弥富市中期財政計画に関する検証と提言 サマリー
本報告書は、急激な人口減少と少子高齢化に直面する弥富市の「中期財政計画」に対し、財政の硬直化や将来負担の増大という観点から強い警鐘を鳴らし、持続可能な自治体運営に向けた抜本的な構造改革を提言するものです。
1. 財政状況の現状と構造的課題
弥富市の財政は、楽観的な将来推計とは裏腹に「弾力性を喪失した硬直化の極致」に陥りつつあります。
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義務的経費の異常膨張: 人件費、扶助費、公債費が歳出の52.6%(令和6年度)を占め、経常収支比率は94.4%に達し、新たな施策への余力がほぼ喪失しています。
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貯金の枯渇と借金の高止まり: 財政調整基金は令和2年度から半減する一方、将来の負担となる「普通債」の残高は着実に増加しています。
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将来負担比率のワースト1位転落: 実質的な将来の負債を示す「将来負担比率」が95.4%へと急悪化し、愛知県内の市で最下位となりました。令和8年度には約110%への悪化が予測されています。
2. 財政悪化の主な要因(大型プロジェクトのリスク)
ハコモノ行政の無批判な推進と、外部環境への依存が財政リスクを増大させています。
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弥富駅周辺整備事業の暴走: 駅舎化事業等の総事業費が膨張する中、国からの補助金が想定の半額となり、多額の市費(借金)投入を余儀なくされています。
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物流施設誘致の光と影: 巨大物流施設等は固定資産税などの税収増(光)をもたらす一方で、大型車両による道路損傷など、将来的なインフラ維持コストの増大(影)を引き起こします。
3. 持続可能性に向けた包括的政策提言
単なる「数字の辻褄合わせ」から脱却し、自治体の生存を懸けた「サバイバル戦略」への転換が不可欠です。
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歳入確保(受益者負担の適正化): 特定地域の資産価値向上を伴う都市計画事業の財源として、政治的決断による「都市計画税」の導入が急務です。
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歳出削減(痛みを伴う事業再編): 公共施設の延床面積23.6%削減という目標の確実な実行と、福祉サービス等における無料の前提を見直した「受益者負担」の導入が必要です。
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意思決定プロセスの透明化: 事業費が一定割合を超過した際の「自動ブレーキ機能(第三者機関による独立検査)」を制度化すべきです。
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市民との合意形成: 財政危機という不都合な真実を市民と共有し、討論型世論調査などを通じた住民対話型の意思決定プロセスを導入すべきです。
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広域連携とストック・シェアリング: 単独でのフルセット主義を放棄し、近隣自治体との連携や、廃校などを地域で共有・活用する仕組みを取り入れるべきです。
結論として、本計画は厳しい客観的データを示しながらも、抜本的な歳出削減や大型事業の見直しという「苦渋の決断」を避けています。持続可能な弥富市を実現するためには、サンクコストに囚われない事業の再検証と、市民に現実を誠実に語るトップの政治的リーダーシップが強く求められています。
