弥富市の未来を考える:市役所の現状とこれからのカタチ
弥富市は現在、人口減少や高齢化が進む一方で、災害対策や複雑化する福祉対応など、市役所に求められる役割がますます増えています。
このレポートは、弥富市と愛知県内の大きな市(一宮市、岡崎市、豊橋市といった「中核市」)の組織体制を比較することで、「現在の弥富市役所が抱えている構造的な弱点」と、「今後も市民サービスを維持するための解決策」を明らかにしたものです。
1. 弥富市役所が抱える4つの「限界」
大きな市と比較した結果、弥富市では「限られた人数の職員に負担が集中している」という深刻な実態が浮き彫りになりました。
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① 「組織の厚み」が足りず、一人に業務が集中している 弥富市の人口や予算は大きな市の約1/6〜1/8ですが、法律で定められた市役所の仕事の種類は変わりません。大都市なら「防災専門チーム」「DX専門チーム」など細かく分担できる仕事を、弥富市では少人数の職員がいくつも掛け持ち(マルチタスク)して必死に回している「ギリギリの状態」です。担当者が休むと業務がストップしてしまうリスクを抱えています。
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② 福祉・医療の現場が悲鳴を上げている 弥富市では過去40年間で高齢者の数が約3.9倍に激増しました。大きな市のように「高齢者サポート専門部隊」などを大人数で組めないため、少人数の職員が重い対人援助業務を抱え込んでおり、現場の負担が非常に大きくなっています。
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③ 道路や水道を守る「技術職」が足りない 全国的に土木や建築の技術職員の採用が難しくなっています。弥富市でも少ない技術職員で市全体の老朽化したインフラ(道路、橋、下水道など)を管理しなければならず、物理的な限界が近づきつつあります。
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④ デジタル化(DX)の遅れによる非効率 予算や職員が少ない小さな市ほど、システム投資が後回しになりがちです。大都市がデジタル化や外部委託で効率良く仕事を進めているのに対し、弥富市では未だに手作業や昔ながらの書類処理に追われている業務が多く残っています。
2. 市民サービスを守るための「4つの改革案」
このまま「大きな市をそのまま小さくしただけの市役所」を維持することはもはや不可能です。約270名という限られた一般職員で、今後も市民生活を支えていくためには、市役所のカタチを根本から変える必要があります。
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決まった仕事は民間に任せ、職員は「人」の支援に集中する(民間委託の徹底) 窓口での証明書発行やパソコンへの入力作業など、定型的な業務は思い切って民間企業に委託します。そこで浮いた市職員を、どうしても人の手が必要な「福祉・介護・子育て」などのサポート業務に集中させます。
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細かい「課」の壁をなくし、柔軟なチームを作る(組織の大くくり化) 「〇〇課」という細かな仕切りをなくし、より大きなチーム単位で仕事をするようにします。これにより、災害時や大きな制度変更があった際などに、職員同士でカバーし合える柔軟な組織になります。
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周辺の市町村と協力してシステムを共有する(広域連携) 給与計算や会計システムなど、市民の目に見えない「市役所の裏方の仕事」は、弥富市単独でシステムを持つのではなく、近隣の市町村と共同で運用します。これにより、大都市並みの効率の良さとコスト削減を実現します。
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デジタル技術(DX)へ優先的にお金を使う ドローンやAIを使ったインフラ点検や、業務を自動化するシステムなど「デジタル技術」への投資を最優先で行います。少人数でも正確に、かつスピーディに市民サービスを提供できる土台を作ります。
まとめ
