「毎月の家賃が払えるか不安」「親の判断能力が落ちてきて、これからの生活が心配」——長引く物価高や高齢化、そして単身世帯の増加により、私たちのすぐ身近で「住まい」と「暮らし」に関するSOSが増え続けています。
しかし、いざ助けを求めようとしても、現在の海部地域では「相談窓口のたらい回し」や「市と町村の管轄の壁」によって、本当に必要な支援が途切れてしまうという大きな課題が浮き彫りになりました。
そこで今回、海部地域7市町村が手を取り合い、生活費の相談からお部屋探し、そして法的な権利の保護までを“まるごと”引き受ける「広域総合支援センター」の創設という画期的な構想が専門調査によって提言されました。
誰もが、いざという時に迷わず頼れる地域へ。海部地域の未来を支える新しい「セーフティネット」の全貌を、市民の皆様に向けて分かりやすくひも解きます。
【海部地域の未来図】「住まい」と「暮らし」をまるごと守るワンストップ支援センター構想
🔍 なぜ今、新しい支援のカタチが必要なの?
長引く物価高や、コロナ禍を経て浮き彫りになったのは、「生活保護には至らなくても、毎月の家賃や生活費でギリギリの限界を抱えている方々」が私たちの身近にたくさんいるという現実です。
特に海部地域(津島市・愛西市・弥富市・あま市・大治町・蟹江町・飛島村)では、行政の「仕組みの壁」が、助けを求める声を阻んでしまっています。
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たらい回し問題: お金の相談、家賃の補助、悪徳契約から身を守る成年後見(権利擁護)などの窓口がバラバラに存在している。
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市と町村の分断: 市(弥富市など)は「市役所」、町村(蟹江町など)は「県のセンター」が管轄。もし家賃の安い隣町へ引っ越したくても、管轄が変わるため、複雑な手続きがイチからやり直しになってしまう。
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お部屋探しの高い壁: 身寄りがないことや、認知機能の不安を理由に、不動産屋さんからアパートの入居を断られてしまう。
📊 データが語る「海部地域」のリアル(弥富市・蟹江町・飛島村の推計)
今回の調査分析により、特定エリア(弥富市・蟹江町・飛島村)だけでも、約1,700〜2,600世帯もの方々が「住まいや生活が不安定な状態」で支援を待っていると推計されました。
| 自治体の特徴 | 抱えている「隠れた」課題 |
| 弥富市 | 交通網から外れたエリアでの高齢者の孤立や、古い借家での住環境悪化が水面下で進行。 |
| 蟹江町 | 交通の便が良く家賃も手頃なため、都市部から単身の高齢者や非正規雇用者が流入しやすい。 |
| 飛島村 | 財政は豊かだが、地域の絆が強すぎるゆえに「世間体」を気にしてSOSを出せない心理的ハードルが高い。 |
このように、地域ごとに特徴は違っても、「今の仕組みでは救いきれないSOS」が確実に存在しています。
💡 解決策:「海部地域 包括総合支援センター(仮称)」の誕生へ!
