
弥富市 次期都市計画マスタープラン改定に関する提案サマリー
本報告書は、海抜ゼロメートル地帯という災害脆弱性と、広域交通・物流の要衝というポテンシャルを併せ持つ弥富市が、次期都市計画マスタープランを策定するための戦略的提言です。巨大インフラ整備(一宮西港道路・尾張大橋架け替え)の波と気候変動リスクに立ち向かうための「生存戦略」として、以下の4つの柱を提示しています。
1. ガバナンス構築:加藤孝明教授の都計審委員長招聘
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理論的支柱の導入: 防災まちづくりの権威である東京大学・加藤孝明教授を都市計画審議会委員長として招聘する。
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「水と折り合う」都市づくり: リスクを受容し上層階避難や自立型ライフラインを備える「浸水対応型市街地構想」と、平時にも価値を生む「防災【も】まちづくり」を市の最上位計画に位置づける。
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行政の防波堤: 権威ある専門家をトップに据えることで、国や県の巨大プロジェクトに伴う地元調整において、理不尽な批判から市町村を守り、対等以上の交渉力を確保する。
2. 財政・人的リソースの戦略的活用
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国庫支援の獲得: 「街路交通調査費補助」や「社会資本整備総合交付金」等の支援メニューを最大限活用し、計画策定やコンサルタント委託に要する財源を確保する。
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外部人材の登用: 総務省の「地域力創造アドバイザー」制度を用い、合意形成の実務に長けた外部専門家を導入する。これにより、市役所職員の疲弊を防ぎつつ、質の高い住民対話を実現する。
3. 巨大インフラ整備に伴う空間再編と土地利用
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一宮西港道路への対応: インターチェンジ周辺の無秩序な乱開発(スプロール化)を防ぐため、「沿道産業利用調整エリア」を厳格に設定し、地区計画による徹底したコントロールを行う。
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尾張大橋の架け替え: 治水上の欠陥と老朽化を抱える国道1号・尾張大橋の架け替えを好機と捉え、道路線形の変更に合わせて周辺の土地区画整理事業を展開し、安全で快適な市街地への更新を図る。
4. ゼロメートル防衛線「命山」と学校の要塞化
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命山(いのちやま)の創造: 大規模土木工事の残土を活用し、平時は道の駅や公園、災害時は物資集積・ヘリポートとなる高台を造成する。都市計画法第53条を活用し、将来の用地を確実に見据える。
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学校機能の再定義: 少子高齢化に伴う学校統廃合の機会を活かし、ゼロメートル地帯の学校は「1階の浸水」を許容するピロティ化や上層階避難空間の整備を行い、地域の命を守る「要塞」として再構築する。
結論 これら一連の施策を国・県・市の連携と市民との誠実な対話のもとで推進することにより、弥富市は全国の広域低平地が抱える課題を克服する先駆的な「レジリエント都市(強靭な都市)」のモデルとなることが期待されます。
弥富市における次期都市計画マスタープラン改定と広域ゼロメートル地帯の生存戦略――加藤孝明教授の都市計画審議会委員長就任によるガバナンスとインフラ整備の統合的考察
1. 序論:広域インフラの胎動と海抜ゼロメートル都市が直面するパラダイムシフト
愛知県西部に位置し、木曽川や日光川といった一級河川の河口域に展開する弥富市は、市域の大部分が海抜ゼロメートル地帯に属するという極めて脆弱な地理的条件を抱えている。
過去には伊勢湾台風によって市域全体が甚大な浸水被害を受け、多数の尊い人命が失われた歴史的経緯を持つ。
現代においても、気候変動に伴う台風の強大化や局地的な豪雨の頻発、さらには切迫する南海トラフ巨大地震による津波・液状化リスクなど、同市を取り巻く自然災害の脅威はかつてない水準に達している。
