愛知県弥富市向け「人事異動自己申告制度」総合提案書 サマリー
本提案書は、愛知県弥富市が直面する行政課題や職員の早期離職を防ぐため、職員の能力開発と組織の活性化を両立させる「人事異動に係る自己申告制度」の即時導入を強く提言するものです。
1. 背景とねらい
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現状の課題: 従来の「玉突き型」の一方的な人事異動は、職員のモチベーション低下や若手の早期離職を招いている。
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解決策: 職員自らがキャリア形成に関与できる「自己申告制度」の導入が必要。
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位置づけ: 導入検討中の「係長試験(能力実証)」と「自己申告制度(機会提供)」を表裏一体の最重要施策として同時並行で進めるべきである。
2. 先進事例(名古屋市・飛騨市)に学ぶ育成方針
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現場第一主義の徹底: 入庁後最初の約10年間を「適性見極め期間」とし、概ね3年ごとに3つの異なる部門(3年×3サイクル)を経験させる。
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川下から川上へ: 市民に密着した「現場」から始まり、管理・折衝部門を経て、政策立案という「川上」へと視座を高める計画的なジョブローテーションを実施する。
3. 自己申告制度の年間スケジュール
人事異動の決定プロセスと連動した標準的な運用サイクルは以下の通りです。
| 時期 | 実施主体 | プロセスと内容 |
| 4月 | 職員・直属上司 | 目標設定面談: 業務目標の設定と組織目標とのすり合わせ |
| 10月上旬 | 職員 | 自己申告書の提出: 達成状況、異動希望、今後のキャリアイメージの記入 |
| 10月中旬〜 | 職員・直属上司 | ヒアリング(面談): 申告書に基づく本音の対話と客観的フィードバック |
| 11〜12月 | 管理職・人事 | 全庁調整: 組織全体の戦略的な配置バランスと個人の意向を調整 |
| 2月 | 評価者 | 人事評価: 業績および能力の評価を確定(異動の客観的指標とする) |
| 3月 | 人事担当部署 | 内示・発令: 総合的な判断に基づく配置の決定 |
4. 制度成功の心臓部:管理職の絶対的責任
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面談の質が鍵: 10月の面談は単なる希望聴取ではなく、上司と部下が本音でぶつかり合う高度なマネジメントの場である。
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管理職の評価への直結: 部下を育成し、モチベーションを引き出せない管理職は昇任の対象から外すなど、管理職自身のマネジメント能力を測る厳しい評価基準を設ける必要がある。
5. 想定されるリスクと解決策(DXの推進)
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管理職の業務負担と評価のばらつき: 評価者訓練(アセッサートレーニング)を徹底し、全庁的な目線合わせを行う。
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頻繁な異動によるナレッジロス(知識の消失): クラウドを活用した業務マニュアルの共有や、タレントマネジメントシステム(人事評価システム)の導入など、業務インフラのDXを強力に推進する。
6. 弥富市への最終提言(アクションプラン)
中長期的な「庁内公募制度」への発展も見据え、直ちに以下の4点に着手することが求められます。
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自己申告制度の即時導入(次年度サイクルから直ちに開始)
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管理職の意識改革と評価連動(部下育成能力を管理職の昇任要件とする)
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DXによる制度運用の下支え(マニュアルのデジタル化と人事システムの導入)
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係長試験との一体的運用(実力主義・意欲重視の組織文化の確立)
