援センターのスマートファシリティ化の検討:
将来的な展望として、美浜町モデル を参考に、「ひので」「弥生」「東部」の各施設にデジタル認証(スマートロック)を導入し、夜間や休日に保護者のサークル活動や多世代交流の場として無人で開放するスキームを検討する。
これにより、行政に依存しない地域コミュニティにおける自発的な相互支援のネットワーク醸成が期待できる。
6.4. 専任専門職の確保と多職種連携(横のつながり)の文化定着
愛知県下のこども家庭センターの多くが、人員不足により専門職の「兼務」に依存している現状がある 。
弥富市が質の高い伴走型支援を提供し続けるためには、組織の枠組みだけでなく、人的資源の質的転換が不可欠である。
専任ポストの段階的拡充:
保健師や社会福祉士、公認心理師等の専門職が、一般行政の事務作業に圧迫されず、相談業務やハイリスク家庭への訪問(アウトリーチ)に「専念」できるよう、長期的な人事計画において専任配置を目指す 。
ケース会議の定例化と教育部門との連携:
1階の児童福祉担当と3階の保健担当だけでなく、保育所や学校の教員、さらには民間支援団体を交えた多職種ケース会議を定例化する。
特に「やとみっ子お悩み相談室」 で得られた子どものSOSに対して、医療・保健・福祉・教育の視点から多角的に世帯を評価し、立体的な支援計画を立案する文化を庁内に定着させる必要がある。
7. 結語
愛知県下における子育て支援施設および利用者支援事業は、市町村の規模や行政の歴史的背景により、保健センター集中型、市役所集約型、地域分散・商業施設活用型など多様な進化を遂げている。
特に、豊川市に見られる徹底した空間的機能分担、美浜町のデジタル技術を活用した無人・多世代運用によるサードプレイスの創出、犬山市の心理的障壁を下げるブランディングと日常空間へのアウトリーチ、そして田原市の専用大型施設による圧倒的な求心力は、次世代の子育て支援のスタンダードとなる優れた手法群である。
令和7年4月に「こども家庭センター」を始動させた弥富市は、制度的な「シームレス化」への第一歩を力強く踏み出した。
今後は、1階と3階という物理的な階層の差を、強固な情報連携と「同行支援(アテンダント)」ルールの整備によって完全に無効化するとともに、市内に点在する「ひので」「弥生」「東部」の3つの子育て支援センターをアウトリーチのための前線基地として高度に統合していくことが求められる。
真のシームレスな子育て支援とは、行政機関の都合で設定された窓口に市民を来庁させることではなく、市民の生活動線(日常の遊び場、商業施設、デジタル空間)の中に、行政の網の目のような支援を違和感なく溶け込ませることである。
専門職の確保と育成という広域的な課題と真正面から向き合いながら、ICTの積極的な活用と現場へのアウトリーチを深化させることで、弥富市は「誰も孤立させない、妊娠期から切れ目のない伴走型の子育て支援」という高い次元の目標を確実に達成できるものと確信する。本稿における網羅的なデータ分析と戦略的提言が、弥富市の次代を担う政策立案の強固な基盤となることを期待する。