その一方で、弥富市は中京圏における物流の最重要拠点である名古屋港を背後に控え、伊勢湾岸自動車道、東名阪自動車道、国道1号、国道23号といった国家規模の広域幹線道路網が交差する交通の要衝としてのポテンシャルを有している。
現在、この地域では「一宮西港道路」の新規整備計画や、国道1号「尾張大橋」の架け替えおよび4車線化といった巨大インフラプロジェクトが具体化しつつある。
これらの事業は、地域の慢性的な交通渋滞を解消し、広域物流ネットワークを飛躍的に効率化する起爆剤となる一方で、市町村という基礎自治体のスケールから見れば、地域コミュニティの分断、優良農地の喪失、住環境の悪化といった負の側面を内包している。
こうした「不可避の巨大災害リスク」と「広域インフラ整備に伴う劇的な空間改変」という二つの強大な波を前にして、弥富市は現在の「都市計画マスタープラン」を抜本的に見直す局面に立たされている。
インフラのルートやインターチェンジの位置が決定された後に受動的に対応するのではなく、市町村自らが10年、30年先の都市構造を描き、上位機関(国や愛知県)に対して確固たるビジョンを提示しなければならない。
本報告書は、この極めて難易度の高い都市計画の舵取りを行うにあたり、東京大学の加藤孝明教授を弥富市都市計画審議会の委員長として招聘する構想の妥当性について、法制度、財政スキーム、都市防波堤としてのガバナンス、そして具体的な空間整備戦略の観点から包括的かつ深層的な考察を行うものである。
2. 加藤孝明教授の理論的枠組み:「浸水対応型市街地構想」と「防災【も】まちづくり」の親和性
都市計画マスタープランの改定を牽引するリーダーには、単なる制度論の知識を超えた、地域特性に対する深い洞察と実践的な理論体系が求められる。
加藤孝明教授(東京大学生産技術研究所教授/社会科学研究所特任教授)は、都市計画、地域安全システム学、防災まちづくりの第一人者であり、特に海抜ゼロメートル地帯における水害レジリエンスの構築において日本国内で最も顕著な実績を有する研究者の一人である。
同氏の知見は、弥富市が直面する課題に対して極めて高い親和性を持つ。
2.1 「安全至上主義」からの脱却とリスクの受容
東日本大震災以降、日本の都市計画および防災政策は、巨大な防潮堤の建設に代表されるような、ハード整備による「安全至上主義」に傾斜する傾向があった。
しかし、加藤教授はこの風潮に対して警鐘を鳴らし、都市計画の分野においては「100%安全ではない状況と長年共存してきた歴史」を直視し、一定のリスクを受容しながらいかに持続可能で幸福な生活を営むかを模索すべきであると提唱している。
この哲学を具体的な都市空間の再編モデルとして昇華させたものが、東京都葛飾区などで実践されてきた「浸水対応型市街地構想」である。東京都の江東デルタ地帯など広大な海抜ゼロメートル地域では、堤防の決壊や内水氾濫が発生した場合、広範囲で長期間(最悪の場合2週間以上)の浸水が想定され、全住民を域外へ避難させることは物理的に不可能である。
弥富市においても状況は全く同じであり、地震発生からわずか30分以内に30cm以上の浸水が生じる「事前避難対象地域」が広範に指定されている。
「浸水対応型市街地構想」は、堤防による線的防御が破綻し、実際に市街地が浸水することを前提とした上で、以下の戦略を長期的に実行するものである。
第一に、既存の建築ストックを活用し、上層階(非浸水空間)を避難場所として確保・ネットワーク化すること。
第二に、災害時に広域停電や断水が発生しても、地域マイクログリッド等を用いてエネルギーや水を自給自足できる「自立型ライフライン」を備えた拠点建築物・街区を整備すること。
第三に、一般の低層住宅においても、被害を受けにくい形状・工法への転換を促し、被災後の復旧を極めて容易にする市街地構造を形成することである。
この構想を弥富市の次期マスタープランの中核に据えることで、市域全体を「水と折り合う」構造へと計画的に誘導することが可能となる。
2.2 「防災【も】まちづくり」による持続可能性の担保
加藤教授が提唱するもう一つの重要な概念が「防災【も】まちづくり」である。
これは、「防災【だけ】」を目的とした単一機能の施設整備が、平時の維持管理コストを増大させ、住民の関心を次第に薄れさせてしまうという構造的課題を克服するためのアプローチである。
インフラ整備においては、日常の営みの中に災害への備えを織り込むことが不可欠である。