愛知県弥富市における人事異動自己申告制度の導入および次世代型人材育成基盤の構築に関する総合提案書
1. 自治体経営のパラダイムシフトと人事異動の戦略的意義
地方自治体を取り巻く環境は、人口減少、少子高齢化、激甚化する自然災害、そして多様化・複雑化する住民ニーズなど、かつてない規模の構造的課題に直面している。
限られた財源と人的資源のなかで行政サービスの質を維持・向上させるためには、自治体経営の在り方そのものを根本から見直す必要がある。
この変革の中心に位置づけられるべき最大の経営資源は「職員」に他ならない。組織において、職員の潜在能力をいかに引き出し、最適な配置を行うかは、組織の存亡を左右する極めて重要な要素である。
まさしく「職員を生かすも殺すも人事」であり、人事異動の仕組みこそが行政経営の要諦であると言える。
現在、多くの自治体では過去の慣例や年功序列に基づく、いわゆる「玉突き型」の一方的な人事異動が依然として行われているケースが散見される。
しかし、職員個人の意向、適性、キャリアビジョンを無視した硬直的な配置は、職員のモチベーション低下や疲弊感の増大を招き、ひいては次代を担う若手職員の早期離職を引き起こす重大な要因となっている。
これに対処するため、全国の先進的な自治体では、職員自らがキャリア形成に主体的に関与できる「自己申告制度」や「庁内公募制度」の導入が急速に進んでいる。
本報告書は、愛知県弥富市に向けて、職員の能力開発と組織の活性化を両立させるための「人事異動に係る自己申告制度」の導入を提案するものである。
名古屋市や岐阜県飛騨市などの成功事例をモデルとしつつ、それらの表層的な仕組みだけでなく、背後にある育成哲学を紐解き、弥富市の文脈に落とし込んだ制度設計の具体策を提示する。
本制度の導入は、弥富市において既に実施または検討されている係長試験等の能力実証プロセスと表裏一体をなすものであり、同時並行的に、かつ最優先で取り組むべき組織改造の核心である。
2. 先進自治体におけるキャリア形成モデルの解剖
自己申告制度を弥富市に導入するにあたり、ゼロから制度を構築するのではなく、既に全国で実践され、確実な効果を上げている先行事例のメカニズムを解剖し、そのエッセンスをそのまま採用しつつ最適化していくアプローチが最も効率的である。
ここでは、特に示唆に富む名古屋市と飛騨市の取り組みを詳細に分析する。
2.1 名古屋市における「職務状況申告制度」と川下から川上へのキャリアパス
名古屋市役所では、職員の自律的なキャリア形成を支援するため、「職務状況申告制度」を中心とした多角的かつ体系的な人事異動制度を構築している。
この制度の根底には、若手職員の適性を組織的かつ意図的に見極めようとする明確な育成方針が存在する。
名古屋市では、採用から概ね10年目までを「ジョブローテーション期間」として明確に位置づけている。
この期間中は、本庁と区役所などの出先機関、あるいは業務内容の全く異なる部門間を、概ね3年に1度のペースで計画的に異動する慣例が厳格に運用されている。
若いうちに複数の部署を経験させることで、市役所の多様な業務の全体像を把握させるとともに、職員自身に適性を見極めさせる狙いがある。
この3年ごとの異動は、単なる水平移動ではなく、職務の視座と専門性を段階的に引き上げる構造を持っている。
例えば、土木・緑政部門における典型的なキャリアパスを辿ると、その戦略性が浮き彫りになる。入庁後最初の3年間は、各区に配置されている土木事務所(例:西土木事務所)のような最前線の「現場」に配属される。ここでは、現場の維持管理、市民からの苦情対応、小規模な修繕など、行政のあらゆる基礎業務を総合的に経験する。これは民間企業の小売業において、まずは現場の店舗の店長を経験させることと同義であり、行政サービスの末端がどのように機能し、市民生活に直結しているかを体感させる重要なフェーズである。
現場での3年間を経た後、次の3年間は本庁の管理部門(例:緑地管理課)へ異動し、条例の運用や他機関・他部局との折衝、法的手続きなどの行政の骨格となる業務を担う。
ここで対外折衝能力や行政手続の正確性を養う。
さらに次の3年間で、実際の施設整備や設計業務(例:緑地施設課)に携わり、公園づくりなどのプロジェクトマネジメントの基礎を学ぶ。
そして概ね10年目以降のフェーズにおいて、マスタープランの策定や都市計画を含む全体的な企画立案部門へと進む。
このように、現場というミクロな「川下」の視点から始まり、管理、設計を経て、マクロな政策立案という「川上」へと視座を高めていく育成方針が、ジョブローテーションの中に深く組み込まれているのである。
