【市民向けサマリー】私たちのまちの公共交通はこれからどうなる?
〜弥富市・海部地域の移動を支えるための課題と未来〜
現在、私たちの住む弥富市や海部地域では、長年地域を支えてきた地元タクシー会社の廃業などにより、「お出かけの足」をどう維持するかが非常に深刻な問題となっています。
市では「きんちゃんバス」や新しいAI乗り合い送迎「チョイソコやとみ」などを導入していますが、実は見えないところでいくつかの大きな壁にぶつかっています。このままでは地域の交通が立ち行かなくなる恐れがあり、システムや仕組みの根本的な見直しが求められています。
地域の交通が抱える「3つの大きな壁」
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市町村ごとのバラバラな対応(非効率な縦割り)
弥富市、蟹江町、津島市などを合わせると約30万人という大きな規模になりますが、現状は各市町村が別々にシステムを導入しています。市境を越えて移動できない不便さがあるだけでなく、バラバラの契約やルールが運行会社を苦しめ、税金の無駄遣いにもつながっています。
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運転手さんの「免許」の壁
地域の交通を効率よく回すには、「朝はスクールバス、昼は高齢者の送迎、夜はタクシー」のように一人の運転手さんが柔軟に働くのが理想です。しかし、タクシー用の免許(普通二種)とマイクロバス用の免許(中型二種)が分かれているため、地元の小さなタクシー会社では対応しきれず、運転手不足が加速しています。
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便利な「チョイソコ」の意外な落とし穴
チョイソコは安くて便利ですが、「指定のゴミステーションや店舗まで歩かなければならない(完全な自宅送迎ではない)」「AIの計算で遠回りをされることがある」「民間タクシーのお客さんを奪ってしまい、結果的に夜間や緊急時に使えるタクシーが地域から消えてしまう」といった課題を抱えています。
今ある主な交通手段の比較と現状
| サービス名 | 運営・運行 | 特徴と運賃 | 市民や地域にとっての課題 |
| きんちゃんバス | 弥富市 / 三重交通 | 決まったルートと時間を走る路線バス(一部無料) | 細かい生活道路に入れない。路線が昔のしがらみに影響されている。 |
| チョイソコやとみ | 弥富市 / アイシン | スポンサー店舗等の停留所を結ぶAI乗り合い送迎(1回200円) | 自宅から停留所まで歩く必要がある。タクシーの仕事を奪う懸念がある。 |
| 民間タクシー | 近鉄タクシー等 | 自宅から目的地まで直接向かう個別輸送(メーター運賃) | 市内の営業所がなくなり、呼びたい時に車が足りない(配車不全)状態。 |
ずっと安心して移動できる地域にするための「4つの提案」
これからの時代、地域の交通は単なる行政サービスではなく、私たちの生活の命綱です。今後も持続可能な交通ネットワークを作るため、報告書では以下の解決策を提言しています。
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市町村の枠を超えて協力する
弥富市単独ではなく、海部地域全体で一つの大きな交通計画を作ること。共通の配車システムを使い、市境を気にせずシームレスに移動できる仕組みが必要です。
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体力のある「大きな交通事業者」に任せる
複数の事業や多様な免許を持つ運転手さんを確保するため、小さな会社ごとではなく「つばめタクシー」や「近鉄タクシー」のような広域の大手事業者に運行をまとめ、運転手さんが安定して働ける環境を作ります。
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チョイソコとタクシーの「得意分野」を分ける
チョイソコは「日中の買い物や通院」、民間タクシーは「夜間や緊急時、ドアからドアへの直接移動」といったように、お互いが潰し合わないための明確なルール(棲み分け)を作ります。
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ルールを柔軟に使いこなす
