海部地域における公共交通システムの比較分析および政策提言 サマリー
1. 背景と地域交通が抱える構造的課題
海部地域の7市町村(津島市、愛西市、弥富市、蟹江町、飛島村、あま市、大治町)では、民間路線バスの撤退に伴い、各自治体が主導してコミュニティバス等の公的交通を導入してきました。しかし、行政区域ごとの「縦割り」での整備が、以下の深刻な弊害を生んでいます。
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生活圏との乖離: 市町境を越える移動(広域医療機関への通院、隣接市町の商業施設、ターミナル駅へのアクセス)に対するサービス水準が著しく低下している。
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構造的な非効率: 路線の物理的な分断、隣接自治体間での運賃体系の不整合、重複する行政コストが発生している。
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深刻な運転手不足: 「2024年問題」による第二種運転免許保有者の確保難が、既存の路線バス事業スキームに物理的限界をもたらしている。
2. 各自治体における地域交通の現状と運賃体系の比較
各市町村は独自の事情と財政基盤に基づき、多様なシステムを展開しています。
| 市町村 | 主要システムの名称 | 運行形態 | 運賃体系 | 特徴・法的スキーム |
| あま市 | 巡回バス | 定時定路線 | 200円均一 | 一般乗合(緑ナンバー)。利用者低迷ルートの見直しが課題。 |
| 津島市 | ふれあいバス | 定時定路線 | 100円均一 | 一般乗合。学生・一般向けデジタル定期券などDX施策を展開。 |
| 大治町 | 福祉巡回バス | 施設巡回型 | 無料 | 全町民対象ながら、介護者同伴を求めるなど福祉的側面が強い運用。 |
| 愛西市 | 巡回バス | 施設巡回型 | 無料 | 物流事業者に委託し、有償乗合バスの法規制を回避するモデル。 |
| 弥富市 | きんちゃんバス / チョイソコやとみ | 定時定路線 / AIデマンド | 基本200円 | 幹線(定路線)と支線(AIデマンド)のハイブリッド網を推進。 |
| 飛島村 | 飛島公共交通バス / 乗合タクシー | 広域幹線 / 事前予約制乗合 | ゾーン制(200〜500円) | 強固な財政を背景に広域路線を維持。海南病院への通院支援も実施。 |
| 蟹江町 | お散歩バス等 | コミュニティバス | (町独自設定) | JR・近鉄の駅を有し、海部地域南部から名古屋方面への広域結節点として機能。 |
3. 法規制と運転免許要件がもたらす課題
将来の持続可能性を左右する最大の要因は、サービスの根拠法と運転免許の種別にあります。
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道路運送法第4条(一般乗合旅客): 緑ナンバーとプロの「第二種免許」が必須。安全性の担保に優れる一方、運転手不足による委託費の高騰が自治体財政を圧迫している。
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運賃無料化スキーム: 愛西市や大治町が採用。厳しい有償乗合事業の規制を回避できるが、財政的観点から永続的な維持が困難な場合が多い。
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道路運送法第78条(自家用有償旅客運送): 白ナンバーと法定講習を受けた「第一種免許」で運行可能。地域の主婦やシニア層を活用できるが、導入には「地域公共交通会議」での既存事業者との厳格な合意形成が必要となる。
4. 「海部地域広域交通検討委員会」創設の提言
各自治体が個別に抱える交通会議のサイロ化(縦割り)を打破するため、7市町村合同の単一意思決定機関の創設が不可欠です。
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広域マスタープランの一本化: 7市町村を一つの交通圏とみなし、国の補助金等を広域一体的に獲得する。
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運賃・ダイヤの標準化: バラバラな運賃体系を廃止し、「広域共通ゾーン制運賃」への移行とシームレスなダイヤ調整を実施する。
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免許種別の広域的棲み分け: 幹線(鉄道駅・主要病院連携)は「第4条(二種免許)」、支線(住宅街巡回)は「第78条(一種免許)」と明確に役割分担し、事業者との合意形成を円滑化する。