愛知県弥富市中期財政計画(令和8年度~令和12年度)の批判的検証と持続可能な自治体経営に向けた包括的構造改革提言
1. 序論:転換期を迎える地方財政と本計画の構造的意義ならびに限界
日本の多くの地方自治体が直面する人口減少、少子高齢化、そして高度経済成長期に集中的に整備された公共インフラの老朽化という「静かなる有事」は、愛知県弥富市においても極めて深刻なフェーズに突入している。
弥富市が令和8年3月に策定した「弥富市中期財政計画(計画期間:令和8年度~令和12年度)」(以下、本計画)は、令和2年度から令和6年度までの決算額および令和8年度予算額をベースに、今後5年間の財政見通しを立て、計画的かつ健全な財政運営を持続可能にしていくことを目的として策定された。
本計画は、まちづくりの最上位計画である「弥富市総合計画」を財政的視点から補完し、毎年度の予算編成の指針となるべき極めて重要な位置付けを持っている。
しかしながら、本計画に示された財政状況の推移や今後の財政見通しをマクロ経済的視点、人口動態分析、および地方財政学の観点から批判的に分析すると、本計画は「現状の追認」と「不確実な外部環境に依存した楽観的な将来予測」に留まっていると言わざるを得ない。
将来世代への過大な負担転嫁を防ぐための「財政のアンカー(歯止め)」としての機能を十分に果たしていないという構造的欠陥が随所に浮き彫りとなっている。
弥富市の人口動態の現状を直視すると、年少人口比率(0~14歳)は11.57%、生産年齢人口比率(15~64歳)は62.06%に留まる一方で、高齢人口比率(65歳以上)はすでに26.37%、後期高齢者比率(75歳以上)は15.64%に達している。
合計特殊出生率は1.5と人口置換水準を大きく下回っており、将来推計人口は2030年の41,159人から、2040年には38,529人、2050年には35,632人へと急激に減少することが予測されている。さらに、2045年には高齢化率が34.0%まで上昇するという予測も存在する。
このような人口動態の劇的な縮小と構造変化が不可逆的に進行する中で、義務的経費(人件費、扶助費、公債費)は歯止めなく膨張し、歳出全体に占める割合は過半数を超え、財政の硬直化が急速に進んでいる。
本計画が策定された背景には、直面する財源不足の解消を図るという意図があるものの、大規模なインフラ投資に伴う将来負担比率の急激な悪化は、愛知県内の他自治体と比較しても突出して厳しい状況にある。
本報告書では、提供された決算データ、健全化判断比率、進行中の大規模事業の動向、および客観的な市民・有識者からの評価等を統合し、弥富市の財政構造に潜む潜在的リスクを網羅的に解剖する。
その上で、持続可能な自治体運営を実現するために不可欠となる歳入確保策(都市計画税の導入等)や歳出削減策(アセットマネジメントの抜本的強化等)の妥当性を検証し、第二・第三の波及効果までを見据えた包括的な政策提言を行う。
2. 歳入・歳出構造の変容と財政硬直化のメカニズム
本計画の基礎データとなる令和2年度から令和6年度までの一般会計決算状況を精査すると、弥富市の財政構造が極めて短期間のうちに「弾力性を喪失した状態」へと陥っている事実が明確に読み取れる。
以下の表は、本計画に示された令和2年度から令和6年度までの一般会計における主要な歳入・歳出決算額の推移をまとめたものである。
2.1 歳入構造における構造的脆弱性と楽観的バイアスの危険性
歳入の根幹をなす市税収入は、令和6年度決算において約90億6,200万円となり、令和2年度と比較して約5億3,800万円の増加を示している。
しかし、この増加の内部構造を分解すると、個人の所得に連動する個人市民税は定額減税の影響等により約1億3,300万円減少している一方で、固定資産税が約5億1,500万円増加していることに大きく依存している。
弥富市にはDPL名港弥富のような大規模な物流施設や、内陸工業団地等の産業系施設が存在し、これらが固定資産税や法人市民税の一定の下支えとなっている側面がある。