民間企業だけでなく、市が車を持ち、地域の人が運転しつつ「安全管理や配車の指示だけをプロのタクシー会社に任せる」といった、国のルールを柔軟に活用した新しい協力体制を作ります。
まとめ
新しいAIシステムを入れるだけで交通問題が解決するわけではありません。大切なのは、隣のまちと協力し、地域のタクシー会社とも共存しながら、全体で賢く車と運転手さんを分け合う「新しい仕組み」を作ることです。
地方都市における地域公共交通の再構築と広域連携の展望:デマンド型交通システムの実態と事業統合の可能性に関する総合研究
序論:地域公共交通の崩壊危機と次世代モビリティへの転換の必要性
日本の地方都市および郊外地域において、公共交通インフラの維持は極めて深刻かつ構造的な課題に直面している。
人口減少、少子高齢化、そして自家用車への過度な依存により、旧来の路線バスや地元タクシー事業者の経営は限界に達している。
愛知県弥富市をはじめとする海部地域(海部郡、津島市、弥富市などを含む圏域)においてもこの問題は例外ではなく、長年地域住民の足となってきた地元タクシー事業者である柴田タクシー(シバタタクシー)の廃業が現実のものとなり、地域内のモビリティ供給能力に深刻な欠落が生じている。
このような交通空白地域の拡大と移動困難者の増加を背景に、多くの自治体は新たな解決策としてAI(人工知能)を活用したデマンド型乗合交通(DRT:Demand-Responsive Transport)の導入を進めている。
弥富市においては、自動車部品メーカーである株式会社アイシンが提供する「チョイソコやとみ」が導入され、市民生活のための移動手段の確保を目的とした実証・本格運行が展開されている。
さらに、既存のコミュニティバスである「きんちゃんバス」の運行や、隣接エリアのタクシー事業者である近鉄タクシーの蟹江営業所によるカバー体制など、複数のモビリティサービスがモザイク状に混在しているのが現状である。
しかしながら、個々の市町村が単独で導入を進めることによる弊害も浮き彫りになりつつある。
道路運送法に基づく規制の解釈や、運行委託先の選定、さらには今後深刻化するであろうスクールバスや福祉送迎といった他の公的輸送サービスとの統合の欠如が、結果として非効率なリソース配分と行政、そして受託事業者双方への過大な負荷を引き起こしている。
本研究報告では、弥富市および周辺地域の現状をマクロ・ミクロ双方の視点から解剖し、アイシンの「チョイソコ」システムの優位性と顕在化しつつあるデメリット・トラブルの構造、競合他社システムとの比較検証を行う。
さらに、「2種免許」の要件を軸としたドライバーの労働力最適化と、民間事業者(つばめタクシーグループ等の広域メガ・オペレーター)への包括的委託による広域連携のあり方について、全国の事例を交えながら網羅的かつ多角的な分析を展開する。
道路運送法の壁と市町村ごとの制度的パッチワークがもたらす事業負荷
地域公共交通を再構築する上で、最も本質的かつ実務的なハードルとなるのが「道路運送法」の解釈と運用における市町村ごとの差異である。
デマンド交通やコミュニティバスを導入する際、事業スキームは大きく分けて二つの法的枠組みに依存する。一つは道路運送法第4条に基づく「一般乗合旅客自動車運送事業」や「一般乗用旅客自動車運送事業」(いわゆる緑ナンバーでのプロフェッショナルな有償運送)であり、もう一つは同法第78条・79条に基づく「自家用有償旅客運送」(白ナンバーの自家用車を用いた自治体やNPOによる例外的な有償運送)である。
有償での旅客送迎を行う場合、車両のナンバープレートの色が白であれば、自社で保有する車両で運賃を徴収しない純粋な無償送迎(例えば、自前の従業員送迎や福祉施設の独自送迎)とみなされるケースと、自治体が主体となって特例的に有償で行うケースが存在する。
本来、地域交通の主体的な再編を目指すのであれば、各自治体がこの法規制に対して統一的な見解と運用方針を持つべきである。
しかし現実には、各市町村の地域公共交通会議における議論の成熟度や、地元タクシー事業者とのパワーバランス、さらには行政担当者の法務リテラシーの違いにより、隣接する市町村間であっても法の適用形態(バリエーション)が著しく異なる事態が発生している。
この「市町村ごとに事情が違い、制度の取り方が違う」という事象は、実際に運行を受託する民間交通事業者にとって極めて過大な負荷をもたらしている。