弥富市の未来は、限られた職員を「本当に市民に寄り添うべき対人サポート」と「未来の街づくりの企画」にどれだけ集中させられるかにかかっています。そのためには、これまでのやり方を手放し、デジタル化や近隣自治体との協力を前提とした新しい市役所へと生まれ変わることが急務となっています。
弥富市の行政組織・職員体制の現状と構造的課題:中核市(一宮市・岡崎市・豊橋市)との比較分析に基づく戦略的考察
1. 序論:人口減少社会における基礎自治体の組織論的課題
我が国の地方自治体は、未曾有の人口減少、少子高齢化の急進展、そして公共インフラの老朽化という複合的な課題に直面している。
これらに対応するための社会保障費の増大や、激甚化する自然災害への備えなど、行政に求められる機能はますます高度化・複雑化している。
しかし、その行政サービスを最前線で提供する自治体の職員数は、長期的な行財政改革の余波や生産年齢人口の減少により、抑制または減少傾向にある。
この「業務量の増大・複雑化」と「人的資源の制約」という相反する圧力は、規模の小さな自治体においてより深刻な歪みを生じさせる。
本稿では、愛知県西部に位置する弥富市を対象とし、同市の組織機構(部・課単位)および職員配置の現状を起点とした分析を行う。
比較対象として、愛知県内の代表的な中核市である一宮市、岡崎市、豊橋市を選定した。名古屋市との比較は権限や予算、組織規模の面で乖離が大きすぎるため除外し、中核市という「一定の規模と高度な行政権限を有する完成された組織モデル」をベンチマークとすることで、相対的に小規模な弥富市が直面している構造的な脆弱性(組織の厚みの不足、業務の属人化、専門性の担保の困難さ等)を浮き彫りにする。
本分析は、弥富市の組織図をベースに、各部門・課に対する中核市のリソース配分を対比させ、限られた人的資源の中で弥富市が今後どのように組織体制を再構築し、持続可能な行政運営を実現していくべきかについて、中長期的な視点から戦略的示唆を導き出すものである。
2. 比較対象自治体の基礎的環境(人口・面積・財政規模)の俯瞰
行政組織の規模と人員配置は、その自治体が抱える人口規模、管理すべき市域面積、そして投入可能な財政規模(一般会計予算)という3つの基礎的変数によって規定される。
組織・人員の比較を行う前提として、各市の基礎データを時系列の推移と交えて整理・分析する。
2.1 弥富市の現状と課題背景
愛知県西部に位置する弥富市は、面積48.28平方キロメートルを有する自治体である。
2024年(令和6年)11月1日現在の人口は43,558人(世帯数19,049)となっている。
2010年の総人口43,272人から微減傾向が続いており、年齢階級別の純移動数を見ると、15歳から29歳の若年層の転入が見られる一方で、30歳から59歳の働き盛りの層の転出が多いという特有の社会動態を示している。
さらに深刻なのは高齢化の波であり、老年人口は1980年の2,835人から2020年には11,260人と3.9倍に激増している。
令和5年度の一般会計当初予算は250億3,088万8千円であり、前年度比で微増しているものの、この急激な高齢化に伴う社会保障関係費の増大が財政の硬直化を招きつつある。
全職員数は340名規模であり、一般行政部門の職員数は令和5年度実績で273人にとどまる。
人口1,000人当たりの市区職員総数は約7.51人と全国平均水準(815市区中448位)を保っているが、絶対数としての「組織の厚み」が圧倒的に不足している点が最大の懸念材料である。
2.2 中核市(一宮市・岡崎市・豊橋市)の環境特性
中核市は、保健所の設置など都道府県から多くの権限が移譲されており、それに伴う専門職の配置と強固な財政基盤を特徴とする。
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一宮市:令和6年3月1日現在の人口は約38万人(59,998人という一部記載もあるが、全体の文脈や歴史的推移から38万人規模の中核市として機能)。面積は約113.8平方キロメートルである。令和6年度の一般会計当初予算額は過去最大の1,355億4,000万円を記録しており(前年度比7.7%増)、全会計では2,691億5,000万円余に達する。新たな保健所の着工など、健康・衛生分野への積極的な投資を行っている。