しかしながら、マクロ的な人口減少と生産年齢人口の縮小が不可逆的に進行する中、個人市民税の長期的な漸減は避けられない。
本計画の第6章において「市税は景気が緩やかな回復傾向にある一方で、物価上昇等による景気の懸念事項もあることから、税収の動向について引き続き注視していく必要がある」と記述されているが、この現状認識は、地域経済の実態や急速な少子高齢化という構造的な下方圧力を過小評価した「楽観的バイアス」に基づいているとの批判が有識者からなされている。
国全体の景気動向と、特定の地方自治体における税収動向は必ずしも一致しない。
将来の急激な人口減少推計を踏まえれば、歳入見通しを横ばい、あるいは微増と推計すること自体が、財政計画としての安全余裕率(マージン)を著しく削る行為である。
また、地方交付税等への依存度が徐々に高まっている点(令和2年度比で約9億7,700万円増)も、自主財源比率の低下という観点から地方自治の自立性を損なうリスクを孕んでいる。
2.2 義務的経費の異常な膨張と財政の完全な硬直化
本計画における最大の警鐘は、歳出における「義務的経費」の異常かつ急速な膨張である。
人件費、扶助費、公債費からなる義務的経費は、その支出が法令や契約等により義務付けられており、自治体の裁量で任意に節減できない性質を持つ。
令和6年度の義務的経費は約93億7,900万円に達し、歳出全体に占める割合は実に52.6%となっている。わずか4年間で金額にして約19億3,300万円(対令和2年度比26.0%増)の増加である。
項目別に精査すると、人件費は令和6年度決算額で約37億1,200万円(同13.3%増)となっている。
さらに深刻なのは、歳出に占める割合が極めて高い扶助費が約44億5,600万円となり、令和2年度と比較して約13億6,400万円(同44.1%増)と爆発的に増加している点である。
これは価格高騰重点支援給付金のような国主導の一時的な要因も含まれるものの、本質的には高齢化の進展に伴う介護給付費や訓練費給付費などの社会保障関係経費の構造的増加である。
加えて、一般会計から特別会計(国民健康保険、後期高齢者医療、介護保険)へ支出される繰出金も約16億1,200万円(同15.9%増)に達しており、特別会計の構造的な赤字を一般会計の持ち出しで補填する構図が定着しつつある。
財政の弾力性を示す経常収支比率は、令和6年度決算時点で94.4%に達している。
経常収支比率が90%を超えると、新たな住民要望に応えるための独自施策や、突発的なインフラ補修、将来に向けた投資的経費に充てる「自由に使える財源(一般財源)」が極端に不足することを意味する。
弥富市の財政はすでに、日常の義務的運営費と過去の借金返済だけで予算の大半が消滅する「硬直化の極致」に足を踏み入れている。
有識者からは、市が義務的経費の増大を「今後もその割合がますます大きくなっていくことが見込まれる」と単に状況を追認するに留まり、根本的な抑制策や強い危機感を示していない(無策である)ことが厳しく批判されている。
3. 基金と市債の動向:枯渇する貯金と高止まりする負債
自治体における「貯金」に相当する基金と、「借金」に相当する市債の動向は、単年度の収支だけでは見えにくい中長期的な財政体力を示す鏡である。
以下の表は、一般会計における基金の年度末残高の推移を示したものである。
年度間の収支不均衡を調整するための最も重要なバッファーである「財政調整基金」は、令和2年度の約29億円から令和6年度には約15億4,900万円へとほぼ半減している。
この財政調整基金の無秩序な取り崩しは、後述する将来負担比率を急激に悪化させる直接的な要因となっている。
一方で特定目的基金は微増しているものの、使途が限定されているため財政の弾力性回復には直結しない。
次に、市債(借金)の年度末残高および依存度の推移を確認する。
令和6年度の市債発行額自体は、臨時財政対策債(国が本来交付すべき地方交付税の代替として自治体に発行させる赤字地方債)の発行抑制や、公共施設の長寿命化・特定天井撤去に係る借り入れの減少により前年度比で減少している。