5. 広域統合による波及効果と結論
地域交通の広域統合は、単なる移動手段の効率化にとどまらず、地域全体に莫大な経済的・社会的リターンをもたらす戦略的投資です。
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医療資源の最適化: 弥富市の海南病院等への広域アクセスが確立されることで、高齢者の重症化を防ぎ、地域全体の医療・介護給付費を抑制する。
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インフラのシェアリング: 飛島村の豊かな財源による基幹軸と周辺市町の労働力を結びつけ、相互補完的なエコシステムを構築する。
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MaaS・自動運転への布石: 広域でのシステム統合によりコストを削減し、将来的な自動運転バスの大規模実装に向けた基盤を整える。
【結論(アクションプラン)】
「自分たちの町のバス」というミクロな視点から脱却し、幹線と支線の「ハイブリッド運用」へ移行すること。そして、会議体を統合して「モビリティ・インフラの広域共有化」という全体最適を実行することが、海部地域の未来を守る最も強力な処方箋である。
海部地域における市町村主導型公共交通システムの比較分析および広域統合型交通検討委員会の創設に向けた政策提言
地域公共交通の危機と海部地域が抱える構造的課題の背景
日本の地方都市および大都市郊外地域において、人口減少、少子高齢化、そしてモータリゼーションの過度な進展に伴う公共交通網の縮小は、地域社会の存続を脅かす極めて深刻な都市課題となっている。
愛知県西部の海部(あま)地域に位置する津島市、愛西市、弥富市、蟹江町、飛島村、あま市、大治町の7市町村は、濃尾平野の海抜ゼロメートル地帯という共通の地理的・地形的特性を持ちながらも、それぞれが独自の産業構造、人口動態、そして財政基盤を有している。
これらの地域では、かつて地域内を網羅していた民間事業者による採算ベースの路線バスが相次いで撤退あるいは大幅な減便を余儀なくされており、その代替措置として各自治体が主体となる「コミュニティバス」「巡回バス」「福祉バス」といった公的介入を前提とした地域公共交通システムが導入されてきた。
しかしながら、各市町村が行政区域という「見えない壁」を単位として個別に交通網を整備してきた結果、住民の実際の生活圏や移動実態との間に深刻な乖離が生じている。
具体的には、市町境を越える移動、とりわけ広域的な医療機関への通院、隣接市町の商業施設への買い物、あるいはターミナル駅への通勤・通学に対する交通サービス水準の著しい低下が挙げられる。
さらに、路線網の物理的な分断、隣接自治体間での運賃体系の不整合、そして自治体ごとに交通インフラを維持・運用するための重複する行政コストといった構造的な非効率が顕在化している。
これに拍車をかけるのが、全国的な課題であるバス運転手不足である。いわゆる「2024年問題」に端を発する労働基準法の改正と長時間労働の是正は、第二種運転免許を必須とする従来の路線バス事業スキームに物理的な限界をもたらしつつある。
本報告では、これら7市町村において「コミュニティバス」「福祉バス」「乗合タクシー」「オンデマンド交通」等の名称で展開されている地域公共交通の現状について、それぞれの制度的取り扱い、運賃設定のロジック、事業の根拠となる関連法規、そして使用車両や運転免許(第一種免許と第二種免許の違い)といった多様な側面から網羅的かつ詳細な比較分析を行う。
その上で、各自治体が現在単独で設置・運営している「地域公共交通会議」や「法定協議会」の限界を理論的に指摘し、海部地域全体を俯瞰した「広域交通検討委員会」へと統合・再編することの政策的妥当性とその具体的な制度設計に向けた深層的なインサイトを提示する。
各自治体におけるコミュニティバスおよび地域交通の現状と運賃体系の比較詳細
地域公共交通システムは、各自治体の条例、規則、あるいは地域公共交通会議等の法定協議会における議決に基づき、それぞれの地域事情や財政制約を色濃く反映した名称や運行形態が採られている。
海部地域を構成する各市町村の個別事情と交通システムの実態を詳解する。
あま市における「巡回バス」と路線維持の課題
あま市では、令和4年4月に導入され令和5年5月から本格運行を開始した「あま市巡回バス」が、北部、南部、東部の3ルートで運行されている。
運賃は1乗車200円の均一料金が設定されている。運行実務は名鉄バス株式会社(津島営業所)に委託されており、道路運送法に基づく「一般乗合旅客自動車運送事業」として法的に位置付けられている。