このローテーションを機能させている中核システムが、毎年実施される自己申告(職務状況申告)である。
同一所属3年目以降になると、他所属への異動か現所属への残留かの希望を出すことが可能となる。
名古屋市のサイクルでは、年度初めに今年度の業務目標(自己目標)を設定し、10月頃に次年度以降の異動希望や、現在の部署であと何年研鑽を積みたいかといった意向を含む自己申告書を提出する。
この申告書を基に直属の課長と面談(ヒアリング)を実施し、人事部での検討を経て3月に結果が示されるという一連の流れが、組織のインフラとして完全に定着している。
2.2 飛騨市における「3年×3サイクル」とコンピテンシーの発掘
岐阜県飛騨市の都竹淳也市長が推進する人材育成方針も、人事異動を単なる配置転換ではなく「能力開発の場」として捉え直す上で極めて重要である。
飛騨市では、職員一人ひとりに権限を与え、自ら考えて行動できるリーダーを育成することを組織の至上命題として掲げている。
飛騨市における最大の特徴は、入庁してからの最初の約9年間を「3年×3サイクル」の適性見極め期間として戦略的に活用している点にある。
最初は前職の経験が活きる部署や、市民と直接接する現場からスタートし、以降は農業系、観光系など、全くタイプの異なる仕事を順次経験させる。
これは、単に様々な仕事をかじらせるためではない。異なる環境、異なる性質の業務を与えることで、その職員がどのような状況下でモチベーションを見出し、どのようなコンピテンシー(行動特性)を発揮するのかを、組織として、そして職員自身として見極めるための壮大な実験プロセスなのである。
例えば、ある職員は窓口での対人折衝において卓越した能力を発揮するかもしれないし、別の職員は法務やデータ分析といったバックオフィス業務で真価を発揮するかもしれない。
この最初の10年間で適性が見出された後は、その職員の強みが最も活きる部署に長期間配置し、専門性を徹底的に高めさせる「適材適所の配置」へと移行する。
また、飛騨市では介護現場の仕事を細分化し、国家資格がなくてもできる業務(掃除、洗濯、話し相手など)をシニア層に担ってもらう制度を創設するなど、既存の枠組みにとらわれない柔軟な行政運営を行っている。
このような革新的な政策を立案・実行できる人材を育てるためには、若いうちから多様な現場を経験させ、固定観念を打破する機会を提供することが不可欠であり、戦略的なジョブローテーションがその基盤となっている。
3. 弥富市向け「人事異動自己申告制度」の具体的設計と導入プロセス
先進自治体の事例分析を踏まえ、愛知県弥富市において即時導入可能であり、かつ高い効果をもたらす「人事異動自己申告制度」の詳細設計を提案する。
本制度は、弥富市において既に運用されている業績評価および能力評価の仕組みを補完し、職員のキャリア自律を強力に後押しするものである。
3.1 制度の基本コンセプトと係長試験との連動
本制度の中心的なコンセプトは、「対話を通じた適性の相互確認と、管理職による育成責任の明確化」である。
自己申告制度は、単なる異動希望のアンケート調査ではない。自己申告のプロセスを「自分を知る鏡」として機能させ、上司と部下がキャリアについて本音で語り合うための公式なプラットフォームを構築することに真の価値がある。
弥富市において検討されるべき「係長試験制度」とこの自己申告制度は、ある種の表裏一体の関係にある。
自己申告制度が、職員に成長の機会とキャリアの選択肢を提示する「機会提供のメカニズム」であるとすれば、係長試験は、その機会を通じて培われた能力を客観的に測定し、登用を決定する「能力実証のメカニズム」である。
この両輪が同時に機能して初めて、情実人事や年功序列を排した、真の適材適所と実力主義に基づく組織改造が完了する。
したがって、自己申告制度の導入は、係長試験の導入に次いで、あるいはそれと完全に並行して直ちに着手すべき最重要課題である。
3.2 若手職員のキャリアパス・ガイドラインの確立
自己申告制度を有効に機能させるためには、ベースとなるキャリアの道筋があらかじめ組織から提示されている必要がある。
名古屋市や飛騨市のモデルを弥富市に最適化し、「入庁後最初の約10年間で、原則として3つの異なる部門(概ね3年×3サイクル)を経験させる」という全庁的な人事ガイドラインを確立すべきである。
このローテーションの鉄則は「現場第一主義」である。
必ずしもすべての部署に物理的な「現場」があるわけではないが、最初の配属先は、窓口業務、福祉の最前線、土木建築の現場対応など、極力市民生活に密着した部署とする。
ここで、行政が誰のために、どのように機能しているのかという原体験を積ませる。