例えば、後述するインターチェンジ周辺の盛土を活用した高台整備において、それを単なる「避難用の土盛り」として整備すれば、平時は無用の長物と化す。
しかし、これを「防災【も】まちづくり」の視点で捉え直せば、平時は道の駅や農産物直売所、市民の憩いの場となる公園として賑わい(経済的・社会的価値)を創出し、いざという時にはヘリポートや物資集積拠点として機能する重層的な空間となる。
加藤教授を都計審の委員長に迎えることは、こうした「平時の価値創出」と「災害時の命の担保」を両立させる高度な空間デザインを、市の最上位計画に論理的かつ説得力を持って位置づけるための決定的な布石となる。
3. 都市計画審議会におけるガバナンス構築と地元調整の防波堤機能
大規模なインフラ整備計画が持ち上がった際、基礎自治体(市町村)の行政担当者が直面する最大の障壁は、国や県という上位機関の意向と、地元住民・地権者の利害衝突の間に立たされ、膨大な調整業務と説明責任の矢面に立たされることである。
この構造的ジレンマを解消するためには、都市計画審議会という法定会議体を戦略的に活用する必要がある。
3.1 弥富市都市計画審議会条例に基づく外部有識者の登用プロセス
都市計画マスタープランの策定や改定、用途地域の変更、都市計画道路の決定といった重要事項は、都市計画法第77条の2第1項に基づき設置される市町村都市計画審議会での調査審議を経る必要がある。
「弥富市都市計画審議会条例」によれば、同審議会は委員15人以内で組織され、その構成員は「学識経験者」「市議会議員」「市民代表」「関係行政機関の職員」の中から市長が委嘱すると規定されている。
加藤教授に委員長(会長)へ就任していただくための法的プロセスは極めて明確である。
まず、市長が加藤教授を「学識経験のある者」として審議会委員に委嘱する。その後、条例第4条第1項の規定に従い、学識経験者として委嘱された委員の中から「委員の選挙(互選)」によって会長を定めるという手順を踏む。
過去の弥富市都計審においても、大同大学教授等の学識経験者が委員として参画しており、大学教授が委員長に互選される土壌は十分に整っている。
事前の十分な趣旨説明と行政側の熱意によって就任を受諾していただければ、制度上のハードルは皆無に等しい。
3.2 「説明の矢面」に立つ市町村を庇護する権威と中立性
広域道路のルート決定やインターチェンジの設置箇所が示された場合、地域では必ず「なぜ自分の集落が分断されるのか」「なぜ自分の農地が買収対象になるのか」といった激しい反発や不安の声が浮上する。
事業主体が国(地方整備局)や県であっても、住民に最も近い市町村が一次的な苦情窓口となり、地元説明会で「矢面に立つ」構造は避けられない。
ここで、市町村単独の論理で住民を説得しようとすれば、「国や県の言いなりになっている」という行政不信を招きかねない。
しかし、日本の都市防災・都市計画の最高権威である加藤教授が都計審のトップに座り、「このルート選定や土地利用規制は、単なる国策への追従ではなく、弥富市民の命を守るための広域的な流域治水とリスク偏在化の観点から科学的に不可避かつ最適である」という見解を打ち出せば、その説得力は次元の異なるものとなる。
さらに、委員長は中立的な学識経験者であるため、住民側の正当な懸念(営農環境の悪化やコミュニティの分断)を客観的な意見として吸い上げ、それを「審議会の総意」として国や県に対して強く突き返す(計画の修正や手厚い補償・環境対策を要求する)機能も果たす。
すなわち、加藤教授の存在は、市町村を理不尽な批判から守る防波堤であると同時に、国・県と対等以上の立場で交渉を有利に進めるための強力な「理論的武装」となるのである。
4. 事務量増大への対応と国庫支援・財政スキームの戦略的活用
都市計画マスタープランの抜本的見直し、それに伴う市民アンケートの実施、複数回にわたる地元説明会やワークショップの開催、そして膨大なデータを処理するコンサルタントへの委託など、市町村の都市計画担当部署にのしかかる事務量と財政負担は計り知れない。
特に、事業が正式に決定(都市計画決定)する「前」の段階において、市が独自にコンサルタントを雇用して素案を描くための財源をどう確保するかは、実務上の最大の懸案事項である。
4.1 計画策定段階における国の補助金・交付金メニュー
「事業が決まる前には交付金がないのではないか」という懸念に対しては、国土交通省等が用意している「計画策定・調査段階」に特化した支援メニューをフル活用することで解決が図れる。
