弥富市の未来と命を守る!
「事前防災」のための新しい住まいづくりルール(提案のまとめ)
弥富市にお住まいの皆様へ。海抜ゼロメートル地帯が広がる私たちの街は、豊かな水資源に恵まれる一方で、来るべき「南海トラフ巨大地震」による深刻な津波や長期間の浸水被害が懸念されています。
「もしもの時、私たちの家や暮らしはどうなってしまうのか」と不安に思われるかもしれません。行政としても、被害を最小限に抑え、万が一被災しても「必ず立ち直れる安全な街」にするための重要な提案をまとめました。それが「臨海部防災区域建築条例」という新しいルールの導入です。
なぜ「今」、新しいルールが必要なの?
大災害が起きた後では、適切なルール作りが間に合いません。平時である「今」だからこそ決めておくべき3つの理由があります。
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悲劇を繰り返さないため
災害後に急いで家を建て直そうとすると、以前と同じ低い地盤や水圧に弱い構造のまま再建してしまうケースが多くなります。これでは、数十年後に再び水害が起きた際、同じ被害を繰り返してしまいます。
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復興時のパニックを防ぐため
災害後の混乱し疲弊している時期に、「今後のために1階を高くして家を建ててください」と急にお願いしても、皆様の経済的負担や反発が大きくなります。事前にルールを決めておくことで、将来の適正でスムーズな復興が約束されます。
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お隣、名古屋市での確かな実績
このルールは決して思いつきではありません。伊勢湾台風の甚大な被害を教訓として、名古屋市で60年以上前に作られ、現在まで市民生活と両立しながら安全を守り続けている実績あるルールをお手本にしています。
新しいルールのポイント(案)
地域を危険度に合わせて4つの区域に分け、建物を新築・建て替えする際の「安全な高さと構造」の基準を設けます。基準となる高さには、この地域特有の「名古屋港基準面(N.P.)」を使用します。
| 区域の目安 | 建築時の主なルール(案) |
| 第1種(海岸・河川に近いエリア) | 木造は原則禁止。1階の床高を極めて高く設定(N.P.+4m以上)。一部居住施設の建築制限あり。 |
| 第2種〜第4種(市内の多くの居住エリア) | 1階の床高を浸水しにくい高さ(N.P.+1m以上)に設定。 |
| 居住の工夫(第2種・第4種エリア) | 床上浸水時に逃げ遅れないよう、原則「2階建て以上」とし、垂直避難できる空間を確保。 |
皆様の「よくあるご不安」にお答えします
新しい制限ができると聞くと、ご自身の財産や生活への影響が心配になるかと思います。ここでは、よくある誤解についてお答えします。
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Q. 今住んでいる家を、すぐに建て直さないといけないの?
A. いいえ、現在の家を無理に取り壊す必要は全くありません。この条例は、将来ご自宅を「新築・建て替え(増改築)」するタイミングから適用される、未来に向けたルールです。
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Q. この条例ができると、人気の「平屋」は建てられなくなるの?