南部・東部ルートは堅調な利用者数を確保している一方で、北部ルートの利用者低迷が喫緊の課題となっており、定時定路線バスに代わるデマンド型交通への転換等を含めた地域公共交通のあり方の見直しが議論されている。
大治町・愛西市における「無料巡回バス」のアプローチ
大治町および愛西市では、運賃を「無料」に設定することで独自の地域交通を維持するアプローチをとっている。
大治町では「福祉巡回バス」という名称で、町内公共施設や福祉施設等を巡回するルートが運行されている。
このバスは全町民を対象としており、介護が必要な場合は介護者の同伴が求められるなど、福祉的側面が強い運用となっている。
一方、愛西市では「愛西市巡回バス」として、月曜日から土曜日にかけて市内の広範なエリアをカバーする複数のルート(佐屋、立田、八開、佐織エリア等)を無料で運行している。
この巡回バスの運行は物流事業者である栄進物流株式会社に委託されており、路線や需要の規模に応じて定員28人のマイクロバスと定員13人のワゴン車を使い分ける柔軟な車両運用を行っている。
有償での乗合バス事業としての法規制を回避しつつ、生活の足と福祉政策を融合させたモデルである。
津島市における「ふれあいバス」の運行実態と財務的最適化への模索
津島市においては、「ふれあいバス」という名称で市内巡回型のコミュニティバスが名鉄バス株式会社への委託により運行されている。
このシステムは、市内をAからDまでの4つのコースで網羅的に巡回するルート設定がなされている。運行日は月曜日から土曜日までの週6日(祝日も含む)であり、日曜日および年末年始(12月29日から1月3日)は運休措置がとられている。
運賃体系に関しては全区間において1乗車につき100円という均一の低額料金が設定されている。
さらに津島市では、利用者の属性を高齢者中心から若年層・生産年齢人口へと拡大させるための実証実験に着手しており、通勤・通学対応の実証実験として中学生以上を対象とした「実証実験期間通学定期(3,000円)」および「一般定期(4,000円)」をオンライン上のデジタルチケットとして販売するなどのデジタルトランスフォーメーション(DX)施策が展開されている。
コロナ禍からの利用者回復の兆しは見られるものの、人件費上昇や物価高騰により市の運行負担額は増加傾向にあり、財政負担の継続的な最適化が課題となっている。
弥富市における定時定路線バスと次世代オンデマンド交通のハイブリッド展開
弥富市においては、定時定路線型のコミュニティバスである「きんちゃんバス」と、民間企業との協働による予約型乗合送迎サービス「チョイソコやとみ」という、性質の異なる二つの交通モードを並存させるハイブリッド型の地域交通網構築が推進されている。
「きんちゃんバス」は、総合福祉センターや市役所、近鉄弥富駅、中核医療機関である海南病院を結ぶ精緻なダイヤが編成されている。
運賃は原則大人200円であるが、令和7年10月1日からは、これまできんちゃんバスで無料とされていた75歳以上の高齢者や運転免許返納者(運転経歴証明書所持者)の運賃を、チョイソコやとみの利用料金と公平性を保つため「100円」の有料へと改定し、財源確保と制度の整合性を図っている。
この定路線バスの死角となるきめ細かなラストワンマイルの移動ニーズを吸収するため、AI(人工知能)を活用したオンデマンド交通「チョイソコやとみ」を導入しており、幹線(定時定路線)と支線(デマンド型)を組み合わせた階層的な交通網の構築が進められている。
飛島村における強固な財政基盤を背景とした広域ネットワークと通院支援
飛島村は、名古屋港の臨海部に集積する大規模な物流・工業施設群からの豊かな法人税収を背景に、極めて強固な財政基盤を有している。
村の基幹交通である「飛島公共交通バス」は、隣接自治体とを結ぶ強力な広域幹線バスとして機能しており、「名港線」と、弥富市内を経由して蟹江町(近鉄蟹江駅)を結ぶ「蟹江線」の2路線が、民間事業者である三重交通株式会社への委託により運行されている。
運賃体系については、維持コストと利用距離を反映したゾーン運賃制が採用されており、区間によって200円〜500円に設定されている。
さらに特筆すべきは、基幹路線を補完する福祉的モビリティとして、名古屋近鉄タクシー株式会社の車両を活用した「飛島乗合タクシー(海南病院通院支援タクシー)」が運行されている点である。
これは、村内の乗降所から、隣接する弥富市に位置する海南病院までを結ぶ完全事前予約制の乗合サービスであり、片道500円(小人250円)で運行されている。
蟹江町における広域結節機能
蟹江町においては、「お散歩バス」をはじめとする町独自のコミュニティバスが運行されている。
蟹江町の交通における地理的重要性は、近鉄蟹江駅やJR蟹江駅といった広域鉄道路線の主要な結節点(ハブ)を有している点にある。