例えば、愛知県下で広域に事業を展開するつばめタクシーグループのような大規模事業者が複数の市町村から運行を受託しようとした場合、A市では第4条の緑ナンバーによる厳密なタクシー・バス事業としての要件(それに伴う労働時間管理や運行管理者配置)を求められ、B市では第78条の白ナンバー運行の管理のみを委託されるといった、契約・運用形態の複雑なパッチワークに対応しなければならない。
この不均一性が、民間企業によるスケールメリットの創出を阻害し、広域での効率的な車両配備やドライバーのやり繰りを極めて困難なものにしているのである。
弥富市および海部地域における交通インフラの現状とサイロ化の弊害
弥富市の公共交通ネットワークは現在、歴史的なしがらみと新たなモビリティサービスが交錯する過渡期にある。
長年、市内の機動的な移動を支えてきた地場企業である柴田タクシー(シバタタクシー)が廃業したことは、地域交通ネットワークに甚大な影響を与えた。
地元の事業者が撤退したことで、市内に営業拠点を持つタクシー事業者が消滅し、配車データの継続的な収集や、地域の細かな移動実態の精緻な把握が極めて困難な状況に陥っている。
現在、この間隙を縫う形で、近鉄タクシーの蟹江営業所(海部郡蟹江町に所在)が市内の輸送をカバーすべく配車を試みているが、物理的な距離や供給力の限界から、配車不全が起こらないよう努めるのが精一杯であり、百点満点の配車体制には至っていない。
「きんちゃんバス」と三重交通の歴史的背景
一方で、定時定路線型のコミュニティバスである「きんちゃんバス」は、隣接する三重県の三重交通(桑名営業所)に運行が委託されている。
これは、かつて三重交通が弥富市を含む同地域に広範な路線網を有していたという歴史的経緯(いわゆる事業的・地域的なしがらみ)が影響していると考えられる。
きんちゃんバスは、弥富駅や佐古木駅、海南病院などの主要拠点を結び、75歳以上の高齢者には無料パスカードを発行するなどの福祉的側面を強く持っている。
しかし、既存の路線バス型の運行形態は、網の目のような細かな生活道路への対応や、早朝・深夜帯のオンデマンドな需要に応えるラストワンマイルの移動手段としては明らかに限界を迎えている。
首長主導の「どんぐりの背比べ」と広域連携の欠如
こうした状況下で、交通空白地域の解消を目的として導入されたのがアイシンの「チョイソコやとみ」である。
しかし、この導入プロセスにおいて、行政の意思決定における構造的な問題が露呈している。
弥富市(人口約4万人)、蟹江町(約3.6万人)、津島市(約6万人)といった海部郡・海部地域の各自治体は、本来であれば郡全体で30万人を超えるという十分な市場規模(スケールメリット)を有している。
にもかかわらず、実際には各市町村が個別に、独自の財政力や首長のアピールを背景にバラバラのシステム導入を進めている。
行政内部や議会の力学において、首長(市長や副市長)が「他市町村よりも早く新しいシステム(AIデマンド交通など)を導入し、先取りの成果を誇示したい」という近視眼的かつせせこましい政治的動機が働くことは珍しくない。
しかし、4万人から10万人程度の小規模な自治体が、それぞれ別個に財源を割き、異なる仕様の運行管理システムを導入し、個別に事業者を募集するという行為は、広域行政の視点から見れば明らかな「どんぐりの背比べ」に他ならない。
この行政の縦割り(サイロ化)の弊害は、デマンド交通に限った話ではない。
例えば、公共プールの運営事業の民間委託等においても、隣接する自治体が広域で一つの大型施設を共同運営・委託すれば大幅なコストダウンとサービス向上が見込めるにもかかわらず、各市が個別に小規模な施設の維持・委託を競い合っている事例が存在する。
交通事業においても同様に、市民の目から見れば市境を越えたシームレスな移動ができない「大迷惑」な状況であり、運行を受託する民間業者の目から見ても、非効率な細切れの契約を強いられる構造的なボトルネックとなっている。
| 交通手段 | 運行主体・委託先 | 運賃体系(目安) | 運行形態・特徴 | 課題・現状 |
|---|---|---|---|---|
| きんちゃんバス | 弥富市 / 三重交通 |
200円/回(減免100円)
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定時定路線(主要駅・病院等) |