A. 一定の条件をクリアすれば、これまで通り平屋も建てられます!例えば、床の高さ自体を思いきり高くする(N.P.+3.5m以上)か、一般的な広さ(延べ面積約30坪以内)の家であれば、小屋裏に「屋根の上にすぐ逃げられる避難室や天窓」を作るなどの工夫をしていただくことで建築可能です。
むすびに
この条例は、皆様を縛る単なる「厳しい制限」ではなく、弥富市の皆様と子どもたちの命を確実に守るための「希望のガイドライン」です。
地域全体でこの安全基準を当たり前のものとして共有していくことで、将来の災害リスクを劇的に減らし、より資産価値の高い、安心して暮らし続けられる「強い弥富市」を一緒に創り上げていきましょう。
弥富市における事前防災及び復旧を目的とした「臨海部防災区域建築条例」制定に関する総合提案書
提案の背景と都市強靱化の基本理念
我が国は極めて厳しい自然災害の脅威に晒されており、とりわけ愛知県を中心とする東海地方においては、今後10年から数十年という極めて緊迫した時間軸の中で南海トラフ巨大地震の発生が危惧されている。
この巨大地震は、激烈な地震動による直接的な建築物倒壊のみならず、その後に襲来する巨大津波および防潮堤の沈下・決壊に伴う広域かつ長期的な高潮・浸水被害をもたらすことが科学的に予測されている。
弥富市は、その市域の大部分が海抜ゼロメートル地帯に属し、広範な地域が砂および泥を主とした軟弱な地層で形成されていることに加え、南部の海岸一帯が埋立地であるという地形的・地質的特性を有している。
このため、地震発生時の液状化リスクが極めて高く、海岸や河川護岸が破堤した場合には、市域のほとんどが深刻な浸水被害に見舞われることが想定されている。
本提案書の核心的命題は、来るべき巨大災害の発生を所与の前提とし、災害後の復旧・復興段階において都市の安全性が後退することを防ぐための「事前復興(事前防災)」の法的枠組みを、平時である現在のうちに構築することにある。
具体的には、建築基準法第39条に基づく「災害危険区域」の指定と建築制限を定めた条例の制定である。
大災害が発生し、市内で数千棟規模の家屋の全壊・流失が生じた際、被災した市民は生活再建のために一斉に住宅の建て替えを開始する。
この極めて混乱した復興期において、建築物の床の高さや構造に対する厳格かつ明確な条例(法的規制)が存在しなければ、多くの市民は経済的負担の軽減や早期再建を優先し、被災前と同じ低い地盤高のまま、あるいは水圧や漂流物に脆弱な構造で住宅を再建してしまう蓋然性が極めて高い。
このような事態が生じれば、将来再び高潮や津波が襲来した際に全く同じ人的・物的被害が繰り返されるという、都市計画における致命的な失敗を意味する。
災害が発生した直後に、被災して疲弊している市民に対して新たな建築制限(財産権の制限)を伴う条例を提案し、合意形成を図ることは政治的にも実務的にも不可能に近い。
したがって、災害が起きる前の平時にこそ、災害後の復旧が適正かつ安全な方向へと導かれるための強力なガイドラインとして、本条例を制定しておくことが極めて有用(UE)かつ不可欠な事前防災施策となる。
この理念を具現化するにあたり、最も合理的かつ実証的なモデルとなるのが、昭和34年(1959年)に甚大な被害をもたらした伊勢湾台風の教訓から、名古屋市が昭和36年(1961年)に制定した「名古屋市臨海部防災区域建築条例」である。
本提案は、この名古屋市の条例が持つ高度な防災思想と規制内容を精査し、その条文構成をそのまま弥富市の地理的・社会的条件に適用させた「弥富市版・臨海部防災区域建築条例」の制定を強く推奨するものである。
弥富市の地理的脆弱性と南海トラフ巨大地震による被害想定の客観的分析
条例制定の科学的根拠を明確にするため、弥富市が直面する災害リスクとその被害規模について、最新の調査データに基づき詳細に分析する。
弥富市は濃尾平野の南端に位置し、木曽川、長良川、揖斐川のいわゆる木曽三川の河口部に接する水郷地帯である。
この地理的条件は、豊かな水資源をもたらす一方で、水害に対して本質的な脆弱性を抱えていることを意味する。
愛知県が公表した「東海地震・東南海地震・南海地震等被害調査結果」を基に策定された弥富市地域防災計画の被害想定は、都市の存続そのものを揺るがす極めて深刻な数値を示している。
以下の表は、市全体の全壊・焼失等数の合計が最大となる「冬夕方18時(地震:陸側ケース、津波ケース①)」における弥富市の建物および人的被害の想定を整理したものである。
(出典:弥富市地域防災計画に基づく地震・津波被害想定)
