改革の背景と現状の課題
現在の弥富市は、旧態依然とした人事制度や不透明な評価により、優秀な人材の「頭脳流出」とメンタルヘルス不調者の増加という深刻な危機に直面しています。
-
ピーターの法則の蔓延: 現場での実績のみで昇進させることで、マネジメント能力に欠ける管理職が量産され、組織の活力が失われている。
-
恣意的人事と自己申告の形骸化: 明確な基準のない「上から目線」の異動決定が、職員のモチベーションと心理的安全性を奪っている。
-
ガバナンスの崩壊: 公金紛失事件等の不祥事や縦割り行政の弊害により、組織の「ハンドル(戦略)」と「ブレーキ(内部統制)」が共に機能不全を起こしている。
組織を再生する「三位一体」の改革案
これらの課題を解決するため、相互に補完し合う3つの人事制度改革を提言しています。
1. マネジメント層の質的転換:係長昇任試験の導入
中間管理職の劣化を防ぎ、マネジメント意識を強制的に醸成するための厳格なフィルターとして試験を導入します。
-
公平公正な競争機会の提供: プレイヤーからマネージャーへの意識転換を図る。
-
昇任論文による評価: 単なる暗記ではなく、「問題意識」「論理性」「表現力」といったリーダーに不可欠な構想力と論理的思考力を客観的に採点する。
2. キャリアの自律を促す:自己申告・社内FA制度の刷新
人事部門が独占していた権限を分散させ、職員自らが希望部署に挑戦できる仕組みを構築します。
-
優秀な人材の離職防止: 市役所内に自己実現の場を提供し、外部への流出を食い止める。
-
心理的安全性の確保: ブラインド応募(eアピール等)や、年複数回の上司との対話を義務化し、形骸化を防ぐ。
3. 幹部人事のパラダイムシフト:庁内公募制と外部登用
市長・副市長が「組織の課題」と「求める人物像(コンピテンシー)」を明文化し、意欲と能力を持つリーダーを抜擢します。
-
重点ポストの公募: 部長級および組織の要となる4課長(企画政策、財政、人事秘書、防災)を公募対象とする。
-
外部人材の戦略的登用: 内部に適切な候補者がいない場合は直ちに民間登用に踏み切り、組織文化を打破する「劇薬」として活用する。
重点公募ポストと求められる要件(コンピテンシー)
特に公募の対象となる幹部ポストのミッションと必要な資質は以下の通りです。
| ポスト | 直面する主要課題(ミッション) | 求める中核コンピテンシー |
| 部長級 | 全庁的課題の解決、前例踏襲主義の打破 | 全体最適を見据えた構想力、高度な交渉・折衝力、決断力 |
| 企画政策課長 | 組織の統廃合、縦割り行政の打破 | 部門横断的な施策を組み立てる構想力・論理思考、交渉・折衝力 |
| 財政課長 | ガバナンスの再構築、限られた財源の戦略的配分 | 内部統制を担保するコンプライアンス・正確性、説明・説得力 |
| 人事秘書課長 | 人事制度改革の確実な運用、優秀層の離職防止 | 職員に共感する対人・感受性、適材適所を実現する人材活用・育成力 |
| 防災課長 | 海抜ゼロメートル地帯の災害リスク対応、インフラ管理 | 危機時の難問解決・決断力、多様な関係者を巻き込む協働する力 |
結論:自律的エコシステムの完成
「公募制」でビジョンを持ったリーダーを抜擢し、「社内FA制」で意欲ある職員を最適に配置し、「係長試験」で優秀な中間管理職を選抜する。この3つの制度が連動するエコシステムを構築して初めて、弥富市は「職員に選ばれる組織」へと生まれ変わり、過酷な地理的条件にあっても真に市民の命と生活を守り抜く盤石な行政体制を実現できると結論付けています。
弥富市組織人事改革アーキテクチャ:自律型組織への転換と幹部職員庁内公募制の構築
1. 序論:地方自治体における人的資源の危機と「選ばれる組織」への転換の必要性
現代の地方自治体は、未曾有の人的資源の危機に直面している。総務省等のデータが示す通り、地方公務員試験の競争倍率は過去10年間で7.9倍から4.1倍へと半減しており、一般行政職における30歳未満の自己都合退職者数は11年間で1,564人から5,010人へと3.2倍に急増している。
教員採用試験に至っては過去最低の2.9倍を記録するなど、公的セクター全体が構造的な人材獲得難に陥っている。