細かなルート設定が困難、三重交通の既存路線のしがらみ |
| チョイソコやとみ | 弥富市 / アイシン |
200円/回(減免100円) |
デマンド型乗合送迎(1,150ヶ所以上) |
単独市町村での導入、スポンサー依存、既存タクシーとの競合 |
| 民間タクシー | 近鉄タクシー(蟹江)等 |
メーター認可運賃 |
個別ドア・ツー・ドア輸送 |
市内営業所の消滅(柴田タクシー廃業)、供給力不足 |
運行リソースの分断と「第2種運転免許」がもたらす労働市場の障壁
地域内で複数の交通サービス(スクールバス、デマンド交通、既存タクシー)を一体的に運用し、効率的な「人のやりくり」を実現しようとする場合、法制度上の最大の障壁となるのが運転手に求められる「第二種運転免許(2種免許)」の区分制度である。
旅客を運送する目的で自動車を運転し、運賃を収受する場合、原則として2種免許が必要となる。
取得には満19歳以上であり、一種免許取得から1年以上経過していること、さらには応急救護処置講習や旅客者講習が義務付けられている。
問題の核心は、運行する車両のサイズ(乗車定員および車両総重量)によって必要となる2種免許の区分が厳格に分かれている点にある。
| 免許の種類 | 車両要件(定員・重量等) | 主な該当車両・用途 | 取得費用の目安 |
|---|---|---|---|
| 普通二種免許 |
乗車定員10人以下、車両総重量3.5t未満等 |
タクシー、ハイヤー、介護送迎車、小型DRT(チョイソコ等) |
約24万〜26万円(通学) |
| 中型二種免許 |
乗車定員11〜29人、車両総重量7.5〜11t未満等 |
幼稚園・学校の送迎用マイクロバス、中型路線バス |
普通二種と同等帯(所持免許に依存) |
| 大型二種免許 |
乗車定員30人以上、車両総重量11t以上等 |
大型の路線バス、観光バス |
区分により異なる |
今後、地方自治体にとって極めて重い課題となるのが「スクールバス運行の民間委託」である。
少子化に伴う学校統廃合により、スクールバスの需要は広域化・大型化する傾向にあるが、これらの多くは乗車定員11〜29人の「マイクロバス」が使用されるため、緑ナンバーでの委託を行う場合「中型二種免許」以上の所持者が必須となる。
仮に、海部地域の自治体が交通ネットワークを合理化すべく、「朝夕はスクールバスの運転、日中は高齢者向けのデマンド交通(チョイソコ等)の運転、夜間はターミナル駅からの通常タクシー業務」というように、複数の事業を一体的に組み合わせたフルタイムのシフトを構想したとする。
これにより、地域に安定した一つの「雇用」が生まれるはずである。しかし現実には、地元の小規模なタクシー会社に残存するドライバーの多くは「普通二種免許」しか所持していないため、タクシーや小型DRT車両は運転できても、マイクロバスによるスクールバス運行業務を担うことができない。
この「免許区分の不一致」が、結果的に交通リソース(人と車両)のやりくりを分断させている。
かつてのように、小さな地場タクシー会社が規制産業として独自のテリトリーを守りながら存続できた時代はとうに終わりを告げた。
労働条件の維持、雇用の創出、そして中型二種・大型二種免許取得のための資格支援制度(教習所費用の会社負担など)を整備するためには、強固な資本力と多数のドライバーを抱える「つばめタクシーグループ」や「三重交通」のような広域の大規模な事業者(メガ・オペレーター)への集約が不可避のフェーズに突入しているのである。
アイシン「チョイソコ」システムの優位性と顕在化するデメリット・トラブル事例
弥富市が先行して導入したアイシンの「チョイソコやとみ」は、国内のデマンド交通システムの中でも独自の進化を遂げたモデルである。
自動車部品の世界的サプライヤーである株式会社アイシンがMaaS領域に参入し展開するこのシステムは、単なる配車アルゴリズムの提供にとどまらないビジネスモデルを有している。
チョイソコのビジネスモデルと優位性
チョイソコの最大の特徴は、「エリアスポンサーシップによる地域経済の循環」をスキームに組み込んでいる点にある。
地元のスーパーマーケット(株式会社アオキスーパー等)、病院、薬局、ドラッグストアなどが「エリアスポンサー」として協賛金を拠出し、自店舗の前に停留所(仮想バス停)を設置する。
これにより、高齢者の外出(買い物・通院)を直接的に促進し、スポンサー企業の売上向上と地域住民の健康増進を同時に達成するB2B2C型のビジネスを構築している。