残高合計も令和2年度と比較して微減している。
しかし、将来のインフラ整備等に直結する「普通債」の残高は令和2年度の約102億円から令和6年度の約109億円へと着実に増加している。
市債は「世代間の負担の公平」を図る機能を有すると本計画は謳っているが、人口が急減する局面においては、将来世代の頭割りの負債額(一人当たり負債額)を幾何級数的に増大させる極めて危険なツールと化す。
実質的に市民一人当たり150万円の借金を抱える「ローン地獄」寸前の状態にあるとの指摘は、このストックベースの負債の重さを突いたものである。
4. 健全化判断比率の急激な悪化と「将来負担」の深層
地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)に基づく「健全化判断比率」の推移は、弥富市の将来リスクを最も残酷な形で可視化している。
特に「将来負担比率」と「実質公債費比率」の2指標において、弥富市は愛知県内の自治体間で比較して極めて憂慮すべき水準へと転落した。
4.1 将来負担比率の県内ワースト1位への転落とそのメカニズム
将来負担比率は、一般会計等が将来負担すべき実質的な負債(地方債残高に加え、債務負担行為に基づく支出予定額や、公営企業・出資法人等の負債のうち一般会計が負担すべき「隠れ借金」を含む)の大きさを標準財政規模に対する割合で測る指標である。
令和6年度決算において、弥富市の将来負担比率は95.4%となり、前年度の84.6%から10.8ポイントもの大幅な急増を記録した。
この数値は、これまで県内で最も負担が重かった常滑市(80.2%、前年度から△21.0ポイント改善)をも上回り、愛知県内で算定された市の中で「最高値(ワースト1位)」となる衝撃的な結果であった。
全国平均が一桁台まで劇的に改善しているトレンドと完全に逆行している。
本計画によれば、この急激な悪化の原因は、海部南部消防組合の庁舎建設事業に係る地方債負担の増加と、充当可能財源として控除されるべき財政調整基金の取り崩しによるものであると説明されている。
しかし、より危機的なのは、本計画自身が「今後予定されている大型事業の地方債が加算されるとさらに上昇していくことが予想され、令和8年度には110%近くになる見込み」と明記している点である。
県内の他市町(例:南知多町は△15.4ポイント改善、美浜町は△9.0ポイント改善)が負債圧縮や基金の積み増しによって健全性を回復させている中、弥富市やあま市(+9.5ポイント)のように将来負担が急増している自治体は二極化の負の側面に位置している。
将来負担比率の悪化は、単に帳簿上の問題ではない。将来世代の税収が現在のハコモノ事業のツケ(元利償還)に奪われ、未来の市民が享受すべき行政サービスが物理的に縮減される「世代間不公平」の極みである。
4.2 実質公債費比率の上昇圧力
実質公債費比率は、毎年度経常的に収入される財源のうち、借金返済(元利償還金等)に充てられた割合を示す指標である。
令和6年度は5.4%であり、県内の市の中では常滑市(12.0%)、あま市(6.5%)、津島市(5.5%)に次ぐワースト4位の高水準にある。
本計画の予測では、大型事業の償還が本格化する令和11年度には6%近くまで上昇するとされている。
公債費(令和6年度決算で約12億1,000万円)は、過去の投資に対する事後的な支払いであり、現在の市民サービス向上には一切寄与しない「死んだ金」としての性質を持つ。
実質公債費比率の上昇は、前述の経常収支比率の悪化(94.4%)と連動し、市の予算編成における自由度を完全に奪い去る要因となる。
弥富市はすでに毎年の財政運営において公債費の重圧を感じ始めており、さらなる大型起債は市の財政を破綻の淵へと追いやる危険性を孕んでいる。
5. 大規模プロジェクトの財政リスクと「補助金幻想」の崩壊
弥富市の財政を急速に圧迫している最大の要因は、巨額の投資的経費を伴う大規模プロジェクトの推進手法にある。