この「若者の公務員離れ」と「早期離職の連鎖」は、単なる人口減少に起因するものではない。旧態依然とした年功序列型のメンバーシップ型雇用、不透明な人事評価、そして硬直化した組織運営に対する、優秀な人材からの「静かなる拒絶」であると評価できる。
この全国的なマクロトレンドは、現在の弥富市において極めて深刻な形で顕在化していることが示唆される。
現在の同市の組織状況は、比喩的に言えば「ハンドルもブレーキも壊れた泥舟」と評されるほどのガバナンス不全に陥っている。
公金紛失事件における不十分な調査や責任転嫁、議案の提出と撤回を巡る行政的混乱など、内部統制(ブレーキ)と戦略的リーダーシップ(ハンドル)の双方が完全に機能不全を起こしている。
何よりも深刻なのは、現在の弥富市が「職員に選ばれる組織」として機能していないという事実である。
組織の細分化と縦割り行政の弊害により、日常的なダブルチェック体制や組織としての相乗効果が失われ、職員のモチベーションは著しく低下している。
この結果、二つの致命的な人的被害が生じている。
第一に、優秀な人材の頭脳流出(Brain Drain)である。
能力が高く、自己成長意欲の強い優秀な職員ほど、恣意的な人事や能力を発揮できない環境に見切りをつける。
彼らは、民間企業のコンサルティングファームや一流企業、あるいは、よりやりがいを実感でき、先進的な人事制度を持つ中核市や都道府県庁へと流出していく。
公務員試験を突破する地頭の良さを持つ層にとって、硬直化した組織に留まる理由はなく、この流出は自治体にとって取り返しのつかない損失である。
第二に、メンタルヘルス不調による休職・退職者の増加である。
適性を無視した恣意的な配置転換や、マネジメント能力を欠く上司の下での業務は、職員に過度な心理的負荷を与える。
精神疾患等による休職制度(最長3年等の規定)は整備されているものの、これはあくまで事後対応に過ぎない。
エンゲージメントが低く、心理的安全性が担保されていない職場では、職員が能力を十分に発揮できず、結果として心身を病んで組織を去るという事態が頻発する。
本報告書は、こうした「上から目線」の旧来型人材育成計画を脱却し、真の意味で職員の意欲と能力を引き出す自律型組織への転換を図るための具体的な制度設計を提示する。
特に、喫緊の課題である「係長昇任試験の導入」「自己申告(社内FA)制度の刷新」、そして本質的な変革のトリガーとなる「幹部職員(部・課長級)の庁内公募制度」の構築について、学術的知見と先進自治体の事例を踏まえて詳述する。
2. 人事行政の停滞を引き起こす構造的要因:ピーターの法則と恣意的人事
2.1. メンバーシップ型雇用の限界と「ピーターの法則」の蔓延
日本の地方自治体において長らく採用されてきた「メンバーシップ型雇用」は、職務(ジョブ)を限定せず、定期的なジョブローテーションを通じてジェネラリストを育成する手法である。
この制度は、高度経済成長期においては組織への忠誠心と安定性をもたらしたが、現在では「前例踏襲主義」と「専門性の欠如」の温床となっている。
この弊害を最も端的に表しているのが、アメリカの社会学者ローレンス・J・ピーターが提唱した「ピーターの法則(階層社会学)」である。
この法則は、「能力主義の階層社会では、人間は能力の極限まで出世する。
その結果、組織は無能な人間で埋め尽くされる」というメカニズムを指す。 例えば、特定の現場業務(例:窓口対応や特定の事務処理、あるいは優れた営業成績を上げるカースールスマン)で極めて優秀な成果を上げた職員が、その「実績」のみを評価されて「係長」に昇進すると仮定する。
しかし、現場での実務能力と、組織を管理し部下を育成するマネジメント能力は全く別次元のスキルである。
マネジメント能力を欠く人物が管理職ポストに就くと、そのポストにおいて「無能な係長」となり、それ以上の昇進が止まる。
結果として、組織のあらゆる階層が「その職責を果たせないマネージャー」によって占拠され、組織全体の活力が失われていく。
現在の弥富市において係長試験が存在せず、年功序列や不明確な基準で昇任が行われている現状は、まさにこの「ピーターの法則」を組織的に助長している状態である。