| 支援制度の名称 | 所管・目的 | 対象となる具体的な費用・事業内容 |
|---|---|---|
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街路交通調査費補助 (都市・地域総合交通戦略策定調査) |
国土交通省。都市計画道路網の見直しや、新たな都市交通マスタープランを策定するための調査を支援。 |
新規インターチェンジ周辺の土地利用計画の検討、交通シミュレーション調査、コンサルタントへの基本計画策定委託費。(補助率:原則1/3) |
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社会資本整備総合交付金 (都市構造再編集中支援事業等) |
地方公共団体が行う、地域の特性を活かした個性あふれるまちづくりを総合的に支援。 |
立地適正化計画や都市計画マスタープランの改定作業、市民参加型のワークショップ運営費、ハザードマップの高度化費用。 |
| 防災・安全交付金 |
地域の防災・減災、安全を実現するためのインフラ整備や、関連する計画策定を支援。 |
防災拠点(命山など)の基本計画策定、事前復興まちづくり計画の策定費用、防災機能評価のためのコンサルタント委託費。 |
これらの補助金や交付金を獲得するためには、単に「書類を作るためのお金が欲しい」という旧態依然とした申請では採択されにくい。
国に対して、「一宮西港道路という国家プロジェクトを最大限に活かしつつ、気候変動適応策(流域治水)と連動した強靭な都市構造の再編モデルを弥富市で構築する」という大義名分(ストーリー)を提示する必要がある。
加藤教授が都計審委員長として計画を監修しているという事実は、この申請書の科学的根拠と先進性を裏付ける強力な材料となり、国土交通省の審査において極めて有利に働く。
4.2 「地域力創造アドバイザー」制度と外部リソースの導入
金銭的な支援だけでなく、絶対的に不足する市役所職員の「マンパワー」を補う仕組みも必要である。
総務省が推進する「地域力創造アドバイザー」制度は、都市部に所在する専門家や企業の知見を地方公共団体が受け入れ、地域活性化や合意形成の業務に従事させるための支援制度である。
自治会単位での細かい地元調整や、住民の意見集約(ワークショップのファシリテーション等)に際して、市役所の担当者が単独で対応すると業務過多により疲弊してしまう。
この制度を利用して、合意形成のプロフェッショナルである外部専門家を市の非常勤アドバイザーとして配置し、コンサルタント企業と行政の間の結節点として機能させることで、事務量を大幅に削減しつつ、質の高い住民対話を実現することができる。
加藤教授の研究室ネットワーク等を通じて、実務に長けた若手研究者やプランナーをこの枠組みで招聘することも一つの有効な戦略である。
5. 一宮西港道路の整備に伴う空間再編と土地利用の葛藤
弥富市の次期マスタープラン改定における最大の目玉は、計画が進行中である「一宮西港道路」の都市計画決定とそれに伴う土地利用の再編である。
この道路は、東海北陸自動車道の一宮JCTから伊勢湾岸自動車道の湾岸弥富IC〜弥富木曽岬IC付近までを南北に結ぶ、延長約28kmの高規格道路である。
5.1 設計速度100km/hがもたらす都市の分断とインターチェンジの構造
一宮西港道路は第1種第2級の自動車専用道路であり、設計速度100km/h、4車線という巨大な規格で計画されている。この規模のインフラが平野部を縦断する場合、構造形式(高架橋か盛土か)にかかわらず、概ね幅員20m〜23m程度の巨大な空間を必要とし、物理的に市街地や農地を分断することになる。
国(中部地方整備局)や県の小委員会において、海部地域の概ね中央部を通過する「中央ルート」案が承認されており、弥富市内を南北に貫くルート帯の絞り込みが目前に迫っている。
弥富市内には新たなインターチェンジ(IC)の設置が想定されている。このICの構造が、既存の幹線道路(国道1号、国道23号、あるいは県道等)に対して全方向へアクセス可能な「フルアクセス型」となるか、一部方向のみの「ハーフIC」となるかで、周辺の交通流動は劇的に変化する。
周辺の既存道路(特に2車線区間が残る国道1号や、慢性的な渋滞を抱える国道23号、西尾張中央道等)の容量が不足している場合、IC周辺で深刻な交通麻痺が発生する。
したがって、マスタープランにおいては、ICへのアクセス道路となる県道や市道の拡幅・新設をパッケージで位置づけ、国や県に対して「関連道路整備の同時並行」を強く要求する根拠としなければならない。