その後、3年ごとの異動において、対外的な折衝が求められる部署、法務や条例解釈など緻密な論理構築が求められる部署、そして中長期的な視点での企画立案が求められる部署へと、意図的に異なる性質の業務(異なるコンピテンシーが要求される環境)を経験させる。
これにより、職員は自らの適性を多角的に測ることができ、10年目以降のキャリアパス(どの分野のスペシャリストを目指すか、あるいはゼネラリストとしてマネジメントに進むか)を自己申告シート上に明確に描けるようになる。
3.3 年間スケジュールの設計と運用プロセス
人事異動の決定プロセスと連動した、年間を通じた自己申告制度の標準的な運用サイクルを以下のように設計する。
| 時期 | プロセス | 実施主体 | 目的・内容 |
|---|---|---|---|
| 4月(年度初め) | 目標設定面談 | 職員・直属上司(課長等) | 今年度の業務目標(自己目標)の設定と、組織目標とのすり合わせ。現在の職務を通じてどのようなスキルを研鑽するかの確認。 |
| 10月上旬 | 自己申告書(シート)の提出 | 職員 | 現在の職務の達成状況、自己評価、今後の異動希望(短期・中期のキャリアイメージ)、現在の職場でさらに研鑽を積みたい年数等の記入。 |
| 10月中旬〜下旬 | 自己申告に基づくヒアリング | 職員・直属上司(課長等) | 提出された自己申告書を基に、上司と部下がシビアかつ本音で話し合う。上司からの客観的なフィードバックとキャリア指導の実施。 |
| 11月〜12月 | 人事部門への報告と全庁調整 | 管理職・人事担当部署 | 各部署から上がってきた申告内容を集約。人事部主導で、組織全体の戦略的な配置バランスと個人の意向を調整する。 |
| 2月 | 人事評価基準日 | 評価者 |
弥富市の現行制度に従い、令和6年2月1日等の基準日で業績および能力の5段階評価を確定させる。このデータも異動配置の客観的指標とする。 |
| 3月 | 人事異動の内示・発令 | 人事担当部署 | 自己申告内容、直属上司の所見、人事評価、組織の戦略的ニーズを総合的に勘案した結果としての配置の決定。 |
4. 制度の心臓部:10月のヒアリングと管理職の絶対的責任
本制度の成否を握る最大の鍵であり、弥富市において最も注力すべきポイントは、10月に実施される直属上司(課長等の管理職)による「ヒアリング(面談)」の質である。
この面談は、単なる希望聴取の場ではない。職員と組織のベクトルを合わせるための、極めて高度なマネジメントの場である。
4.1 シビアな本音の対話とメンターとしての役割
従業員が希望するキャリアと、組織が期待する役割や現在の本人の実力には、しばしば大きなズレ(齟齬)が生じる。
自己申告書において、ある職員が「市長室などの企画部門に行きたい」「秘書部門に行きたい」と希望を書いたとする。
あるいは逆に、「現在の仕事は面倒なので、もっと楽な部署に変えてほしい」と本音を記すかもしれない。
自己申告制度を通じてその齟齬を早期に把握できれば、従業員の不満を未然に防ぐ効果がある。
ここで直属の上司がどのように対応するかが、組織の成熟度を決定づける。
上司は、提出されたシートを前にして、単に「希望として上に伝えておく」と受け流すのではなく、メンターとして厳格かつ建設的なフィードバックを行わなければならない。
「企画部門に行きたいという意欲は素晴らしいが、いまのあなたには論理的思考力と文書作成能力がまだ不足している。
だから、今の部署であと1年間、この困難なプロジェクトを担当してその能力を伸ばせば、必ず希望にかなう実力がつくはずだ」といった具体的な指導を行う場なのである。
自分が上司からどう見られ、どのように評価されているのかを、異動希望シートを媒介にして互いにシビアに、かつ本音でぶつけ合うプロセスこそが、職員を飛躍的に成長させる。
4.2 管理職自身の能力評価への直結
逆の視点から見れば、この自己申告面談は「管理職自身が、管理職としての能力を有しているかを測るリトマス試験紙」である。
ピーター・ドラッカーが指摘するように、上司たる者は組織に対して、部下一人ひとりの強みを可能な限り生かす責任がある。
これからの自治体職員とは、自らの強みを生かし、創造的な挑戦をすることで組織に貢献できる存在でなければならない。
部下から「楽な部署に行きたい」「仕事が面倒だ」というネガティブな異動希望が出された時、それを単なる怠慢と切り捨てるのか、あるいは業務量の偏りやモチベーション低下の根本原因を探り、再びやる気を出させるよう導けるか。
そこできちっと部下の意見を聞き、適性を評価し、職員の育成に繋げられるかどうかこそが、管理職としての能力そのものである。
弥富市においては、この制度の導入に伴い「部下を育成し、その能力を引き出すことができない管理職は、管理職としての要件を満たしていない」という原則を徹底すべきである。