組織は「現状を打破する説明能力」「新たな価値を構築する想像力」「失敗を恐れず挑戦する行動力」を喪失し、職員の主目的が「自己のポストを守ること」へと変質する目標の置換(Goal Displacement)が発生している。
2.2. 恣意的人事異動と「自己申告」の形骸化
「昇進については適正に能力を評価し、異動についても適正に評価して行っている」という行政側の紋切型の答弁は、多くの場合、人事当局の主観的かつ閉鎖的な判断を正当化するためのレトリックに過ぎない。
明確なコンピテンシー(行動特性)モデルや客観的な評価基準が存在しない中での人事異動は、必然的に「恣意的」なものとなる。
本来、適正な人事異動とは、職員の有するスキル、経験、キャリアビジョンと、組織が求める役割(ジョブ)をマッチングさせる高度な戦略的行為である。
しかし、多くの自治体で実施されている従来の「自己申告制度」は、単なる希望調書の提出に留まり、人事異動の決定プロセスにおいて自身の希望がどの程度考慮されたかが職員にフィードバックされないブラックボックスとなっている。
この一方的な配置決定、すなわち「上から目線の人事」が、職員に「自分は組織の単なる歯車である」という無力感を植え付け、優秀層のモチベーションを決定的に削いでいるのである。
3. マネジメントの登竜門:係長昇任試験の戦略的導入と評価基準
現在、弥富市において大至急導入すべき制度の筆頭が「係長試験」である。
全国の自治体における係長職の昇任試験導入率は約26.3%(未導入が73.7%)であり、近年では神戸市のように、係長ポストの減少やワークライフバランスの重視、受験率の低下を理由に試験を廃止、あるいは選考へと切り替える自治体も散見される。
しかし、組織崩壊の危機にあり、前述のピーターの法則が蔓延していると推察される弥富市においては、マネジメント層の質的転換を図るための客観的フィルターとして、試験制度の導入が絶対的に不可欠である。
3.1. 係長試験導入の組織的意義と意識変革
係長昇任試験の最大のメリットは「公平公正な競争機会の提供」と「マネジメント意識の強制的な醸成」である。
名古屋市の事例に見られるように、試験を通じて「自分がいかに組織を動かし、監督者として部下を育てるか」を徹底的に言語化させるプロセスは、現場のプレイヤーからマネージャーへの意識転換(トランジション)を促す強力なツールとなる。
試験勉強を通じて得た行政法規、財務、人事管理に関する知識は、確実に職員の実務能力を底上げする。
また、ここでスクリーニングを行うことで、マネジメント適性のない職員が自動的に管理職へ昇進することを防ぎ、組織全体の劣化を食い止めることができる。
3.2. 昇任論文による評価基準の明確化と採点構造
係長試験における中核は「昇任論文」の評価である。
自治体の論文評価は、概ね以下の3つの評価基準に集約され、これらを細分化した5項目程度(各20点の100点満点等)で採点されるのが一般的である。
論文のテーマとしては、「職場活性化に向けた主任の役割」「係内の円滑なコミュニケーションの構築と成果を挙げる係運営」「職員の能力開発と個性を活かす指導」など、組織運営と部下育成に直結するものが頻出する。
| 評価基準(大項目) | 細分化される評価項目例 | 評価のポイントと係長職に求められる要件 |
| 問題意識 | 問題意識・理解力 |
当該自治体が抱える課題に対する認識の深さと視座の高さ。単なる担当者の視点ではなく、組織全体の運営や部門間の連携といった「係長(マネージャー)としての視点」で課題を捉えているかが問われる。 |
| 論理性 | 論理思考力 |
論理的な飛躍や矛盾がなく、筋道立てて結論を導き出しているか。原因分析から解決策の提示に至るプロセスが、客観的データや事実に基づき、説得力を持って展開されているかが評価される。 |
| 表現力 | 表現力・独創性・積極性 |
簡潔明瞭で誤字脱字がなく、他者に正確に意図を伝えられる文章力。エッセイのような主観的な記述ではなく、行政文書としての正確性と構成力を持つか。また、現状打破に向けた積極性や独創的なアイデアが含まれているか。 |