5.2 「沿道産業利用調整エリア」と農地保全のジレンマ
インターチェンジから半径1km以内のエリアは、物流施設や工業団地としての立地ポテンシャルが飛躍的に高まる。
地主の立場からすれば、これまでは厳しい農地法等の規制で縛られていた土地が、莫大な利益を生む開発用地へと化ける「おいしい話」となる。
一方で、代々受け継いできた農地や金魚の養殖池などの地域資源を守り、静かな住環境を維持したいと願う住民も多数存在する。
この相反する利害を調整するために、マスタープランにおいて「沿道産業利用調整エリア」等のゾーニングを明確に設定することが不可欠である。
無計画なスプロール開発(虫食い状の乱開発)を放置すれば、大型トラックが生活道路に進入し、通学路の安全が脅かされる。
これを防ぐためには、開発を許容するエリア(物流・工業ゾーン)と、厳格に保全するエリア(農漁業エリア)を線引きし、開発エリアに対しては「地区計画」の網をかけて、道路の幅員、緑地の確保、建築物の高さや用途を細かくコントロールする仕組みを構築しなければならない。
1年半という限られた説明会等の期間で住民合意を取り付けるためには、この「開発と保全のメリハリ」の合理性を、加藤教授のような権威ある第三者が客観的に担保することが極めて有効に機能する。
6. 国道1号「尾張大橋」の架け替えと周辺市街地の区画整理
一宮西港道路と並んで、弥富市の都市構造に甚大な影響を与えるもう一つの国家プロジェクトが、愛知国道事務所が管轄する国道1号の「尾張大橋」の架け替え事業である。
6.1 老朽化と治水上の構造的欠陥
現在の尾張大橋は供用から長期間が経過して老朽化が進行しているだけでなく、治水上の重大な欠陥を抱えている。
路面高や桁下高が、高潮計画潮位や計画洪水水位、堤防計画高のいずれにも達しておらず、橋詰部分が堤防の切り欠きのような状態になっている。
異常出水時には大型土のうを2段積みにして越水を防ぐという綱渡りの緊急対策に頼らざるを得ない状況であり、「重要水防箇所」に指定されている。
気候変動による水害激甚化を考慮すれば、橋を高く、そして長くして新しい堤防にすり合わせる抜本的な架け替えが急務である。
6.2 橋梁の線形変更(南北シフト)と土地区画整理の連動
橋を架け替える際、交通を遮断せずに工事を行うためには、現行の橋の北側または南側に新たな橋梁を建設し、前後の道路線形をシフトさせる必要がある。
過去の経緯から北側へのシフトが検討された時期もあるが、北側は家屋の連坦度が高く用地買収のハードルが極めて高いため、物理的・現実的には南側へのシフトが有力視される。
愛知国道事務所(国)の視点では、線形が決定すればそれに合わせてピンポイントで用地買収を進めるのみであるが、弥富市の都市計画の視点からはそれだけでは不十分である。
橋へのアクセス道路(県道155号など)との立体交差や平面交差の処理、旧橋梁撤去後の跡地利用、そして線形変更によって生じる残地や変形地をどう再編するかという課題が残るからである。
桑名市が伊勢大橋の架け替え等に合わせて周辺の土地区画整理事業を実施した事例にならい、弥富市も尾張大橋の橋詰周辺地域において、道路事業と連動した「土地区画整理事業」や「市街地再開発事業」を計画すべきである。
これにより、老朽化した木造密集市街地を更新し、耐震性・防火性に優れた新たな街区を創出することができる。
これもまた、マスタープランにおいて市の確固たる方針として位置づけ、事業主体である国や県に対して「単なる道路の架け替えではなく、まちづくりの契機として一体的に事業を進めること」を強く要求する根拠となる。
7. ゼロメートル防衛線:命山(防災拠点)の創造と学校機能の再定義
広域ゼロメートル地帯である弥富市において、加藤教授が提唱する「リスクの計画的な偏在化」すなわち、「水没を許容する場所」と「いかなる事態でも絶対に守り抜く拠点」を明確に分ける戦略は、市民の生命を守る最後の砦となる。
7.1 インフラ残土を活用した「命山(Inochiyama)」構想と都市計画法第53条
一宮西港道路などの大規模な土木工事では、膨大な建設発生土(盛土)が生じる。
この土砂を広大な農地等の一定区域に投入し、高さ3メートル程度の「命山(非浸水高台)」を数ヘクタールから数十ヘクタールの規模で造成する構想は、極めて理にかなっている。
この高台には、災害時に10トントラックが直接乗り入れて救援物資を降ろせるロジスティクス機能や、孤立時に外部とアクセスするためのヘリポート、さらには平時にも機能する「道の駅」や防災公園を配置する。