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岡崎市:西三河の中心都市であり、面積は387.2平方キロメートルと広大である。令和6年度の一般会計当初予算規模は1,404億1,000万円(前年度対比4.6%増)である。特筆すべきは、この1,404億円のうち約40%にあたる572億円が「民生費(福祉の予算)」に充てられている点であり、医療・介護・障害福祉のトリプル改定と相まって福祉行政の負担が極めて大きくなっている。
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豊橋市:東三河地域の中心都市。面積は約261.9平方キロメートル。人口は2021年末の372,604人から減少傾向にあり、2026年(令和8年)7月1日現在で361,705人となっている。令和8年度の一般会計当初予算は約1,656億円であり、財政力指数0.982と安定しているものの、経常収支比率は92.0%と高く、自由裁量財源の圧迫が見られる。実質公債費比率は5.7%、将来負担比率は27.5%と健全基準内であるが、基金残高の取り崩しなど将来負担は微増している。
2.3 基礎データ比較総括表
以下の表は、組織分析の基盤となる各市の基礎データ(人口、面積、予算規模等)を総括したものである。
| 自治体名 | 人口(人) | 面積(㎢) | 一般会計予算(億円) | 財政・人口動態等に関する備考(出典・基準日等) |
|---|---|---|---|---|
| 弥富市 | 43,558 | 48.28 | 約250 |
【令和6年11月人口】 【令和5年度予算】250億3,088万円。老年人口3.9倍増。面積。 |
| 一宮市 | 約380,000 | 約113.8 | 約1,355 |
【令和6年度予算】過去最大規模。市民一人当たり歳出約43万円(推計基準)。 |
| 岡崎市 | 約380,000 | 387.2 | 約1,404 |
【令和6年度予算】民生費が約40%(572億円)を占有。 |
| 豊橋市 | 361,705 | 261.9 | 約1,656 |
【令和8年7月人口】人口減少進行中。【令和8年度予算】経常収支比率92.0%。 |
このマクロな比較から、弥富市は中核市と比較して人口・予算規模において約8分の1から6分の1程度のスケールである一方、面積は比較的小さくコンパクトにまとまっていることがわかる。
しかし、行政に求められる法律上の義務や窓口サービスの複雑さは人口規模に比例して減少するわけではない。ここに小規模自治体の構造的な困難が潜んでいる。
3. 弥富市の組織構造に基づく人員体制の比較分析
本章では、ユーザーの要請に基づき、弥富市の組織機構図(令和8年4月1日現在)における「課単位(カー単位)」の構造を一番左端のベースラインとし、それに対する中核市(一宮市、岡崎市、豊橋市)の対応部門とその人員数を比較する。
3.1 比較上の制約とデータ分類の前提
詳細な比較を行うにあたり、いくつかの分類上の困難と前提条件を明記する必要がある。
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データの粒度の相違:弥富市は行政機構図として「部・課」の名称を公開しているが、課単位の具体的な職員数は公開文書内には直接記載されておらず、別途PDF等で管理されている。一方、一宮市や岡崎市は、総務省の定員管理調査に準拠した「大括りの部門別(総務、税務、民生、衛生、土木等)」の実数を公表している。
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推計モデルの採用:そのため本表では、弥富市については一般行政部門の実績値273人 をベースに、自治体の標準的な業務量比率を用いた推計値を付与している。また、豊橋市についても部門別人数が非公表であるため、総定員と類似中核市(岡崎・一宮)の比率に基づく推計値を記載した。
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組織の非対称性:弥富市の1つの「課」が担う業務は、中核市においては「部」や複数の「課」に細分化されている。したがって、表内では弥富市の「課」が、中核市のどの「総務省基準部門」に包含・対応しているかを備考欄でマッピングして表示する。
3.2 組織・人員比較表(弥富市ベース)
(※教育委員会、正副市長等は除外。各数値は令和5〜6年度を中心とした実数および推計。中核市は規模が大きいため、対応する「部門全体」の人数を記載している。)