限界を迎えた「バラバラな窓口」を解体し、7市町村どこに住んでいても同じように手厚いサポートを受けられる「広域ワンストップ窓口」をつくろう!というのが本レポートの最大の提案です。
新センターができると、支援は劇的に変わります。
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すべての手続きが「1ヶ所」で完結
当座の生活費の相談から、お部屋探し、そして正しい金銭管理をサポートする法的手続き(成年後見制度)まで、1つの窓口でまとめて対応します。
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市町村をまたいだお引っ越しもスムーズに
「今の家賃は高いから隣町へ引っ越したい」という場合も、7市町村が連携して広域でサポート。支援が途切れることなく、スムーズに新生活を始められます。
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大家さんも安心、入居者も安心
行政の窓口が「お金の管理」と「法的な見守り」をセットで約束することで、民間アパートの大家さんも安心してお部屋を貸してくれるようになります。
📌 まとめ:誰もが安心して住み続けられる海部地域へ
これからの時代に必要なのは、誰もが「いざという時」に迷わず頼れる大きなセーフティネットです。市町村の枠を越え、住居・生活・権利を三位一体で守る「総合支援センター」の実現は、私たちが安心して暮らし続けるための大切な第一歩となります。
愛知県海部地域における生活困窮・居住支援および権利擁護に関する総合的実態調査と広域連携の妥当性に関する考察
第1章 本報告の目的と海部地域における福祉行政の構造的課題
愛知県の尾張西部に位置する海部地域は、津島市、愛西市、弥富市、あま市の4市と、海部郡に属する大治町、蟹江町、飛島村の3町村から構成される合計7市町村の広域経済圏である。
この地域は、名古屋大都市圏の巨大なベッドタウンとしての機能を持つ一方で、伝統的な木曽三川流域の農業地帯、さらには日本有数の財政力を誇る飛島村の臨海工業地帯など、極めて多様な社会経済的背景を併せ持っている。
近年、この地域において少子高齢化と単身世帯の急増が進行しており、従来の「生活保護制度」という単一のセーフティネットだけでは捕捉しきれない、制度の狭間に転落する生活困窮者が急激に増加している。
特に顕著な課題となっているのが、生活保護を受給する直前の段階にある中間的困窮層に対する「居住支援」と、認知機能の低下に伴い自律的な生活設計が困難となった層に対する「権利擁護(成年後見制度等)」の欠如である。
住居を失うリスクを抱えた人々に対する家賃補助や転居支援、そして彼らが悪質な契約や搾取から身を守るための法的な支援は、もはや別々の行政窓口で対応できる限界を超えている。
本報告書は、利用者の要請に基づき、海部地域7市町村を中心としつつ、愛知県全体、名古屋市、さらには隣接する尾張地域の主要都市である一宮市や稲沢市との比較を通じ、生活保護世帯数、生活困窮の相談件数、新型コロナウイルス感染症禍における生活支援給付金(特例貸付等)の実態を網羅的に分析するものである。
また、最終的な政策的目標として「海部地域7市町村における広域的な総合支援センター構築の妥当性」を検証する。
その過程において、特に「弥富市、蟹江町、飛島村」の3市町村を抽出し、この特定のサブエリアにおいて居住支援を含めた包括支援を必要とする実数と潜在的ニーズの規模を深く推計し、新たな地域福祉拠点のあり方について専門的かつ深層的な洞察を提供する。
なお、事後の検証可能性を担保するため、本報告書内で引用・参照した公的統計の名称およびその根拠となるURLについては、分析の文脈に合わせて本文および比較データ表内に直接明記する形式をとる。
第2章 愛知県および比較対象都市における生活保護と生活困窮の動態
地域別の詳細な分析に入る前に、マクロな視点から愛知県全体、名古屋市、そして海部地域に隣接する中核的な都市(一宮市、稲沢市)の状況を把握することが不可欠である。
愛知県の福祉行政の基盤データとなる「令和7(2025)年度刊愛知県統計年鑑 第17章 社会保障
(URL: https://www.pref.aichi.jp/soshiki/toukei/0000079661.html )」
によれば、愛知県全体の生活保護の動態には明確な構造変化が起きている。
令和6(2024)年度の統計において、愛知県全体の生活保護受給世帯数は64,109世帯に達している。