この想定データから導き出される最も重要な知見は、弥富市における被害の圧倒的多数が、地震の直接的な揺れではなく、その後に発生する「津波および浸水」に起因しているという事実である。
建物全壊数の約68%(5,400棟)、および死者数の約91%(1,100人)が水害によるものと予測されている。
さらに、津波避難シミュレーションに基づく最大浸水分布予測(最大想定モデル 津波ケース①)によれば、南部の一部地域を除く居住地のほとんどが、1メートル以上から4メートル未満、局地的には2メートルから5メートルの深刻な浸水域となることが予測されている。
このことは、市街地の広範なエリアにおいて、一般的な平屋建て住宅や1階部分の居住空間が完全に水没し、住民の生命に直接的な危害が及ぶ絶対的な危険性が存在することを示唆している。
また、弥富市をはじめとする伊勢湾岸の低地帯においては、地盤の高さを評価する上で標準的な東京湾平均海面(T.P.)に加えて、名古屋港基準面(N.P.)という独自の標高基準が用いられている。
N.P.は名古屋港の平均的な海面をゼロメートルとして設定したものであり、T.P.±0メートルは概ねN.P.(+)1.412メートルに相当する。
現在、弥富市内には地震に伴う津波や大雨に備えるため、T.P.基準の海抜表示とともにN.P.基準での高さが併記された標高サインが設置されている。
後述する名古屋市の条例がN.P.を基準として建築物の床高を厳格に算定しているのと同様に、弥富市においてもこのN.P.基準を採用し、浸水予測深(1メートル〜4メートル)を上回る安全な居住高さを強制力をもって確保することが、唯一かつ確実な減災手法となる。
「事前復興」の枠組みとしての建築規制条例の戦略的意義
災害発生後の復興プロセスにおいて生じる構造的な課題と、本条例が「事前復興」のツールとしていかに機能するかについて、都市計画と法制の観点から論考する。
復興期における規制の空白とスプロール的再建の危険性
前述の通り、南海トラフ巨大地震によって弥富市内では約7,900棟もの建物が全壊し、未曾有の復旧・復興事業が開始される。
このフェーズにおいて最も懸念されるのは「規制の空白」である。
市民は仮設住宅や避難所での不自由な生活から一日も早く脱却するため、自らの敷地において速やかに住宅の再建を図ろうとする。
この時、法的拘束力を持つ高さ制限や構造制限が存在しなければ、建築コストを最小限に抑えるため、旧来通りの低い基礎の上に、津波の水圧に耐えられない安価な木造建築物が無秩序に再建されることとなる。
災害危険区域のうち、特に住民の居住に適当でないと認められる区域については、住居の集団移転を促す「防災集団移転促進事業」などの適用も想定されるが、市街地全域を集団移転させることは現実的ではない。
大部分の市民は現地での再建を選択する。もし災害が起きてから、行政が「今後の水害に備えて1階の床を1メートル以上高くしてください」という条例を議会に提案した場合、すでに設計や契約を進めている被災市民から強烈な反発を招くことは火を見るより明らかである。
結果として、行政は復興のスピードを優先せざるを得なくなり、都市の脆弱性を温存したまま街が再建されてしまう。
事前復興による被災後の負担軽減と安全の自動的担保
平常時に進めている「防災都市づくり」の実践と併せて「事前復興」の取組を進めることにより、復興のスピードが確保されるとともに、より良い復興が実現できるという学術的・行政的コンセンサスが近年確立されつつある。
事前に復興に関する課題解決の枠組み(ルール)を定めておくことで、被災後の復興に要する時間やエネルギー、行政と市民との間の合意形成にかかる負担は劇的に軽減される。
建築基準法第39条は、地方公共団体が条例で、津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を「災害危険区域」として指定し、住居の用に供する建築物の建築の禁止や、災害防止上必要な建築物の敷地及び構造に関する制限を定めることができると規定している。
この法律の授権に基づく条例を「今」制定しておくことは、将来の大災害後における数千棟の建て替えが、自動的かつ強制的に安全な基準(適切な床高と構造)を満たした状態で実行されることを担保する。
つまり、本条例の存在そのものが、復旧プロセスを適正化し、次なる災害での人命喪失をゼロに近づける究極の「事前防災システム」として機能するのである。
先行事例:名古屋市臨海部防災区域建築条例の構造的卓越性
弥富市版条例の設計図となる「名古屋市臨海部防災区域建築条例」は、机上の空論ではなく、実際の甚大な災害経験から生み出された極めて実践的な法体系である。