しかし、このような大規模な拠点を将来(例えば20年後、30年後)確実に整備するためには、現在の農地等が将来にわたって開発されず、用地として確保されていなければならない。
ここで強力なツールとなるのが、「都市計画施設(防災公園や広場等)」としての都市計画決定である。都市計画決定がなされれば、都市計画法第53条に基づく建築制限がかかり、当該エリア内に将来の障害となるような堅牢な建築物(鉄筋コンクリート造のビル等)の新築が原則として許可されなくなる。
この法的な縛り(網かけ)をマスタープランの段階で構想として打ち出し、地権者に対しては、将来の買い取りや代替地の提供(換地)といったスキームを時間をかけて丁寧に説明していく必要がある。
7.2 少子高齢化に伴う学校統廃合と「要塞化」
少子高齢化の進展に伴い、弥富市でも小学校の統廃合が避けられない課題となっている。
例えば、十四山西部小学校などの再編が議論されているが、学校施設は地域の最重要避難所として機能するため、その立地と構造は都市計画上極めて重要な意味を持つ。
ゼロメートル地帯に新たに建設される、あるいは大規模改修される学校は、伊勢湾台風クラスの浸水を想定し、最低でも「1階部分の浸水」を許容する設計でなければならない。
名古屋市臨海部防災区域建築条例等に準拠し、1階の床高さをN.P.(名古屋港基準水面)+2m以上に設定するか、あるいは1階をピロティ(柱のみの空間)とし、2階以上を主要な学習・避難空間として整備するアプローチが必須である。
また、屋上へのアクセスを容易にする外部スロープの設置、長期間の孤立に耐えうる備蓄倉庫と非常用発電機の高所配置など、学校を「地域の要塞」として再定義し、マスタープランの公共施設整備方針に明確に位置づけるべきである。
8. 結論:総合的グランドデザインへの昇華
弥富市の次期都市計画マスタープラン改定は、単なる法定文書のルーティン更新ではない。
一宮西港道路や尾張大橋の架け替えという百年に一度のインフラ更新の波を乗りこなし、同時に南海トラフ巨大地震や気候変動による水災害の激甚化から海抜ゼロメートル地帯に生きる市民の命と財産を守り抜くための「生存戦略(グランドデザイン)」の構築である。
本報告書における分析と提言の結論は以下の通りである。
第一に、都市計画審議会の委員長として東京大学の加藤孝明教授を互選により選出するプロセスは法的に担保されており、直ちに市長および事務局による招聘工作を開始すべきである。
加藤教授の「浸水対応型市街地構想」と「防災【も】まちづくり」の哲学は、弥富市が直面する水害リスクと都市開発のジレンマを科学的かつ実践的に解消するための唯一無二の理論的支柱となる。
また、権威ある第三者が都計審を率いることで、国や県が主導するインフラ事業に伴う地元調整において、市町村が理不尽な批判の矢面に立つことを防ぎ、強力な交渉力を発揮することが可能となる。
第二に、マスタープラン改定やそれに伴うコンサルタント費用、合意形成プロセスに要する膨大な事務量と財政的負担については、国土交通省の「街路交通調査費補助」や「社会資本整備総合交付金」等の国庫支援制度を戦略的に活用して解決を図る。
「地域力創造アドバイザー」等の制度を活用して外部の専門人材を市役所組織に組み込み、事務局の疲弊を防ぎつつ、高度な住民対話(ワークショップ等)を展開する体制を構築する。
第三に、一宮西港道路のインターチェンジ開設に伴う無秩序な開発を防ぐため、マスタープランにおいて「沿道産業利用調整エリア」を厳格に設定し、地区計画と連動させた開発許可のコントロールを行う。
同時に、尾張大橋の架け替えに伴う道路線形の変更を好機と捉え、国や県を巻き込んだ橋詰周辺の土地区画整理事業を推進し、安全で快適な市街地への更新を図る。
第四に、インフラ工事の残土を活用した「命山(防災拠点)」の整備や、学校統廃合に伴う新施設の「要塞化(1階床高の確保や上層階避難空間の整備)」を、都市計画法第53条の網かけ等の手法を用いて確実なものとする。
リスクを計画的に偏在化させ、水没を許容するエリアと絶対に守り抜く拠点を明確に区分する。
これら一連の施策を、国・県・市の三位一体の連携の下、市民との誠実な対話を通じて推進することにより、弥富市は全国の広域低平地が直面する課題を克服する先駆的な「レジリエント都市」のモデルとなることが期待される。
次期マスタープランは、その壮大なビジョンを実現するための法的な設計図として、歴史的な意義を持つものとなる。