このうち、世帯主または世帯員が働いている「労働力類型」に属する世帯は10,501世帯であり、全体の約16%にとどまる。
残る53,609世帯は、高齢、傷病、障害などの理由により「働いている者がいない世帯」である。
この事実は、現代の生活保護制度が純粋な経済的困窮の救済から、加齢や健康喪失に対する最終的な介護・医療の受け皿へと変質していることを示唆している。
愛知県全体の生活保護受給者数は約20.4万人に達していたピーク(平成27年)から減少傾向にあるものの、母子世帯が減少する一方で単身の高齢者世帯が増加し続けているのが実態である。
生活保護の枠組みに入らない、あるいは入る手前にある層に対するアプローチとして「生活困窮者自立支援制度」が存在する。
愛知県内全54市町村のうち、市部(38市)は各市が独自に相談窓口を設置しているのに対し、郡部(16町村)については、愛知県が所管する5か所の「県福祉相談センター」が一括して業務を担っている。
この行政管轄の分断が、後に詳述する居住支援のシームレスな展開を阻害する最大の要因となっている。
以下に、愛知県全体、名古屋市、一宮市、稲沢市、および海部地域7市町村における生活保護世帯数、対象人数、および生活困窮の相談窓口体制に関する比較データを提示する。この表は、前述の愛知県統計年鑑の「17-12表
(URL: https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/605613.xlsx )」
および愛知県の「生活困窮者自立支援制度の実施体制
(URL: https://www.pref.aichi.jp/soshiki/chiikifukushi/0000062843.html )」、
各市町村の公式広報等を統合して構築したものである。
| 比較対象自治体 | 人口規模(概数) | 生活保護世帯数・実人員(判明分) | 自立相談支援等の窓口体制および実施状況 | 根拠となる主な統計名称・データソースURL |
|---|---|---|---|---|
| 愛知県全体 | 約744万人 | 64,109世帯 / 約8万人強 | 58か所の窓口で年間数万件の相談対応 |
愛知県統計年鑑 第17章 17-13表(https://www.pref.aichi.jp/soshiki/toukei/0000079661.html) |
| 名古屋市 | 約232万人 | 県内の過半数を占有(約3.5万世帯推計) | 各区に計16か所の相談窓口を設置 |
生活困窮者自立支援制度の実施体制(https://www.pref.aichi.jp/soshiki/chiikifukushi/0000062843.html) |
| 一宮市 | 約37万人 | 中核市として独立集計・県内有数の規模 | 中核市として市内に1か所の専用窓口設置 |
同上(https://www.pref.aichi.jp/soshiki/chiikifukushi/0000062843.html) |
| 稲沢市 | 約13万人 | 愛西市等の約2倍の規模で推移 | 市内に1か所の相談窓口を設置(市直轄) |
同上(https://www.pref.aichi.jp/soshiki/chiikifukushi/0000062843.html) |
| 津島市 | 約6万人 | 373世帯 / 501人(地域福祉計画データ) | 平成29年度実績で年間330件の新規相談 |
第2期津島市地域福祉計画(http://tsushima-shakyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021/03/%E7%AC%AC%EF%BC%92%E6%9C%9F%E6%B4%A5%E5%B3%B6%E5%B8%82%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E7%A6%8F%E7%A5%89%E3%81%88%E3%81%8B%E3%82%99%E3%81%8A%E3%81%AE%E3%81%BE%E3%81%A1%E8%A8%88%E7%94%BB.pdf) |
| 愛西市 | 約6万人 | 津島市と同等規模(約300世帯水準推計) | 市内に1か所の相談窓口を設置(市直轄) |
愛知県生活困窮者自立支援体制資料 |
| あま市 | 約8.7万人 | 39,835世帯中、数百世帯規模と推計 | 市内に1か所の相談窓口を設置(市直轄) |
あま市広報(https://www.city.ama.aichi.jp/_res/projects/default_project/page/001/010/996/amashikoho202605_No194.pdf) |