日々の業務をこなしながら、並行して部下を育成し、組織全体の能力を底上げできなければ、その管理職は更なる出世や昇任の対象から外されるという厳しい評価基準を設ける必要がある。
自己申告制度は、職員のキャリア形成ツールであると同時に、管理職のマネジメント能力を可視化し、評価するための強力なガバナンスツールとして機能する。
5. 自己申告制度がもたらす組織的効果の波及
自己申告制度が正しく機能した場合、弥富市役所という組織全体に以下のような多面的なパラダイムシフトをもたらす。
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組織エンゲージメントの劇的な向上と定着率の改善 従業員の意見や希望を公式な制度として受け止める姿勢は、組織に対する強固な信頼感を醸成する。自らのキャリアに対して組織が真剣に関心を寄せてくれているという安心感は、日々の業務へのモチベーションを高める。希望が100%通るわけではないにせよ、「自分の意向が無視されていない、声を聞いてもらえた」というプロセスそのものがエンゲージメント向上に直結し、若手職員の離職防止に極めて有効に機能する。
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公平かつ多面的な人事評価の実現 従来の一方的なトップダウン評価に頼らず、従業員が自身の業務実績や取り組み姿勢を自己申告することで、本人の自己評価も参考にした多面的な人事評価が可能となる。職員にとっても評価基準が透明化され、評価結果に対する納得感(フェアネス)が格段に高まる。
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隠れた人材の発掘と適材適所の最適化 職員の強みやキャリア志向をデータとして把握することで、企業戦略(自治体においては総合計画や重要政策)と従業員のキャリアを両立させる、より高度な適材適所の人員配置を行えるようになる。本人の得意分野を反映した配置は、業務効率を劇的に向上させる。
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主体的なキャリア形成(キャリア自律)の促進 毎年、自らのキャリアについて考え、言語化し、シートに記入することを制度として強いることで、職員は受動的な姿勢から脱却する。定期的にキャリアの意向を申告することで、自身の強みや課題を整理しやすくなり、主体的な学びやスキル習得へと向かう成長意欲を高める効果がある。
6. 制度導入・運用における想定リスクと解決策(DX推進の必要性)
自己申告制度および計画的なジョブローテーションは極めて有効な手法であるが、導入にあたってはいくつかの構造的課題が存在する。
これらのリスクを事前に予測し、制度設計の段階で解決策を組み込んでおくことが重要である。
6.1 人事部門・管理職の業務負担増と評価スキルの平準化
課題:
自己申告制度を導入すると、全職員分の申告内容の取りまとめや、一人ひとりに対する丁寧な面談の実施など、人事部門や管理職の業務量が必然的に増加する。
また、管理職のコミュニケーション能力や評価基準にばらつきがある場合、部署間で制度に対する満足度に格差が生じるリスクがある。
自治体において、導入しようとする人事評価制度が複雑になりすぎ、評価者にとって理解・運用のしにくいものになっていないかという点は常に警戒が必要である。
解決策:
この課題に対しては、評価者訓練(アセッサートレーニング)の徹底が不可欠である。制度の意義、面談の進め方、フィードバックの技術に関する訓練手法やテキストに工夫を凝らし、定期的に実施していく必要がある。
また、連絡調整会議を設け、部局間での意識や評価基準の統一を図ることや、人事当局によるばらつきの調整を行うことで、全庁的な目線合わせを図るべきである。
6.2 頻繁な異動によるナレッジロスと業務の属人化の打破
課題:
若手職員を中心に3年ごとのジョブローテーションを厳格化すると、特定の業務に関する専門知識が組織に蓄積されにくくなるという弊害が指摘される。
頻繁な人事異動により、新任者が「引き継ぎ資料やマニュアルが不足している」「業務の属人化が進んでいる」「業務フローが整理されていない」といった課題に直面し、スムーズなスタートダッシュの妨げになるケースが多い。
知識の継承不足(ナレッジロス)は、行政サービスの質を一時的に低下させる危険性を孕んでいる。
解決策:
これを克服するためには、人事異動制度の改革と並行して、業務インフラのDX(デジタルトランスフォーメーション)を強力に推進しなければならない。