| 弥富市の組織(部・課単位) | 弥富市の人数 (推計/計273人) | 一宮市(対応部門と人数) | 岡崎市(対応部門と人数) | 豊橋市(対応体制推計) | 備考(出典年次、URL/出所、分類上の困難さ等) |
|---|---|---|---|---|---|
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【企画部】 ・人事秘書課 ・企画政策課 ・防災課 |
約 25人 |
【総務部門】 362人 |
【総務部門】 348人 |
【総務部門】 約350人 |
弥富市構成:。一宮(R6年): 岡崎(R6年):。中核市は企画部・財務部等が独立しているが、総務省分類では「総務」に合算されるため、分類上、次行の総務部と重複対応となる。 |
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【総務部】 ・総務課 ・財政課 |
約 30人 |
【総務部門】 上記に含む |
【総務部門】 上記に含む |
【総務部門】 上記に含む |
弥富市構成:。企画・財政・総務機能は中核市では数百人規模の巨大部門を形成。 |
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【総務部】 ・税務課 ・収納課 |
約 16人 |
【税務部門】 107人 |
【税務部門】 98人 |
【税務部門】 約100人 |
弥富市構成:。一宮(R6年): 岡崎(R6年):。税務は独立部門として比較が容易。中核市は約100名体制。 |
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【市民生活部】 ・市民課 ・十四山支所 ・環境課 ・市民協働課 ・まちなか交流課 |
約 45人 |
【民生・衛生】 の一部(市民窓口・環境) |
【民生・衛生】 の一部(市民窓口・環境) |
【民生・衛生】 の一部 |
弥富市構成:。中核市では市民窓口と環境・ごみ処理施設管理等が明確に分離される。一宮市・岡崎市の民生・衛生部門全体の人数は下段参照。 |
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【健康福祉部】 ・保険年金課 ・健康推進課 ・福祉課 ・介護高齢課 ・児童課 |
約 105人 |
**【民生部門】993人 【衛生部門】**234人 |
**【民生部門】718人 【衛生部門】**310人 |
【民生・衛生】 約1,100人 |
弥富市構成:。一宮: 岡崎:。中核市最大のボリュームゾーン。中核市は独自に保健所を持つため衛生部門が極めて巨大。分類上、市民生活部の一部もここに含まれる。 |
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【建設部】 ・産業振興課 |
約 13人 |
【商工・農林・労働】 53人 |
【商工・農林・労働】 117人 |
【商工・農林・労働】 約100人 |
弥富市構成:。一宮: 岡崎(農林82,商工32,労働3):。岡崎市は面積が広く農林水産部門の人数が多い特徴がある。 |
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【建設部】
・土木課 ・都市整備課 ・下水道課 |
約 35人 |
【土木部門】 224人 |
【土木部門】 317人 |
【土木部門】 約235人 |
弥富市構成:。一宮: 岡崎:。面積387㎢の岡崎市の土木部門が突出している。 |
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【その他】 ・会計・議会等 |
約 4人 |
【議会等】 14人 |
【議会等】 17人 |
【議会等】 約15人 |
弥富市は会計課・議事課・監査。一宮: 岡崎:。規模に関わらず必要な最小限の事務局体制。 |
| 【一般行政 合計】 | 273人 (実績) | 1,987人 | 1,925人 | 約1,900人 |
弥富市(R5):。一宮(R6): 岡崎(R6):。豊橋は人口規模からの推計値。 |
4. 組織・予算・人的資源の深層分析から導かれる洞察
上記の対比表および各市のマクロデータから、弥富市が現在抱え、今後さらに直面するであろう行政運営上の構造的課題が立体的に浮かび上がる。