| 弥富市 | 約4.3万人 | 19,005世帯中、約150〜200世帯推計 | 市内に1か所の相談窓口を設置(市直轄) |
弥富市広報(https://www.city.yatomi.lg.jp/_res/projects/default_project/page/001/006/143/R5/02koho/A3all.pdf) |
| 蟹江町 | 約3.7万人 | 227世帯(令和2年度実績・微減傾向) | 愛知県の「海部県福祉相談センター」が管轄 |
蟹江町生活保護統計(https://www.town.kanie.aichi.jp/uploaded/attachment/14225.pdf) |
| 大治町 | 約3万人 | 蟹江町に準ずる規模(都市部流入型) | 愛知県の「海部県福祉相談センター」が管轄 |
愛知県生活困窮者自立支援体制資料 |
| 飛島村 | 約4,500人 | 極めて少数(財政力と地縁による抑制) | 愛知県の「海部県福祉相談センター」が管轄 |
愛知県生活困窮者自立支援体制資料 |
このデータ群から読み取れる第一の深層的インサイトは、人口13万人規模の稲沢市や37万人規模の一宮市のような単独で強固な福祉基盤を持つ自治体と比較し、海部地域7市町村は人口3万〜8万人規模の基礎自治体が密集しており、それぞれが個別で相談窓口を維持していることの非効率性である。
津島市単独でも年間330件の新規生活困窮相談が発生している事実を踏まえれば、7市町村全体では平時であっても年間1,500件から2,000件規模の潜在的な相談ニーズがコンスタントに発生していると推計される。
特に深刻なのは、社会福祉協議会(社協)を通じた生活困難の相談と、実際の支援の間に存在する乖離である。
愛知県内の社協の動向を紐解くと、生活保護の対象とはならないが生活が立ち行かない層に対する支援のいびつな実態が浮かび上がる。
新型コロナウイルス感染症が拡大する以前の2015年から2019年の5年間において、ある社協には3,808件の生活困窮相談が寄せられたにもかかわらず、総合支援資金の申請に至ったのはわずか17件、実際の貸付決定に至ったのは13件のみであったという記録が存在する。
また、別の現場のデータでも、年間平均1,500件前後の相談のうち、貸付が行われるのは約3割にとどまり、残りの7割は債務整理の提案や家計改善指導というソフト面の対応に終始していた。
これは、「借金を背負わせることは支援にならない」という理念に基づく厳格な審査基準の表れでもあるが、現実問題として、家賃を滞納し住居を失う寸前の人間に対して、手元資金を提供しないまま家計指導だけを行うことは、彼らを路上生活や悪質な貧困ビジネスへと追いやる危険性を孕んでいた。
この「支援の空白地帯」に滞留していた膨大な数の居住喪失予備軍が、続くパンデミックによって一気に可視化されることとなる。
第3章 コロナ禍における生活支援の爆発的増加と居住支援の実態
新型コロナウイルス感染症による経済的打撃は、前述した水面下の生活困窮層を一挙に表舞台へと押し出した。
特例措置として展開された生活支援の給付金および貸付金(緊急小口資金・総合支援資金)の動向は、海部地域を含む愛知県全体にどれほどの「居住支援を必要とする層」が潜んでいるかを測るための最も正確なリトマス試験紙である。
厚生労働省および愛知県社会福祉協議会のデータによれば、2020年3月から2021年2月までの累計で、愛知県全体における緊急小口資金(主に休業等による一時的な減収を補填する資金、上限20万円)の貸付決定件数は60,116件、金額にして約169億円に達した。
特例貸付の受付が開始された直後の速報値(2020年4月11日時点)の段階ですでに、申請件数39,081件に対して31,689件(約53.7億円)が貸付決定されており、いかに切迫した資金需要が爆発したかが理解できる。
平時の5年間でわずか13件しか貸付が行われなかったという事実 と比較すれば、これが天文学的な規模のセーフティネットの拡張であったことは疑いようがない。
一例として、海部地域に近い人口約6万人規模の長久手市社協の事例を見ても、緊急小口資金の延べ相談件数809件に対し貸付決定330件、総合支援資金の相談573件に対し貸付決定156件という凄まじい業務量が発生していた。
人口比で換算すれば、海部地域全体ではこの数倍の支援が展開されたことになる。
この貸付制度の爆発的利用と同時に注視すべきなのが、「住居確保給付金」の驚異的な伸びである。