昭和34年9月に名古屋市を襲い、未曾有の犠牲者を出した伊勢湾台風(最高潮位N.P.+5.31メートル)を直接の教訓として、二度と同じ被害を繰り返さないという決意のもと、「名古屋市災害対策要綱」の一環として昭和36年6月1日に施行された。
この条例の卓越性は、都市を画一的に規制するのではなく、災害の危険度と都市機能の性質に応じて区域を緻密に分類し、合理的な制限を課している点にある。その中核となる規制の構造は以下の通りである。
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段階的な区域指定(第1種〜第4種) 名古屋市の条例では、熱田区、中川区、南区の一部および港区の全域を対象とし、危険度に応じて4つの区域に細分化している。直接高潮の危険に晒される海岸沿いを「第1種区域」とし、出水危険のある既成市街地を「第2種区域」、内陸部を「第3種区域」、そして避難場所が少なく建物単体での安全性確保が強く求められる市街化調整区域を「第4種区域」と定義している。
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厳格な床高制限(N.P.基準の適用) 浸水から人命と財産を守るための絶対的な防衛線として、1階の床の高さを定めている。最も危険な第1種区域では、1階床高をN.P.(+)4メートル以上と規定し、第2種から第4種区域においても一律にN.P.(+)1メートル以上とすることを義務付けている。
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居住性に基づく構造および階数制限 第1種区域では主要構造部を木造とすることが禁止され(小規模な非居室を除く)、耐水構造が要求される。さらに人命保護を最優先とし、海岸線から50メートル以内の指定区域では、居住室を有する建築物(住宅、病院等)の建築自体が原則禁止される(ただし、非木造で居住室の床高がN.P.+5.5メートル以上の場合は建築可能という回避措置が設けられている)。 また、第2種および第4種区域において居住室を設ける場合は、原則として「2階建て以上(2階以上の階に居室を設けること)」が義務付けられる。これは、床上浸水時に確実な垂直避難空間を確保するための措置である。
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例外措置(平屋建ての許容条件) 厳格な規制を敷きつつも、一定の安全基準を満たせば柔軟な建築を認める仕組みが用意されている。第2種・第4種区域において平屋を建築する場合でも、1階居室の床高そのものをN.P.(+)3.5メートル以上とするか、あるいは延べ面積が100平方メートル以内のものであれば、小屋裏(天井裏)に容易に屋根上へ脱出できる「避難室」または「避難設備」を設けることで建築が許可される。
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公共・防災拠点の強靱化 避難所や救助の拠点となる学校、病院、官公署、児童福祉施設等については、第1種区域を除き、1階の床高をN.P.(+)2メートル以上、かつ居室の床高をN.P.(+)3.5メートル以上とし、主要構造部を木造以外にすることが義務付けられている。これにより、災害発生時に地域コミュニティの命綱となる施設が機能不全に陥る事態を防いでいる。
なお、本条例そのものには罰則規定が設けられていないが、これは規制の成果を建築関係者や市民の自主性に期待したものであり、故意に条例に違反した場合には、建築基準法第9条に基づく是正命令が下され、これに従わない場合は同法の罰則が適用されるという強力な執行力も担保されている。
弥富市版・臨海部防災区域建築条例(案)の詳細設計と条文構成
前述の名古屋市条例の理念、法的構造、および具体的な数値基準(N.P.に基づく床高、階数制限、例外措置)は、同様の地勢的課題を抱え、巨大津波の脅威に直面している弥富市にとって、そのまま適用可能であり、かつ極めて実効性の高いものである。
以下に、名古屋市の条例を基盤として、弥富市の行政区域において建築基準法第39条の効力を発揮させるための「弥富市臨海部防災区域建築条例(案)」の全容を、法的記述の形式をもって提案する。
弥富市臨海部防災区域建築条例(案)
第一章 総則
第1条(趣旨)