単なる暗記テストではなく、これらの厳格な評価基準に基づく論文試験を課すことで、市の未来を牽引する論理的思考力と構想力を持つ人材を発掘する設計とする必要がある。
4. 自律型キャリア形成を促す「自己申告・社内FA制度」の実質化
「適正にやっている」というトップダウンの建前を打破し、職員が自発的に弥富市でのキャリアを描けるようにするためには、実質的な機能を持つ「自己申告制度(社内FA制度)」への刷新が必要である。
4.1. 社内FA(フリーエージェント)制度の本質的価値
社内FA制度とは、従業員が自身のスキルや経験をアピールし、希望する部署と直接交渉して異動を実現する制度である。
従来の人事権を人事課が独占する体制から、各部署(需要側)と職員個人(供給側)とのマッチングへと権限を分散させる画期的なアプローチである。
この制度の導入は、以下の三つの巨大な組織的メリットをもたらす。
-
優秀な人材の離職防止(リテンション): キャリアチェンジの機会を外部(民間企業や他市)に求める必要性を低下させる。慣れた環境、雇用条件、福利厚生を維持したまま、自己実現の場を市役所内に見出すことができるため、配属不満による離職を劇的に防ぐことができる。
-
組織の活性化と新陳代謝: 職員の意欲とスキルを最適なポジションに結びつけることで、硬直化した組織に流動性をもたらす。自ら希望した部署へ異動できた職員は「自分が必要とされている」と感じ、高いモチベーションで業務に臨むため、組織全体の生産性が向上する。
-
戦略的な人材データベースの構築: 毎年の自己申告を通じて、「誰に何ができるのか」「どのポジションに適しているのか」をデータベース化することで、将来的なプロジェクトアサインや最適な人材配置が可能となる。
4.2. 制度の形骸化を防ぐ運用プロセス
自己申告制度が「単なる紙切れ」に終わるのを防ぐためには、プロセスに透明性と心理的安全性を組み込む必要がある。
第一に、eアピール制度のようなブラインド応募の仕組みである。選考に合格するまで現所属部門に通知されない仕組みを取り入れることで、上司の目を気にせず、職員が幅広い視点から自由に積極的な応募を行うことが可能となる。
第二に、対話の義務化である。
札幌市などのように、年複数回(例えば年3回)の上司との面談を必須とし、自身の業務目標や成果の振り返り、将来のキャリアビジョンについて話し合う成長支援の場として機能させなければならない。
これにより、「意見を聞いてもらえない」という職員の不満を構造的に解消する。
5. 幹部人事のパラダイムシフト:部長級および重点4課長ポストの庁内公募制導入
本報告書の核心である「幹部人事(部・課長級)の庁内公募制度」の構築について論じる。
恣意的な人事を排除し、組織の方向性を統一するためには、市長・副市長を中心とするトップマネジメントが「現在の市において何を解決すべきか」を明確化し、それに共鳴する情熱と能力を持った職員を抜擢するシステムが必要である。
5.1. 庁内公募制の二重の戦略的意義
愛知県庁や神戸市、あるいは多くの先進自治体で導入されている庁内公募制度(やりたい仕事挑戦制度等)は、職員のチャレンジ精神を尊重し、意欲・能力を直接職務に反映させるものである。
愛知県の事例では、一般公募型、事業提案型、自己申請型の3つのルートが用意されており、職員が自らのキャリアについて主体的に考え行動するチャンスを平等に与えている。
これを幹部(管理職)人事に適用することには、単なる異動希望の聴取を超えた二つの本質的な意味がある。
-
経営課題の全庁的な明確化: ポストを公募する際、市長・副市長は「その職において当面何が課題か」「何を解決してほしいか」を募集要項(ジョブディスクリプション)として明文化しなければならない。これにより、トップの抱く危機感と行政運営の方向性が全庁の職員に言語化されて共有される。
-
求めるコンピテンシーの明示とリーダー育成: 単に「課題を解決する」実務担当者ではなく、組織を引っ張るリーダーとしてどのような資質(コンピテンシー)が欲しいかを公開することで、次世代リーダーたちが目指すべき育成目標が明確になる。
5.2. 庁内公募の選考プロセス
幹部職員の庁内公募制度は、以下のステップで厳格かつ透明性を持って実施されるべきである。