住居確保給付金とは、離職や廃業、あるいは個人の責めに帰さない理由での休業等によって収入が減少し、住居を喪失するおそれのある者に対し、原則3ヶ月(一定の要件を満たす場合は最長9ヶ月まで延長可能)にわたり、家賃相当額を自治体から直接賃貸人(大家や不動産会社)に振り込む制度である。
愛知県全体の住居確保給付金の支給決定件数は、2020年度の累計で6,349件(支給総額約10.6億円)を記録し、その後も特例措置の延長に伴って累計11,691件にまで膨れ上がったとする資料も存在する。
また、ある民間支援団体の報告では、2019年度にはわずか24件であった住居に関する相談が、翌年には677件へと約28倍に跳ね上がった生々しい実態が報告されている。
以下に、居住支援の中核をなす特例貸付および住居確保給付金の愛知県内における規模と、当該制度の具体的な適用要件を整理したデータを示す。
根拠となるURLは、愛知県地域福祉課の「住居確保給付金について(URL: https://www.pref.aichi.jp/soshiki/chiikifukushi/0000083363.html )」および厚生労働省特設サイト(URL: https://corona-support.mhlw.go.jp/jukyokakuhokyufukin/counter.html )に基づく。
| 制度名称 | 対象者および主要な支給・貸付要件 | 愛知県全体の支給・貸付実績 | 制度詳細および統計URL |
|---|---|---|---|
| 緊急小口資金(特例貸付) | 休業等による一時的な資金需要。上限20万円の貸付。 | 60,116件 / 約169億円(2020年3月〜2021年2月) | [cite: 11] |
| 総合支援資金(特例貸付) | 失業等による生活立て直し資金。月20万円以内×3ヶ月等。 | 申請の殺到に伴い緊急小口資金と並行して膨大に処理 | [cite: 11, 12] |
| 住居確保給付金 | 離職・廃業後2年以内等。単身世帯の預貯金50.4万円以下等。 | 6,349件(2020年度実績)〜累計約11,691件 |
愛知県地域福祉課資料(https://www.pref.aichi.jp/soshiki/chiikifukushi/0000083363.html) |
| 家計改善支援(転居費用補助) | 現在の家賃が高額な困窮者が安価な物件へ転居する費用補助 | 住居確保給付金と連動して全国で新規展開(上限あり) |
厚生労働省特設サイト(https://corona-support.mhlw.go.jp/jukyokakuhokyufukin/counter.html) |
| 長久手市社協実績(比較参考) | 人口約6万人の一般市におけるコロナ貸付処理の実数 | 緊急小口貸付決定330件、総合支援貸付決定156件 |
長久手市社協報告書(https://www.nagakute-shakyo.or.jp/_userdata/shakyo/about/r2houkoku.pdf) |
住居確保給付金の受給にあたっては、単身世帯で約3.7万円、2人世帯で約4.4万円といった生活保護の住宅扶助基準額に準拠した上限が設定されている。
しかし、この制度の利用には極めて高いハードルが存在する。
具体的には、ハローワーク等の公的窓口で毎月2回以上の職業相談を受けること、毎週1回以上は求人先への応募や面接を行うこと、そして自立相談支援機関の支援員等による面接を月4回以上受けることが義務付けられている。
ここで導き出される第二の深層的インサイトは、「生活保護には至っていないが、居住支援が必要な層」の実数は、統計上に表れた6,349件〜11,691件という数字を遥かに凌駕しているという事実である。
なぜなら、精神的な疾患を抱えつつ非正規で細々と働いている者や、社会的なコミュニケーション能力に課題を抱える孤立状態の者にとって、月に何回も面接を受け、毎週求人に応募するという厳格な活動要件をクリアすることは不可能に近いからである。
結果として、愛知県内の6万件を超える特例貸付利用者のうち、借金の返済猶予が切れた後に家賃が払えなくなっても、煩雑な手続きを恐れて住居確保給付金を申請せず、アパートからの退去(事実上の路上生活やネットカフェ難民化)を余儀なくされている潜在的な居住喪失層が海部地域にも多数滞留していると分析される。
第4章 権利擁護と成年後見:居住支援を成立させるための絶対条件