建築基準法(昭和25年法律第201号。以下「法」という。)第39条の規定による災害危険区域としての臨海部防災区域の指定及びその区域内における災害防止上必要な建築物の敷地及び構造に関する制限は、この条例の定めるところによる。
第2条(臨海部防災区域の指定)
次の区域を臨海部防災区域に指定する。 弥富市の区域のうち、市長が別に定める津波等浸水想定区域及び高潮浸水想定区域の全域。
第3条(臨海部防災区域の種別)
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臨海部防災区域を次の4種に区分する。
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第1種区域:直接高潮及び津波による危険のおそれのある区域(主として伊勢湾岸部及び木曽川等の河口部に接する区域)
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第2種区域:出水による危険のおそれのある既成市街の存する区域(第3種区域を除く。)
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第3種区域:出水による危険のおそれのある内陸部既成市街の存する区域
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第4種区域:都市計画法(昭和43年法律第100号)第7条第1項により定められた市街化調整区域であり、災害時の避難及び救助が困難となるおそれのある区域
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前項に規定する臨海部防災区域の種別区域の詳細な境界は、規則で定める。
第4条(高さの算定方法)
この条例において建築物の床の高さは、名古屋港基準面からの高さ(以下「N・P(+)」という。)とし、測量法(昭和24年法律第188号)に規定する水準点等を基準として算定する。
第5条(用語の定義)
この条例において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1) 居住室:居住のために使用する居室をいう。
(2) 避難室:避難の用に供するため平家建の建築物の小屋裏又は天井裏に設ける居室以外の室で、次のア及びイに掲げる構造としたものをいう。 * ア:床面積の合計は建築物の建築面積の8分の1以内、床の高さはN・P(+)3.5メートル以上であること。 * イ:容易に屋根上に脱出できる開口部を有すること。
(3) 避難設備:屋根上に脱出するための屋内からの階段若しくははしご及び脱出口をいう。
第二章 建築制限及び構造制限
第6条(居住室を有する建築物等の建築禁止)
第1種区域内においては、海岸線又は河川護岸線からの距離が50メートル以内で市長が指定する区域内に住宅、併用住宅、共同住宅、寄宿舎、下宿その他の居住室を有する建築物、病院及び児童福祉施設等(建築基準法施行令第19条第1項に規定する児童福祉施設等をいう。以下同じ。)を建築してはならない。ただし、次の各号に定める構造の建築物については、この限りでない。
(1) 主要構造部が、木造以外の建築物であること。
(2) 居住室、病院の病室及び児童福祉施設等の主たる用途に供する居室の床の高さが、N・P(+)5.5メートル以上の建築物であること。
第7条(建築物の1階の床の高さ) 臨海部防災区域内において建築物を建築する場合においては、建築物の1階の床の高さは、臨海部防災区域の種別に応じて、それぞれ次の表に定めるところによらなければならない。
第8条(建築物の構造等)
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第1種区域内において建築物を建築する場合においては、主要構造部が木造以外の建築物としなければならない。ただし、居室を有しない建築物で延べ面積が100平方メートル以内のものについては、この限りでない。
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第2種区域内及び第4種区域内において居住室を有する建築物を建築する場合においては、2階以上の階に居室を設けなければならない。ただし、第2種区域内においては次の各号の一に、第4種区域内においては第1号又は第2号に該当する場合においては、この限りでない。 (1) 1階の1以上の居室の床の高さが、N・P(+)3.5メートル以上であること。 (2) 2階以上の階に居室を有する建築物又は前号に該当する建築物が同一敷地内にあること。 (3) 延べ面積が100平方メートル以内の建築物で、避難室又は避難設備を有するものであること。