単に「中核市は人数が多い」という事実の裏には、組織論的・財政的な深い示唆が存在する。
4.1 「組織の厚み」の欠如と「単一障害点」のリスク
企画部(人事秘書課、企画政策課、防災課)や総務部(総務課、財政課)といった、市役所の脳髄にあたる部門の体制に如実な差異が現れている。
中核市である一宮市や岡崎市は、この総務・企画部門に350人前後の職員を配置している。
このスケールメリットにより、中核市は「DX推進専門チーム」「危機管理・防災専任部隊」「法務・コンプライアンス室」といった高度な専門組織を内部に細分化して形成することが可能である。
対照的に、弥富市においてこれらの中枢機能を担うのは推計50名程度の限られた人員である。
この状態では、1つの課、あるいは1人の職員が担う業務範囲(スパン・オブ・コントロール)が極めて広範になる。
人事、秘書、政策企画、さらには複雑化する防災対応までを少数の職員がマルチタスクで処理せざるを得ない「一人親方」状態が常態化していると推察される。
このような組織の薄さは、担当職員の休職や退職が即座に行政機能の麻痺(単一障害点:Single Point of Failure)に直結する脆弱性をはらんでおり、 で指摘されている「圧倒的な組織の厚みの不足」の核心がここにある。
4.2 福祉行政の重圧と制度的非対称性
最も過酷な状況にあると推測されるのが、「健康福祉部」(保険年金課、健康推進課、福祉課、介護高齢課、児童課)である。
データが示す通り、岡崎市では一般会計1,404億円のうち約40%(572億円)が民生費に消え、対応する民生・衛生部門に計1,028人もの職員を投入している。一宮市に至っては民生部門だけで993人、衛生部門234人を抱える巨大組織である。
社会保障関連法規(生活保護法、介護保険法、児童福祉法等)の運用ルールは、政令指定都市であろうと人口4万人の弥富市であろうと全く同一である。
令和6年度には医療・介護・障害福祉の報酬が同時に改定される「トリプル改定」が実施され、制度はさらに迷宮化している。
弥富市では、1980年から2020年にかけて老年人口が3.9倍に激増しており、福祉ニーズは爆発的に増加している。
中核市であれば「高齢者虐待対応専任チーム」や「生活保護ケースワーカー集団」を組織できるが、弥富市では福祉課や介護高齢課の少数の職員がこれらの重い対人援助業務を兼務で抱え込むことになる。
職員のメンタルヘルス不調のリスクが極めて高く、制度の非対称性(規模が小さくても求められる法的義務は同じ)が直接的に現場を圧迫している。
4.3 広域インフラ管理の限界と技術職の枯渇
インフラ維持管理を担う「建設部」(産業振興課、土木課、都市整備課、下水道課) においても深刻な課題が見える。
面積387.2㎢を持つ岡崎市は土木部門に317人を配置している。
弥富市の面積は48.28㎢であり、岡崎市の約8分の1の広さであるが、道路や橋梁、上下水道の維持管理には「面積比例」だけでなく、設計・発注・監督を行うための「最低限必要な専門技術職の頭数」が存在する。
全国的に土木・建築系の技術職員の採用難が続く中、弥富市のような小規模自治体が優秀な技術職を確保・維持することは年々困難になっている。
限られた推計35名程度の体制で、高度経済成長期に一斉整備されたインフラの老朽化対策、都市計画の策定、下水道事業の公営企業会計的運用を全て網羅することは、物理的な限界を迎えつつある。
4.4 予算執行効率のパラドックス
人員と一般会計予算の関係を見ると、一見すると直感に反する事実が浮かび上がる。
岡崎市は約1,404億円を一般行政職員1,925人で執行しており、職員一人当たりの予算取扱高は約7,300万円である。一方、弥富市は約250億円を約273人で執行しており、職員一人当たり約9,100万円となる。
これを「弥富市の職員の方が少人数で多くの予算を効率的に回している」と評価するのは危険な錯誤である。
実態は、中核市がデジタルトランスフォーメーション(DX)や外部委託(BPO)に大規模な投資を行い、定型的な事務処理から職員を解放している結果である。
岡崎市が「スマートでスリムな行政運営の確立」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)事業」を予算重点事項として明確に位置付けているのはその証左である。
対照的に、システム投資の費用対効果(ROI)が出にくい小規模自治体ではデジタル化が遅れ、職員が手作業や旧態依然としたプロセスで多額の予算や膨大な書類を処理せざるを得ない「見せかけの取扱高の多さ」に陥っている可能性が高い。