デジタル基盤の未整備は人事異動時の混乱を助長するため、クラウドを活用したマニュアルの共有、業務プロセスの可視化と標準化が必須である。
さらに、自己申告書や面談記録を紙やExcelで管理するのではなく、クラウド型の人事評価システム(タレントマネジメントシステム)を導入することが強く推奨される。
システム化により、必要な人材情報を瞬時に検索でき、人事評価にかかる手間やコストを大幅に削減できる。
また、評価の基準や結果が明確になり、公平で透明感のある評価制度を実現することで、結果として職員のモチベーション向上につながる。
名古屋市でも、受検後速やかに個別相談につなげるため、実施時期を早め原則Web受検とするなどのシステム化が進められている。
7. 発展的構想:究極の適材適所「庁内公募制度」への昇華
自己申告制度が弥富市役所の組織文化として完全に定着し、職員の自律的なキャリア意識が十分に醸成された次の段階として、さらに高度な人事配置手法である「庁内公募制度」の導入を中長期的な視野で構想すべきである。
自己申告制度が個人の意向を「吸い上げる」仕組みであるならば、庁内公募制度は、組織の特定のニーズに対して個人の意欲を直接「マッチング」させる、よりアグレッシブな仕組みである。
愛知県や名古屋市の事例を見ると、公募制度には大きく分けて以下の類型が存在する。
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一般公募型(プロジェクト公募型) 所属部署が特定の業務を選定して全庁から職員を募集し、その中に自分の挑戦してみたい業務があれば応募し、選考に合格すれば希望の所属に異動できる仕組みである。愛知県では「STATION Ai プロジェクト推進業務」など、年間100近い業務でこの制度を活用した募集が行われている。弥富市においても、例えば新たな観光資源の開発、複合施設の建設プロジェクト、全庁的なDX推進本部などを立ち上げる際に、この一般公募型を用いることで、並々ならぬ熱意を持った優秀な人材を抜擢することが可能となる。
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自己申請型・立候補型異動希望申告制度 さらに一歩進んだ形態として、部署側が募集をかけるのではなく、職員自らが自らの能力やスキル、経験を、異動を希望する先の局・区・室に対してアピール(売り込み)し、合意が得られれば異動成立を目指すことができる制度がある。名古屋市ではこの「立候補型異動希望申告制度」が導入されており、限られた業務だけでなく、自分がやりたい仕事に何でもチャレンジできる環境が整えられている。この選択肢の多さが特色であり、希望の職務に就ける可能性を高めている。
公募制度は、職員のチャレンジ精神を尊重し、意欲や能力を直接職務に反映させることで、職員の士気の高揚と自立的なキャリア形成を強力に支援する。
しかし、最初から全庁的に公募制度を導入すると、人気部署への応募集中や、選考基準の不透明さによる混乱を招くリスクがある。
したがって、まずは自己申告制度を通じて「対話によるキャリア形成」の土台を固め、その上で一部の特命プロジェクト等から段階的に「一般公募型」を導入していくというロードマップを描くことが現実的かつ効果的である。
8. 結語:弥富市組織改造に向けた最終提言
これまで論じてきたように、「人事異動に係る自己申告制度」の導入は、弥富市役所という組織のOS(オペレーティングシステム)をアップデートするための最重要施策である。
それは単なる人事手続きの変更ではなく、組織風土そのものを「前例踏襲型の受動的組織」から「適材適所の自律的学習組織」へと根本的に転換するための戦略的なメカニズムである。
弥富市において直ちに実行に移すべきアクションプランは以下の通りである。
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自己申告制度の即時導入: 名古屋市や飛騨市等の実証されたモデルをベースに、弥富市の規模に最適化した自己申告制度の要綱を策定し、次年度のサイクルから直ちに導入すること。
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管理職の意識改革と評価連動: 10月のヒアリング面談を最重要プロセスと位置づけ、管理職の「部下育成能力」を厳格に評価すること。部下を育成できない管理職は昇任させないという強力なメッセージを全庁に発信し、管理職のマネジメント意識を強制的に引き上げること。