本計画は総合計画の「具体化」を支える予算編成の指針であるべきだが、実際には「結論ありきの開発優先(ハコモノ行政)」を無批判に追認する手段として機能してしまっている側面が否めない。
5.1 JR・名鉄弥富駅自由通路および橋上駅舎化事業の暴走
弥富市の将来負担比率を今後110%へと押し上げる主因となっているのが、「JR・名鉄弥富駅自由通路及び橋上駅舎化事業」である。
この事業は、駅の南北分断を解消し、利便性と都市の拠点性を高める目的で進められており、歩行者デッキや駅前広場の整備も含まれる。
しかし、その総事業費は約55.5億円(一部報道・分析では約46億円とも)にまで膨れ上がっており、そのうち弥富市(一般財源および市債=市民の税金)が負担する額は約37.8億円以上に達する見込みである。
さらに致命的な問題として、市が国に要望していた事業費補助金が、結果として「半額」しか交付されないという事態が発生した。
これは地方財政における典型的な「補助金幻想」と「サンクコスト(埋没費用)の錯誤」である。国の予算配分は全国の自治体間での客観的な競争であり、かつてのような政治的働きかけ(陳情)で満額が確保できる時代は終焉している。
補助金が減額された場合、不足分は全額、起債(借金)か一般財源の持ち出しによって補填しなければならない。
補助金獲得を前提とした甘い事業スキームが崩壊したにもかかわらず、計画を立ち止まって費用対効果を再検証することなく突き進む行政の姿勢に対し、市民からは強い疑義が提示され、住民監査請求および住民訴訟が提起される事態にまで発展している。
特定の大規模事業に対する過度な依存と、外的要因(国庫補助金の変動)に対するリスク管理の欠如は、中期財政計画の前提を根本から覆すものである。
有識者が指摘するように、計画変更や補助金減額などのリスクに対する危機管理体制の説明が本計画内に全く存在しないことは、財政計画としての重大な瑕疵であると言わざるを得ない。
5.2 産業誘致の光と影:インフラ維持コストの増大とライフサイクルコスト
もう一つの懸念材料は、地域経済活性化の起爆剤として期待されている物流施設(DPL名港弥富等)や内陸工業団地の存在である。
これらの巨大施設は、固定資産税や法人住民税という莫大な「フローの税収(功)」をもたらし、最新施設における良質な雇用の創出や、広域災害時の支援物資集積拠点としての防災機能向上に寄与する。
その一方で、深刻な「ストックの毀損と環境悪化(罪)」を引き起こす。巨大な大型トラックが頻繁に通行することによる市道の激しい損傷、渋滞、騒音、排気ガスの問題である。道路や橋梁の劣化は加速度的に進行し、将来的な修繕・更新コスト(投資的経費)を跳ね上げる。
税収が増えたとしても、それがインフラ修繕費に相殺されてしまえば、市民の生活福祉の向上に回せる一般財源は残らない。
税収の恩恵と維持管理コストの増大というトレードオフを、中期財政計画の中でライフサイクルコストとして精緻にシミュレーションし、予算に反映できているか極めて疑わしい。
6. 今後の財政運営における取組(歳入・歳出)の批判的検討
本計画の第6章「今後の財政運営における取組」では、歳入・歳出両面からの改善策が列挙されている。
これらの施策の有効性と実現可能性について、具体的な文脈に落とし込んで批判的に検討する。
6.1 歳入に関する取組:都市計画税導入の是非と政治的決断
歳入確保策として、未収金対策の強化、使用料・手数料の定期的な見直し、未利用公有財産の売却処分、ふるさと納税やネーミングライツの推進などが挙げられている。
これらは行財政改革の定石であるが、金額的規模から見て構造的な赤字を埋めるための対症療法に過ぎない。
本計画における最も重要な戦略的転換は、「都市計画税導入の検討」が明記されたことである。
都市計画税は、道路、公園、下水道の整備など都市計画事業に要する費用に充てるための目的税であり、原則として市街化区域内に土地や家屋を所有する者に課税される「受益者負担」の原則に基づいた税制である。