利用者は事前の会員登録を行い、電話またはWeb受付システム(24時間対応)で乗車予約を行う。
運賃は1回200円(小・中・高校生や75歳以上など減免対象者は100円、未就学児は無料)と極めて低廉に設定されており、弥富市内全域に1,150ヶ所以上の膨大な停留所が設置されている。
アイシンは「チョイソコ通信」という広報誌を通じて会員とのエンゲージメントを高め、継続的なアンケート調査によるPDCAサイクルを回すなど、運用面のサポートにも強みを持つ。
システムが内包するデメリットとクライアントのトラブル構造
しかしながら、議会や視察等で表層的な説明を受けるだけでは見えてこない、チョイソコシステム特有のデメリットや、導入自治体(クライアント)および利用者間で発生し得るトラブルの構造が存在する。
スポンサー依存の脆弱性と公平性の担保
運行経費の一部を民間企業の協賛金に依存するモデルは、スポンサー企業が経営不振や費用対効果の低さを理由に撤退した場合、システムの維持基盤が直ちに揺らぐという脆弱性を抱えている。
また、特定のスーパーや病院に停留所を設置し行政が送迎を支援することは、非スポンサー企業からの「民業圧迫」や「行政の中立性」を問われるリスクを常に孕んでいる。
「ミーティングポイント(停留所)方式」によるラストワンマイルの欠落
チョイソコは純粋なドア・ツー・ドア(自宅の玄関から目的地の玄関まで)の輸送システムではない。
あらかじめ設定された停留所(ごみ集積所や公民館、スポンサー店舗など、弥富市では1,150ヶ所以上)間を移動する方式を採用している。
これはAIによる経路計算を簡略化し、多数の予約を効率よく処理するためのシステム上の制約であるが、足腰の弱った高齢者にとっては「最寄りの停留所までの数十メートルが歩けない」という致命的なラストワンマイル問題を残存させている。
これが雨天時や猛暑時における利用者の強い不満(トラブル)の温床となる。
AI配車の「遠回り」と定時性の喪失
乗り合いを前提とするAI経路探索アルゴリズムは、システム全体のスループット(輸送効率)を最大化するようにプログラミングされている。
そのため、利用者Aにとっては「目的地を目の前にして、全く逆方向の利用者Bを迎えに行くために大きく遠回りされる」という事象が頻発する。
乗車時間が予測より長引くことは、特に病院の予約時間や列車の接続時間に制約がある利用者からのクレームに直結する。
既存タクシー事業者との競合と「共食い」
運賃が200円(減免100円)という低価格に設定されているため、本来タクシーを利用していた層がチョイソコに流出する。
弥富市議会等でも懸念されている通り、認可運賃(国交省が定めたメーター運賃)からの値下げが厳しく制限されている民間タクシー事業者からすれば、税金とスポンサー資金によって赤字補填されたチョイソコは極めて不公正な競争相手となる。
シバタタクシーの廃業に見られるように、地元タクシーの経営体力を奪うことは、結果的にチョイソコが稼働していない早朝・深夜帯のインフラや、緊急時の個別輸送手段を地域から消滅させるという「合成の誤謬」を引き起こす。
同業他社のAI配車システムとの比較と技術的展望
「アイシンしかできないとは思えない」という現場の直感は、MaaS市場の現状に照らして極めて正しい。
近年、多くのテクノロジー企業が自治体向けにAIデマンド交通システムを提供しており、経路計算の考え方そのものは各社で劇的な差異があるわけではない。
しかし、各システムの出自、ビジネスモデル、そしてアルゴリズムの最適化方針には明確な違いがある。同業他社のシステムとの比較を行うことで、アイシン一択ではない多角的な選択肢が浮かび上がる。
| サービス・提供企業 | 出自・強み | ルーティングのアルゴリズム特性 | ビジネスモデル・システムの特徴 | チョイソコとの決定的な違い |
|---|---|---|---|---|
| チョイソコ(アイシン) |
自動車部品メーカー |
停留所間の効率的巡回・乗り合い率重視 |
エリアスポンサー協賛型・健康増進 |
システム単体ではなく、スポンサー集めや広報支援を含めた「アナログな運用支援」に特化。 |
| SAVS(未来シェア) | はこだて未来大発ベンチャー | リアルタイム・フルデマンド(完全ドア・ツー・ドア対応力) | システムSaaS提供型・API連携 | スポンサー制度はないが、既存のタクシー配車システムとのデータ連携に優れ、純粋な計算能力が高い。 |