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DXによる制度運用の下支え: 計画的なジョブローテーションに伴うナレッジロスを防ぐため、業務マニュアルのデジタル化と標準化を推進するとともに、人事評価システムの導入により評価業務の効率化と透明性の確保を図ること。
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係長試験との一体的運用: 職員にキャリアの選択肢を提示する自己申告制度と、能力を客観的に実証する係長試験制度を車の両輪として機能させ、実力主義・意欲重視の組織文化を確固たるものにすること。
「職員を生かすも殺すも人事」である。自己申告制度を通じた血の通った人事対話と戦略的な配置を実現することが、弥富市役所の組織力を極限まで高め、ひいては弥富市民に対する最大級の行政サービスの還元に繋がる。本提案書で提示したフレームワークを起点として、弥富市が直ちに人事制度の抜本的改造に着手し、次世代を担う職員が躍動する組織へと進化を遂げることを強く期待する。
弥富市 人事異動に係る自己申告制度 実施要綱(案)
第1条(目的)
本要綱は、職員が自分自身を振り返り、将来のキャリア形成を考える機会とするとともに、その内容に基づき直属の上司と面談を行うことで職員の能力、適性、意向等を組織として把握し、人事異動や人材育成の参考にすることを目的とする。これにより、職員の自律的なキャリア形成を支援し、組織全体の活性化を図る。
第2条(対象者)
本制度の対象者は、原則として弥富市役所に勤務するすべての一般行政職員とする。
第3条(ジョブローテーションの原則)
若手職員の適性を早期に見極め、多様な行政経験を積ませるため、採用から概ね10年目までをジョブローテーション期間として設定する。この期間中は、原則として3年に1度のペースで業務内容や求められるコンピテンシーの異なる部署(現場部門、管理部門、企画部門など)を経験させるよう、計画的な異動を行うものとする。
第4条(自己申告書の提出)
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職員は、毎年1回、自己申告書を作成し、所定の期日(原則として10月上旬)までに直属の上司(課長等)に提出しなければならない。
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自己申告書には、現在の職務の達成状況、自己評価、次年度以降の異動希望(短期・中期的なキャリアイメージ)、および現在の職場でさらに研鑽を積みたい年数等を記載するものとする。
第5条(自己申告に基づくヒアリング)
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直属の上司は、提出された自己申告書に基づき、毎年10月中旬から下旬にかけて、当該職員とのヒアリング(面談)を実施しなければならない。
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面談においては、職員が希望するキャリアと組織が期待する役割との間に生じている認識の齟齬を早期に把握し、配置転換や研修等の能力開発の改善につなげるための建設的な対話を行うこととする。
第6条(管理職の責務と評価)
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管理職は、組織に対し、部下1人ひとりの強みを可能なかぎり生かす責任を負うものとする。
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自己申告制度の面談を通じて部下を適切に指導・育成し、その能力を最大限に引き出すことは管理職の最重要職務であり、この部下育成能力は、管理職自身の人事評価において厳格に評価されるものとする。
第7条(人事配置への反映)
人事担当部署は、各部署から提出された自己申告書、面談を通じた直属の上司の所見、および既存の人事評価結果(業績評価・能力評価)を総合的に勘案し、次年度の人事異動および将来的な庁内公募制度等の選考に活用するものとする。ただし、申告された異動希望は配置の参考として扱われるものであり、必ずしも希望の異動を確約するものではない。
第8条(秘密の保持)
本制度の運用に携わる者は、自己申告書およびヒアリングを通じて知り得た職員の個人的な情報や意向について、厳重に秘密を保持し、本要綱に定める目的以外に使用してはならない。
附則
本要綱は、令和X年X月X日より施行する。
こちらの要綱案をもとに、実際の市の組織体制や既存の規程に合わせて微調整を行っていただくことで、すぐにでも制度の骨格としてご活用いただけます。他に盛り込みたい項目や修正事項などがあれば、遠慮なくお知らせください。