まず、市長・副市長が各ポストのミッションとコンピテンシーを明文化し、公募を発信する。応募は所属長を介さず人事部門へ直接行い、合否確定までプライバシーを保護する。
選考においては、過去の実績審査に加え、「事業提案(プレゼンテーション)」を課す。
これは当該ポストに就任した場合に、提示された課題をどのように解決するか、具体的なロードマップを提案させるものである。
最終的に市長・副市長を含む面接によってリーダーとしての資質を見極め、結果は不合格者に対してもフィードバックし、次なる育成の糧とする。
6. 部長級および重点4課長ポストにおける課題設定と要求コンピテンシー
地方自治体の管理職に求められるコンピテンシー(行動特性)には、論理的思考、コミュニケーション能力(説明・説得・交渉力)、政策形成能力、リスクマネジメント、自己管理・誠実性などが挙げられる。
ユーザーの指摘する中核となる4つの課長職(財政課長、企画政策課長、人事秘書課長、防災課長)に加え、組織のトップマネジメント層である部長級ポストも公募の対象とする。
これにより、若手の抜擢人事と全庁的な組織改革が可能となる。
それぞれの現状課題に即した公募要件とコンピテンシーを以下に定義する。
| 公募対象ポスト | 直面する主要課題(ミッション) | 求める中核コンピテンシー(資質・行動特性) |
| 部長級(例:総務部長等) |
・市長・副市長の経営ビジョンの具現化 ・複数課を横断する全庁的課題の解決 ・各部における前例踏襲主義の打破 |
**【構想力】全体最適を見据えて組織を牽引する高度な構想力 【交渉・折衝力】国・県・議会などの外部機関との高度な折衝・交渉力 【決断力】**難局において責任を引き受ける決断力 |
| 企画政策課長 |
・過度に細分化された組織の統廃合・効率化 ・「企画財政課」への統合視野を含む組織再編 ・縦割り行政の打破と全庁的な総合計画の推進 |
**【構想力・論理思考】将来を見据え、部門横断的な施策を論理的に組み立てる力 【交渉・折衝力】**庁内各部局や議会との利害調整を円滑に進める力 |
| 財政課長 |
・公金紛失事件等で失墜したガバナンスの再構築 ・限られた財源の戦略的配分と事業評価(行政評価) |
**【コンプライアンス・正確性】高度な倫理観と内部統制を担保する規範意識 【説明・説得力】**財政状況や予算編成の根拠を市民や議会に明確に説明する力 |
| 人事秘書課長 |
・係長試験、庁内公募制、自己申告制の制度設計と確実な運用 ・優秀層の離職防止とメンタルヘルス不調者の削減 ・複線型キャリアパス(管理職/スペシャリスト)の整備 |
**【対人・感受性】職員の思いやキャリアビジョンを察知し、共感的に接する力 【人材活用・育成力】**適材適所を実現し、職員のモチベーションを最大化するマネジメント力 |
6.1. 防災課長の特異性と高度な専門性の要求
上記ポストに加え、弥富市において「防災課長」の職責は他の自治体と比較しても極めて重く、特殊なコンピテンシーが要求される。
市域のほとんどが海抜ゼロメートル地帯に位置し、木曽川下流の低湿地帯である弥富市は、洪水や高潮などの水害リスクが非常に高い地形である。地域防災計画の想定によれば、巨大地震発生時の被害の圧倒的多数は、地震の直接的な揺れではなく、その後に発生する「津波および浸水」に起因するとされている。
このため、防災課長には以下の高度なミッションとコンピテンシーが求められる。
| 公募対象ポスト | 直面する主要課題(ミッション) | 求める中核コンピテンシー(資質・行動特性) |
| 防災課長 |
・海抜ゼロメートル地帯特有の浸水・津波リスクへの対応 ・「ステルス防災」を通じた地域コミュニティの底上げ ・個別避難計画の実効性検証と医療・福祉施設との平時連携 ・地盤沈下対策と排水ポンプ場等のインフラ管理 |