| MONET Technologies | ソフトバンク・トヨタ共同出資 | 車両リース、データプラットフォームの統合 | プラットフォーム提供・マルチユース | 単一の移動だけでなく、車内で医療診療を行うなど「移動+α」のサービス設計を前提とし、広域データ連携に強み。 |
| AI運行バス(NTTドコモ) | 通信インフラ・ビッグデータ | 携帯電話の位置情報(人口動態)を用いた高度な需要予測 | アプリ基盤・地域情報連携 | ドコモの強大な顧客基盤とポイント経済圏を活かし、商圏全体のマーケティングデータと移動を直結させる。 |
| Via(Via Mobility) | 米国発・グローバルMaaS企業 | 大都市から過疎地まで対応する圧倒的なスケーラビリティ | グローバル実績・システムライセンス | 計算速度が極めて速く、既存の固定路線バス網とデマンド交通を動的に切り替えるハイブリッド運用に強い。 |
海部郡一帯(津島市、弥富市、蟹江町など)での広域的な統合を視野に入れた場合、単一の自治体内に閉じたスポンサーモデル(チョイソコ)に固執するよりも、SAVSやMONETのように既存のタクシー事業者の配車システムとのAPI連携を前提としたオープンなプラットフォームの方が適している可能性が高い。
特に、近鉄タクシーの可児(蟹江)営業所や、津島市内に残存する複数のタクシー会社の車両を動的にDRTとして転用(昼はデマンド、夜はタクシー)させるためには、他システムとの親和性が高いSaaS型配車アルゴリズムの選定が必須となる。
全国の先進事例に見る広域連携とモビリティ統合の最適解
弥富市および海部地域が抱える「スクールバスやデマンド交通、既存タクシーの分断」「隣接市町村での規格不統一」「既存交通との軋轢」という課題は、全国の地方都市が共通して直面している構造的課題である。
他地域における先進的な取り組みは、現状のサイロ化を打破するための有力なモデルとなる。
事例1:群馬県前橋市におけるメガ・オペレーターを通じた事業者間連携
群馬県前橋市では、地元タクシー事業者やバス事業者が個別に行っていたシステムを統合し、広域なMaaSプラットフォームを構築している。
ここで注目すべきは、地場の大手交通事業者がハブとなり、複数の小規模タクシー会社や貸切バス事業者(スクールバス運行者)をネットワーク化している点である。
行政が各小規模事業者に個別に委託して「どんぐりの背比べ」をさせるのではなく、交通事業者の協同組合に対して一括で委託を行い、その中で「朝のスクールバス需要(中型二種)」「日中のオンデマンド需要(普通二種)」「夕方以降の個別タクシー需要」をプールし、最適な車両とドライバーをアサインする仕組みを構築している。
海部地域においても、例えばつばめタクシーグループや近鉄タクシーを中核とした広域コンソーシアムを形成し、そこに津島や蟹江の地場事業者を下請けや共同運行という形で巻き込むアプローチが現実的である。
事例2:既存タクシーとの共存を図る「時間制借り上げ」スキーム
AIデマンド交通の導入によって地元タクシーが廃業に追い込まれるのを防ぐため、全国の先進事例では「デマンド交通の運行自体を、地元のタクシー事業者に優先的に委託する」というスキームが一般化している。
例えば、自治体がAI配車システム(ソフトウェア)をライセンス契約で導入し、実際の運行(ハードウェアと運転手)はタクシー会社に委託する。
この際、利用者が支払う運賃(200円)とは切り離し、市がタクシー会社に対して「貸切運賃(時間制運賃)」として適正な対価を確実に支払うことで、タクシー事業者の経営を圧迫せず、むしろ日中のアイドルタイム(空車時間)の確実な収益源として機能させるのである。
弥富市においても、シバタタクシー退出後の空白を埋める近鉄タクシー蟹江営業所との間で、このような包括的な借り上げ契約を結ぶことで共存が図れる。
事例3:富山県朝日町における「白ナンバー・緑ナンバーのハイブリッド運用」
「自家用有償旅客運送(法第78条)」の運用において注目されるのが、富山県朝日町の「ノッカルあさひまち」の事例である。
ここでは、地元住民が運転する自家用車(白ナンバー)を活用した乗り合い交通を展開しているが、ポイントは「地元のタクシー会社がその運行管理(配車管理・安全管理)を受託している」という点である。