飛島村の飛島バス(蟹江線)が近鉄蟹江駅を発着点としているように、蟹江町のターミナル機能は、海部地域南部の住民が名古屋市中心部へと向かうための大動脈として機能している。
(出典: 提供研究データ等に基づく統合比較分析)
根拠法規と運転免許要件(第一種・第二種)がもたらす制度的制約と構造問題
各自治体が展開する地域公共交通システムを政策的に評価し、その将来の持続可能性を推し量る上で、サービスの背後にある「根拠法(道路運送法等)」とそれに伴う「車両の登録区分(ナンバーの色)」、および「運転手に要求される運転免許の種別(一種免許と二種免許)」の差異を理解することは決定的に重要である。
道路運送法第4条に基づく「一般乗合旅客自動車運送事業」(緑ナンバー・二種免許)
あま市の巡回バス、津島市のふれあいバス、飛島村の飛島公共交通バス、そして弥富市のきんちゃんバスなど、有償で運行される定時定路線の多くは、道路運送法第4条の規定に基づく「一般乗合旅客自動車運送事業」として法的に位置づけられている。
この枠組みでは、運行実務は名鉄バスや三重交通などの民間バス事業者へ委託される。
事業の用に供する自動車(緑ナンバー)を使用することが法的に義務付けられ、乗務員には高度な旅客輸送の専門技能を証明する「第二種運転免許」の保有が絶対条件となる。
プロドライバーによる安全性の担保という絶大なメリットがある反面、「2024年問題」に代表される二種免許保有者の深刻な確保難により、自治体の運行委託費(財政負担)の著しい増大を招いている。
あま市のように利用者数が伸び悩む路線の維持が、このスキームでは極めて困難になりつつあるのが実態である。
運賃無料化によるスキーム回避(愛西市・大治町)と「自家用有償旅客運送」(第78条)
第二種免許に依存する第4条の枠組みが行き詰まりを見せる中、愛西市や大治町が採用している「運賃無料」での運行は、厳しい有償乗合事業の規制を回避し、一般的な物流事業者(例:栄進物流)や地域の柔軟な体制で路線を維持するための一つのアプローチとして機能している。
しかし、財政的観点から完全無料化を永続させることは困難な自治体も多い。
そこで国が推進しているのが、道路運送法第78条に基づく「自家用有償旅客運送(旧称:交通空白地有償運送等)」のスキームである。
これは過疎地域等で例外的に「自家用自動車(白ナンバー)」の使用を有償で認める制度である。
最大の利点は、一定の法定講習を受講すれば、第二種免許を持たない「第一種運転免許」の保有者でも運転が可能になる点である。
地域の主婦や定年退職者といったローカルリソースを動員できるため、弥富市の「チョイソコやとみ」のようなきめ細かなデマンド型交通を拡張していく上で不可欠な制度となる。
しかし、第78条の自家用有償旅客運送を導入するためには、既存の民間交通事業者との間で「地域公共交通会議」等を通じた厳格な合意形成(既存事業者によるサービス提供が困難であることの証明)が必須となる。
ここで、各市町村が個別に抱える交通会議のサイロ化という問題が顕在化する。
地域公共交通会議の現状課題と「海部地域広域交通検討委員会」創設の提言
現在、海部地域の7市町村はそれぞれ個別に「地域公共交通会議」や「法定協議会」を組織し、計画策定や運賃改定の協議を行っている。
個別自治体による意思決定のサイロ化(縦割り)がもたらす弊害
このような意思決定プロセスの市町村ごとの分立は、海部地域全体としての最適化を著しく阻害している。その弊害は大きく分けて以下の3点に集約される。
第一に、路線の分断と非効率な重複である。
飛島村の「飛島バス」は弥富市内を経由して蟹江町へ至るルートをとり、弥富市の「きんちゃんバス」や愛西市の無料巡回バスも広域拠点をカバーしている。
物理的なルートが交錯しているにもかかわらず、そのダイヤ編成やコスト負担は各自治体で別個に議論されているため、シームレスな接続が図られず、限られた車両と運転手が特定の施設に非効率に集中している。
第二に、運賃体系の断絶と不公平感である。
あま市や弥富市は200円、津島市は100円、大治町や愛西市は無料、飛島村はゾーン制(200〜500円)と、隣接市町村間で運賃設計のロジックが全く異なっている。
この状態では、将来的にスマートフォン等を用いた共通のMaaS(Mobility as a Service)基盤を導入する際に、システム上の課金処理が極めて複雑化し、致命的な障壁となる。
第三に、行政リソースの枯渇と事業者との交渉力の低下である。
7つの市町村の担当課が、それぞれ個別に運輸支局や名鉄バス・三重交通などの事業者と折衝を行うことは壮大な無駄であり、事業者側から見ても交渉コストが大きいため、撤退されやすい要因を作ってしまっている。
「海部地域広域交通検討委員会(広域法定協議会)」への統合の法的根拠と機能設計