近隣自治体を見ると、津島市は既に導入しており、あま市は令和9年度からの導入に向け市民説明会を実施し、愛西市や蟹江町でも令和7年度からの課税に向けた条例案の提案等が進められている(おおよそ固定資産税の2割~3割の負担増を見込む)。
弥富市においては、前述の弥富駅周辺整備事業のような市街地整備のための特別な財源(目的税)が存在しないまま事業が先行し、福祉等に回すべき一般財源を食いつぶしているという批判が根強い。
都市計画税の導入は、特定の地域(市街化区域や駅周辺)における資産価値向上という「便益」を享受する住民・企業から応分の負担を求め、財政の公平性を担保するために不可欠な措置である。
ただし、増税を伴う政策は極めて強い政治的ハレーションを生む。
市税収入が横ばいと予測される中で、この都市計画税の導入を単なる「検討」で終わらせず、具体的な条例化へと踏み切れるかどうかが、弥富市の行財政運営の命運を握っている。
導入に際しては、使途を明確化し、市民への徹底した説明責任を果たす必要がある。
6.2 歳出に関する取組:アセットマネジメントと「痛みを伴う」事業再編
歳出削減策として、補助金の見直し、扶助費(上乗せ・横出しサービス)の見直し、特別会計繰出金の適正化、アセットマネジメントの導入、民間委託等の推進、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が掲げられている。
アセットマネジメント(FM)の抜本的強化と施設の縮退
弥富市は「弥富市公共施設等総合管理計画」および「弥富市公共施設再配置計画」に基づき、公共建築物の統廃合や再配置を進めている。
特筆すべきは、対象となる68施設(延床面積100㎡以上の主要施設)について、中長期的に延床面積を「23.6%削減」するという極めて野心的な目標を掲げている点である。
すでに十四山スポーツセンター周辺の再編や市民プールの廃止が決定され、中学校のプールも使用停止となるなど、インフラの縮退(ダウンサイジング)が現実のものとなっている。
さらに、施設の長寿命化戦略として、従来は40年で建て替えていた公共建築物を、大規模修繕(予防保全型)を実施することで耐用年数を80年に延長する方針へと転換した。これはライフサイクルコスト(LCC)縮減の観点からは極めて正しいアプローチである。
しかし、予防保全を行うためには、施設が完全に劣化する前に「事前の修繕投資」を行う必要があり、短期的には投資的経費が跳ね上がる。
経常収支比率が94.4%という余裕のない財政状況下で、この事前投資の財源をどう捻出するかが計画の実現性を左右する。
福祉・公共サービスにおける受益者負担の適正化
本計画では、扶助費における「国・県の水準以上のサービス(いわゆる上乗せ・横出し)」の見直しが言及されている。
有識者からは、例えば既存の高齢者入浴事業等において、施設を物理的に取り壊すのではなく、原則として受益者負担(1回100~300円等)を導入して維持管理費に充てつつ、低所得者のみを減免対象とするような、真のセーフティネットへの再編(ハードからソフトへの劇的再編)が提案されている。
公共施設の維持や福祉サービスにおいて「無料で提供されることが当然」という高度経済成長期のかつての前提は、人口減少社会ではもはや通用しない。
しかし、本計画の文言は「総合的な観点から見直しを進めます」と抽象的であり、市民の反発を恐れて具体的なカット幅や対象事業を明示していない。
これが「構造改革への無策」と指弾されるゆえんである。
予算編成過程の見直しとDXの推進
翌年度当初予算に向けた「サマーレビュー」や「概算要求」の仕組みを通じて、事業評価結果を予算額だけでなく「事業の進め方」にまで踏み込んで査定を行う方針は評価できる。
また、DXによる業務効率化は人件費抑制の切り札となる。しかし、これらも内部の行政手続きの改善に留まっており、市民を巻き込んだ抜本的な事業廃止の決断には至りにくい構造がある。
7. 持続可能性を担保するための代替戦略と包括的政策提言
本中期財政計画を、単なる「数字の辻褄合わせ」や「進行中プロジェクトの無批判な追認機関」から脱却させ、真に弥富市の未来を守るための「実効性ある羅針盤」へと昇華させるためには、以下の戦略的アプローチが不可欠である。