**【難問解決・決断力】危機直面時にひるむことなく、迅速に状況を把握し決断・実践する力 【協働する力】ケアマネージャーや地域住民など多様なステークホルダーを巻き込むファシリテーション能力 【政策形成能力】**建築制限(N.P. +4m等)などの長期的復興ルールを平時から整備する先見性 |
特に、自主防災組織の高齢化が進む中、地域行事に防災要素を組み込む「ステルス防災」の展開や、高齢者・障害者を守るための「個別避難計画」を絵に描いた餅にせず、ケアマネージャーや医療従事者を巻き込んで実効性を担保する仕組みづくりは急務である。
また、自然排水が困難なゼロメートル地帯において、災害時の医療・福祉施設の配管破損やトイレ機能の停止は公衆衛生上の致命傷となるため、平時からのインフラ管理(ファシリティマネジメント)の強化を牽引する行動力が不可欠となる。
7. 内部人材枯渇時における外部登用(民間登用)の戦略的意義
庁内公募を実施した結果、「市長・副市長が求める水準を満たす候補者が庁内に現れない」あるいは「応募者がゼロである」という事態が発生する可能性は十分に想定される。
前述の通り、ピーターの法則による組織劣化が進み、優秀な人材の頭脳流出が継続している現状では、高度なマネジメント能力や専門性を持つ人材がすでに市役所内に存在しないリスクが高い。
この場合、次善の策として既存の職員から妥協して選出するのではなく、ユーザーの指摘通り「外部からの登用(民間人登用)」に直ちに踏み切るべきである。
外部人材の登用には、単なる欠員補充を超えた組織改革の起爆剤としての意味がある。
民間企業で培われたジョブ型雇用の専門性、KPI(重要業績評価指標)に基づく厳格なプロジェクトマネジメント、あるいはコンサルティングファーム出身者の持つ高度な論理的思考力を市役所内に直接注入することができる。
外部のプロフェッショナルが部長や課長職として着任し、成果志向のマネジメントを展開することは、旧態依然とした「前例踏襲」に染まった組織文化を打破し、プロパー職員に対する強力な刺激(劇薬)となる。
特に部長級における外部登用は、組織文化の抜本的改革に向けた強力な推進力となり得る。
これにより、市役所全体に「実力主義」と「説明責任(アカウンタビリティ)」の風土を強制的に定着させることが可能となる。
8. 結論:真の「市民への奉仕者」を生み出す自律的エコシステムの完成
弥富市が現在抱えるガバナンスの崩壊、優秀な人材の流出、そして職員のメンタルヘルス不調という複合的な課題は、小手先の人材育成計画や、トップダウンによる精神論では決して解決できない。
泥舟と化し、ハンドルもブレーキも失った組織を立て直すためには、職員を「管理・統制の対象」として扱う旧来のパラダイムを捨て去り、職員自身の自律性と専門性を最大限に引き出す「組織人事アーキテクチャの根本的な再構築」が不可欠である。
本報告書で提言した改革案は、相互に補完し合う三位一体のシステムである。
第一に、「幹部人事の庁内公募制(および必要に応じた外部登用)」により、市長・副市長の明確なビジョンのもと、卓越したコンピテンシーを持つ部長・課長などのリーダーを抜擢し、組織の方向性(強力なハンドル)を定める。
第二に、「自己申告(社内FA)制度」の刷新により、職員にキャリアの自己決定権を付与し、硬直化した組織に流動性と高いモチベーションをもたらす。
第三に、「係長昇任試験」という客観的かつ厳格なフィルターを通じてマネジメント層を選抜し、ピーターの法則による組織劣化を防ぎつつ、確かな実務遂行能力(確実なブレーキとアクセル)を担保する。
公募によって選ばれた明確なミッションを持つ部・課長のもと、FA制度で自らその部署を選んだ意欲ある職員が集い、係長試験を突破した優秀な中間管理職が実務を堅実に推し進める。
このエコシステムが完成したとき、弥富市は初めて「職員に選ばれる組織」へと生まれ変わり、ひいてはゼロメートル地帯という過酷な地理的条件の中にあっても、市民の命と生活を確実に守り抜く「真に市民に奉仕できる組織」へと飛躍することができるのである。
行政における最大の資本は「人」であり、適正かつ透明な人事制度への抜本的転換こそが、弥富市改造計画における最優先かつ最大の投資である。
弥富市 幹部職員(部・課長級)庁内公募実施要綱(案)
1. 目的
本制度は、弥富市が直面する重要課題を根本から解決するため、市長および副市長が明確にしたミッションに対し、高い意欲と能力を持つ職員を庁内から公募・登用することを目的とする。