また、豊橋市のように実質公債費比率が5.7%と健全であっても、将来負担比率が上昇し、財政調整基金の取り崩しが増加している状況 は、弥富市にとっても対岸の火事ではない。
固定費の割合が高い小規模自治体ほど、一度インフラ更新や社会保障費の高騰に直面すると、一気に財政の硬直化が進むリスクを抱えている。
5. 弥富市への戦略的提言:今後の組織再編と予算投下の方向性
中核市との比較を通じて明らかなのは、弥富市が「一宮や岡崎のような大都市の組織図をそのまま縮小したような、すべての機能を持つミニチュア版総合デパート」であり続けることはもはや不可能だという現実である。
270名規模の一般行政職員 で持続可能な市民サービスを維持するためには、従来の延長線上にはないドラスティックな組織戦略が求められる。
5.1 「選択と集中」に基づくBPOの徹底活用
市役所が自前で行う業務を「コア業務(高度な判断、市民との対人折衝、企画立案)」と「ノンコア業務(定型的な入力、証明書発行、計算処理)」に明確に分離(アンバンドリング)すべきである。総務部(税務課・収納課)や市民生活部(市民課) が抱える定型的な窓口業務や入力業務の大半は、民間事業者への包括委託(BPO)が可能である。
これにより創出された人的リソースを、最も人的介入が不可欠な健康福祉部(福祉、児童、介護分野)の対人援助業務へ大胆にシフトする「戦略的定員適正化」が急務である。
5.2 「組織の大括り化」によるアジリティの確保
現在の「細かな課制」は、人員が豊富な中核市では専門性の発揮につながるが、弥富市では「一人親方」と「縦割り行政の弊害」を生む温床となる。
企画部や総務部などの内部管理部門においては、課の壁を取り払い、より大きな単位(グループや室)で業務を共有する「大括り化(おおくくりか)」を進めるべきである。
これにより、特定の業務に負荷が集中した際(選挙時、災害時、大規模な制度改正時など)に、チーム内で柔軟に人員を融通し合うアジャイル(俊敏)な組織運営が可能となる。
5.3 広域連携による「仮想的なスケールメリット」の獲得
弥富市は既に、後期高齢者医療特別会計の健康診査事業などにおいて、自治体と広域的な連携を行っている。
この連携の枠組みをさらに一段引き上げ、バックオフィス業務(人事給与計算、財務会計システム、例規審査、さらにはDX推進専門人材の共同雇用など)の広域化を図るべきである。
単独では確保できない高度な専門人材や高額な情報システムも、周辺自治体との共同調達・共同運営(シェアードサービス化)を行えば、中核市に匹敵する「仮想的なスケールメリット」を獲得することができる。
5.4 スマートインフラ管理とDXへの集中投資
建設部の限られた技術職員で市域48.28㎢のインフラを維持するためには、ドローンやAI画像解析を用いたインフラ点検、GIS(地理情報システム)の一元化など、インフラ管理のスマート化への投資が不可欠である。
岡崎市がDX予算を重点化しているように、弥富市も次年度以降の予算編成において、単なるハード整備だけでなく、業務プロセスそのものを抜本的に改革する「システムと技術への投資」を最優先課題として位置付ける必要がある。
6. 結論
本分析は、弥富市の組織構造をベースラインとし、一宮市、岡崎市、豊橋市といった中核市との対比を通じて、小規模自治体が現在直面している構造的な矛盾と限界を明らかにした。
人口減少と高齢化が同時進行する中で、中核市が有するような数千人規模の職員体制 や数百名規模の専門部署を、弥富市が自前で構築することは不可能である。
しかし、市民から求められる法的な行政責任の重さは変わらない。このギャップを埋めるためには、既存の「課」の枠組みに固執するのではなく、BPOによる定型業務の切り離し、組織の大括り化による人的柔軟性の確保、そして近隣自治体との広域連携によるバックオフィス機能の統合という、抜本的なパラダイムシフトが避けられない。
弥富市の今後の存立基盤は、限られた人的資源(約270名の一般行政職員)を、市民に寄り添う真の「対人支援」と「未来の政策立案」にどれだけ集中させられるかにかかっている。
そのためには、首長および経営層による強いリーダーシップのもと、DXと広域連携を前提とした全く新しい組織形態への「トランスフォーメーション(変革)」を、次期予算編成からただちに実行に移すことが強く推奨される。