7.1 意思決定プロセスの透明化と「検査独立」の確立
弥富駅整備事業に代表されるような巨額の公金投入を伴う事業において、当初計画から事業費が膨張し、国庫補助金が想定を大きく下回る事態が起きた場合、直ちに事業を一時停止して客観的な再評価(レビュー)を行う「自動ブレーキ機能」を制度化すべきである。
行政内部の発注担当部門自身による甘い自己点検(お手盛り検査)を即時禁止し、第三者機関による厳格かつ客観的な「検査独立」を確立することが急務である。
財政計画には、各年度の予算執行において事業費が想定を一定割合(例:10%)超過した場合、自動的に市議会への特別報告と計画の抜本的見直しを義務付ける条項を盛り込むべきである。
7.2 住民対話型の合意形成(討論型世論調査)の導入
「行政が描き、市民に押し付ける」トップダウン型の計画決定プロセスは限界を迎えている。
施設の廃止や都市計画税の導入、過剰な福祉サービスの見直しといった「痛みを伴う改革」を実行するには、市民との強固な合意形成が絶対的な前提となる。
市民を単なる「行政サービスの顧客(消費者)」として扱うのではなく、弥富市の財政が「ローン地獄寸前」にあるという不都合な真実を包み隠さず共有し、全市民による「経営会議」としての対話プロセスを導入すべきである。
無作為抽出された市民に専門的な情報を提供した上で議論してもらう「討論型世論調査」等の高度な民主的手法を直ちに取り入れ、市民発のアイデアを行政の意思決定の基盤に据える必要がある。
7.3 広域連携と「ストック・シェアリング」によるサバイバル戦略
人口3万人台へと縮小していく小規模自治体が、単独でフルセットの公共サービスや高度な専門人材を維持することはもはや不可能である。
弥富市は、単なる権限移譲を待つのではなく、愛知県との協働を深め、インフラ整備や専門技術を補完し合う「奈良モデル(金なし知恵出し戦略)」のような広域連携戦略を急ぐべきである。
また、公共施設再配置計画による統廃合によって生じる閉校となった小学校(廃校)や未利用の公共施設を、単に売却・解体するのではなく、小学校区を一つの「生存圏」として再定義し、地域コミュニティや民間企業、NPO等と共有する「ストック・シェアリング(コモンズ化)」の概念を導入するべきである。
これにより、莫大な解体費用(一時的な投資的経費の増大)を回避しつつ、地域の知恵と歴史を次世代へ継承する新たな地域共生社会の拠点を低コストで生み出すことが可能となる。
8. 結論
「弥富市中期財政計画(令和8年度~令和12年度)」は、現状の極めて厳しい財政状況や、将来負担比率の悪化、義務的経費の膨張といった客観的データを提示している点において、一定の自己認識を示している。しかしながら、その分析から本来導き出されるべき「抜本的な歳出削減」「大型事業の凍結・見直し」「受益者負担の適正化(増税・有料化)」という最も苦渋に満ちた結論から目を背け、国全体の景気回復という不確実な外部要因に依存した、総花的な楽観論に終始している点は極めて遺憾である。
将来負担比率が県内ワースト1位(95.4%)に急悪化し、さらに令和8年度には110%へと悪化していく道筋を「計画」として提示することは、将来世代からの明確な搾取の容認に他ならない。弥富市は今、「見せかけの黒字」の裏で進行する財政の完全な硬直化と「隠蔽された赤字」の実態を直視しなければならない。
本計画を持続可能なものとするためには、弥富駅周辺整備のようなサンクコストに囚われた大型投資を聖域なき再検証の対象とし、近隣市町村に倣った都市計画税の導入による受益者負担の適正化を図り、そして何より、市民に対して「これ以上のフルセットの行政サービス維持は不可能である」という現実を誠実に語るトップの政治的リーダーシップが求められる。弥富市の中期財政計画は、単なる形式的な行政文書(予算編成の言い訳)であることをやめ、自治と地域の生存を懸けた「サバイバル戦略」へと直ちに再構築されなければならない。