これらの構造的課題を打破するためには、津島市、愛西市、弥富市、蟹江町、飛島村、あま市、大治町の7市町村が合同で、単一の意思決定機関である「海部地域広域交通検討委員会(広域連携による法定協議会)」を創設し、個別の交通会議を統合・吸収させることが不可避の処方箋である。
海部地域全体を包含する広域モデルには、以下の機能を持たせるべきである。
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「海部地域公共交通網形成計画」の単一策定: 7市町村を一つの交通圏とみなしたマスタープランを一本化して策定する。これにより、国の補助金等の各種交付金を広域一体的に獲得することが可能となる。
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広域運賃・ダイヤ調整部会の設置と標準化: 無料・100円・200円・ゾーン制とバラバラな運賃体系を廃止し、海部地域全体を対象とした「広域共通ゾーン制運賃」へ移行するための協議を主導する。
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一種免許(白ナンバー)と二種免許(緑ナンバー)の広域的棲み分け戦略: 「主要な鉄道駅と大規模病院(海南病院等)を結ぶ幹線には第4条事業(プロの二種免許)」を、「各市町村の住宅街を巡回するフィーダー線には第78条事業(一種免許)や無料委託路線」を配置するという明確な役割分担を描く。この広域デザインにより、既存交通事業者との合意形成が飛躍的にスムーズになる。
広域交通統合がもたらす第2次・第3次的波及効果(ディープインサイト)
医療資源の最適化と健康寿命の延伸(広域ハブとしての海南病院の機能強化)
弥富市に位置する「海南病院」は、弥富市民だけでなく、飛島村の乗合タクシーや愛西市の巡回バスの目的地としても機能している。
もし広域交通検討委員会の主導により、7市町村全体からシームレスなデマンド交通や乗り継ぎルートが確立されれば、地域医療の動線に劇的な変化が生じる。
交通空白地帯の高齢者の通院が容易になることで疾患の重症化を防ぎ、海部地域全体が負担する医療・介護給付費の増大を抑制するという莫大な経済的リターンをもたらす。
財源の偏在是正と労働市場の広域化(インフラのシェアリングエコノミー化)
海部地域における最大の矛盾は「財源の非対称性」である。飛島村は豊かな法人税収により高規格なバス網を単独で維持できる一方、他市町は路線維持の負担に苦慮している。
広域統合は、飛島村の強力な交通網を地域の「基幹軸」とし、周辺市町の「枝葉」のルートをこれに接続させることでインフラのシェアリングを実現する。
これにより周辺住民は臨海部の企業群へ通勤しやすくなり、飛島村側にとっても「労働力不足の解消」という多大な経済的恩恵をもたらす、相互補完的なエコシステムが完成する。
デジタル基盤の統合とMaaS・自動運転社会への布石
広域交通検討委員会の設立は、各市町村がバラバラに導入しているデジタルチケットや予約システムを一つの「海部地域広域MaaSプラットフォーム」へと統合するための不可欠な前提である。
システム投資を7市町村で按分すれば劇的なコスト削減が可能となる。
さらに、将来の人材不足の最終解決策となる「自動運転バス」の実装においても、単一の市町村では不可能な大規模投資と実証実験の誘致を、広域コンソーシアムの力で実現することが可能となる。
結論と広域交通政策に向けたアクションプラン
第一に、現在各自治体が個別に行っている道路運送法第4条に基づく路線バスの運行モデルは、第二種運転免許保持者の減少と経費高騰により、単独での持続可能性が極めて危ういフェーズにある。
地域交通の崩壊を防ぐためには、幹線ルートはプロドライバー(第4条)に任せつつ、支線ルートには無料委託スキームや第一種免許を活用する第78条スキームを大胆に導入する「ハイブリッド運用」へと舵を切らなければならない。
第二に、この抜本的なモビリティ再編を実現するため、現在7市町に分立している会議体を統合し、「海部地域広域交通検討委員会」を早期に設立すべきである。
運賃体系の標準化、ルートの重複排除、MaaS基盤の共同調達を実施することで、行政コストの大幅な削減と利便性の飛躍的な向上が同時に達成される。
第三に、交通網の広域一元化は単なる移動手段の効率化を超えた戦略的投資である。個々の市町村が「自分たちの町のバス」を死守するというミクロな視点から脱却し、海部地域全体を分かち難く結びついた一つの経済・生活圏として捉え直すこと。
「モビリティ・インフラの広域共有化」という全体最適へのパラダイムシフトを実行することこそが、海部地域の活力を未来へ継承するための最も強力な政策的アプローチである。