第9条(公共建築物の床の高さ及び構造)
臨海部防災区域内において、学校、病院、集会場、官公署、児童福祉施設等その他のこれらに類する公共建築物(当該用途に供する建築物の部分を含む。以下同じ。)を建築する場合においては、第1種区域内を除き、次の各号に定めるところによらなければならない。ただし、延べ面積が100平方メートル以内の公共建築物は、この限りでない。
(1) 公共建築物の1階の床の高さが、N・P(+)2メートル以上であること。
(2) 公共建築物の1以上の居室の床の高さが、N・P(+)3.5メートル以上であること。ただし、床の高さがN・P(+)3.5メートル以上である居室を有する公共建築物が同一敷地内にある場合は、この限りでない。
(3) 主要構造部が、木造以外の建築物であること。
第三章 制限の緩和及び適用除外
第10条(特殊の用途に供する建築物等に関する制限の緩和)
臨海部防災区域内において建築物を建築する場合において、その建築物又は建築物の部分が次の各号の一に該当するものであるときは、第1種区域内を除き、当該建築物又は当該建築物の部分については、第7条及び第9条の規定によらないことができる。
(1) 巡査派出所、公衆便所その他これらに類する用途に供する建築物
(2) 船着場、木材集積場その他これらに類する用途に供する建築物
(3) 自動車車庫、電車車庫その他これらに類する用途に供する建築物
(4) 工場、事業場等における作業場その他これらに類する用途に供する建築物
(5) 居室を有しない建築物又は居住室を有しない附属建築物
(6) 店舗、事務所その他これらに類する用途に供する建築物
第11条(仮設建築物等に対する制限の緩和)
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法第85条第6項の規定により、市長が1年以内の期間を定めてその建築を許可したものについては、第7条から第9条までの規定は、適用しない。
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この条例の規定の施行の際現に存する建築物を増築又は改築する場合において、当該増築又は改築に係る部分で周囲の状況によりやむを得ないと認められるもの及び当該増築又は改築に係らない部分については、第6条から第9条までの規定は適用しない。
市民への分かりやすい提案理由と合意形成に向けた対話戦略
都市計画に関する規制や建築制限を伴う条例の導入は、市民の財産権に対する一定の制約を包含するため、その制定プロセスにおいて市民からの深い理解と強固な合意形成が不可欠である。行政がトップダウンで規制を押し付けるのではなく、市民一人ひとりが「自らの命と財産、そして次世代の弥富市を守るための不可欠なルールである」と深く納得できるコミュニケーション戦略を展開する必要がある。
公聴会や市民向けの説明会、広報誌等において展開すべき提案理由の論理構築は、以下の四つの柱を中心に行うことが効果的である。
第一に、「南海トラフ地震という確実な未来への備え」である。
近い将来、弥富市において最大5メートルの津波・浸水被害が発生し、数千棟が全壊するという科学的予測を真摯に共有する。
その上で、「被災後、皆様が懸命に再建した新しいご自宅が、数十年後の台風や高潮で再び水没してしまう悲劇を絶対に防がなければならない。
そのために、建物を建て直す際の『安全な高さと構造のルール』を今から決めておくことが、被災後の適正な復旧を約束する唯一の手段である」という「事前防災」の意義を平易な言葉で説く。
第二に、「隣接する大都市における60年以上の成功実績」である。
この条例が突飛な思いつきや実験的な規制ではなく、名古屋市において昭和34年の伊勢湾台風という極限の犠牲の上に構築され、現在まで60年以上にわたり都市の安全を実証してきた確固たる基準であることを強調する。
弥富市と同じゼロメートル地帯を抱える名古屋市で市民生活と両立しながら運用されているという事実は、市民に対して極めて高い説得力と安心感をもたらす。
第三に、「一律の禁止ではなく、命を守るための設計の工夫を促す仕組み」であることの周知である。
市民から最も懸念されるのは、「この条例ができると、高齢化に伴い需要が高まっている平屋建て住宅が一切建てられなくなるのではないか」という誤解である。
この懸念に対しては、第2種区域等の特例条項を丁寧に解説する。