居住の不安定化と表裏一体の関係にあるのが、認知機能の低下や精神的障害に伴う「判断能力の喪失」である。生活保護や住居確保給付金の申請、新たな賃貸借契約の締結、さらには悪質な貧困ビジネスからの防衛において、本人の法的な権利を保護し、財産管理を代行する「権利擁護(成年後見制度の利用等)」は、居住支援を成立させるための絶対的な基盤である。
海部地域における権利擁護の最前線を担う「海部地区権利擁護センター」に関する公式の議事録資料によれば、同センターには月間約130件もの相談が殺到しているという現状が報告されている。
単純計算で年間1,500件を超えるこの相談数は、前述した愛知県内の社協の生活困窮相談の年間平均件数(約1,500件)と奇しくも符合している。
このデータの一致は決して偶然ではない。生活困窮の相談に訪れる者の多くが、実は多重債務を抱え込む原因となる金銭管理能力の欠如や、初期の認知症、あるいは精神疾患を抱えており、純粋な経済的支援のみならず、法的な権利擁護介入を同時に必要としているという構造的実態を如実に物語っているのである。
成年後見制度の申し立てには、親族の同意の取り付けや、家庭裁判所への極めて複雑な書類作成、さらに医師による鑑定・診断書が必要となる。生活困窮状態に陥り、親族からも孤立している高齢者や単身者にとって、独力でこの法的手続きを行うことは不可能である。
ここで重要なのは不動産市場の論理である。行政がどれほど家計改善支援事業に基づき転居費用の補助(生活保護の住宅扶助基準額の3倍を上限とする引っ越し代の支援など)を用意したとしても、民間のアパートの大家や不動産管理会社は、認知機能に不安があり、連帯保証人もいない困窮者に対して部屋を貸すことは絶対にない。
しかし、もし支援窓口が「この対象者には当センターを通じて成年後見人(または保佐人・補助人)がつき、毎月の家賃の支払いを確実に行う法的な体制が整っている」という担保を提供できれば、民間賃貸住宅への入居(居住支援)は劇的に進展する。
権利擁護と居住支援は、車輪の両輪である。これらを市役所の福祉課、社協、そして県の福祉相談センターという別々の組織でバラバラに処理する現在の体制は、当事者にとっても支援者にとっても疲弊を生むだけの構造的欠陥となっている。
第5章 弥富市・蟹江町・飛島村における包括的居住支援ニーズの推計と特性
本報告の主眼である「海部地域7市町村に一つの総合支援センターを置く構想」の妥当性を評価するため、特にユーザーの要請に従い「弥富市、蟹江町、飛島村」の3市町村を抽出し、この特定のサブエリアにおける居住支援を含めた包括支援の実数(ポテンシャル)を推計する。
この3市町村の組み合わせは、広域連携を考える上で社会経済学的に極めて興味深いコントラストを提示している。それぞれの特性と統計的背景は以下の通りである。
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弥富市(人口43,616人、19,005世帯)
[cite: 7]
愛知県の西の玄関口であり、木曽川水系の農業地帯と名古屋港を支える湾岸物流産業の拠点という二面性を持つ。市役所からのお知らせ等を通じた福祉制度の広報は行われているものの、広大な市域の中で交通網から外れた地域における高齢者の孤立化や、古い借家に住み続ける低所得世帯の住環境の悪化が水面下で進行している。独自の給付金制度の利用がわずか3件にとどまるといった局所的なデータも散見されるが、これは支援ニーズがないのではなく、制度へのアクセス経路が機能していない証左である。
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蟹江町(人口約3.7万人) JR関西本線と近鉄名古屋線が交差する交通の要衝であり、名古屋市の直接的なベッドタウンとして発展してきた。特筆すべきは、町の公表資料によれば令和2年度時点で227世帯もの生活保護世帯が存在していることである(平成31年の231世帯からは微減)。この規模の町において200世帯を超える生活保護世帯が存在することは、名古屋市内の高い家賃を避け、交通の便が良い蟹江町の安価な賃貸アパートに、単身の高齢者や非正規雇用者が流入しやすいという「都市型困窮の吹き溜まり」としての構造を持っていることを示している。
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飛島村(人口約4,500人) 日本有数の財政力指数を誇り、住民に対する独自の福祉サービスや医療費助成が極めて充実していることで全国的に知られている。しかし、村内の地縁・血縁ネットワークが極めて強固であるがゆえに、そこからこぼれ落ちた住民(例えば、親族とトラブルになり実家に居られなくなった若年層やDV被害者など)が、村内で生活保護や住居確保給付金を申請することに対する「心理的スティグマ(世間体や恥の意識)」が異常に高いという、富裕自治体特有の逆接的な困難を抱えている。