新たに「部長級」も対象に含めることで、組織のトップマネジメント層から縦割り行政を打破し、職員の自律的なキャリア形成と組織全体の抜本的な活性化を狙いとする。
2. 公募対象ポストおよびミッション・求めるコンピテンシー
本公募では、市政の舵取りを担う部長級、および実務の中核を担う重点4課長ポストを対象とする。
-
【部長級ポスト】(例:総務部長、健康福祉部長、建設部長など)
-
ミッション: 市長・副市長の経営ビジョンの具現化、複数課を横断する全庁的課題の解決、および各部における前例踏襲主義の打破。
-
求めるコンピテンシー: 全体最適を見据えて組織を牽引する高度な「構想力」、国・県・議会などの外部機関との「高度な折衝・交渉力」、そして難局において責任を引き受ける「決断力」。
-
-
【課長級ポスト】企画政策課長
-
ミッション: 細分化された組織の統廃合(企画財政課への統合視野など)、縦割り行政の打破。
-
求めるコンピテンシー: 部門横断的な施策を論理的に組み立てる「論理思考」、庁内部局や議会との利害調整を進める「交渉・折衝力」。
-
-
【課長級ポスト】財政課長
-
ミッション: 失墜したガバナンスの再構築、限られた財源の戦略的配分と厳格な行政評価。
-
求めるコンピテンシー: 高度な倫理観に基づく「コンプライアンス・正確性」、予算編成の根拠を明確に伝える「説明・説得力」。
-
-
【課長級ポスト】人事秘書課長
-
ミッション: 係長昇任試験や自己申告(社内FA)制度の確実な運用、優秀層の離職防止と適材適所の実現。
-
求めるコンピテンシー: 職員の思いやキャリアビジョンに共感する「対人・感受性」、モチベーションを最大化する「人材活用・育成力」。
-
-
【課長級ポスト】防災課長
-
ミッション: 海抜ゼロメートル地帯特有の水害・津波リスク対応、ステルス防災の展開、福祉・医療施設と連携した個別避難計画とインフラ管理の実効性確保。
-
求めるコンピテンシー: 危機直面時に迅速に実践する「難問解決・決断力」、多様な関係者を巻き込む「協働する力」、長期的復興ルールを平時から整備する「政策形成能力」。
-
3. 応募資格
年齢や現在の役職(年功序列)にとらわれず、市の行政運営に強い当事者意識と変革の意志を持つ全職員を対象とする。
部長級ポストにおいても旧来の年次順の昇任を排し、若手管理職からの飛び級等の抜擢人事を可能とする。
ただし、過度な業務の混乱を防ぐため、「現所属における勤務年数が2年以上であること」等の最低条件を設ける。
4. 応募手続きとプライバシーの保護
応募は現在の所属長を介さず、担当窓口(人事担当部門または市長直轄窓口)へ直接提出するブラインド方式とする。
応募の事実および選考プロセスにおけるプライバシーは厳重に保護され、合否が確定するまで応募者以外には完全に秘匿される。
これにより、上司や周囲の目を気にすることなく自由かつ積極的な応募を可能とする。
5. 選考プロセス
選考は、過去の単なる業務実績だけでなく、対象ポストのミッションに対する「事業提案(課題解決ロードマップ)」を中心に行う。
-
第一次審査(書類審査): 応募動機、自己PR、および当該ポストに着任した場合の具体的な政策・業務改善提案書に基づく審査。
-
第二次審査(面接・プレゼンテーション): 市長および副市長による面接を実施し、事業提案のプレゼンテーションを通じてリーダーとしての資質と熱意を見極める。部長級の選考においては、市全体の経営に資するより高度な視座が問われる。
-
フィードバック: 選考結果にかかわらず、応募者全員に対して評価のフィードバックを行い、今後の能力開発やキャリア形成の糧とする。
6. 外部人材(民間)登用への移行措置(特例条項)
庁内からの応募者がいない場合、あるいは厳正な選考の結果、市長・副市長が求めるコンピテンシー水準を満たす候補者が庁内に存在しないと判断された場合は、妥協した人事を行わず本公募を打ち切る。
その後、直ちに民間人等を含めた「外部人材の登用(全国公募)」へ切り替え、組織外部からプロフェッショナルな知見を導入するものとする。
特に部長級における外部登用は、組織文化の抜本的改革に向けた強力な推進力となる。