具体的には、「延べ面積100平方メートル(約30坪)以内の住宅であれば、小屋裏に屋根上へ逃げられる『避難室』や天窓(トップライト)などの脱出設備を設ける工夫をしていただくことで、平屋でも建築可能である」という事実を提示する。
万が一水が来ても、建物の構造を利用して確実かつ容易に高い場所(N.P.+3.5メートル以上)へ垂直避難できる仕組みさえ担保されていれば、平屋での生活設計は十分に可能であることを伝える。
第四に、「罰則による縛りではなく、地域社会全体で安全基準を共有するガイドライン」であるという位置づけである。
本条例は、市民や地元の建築士、工務店が「浸水深を上回る設計」を当たり前の前提として共有するための共通言語となる。
家を建てる際の標準仕様がこの条例によって底上げされることで、将来的に弥富市の不動産価値や居住安全性が向上するというポジティブな未来図を提示する。
行政実務における運用課題と将来展望
本条例の制定後、行政実務において適正かつ円滑な運用を図るためには、事前の綿密な準備が必要となる。
まず、高さ算定の基準となるN.P.(名古屋港基準面)の可視化と周知徹底である。
現在、弥富市内にはT.P.基準の海抜表示とともにN.P.が表示された標高サインが設置されているが、建築士が個別の敷地における計画地盤高を正確に測量し、確認申請図書に明示するためには、より細密な基準点ネットワークの整備が必要である。
名古屋市の臨海防災区域に見られるような、N.P.高さを測量表示した「N.P.電柱」の普及や、地理情報システム(GIS)を活用したウェブ上での基準点データの公開が急務となる。
次に、地域特性に応じた第1種から第4種区域の精緻な線引き(ゾーニング)である。
名古屋市の区分論理に準拠しつつ、弥富市の都市計画(市街化区域、市街化調整区域、既存集落の分布)や、既存の海岸防潮堤および河川堤防の整備状況、ハザードマップにおける浸水深予測を重層的に分析し、不公平感が生じないよう合理的な境界線を決定しなければならない。
特に、居住自体を制限する第1種区域(海岸線・河川護岸から50メートル以内の指定区域)の設定については、市民の財産権への影響が最も大きいため、パブリックコメント等を活用した慎重なプロセスが求められる。
また、既存不適格建築物への対応についても明確な方針を示す必要がある。
本条例は、施行時に既に存在している建築物に対して直ちに取り壊しや改修を強制するものではない(条例案第11条第2項)。適用されるのはあくまで将来の「新築・建て替え(増改築)時」である。
行政としては、建物の耐用年数が到来し、リフォームや建て替えが検討されるタイミングを捉え、防災に関する補助金制度などと連動させながら、段階的に条例基準を満たした強靱な建物への更新を誘導していく戦略的なインセンティブ設計が求められる。
結論
弥富市が直面している最大のリスクは、ゼロメートル地帯という避けることのできない地形的宿命と、目前に迫る南海トラフ巨大地震による未曾有の水没被害である。
地震の揺れによる直接的な破壊に加え、津波や高潮によって市街地の大部分が1メートルから4メートルの深さで浸水し、既存の建物の多くが致命的な被害を受けることは、科学的予測に基づく不可避の現実である。
この苛酷な現実に対して、行政が取り得る最も責任ある真摯な対応は、災害が発生して街が瓦礫の山と化してから泥縄式に復興計画を議論することではない。
被災後、無秩序に脆弱な建物が再建され、再び次の水害で命が失われるという負の連鎖を断ち切るために、「安全な高さと構造で建物を再建するための絶対的なルール」を、平時である今のうちに法的に確定しておくことである。これこそが「事前復興」の真髄である。
伊勢湾台風という極限の犠牲を教訓として名古屋市が構築し、半世紀以上にわたって臨海部の安全を担保し続けてきた「臨海部防災区域建築条例」の精緻なロジックは、弥富市がそのまま採用すべき完成された政策パッケージである。
本提案書において提示した条例案は、建築基準法第39条に基づく法的な強制力を持ちながらも、避難室の設置を条件とした平屋建ての許容など、地域の居住実態に配慮した柔軟性を十分に備えている。
本条例の制定に向け、市民に対し「いよいよ来るべき大災害後の適正かつ迅速な復旧のために、今のうちに設ける命のためのルールである」という事前防災の真義を真摯に語りかけ、強固な合意を形成すること。
それにより、弥富市は巨大災害という未曾有の危機を乗り越え、次世代に対して「真に災害に強く、持続可能なまち」を確実かつ誇りを持って引き継ぐことができると確信する。