これら3市町村における「生活保護には至っていないが、居住支援を含めた包括支援が必要な実数」を推計する。蟹江町単独で227世帯の生活保護受給者が顕在化している事実、そして愛知県全体で特例貸付が6万件以上利用され、住居に関する相談が前年比28倍に膨れ上がったというマクロトレンド を掛け合わせる。
生活保護受給世帯の背後には、一般的にその3倍から5倍の「ワーキングプア層・生活困窮ボーダー層」が存在するとされる。蟹江町の227世帯をベースに考えれば、蟹江町内だけで約700〜1,100世帯の支援対象が存在する。
人口規模が蟹江町を上回る弥富市(人口約4.3万人) にも同等以上の約1,000〜1,500世帯が、そして飛島村にも潜在的に数十世帯が滞留していると仮定した場合、この3市町村エリアだけで約1,700世帯〜2,600世帯にのぼる「居住・生活の不安定層」が、行政の支援の手を待っている状態であると強く推計されるのである。
第6章 結論:海部地域7市町村における「総合支援センター」構想の圧倒的妥当性
以上の詳細なデータ分析と実態の推論に基づき、弥富市、蟹江町、飛島村を含む海部地域7市町村(あま市、大治町、津島市、愛西市を含む)において、既存のバラバラな窓口を解体し、広域をカバーする「一つの総合支援センター」を設置することの妥当性を最終的に論じる。
結論から言えば、この構想は地域福祉の崩壊を防ぐための極めて合理的かつ喫緊の政策的必然である。
最大の理由は「行政の管轄ラインと生活困窮者の流動性の完全な不一致」を解消することにある。
現在、生活困窮者自立支援法に基づく相談窓口は、市部(津島市、愛西市、あま市、弥富市)においては各市が実施主体として運営しているが、町村部(大治町、蟹江町、飛島村)においては愛知県の「海部県福祉相談センター」が実施主体となっている。
仮に、蟹江町(県管轄)のアパートで家賃滞納を起こした困窮者が、家計改善支援事業による転居費用補助 を利用して、隣接する弥富市(市管轄)のより家賃の安い物件へ引っ越しを希望した場合を想定する。
この際、支援の管轄が県から市へまたがることになり、個人情報の引き継ぎ、支援計画の再策定、担当ケースワーカーの交代といった極めて煩雑な「縦割りの弊害」が生じる。住居を失うかどうかの瀬戸際にある当事者にとって、この行政のタイムラグは致命的である。
さらに、住居喪失を防ぐためのアパートを確保するためには、愛知県の住宅確保要配慮者居住支援協議会等と連携して、理解のある不動産オーナー(居住支援法人や協力店)を広域で開拓する必要がある。
弥富市単独、あるいは蟹江町単独という狭いエリアで不動産屋を回るマンパワーの無駄を省き、海部地域全体を一つの住宅市場として捉え、物件のマッチングを行う機能が不可欠である。
したがって、7市町村が共同で設立する(あるいは広域連合が委託する)新たな「海部地域包括居住・生活支援センター(仮称)」には、以下の3つの機能をワンストップで物理的に統合することが求められる。
-
経済的セーフティネットの迅速な提供: コロナ禍での6万件を超える特例貸付の処理ノウハウを教訓とし、生活保護に至る前の住居確保給付金の審査と、家賃の代理納付手続きを自治体の壁を越えて一括処理する。
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権利擁護機能の内包: 月間130件の相談を抱える「海部地区権利擁護センター」 を同施設内に併設(あるいはシステム統合)し、認知機能の低下した困窮者に対して、居住支援(アパート入居)と成年後見(金銭管理)をパッケージ化して不動産オーナーに提案する。
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広域シェルターと住み替えのコーディネート: 蟹江町のようなベッドタウンで困窮した単身者を、必要に応じて一時生活支援事業として弥富市や愛西市の広域シェルターに保護し、その後、本人の適性に合わせて最も就労しやすい市町村の物件へとシームレスに転居させる。
海部地域における生活困難は、もはや個別の自治体だけで抱えきれるフェーズをとうに過ぎている。
新型コロナウイルスによって可視化された膨大な「居住喪失予備軍」を路上に溢れさせないためにも、生活保護・居住支援・成年後見の3つの矢を一本に束ねた広域の総合支援拠点を創設することこそが、この地域を支える次世代の社会インフラとなるのである。