弥富市においても、スクールバスや地域福祉送迎において中型二種免許保持者の確保が困難な場合、自治体が車両を保有し白ナンバー特例を活用しつつ、その「配車および安全管理のオペレーション」のみをつばめタクシーや近鉄タクシーなどの大手プロ事業者に委託するというハイブリッドな法解釈・運用形態が検討に値する。
これにより、現場のドライバーは一種免許でも対応可能(法整備と講習を前提とする)となりつつ、プロの運行管理者による高度な安全担保が可能となる。
結論と提言:持続可能な地域モビリティ・エコシステムの構築に向けて
弥富市における公共交通ネットワークは、柴田タクシーの廃業による民間インフラの地盤沈下の上に、三重交通によるきんちゃんバス、近鉄タクシーの広域カバー、そしてアイシンの「チョイソコやとみ」が継ぎ接ぎで配置されている状態である。
現状のまま、各市町村が個別の財政力や首長の功名心に依存してバラバラのシステム導入(どんぐりの背比べ)を続ければ、交通事業者の法的・実務的負担は増大し、労働力(各種2種免許保持者)は枯渇し、最終的に地域モビリティ全体が崩壊するリスクが高い。
本報告における総合的な分析から導き出される、将来に向けた具体的な提言は以下の通りである。
市町村域を超えた「海部広域モビリティマネジメント機構」の設立
弥富市、蟹江町、津島市を含む海部地域全体(人口30万人規模)を一つのモビリティ市場として統合し、交通計画を策定する広域協議会を早急に立ち上げるべきである。
個別のシステム導入競争による行政のサイロ化を即刻停止し、広域で共通のAI配車プラットフォーム(チョイソコの広域展開、あるいはSAVS、MONETなどオープンなAPIを持つ他社システムへの移行も視野に入れる)を採用することで、システム投資と行政コストの重複を排除する。
交通事業の広域メガ・オペレーターへの集約と多角的な労働力最適化
小さな地場タクシー会社が規制に守られて存続できた時代は終焉を迎えた。
今後の公共交通網の維持、とりわけスクールバス運行の民間委託の受け皿を確保するためには、つばめタクシーグループや近鉄タクシーグループなどの強固な資本力・コンプライアンス管理力を持つ広域事業者を中核とした運行体制への集約が不可欠である。
これにより、「普通二種」「中型二種」の免許区分に縛られない柔軟なドライバーの配置(朝夕は中型二種でスクールバス、日中は普通二種でDRT、夜間は通常タクシー)が可能となり、業界に安定したフルタイム雇用の創出と労働条件の抜本的な改善が実現する。
チョイソコシステムの客観的再評価と既存タクシーとの補完関係の構築
現在稼働している「チョイソコやとみ」は、アオキスーパー等のスポンサーを巻き込んだ優れた地域活性化ツールであることは事実である。
しかし、既存のメータータクシーの需要を奪う構造は是正されなければならない。
チョイソコの運行時間帯やターゲット層(高齢者の日中の通院・買い物)を明確に限定し、それ以外の時間帯や緊急・長距離移動、またはドア・ツー・ドアの介助が必要な移動に関しては近鉄タクシー等への誘導を図る「棲み分けのルール化」が必須である。
同時に、AIによる遠回りのクレーム等の運用上のトラブルを検証し、必要に応じてアルゴリズム専業メーカーへのリプレイスを検討すべきである。
道路運送法の弾力的運用と白ナンバー特例の戦略的活用
スクールバス等の受託業者が不足する問題や、自治体ごとの法解釈の差異による事業者の負担増を解消するため、第4条(緑ナンバー)による純粋な民間委託のみに固執せず、市町村が車両を保有する第78条・79条(白ナンバー)特例を広域で統一的に活用するルールを策定すべきである。
その上で、配車・安全管理のオペレーションのみをメガ・オペレーターに委託するというハイブリッド運用を、国や地方運輸支局と連携して確立することが求められる。
地域公共交通は、もはや単なる一行政サービスではなく、地域住民の生命線を維持し、新たな雇用を生み出すための「統合的社会インフラ」へとパラダイムシフトしている。
個別の自治体による短絡的な先取り志向や縦割りの弊害を乗り越え、海部地域全体という広域な視点のもとで、テクノロジー(AI配車)とヒューマンリソース(2種免許ドライバーの最適配置)、そして法規制の柔軟な解釈を高度に融合させることが、次世代における持続可能なモビリティ・エコシステム構築への唯一の道程である。