
2026年2月に愛知県弥富市で発覚した重大な「官製談合事件」。落札率99%超という長年の異常な癒着構造もさることながら、事件発覚後に市が“真相究明と再発防止”を掲げて実施した「職員アンケート調査」に、極めて深刻な法的・倫理的欠陥が潜んでいることが詳細な分析により浮き彫りとなりました。
本サマリーは、市中枢部によって強行されたこのアンケートがいかにして「偽装された匿名性」を用いて事実上の内部告発を強要し、職員に対するパワーハラスメントや事案の矮小化(組織の責任から個人の問題へのすり替え)の手段へと変質しているかを指摘した『徹底分析報告書』の要点をまとめたものです。
市の対応のどこに問題があったのか、そして真の信頼回復のために今何が求められているのか。市政のガバナンス崩壊の実態と、適正な解決に向けた道筋を市民の皆様に分かりやすく解説します。
1. 「市アンケート」の4つの重大な問題点
市は「匿名でのアンケート」として職員から情報を集めましたが、その実態には以下の深刻な疑義が提起されています。
2. なぜこの調査が「パワハラ」に該当するのか
現在の法律(労働施策総合推進法など)に照らし合わせると、市のアンケート手法は明らかなパワーハラスメントにあたると指摘されています。
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密告の強要と恐怖支配: 個人が特定されうる状態で「上司の不正を見たか」等を問うことは、職員を「隠蔽の共犯者」か「組織への密告者」かの二択に追い込む精神的苦痛(個の侵害)を与えています。
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責任のすり替え: 市の古い入札制度(予定価格の事後公表への固執)や上層部の責任という根本原因から目を背け、末端職員の「倫理観の問題」や「業者との不適切な関わり」に責任を押し付けています。
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公益通報者保護法の骨抜き: 法令で守られるべき内部告発者の匿名性や安全を全く保障しないまま、危険な状態で情報を出させています。
3. 結論と今後市がとるべき対応
報告書は、今回のアンケートが不完全な制度の犠牲となりうる職員をさらに追い詰める「二次的加害」であると断じています。崩壊した行政のガバナンス(統治機能)を立て直すため、以下の対応が強く求められています。
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現在の報告書の白紙撤回
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証拠の検閲や改ざんが行われ、職員への脅威論理で作成された内部調査の結果は無効とすべきです。
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完全独立した「第三者委員会」の設置
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市長や内部幹部を完全に排除し、利害関係のない外部の弁護士等の専門家のみで構成される委員会を立ち上げる必要があります。
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安全な環境での再調査
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市側(人事権者)が回答者の個人情報やアクセス履歴に一切触れられないシステムを使い、職員が報復を恐れず真実を語れる環境を用意しなければ、本当の真相解明は不可能です。
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※職員の皆様へ(公的救済措置について) このような不当な情報収集によって精神的苦痛やプライバシー侵害を受けた場合、弁護士会の人権救済申立制度や、人事委員会・公平委員会への苦情相談・措置要求、法務局への相談等の公的な救済手段を利用することが可能です。その際、アンケートの画面保存などの証拠保全が重要となります。
地方自治体における不祥事調査アンケートの法的課題とハラスメント該当性に関する徹底分析報告書 ——弥富市官製談合事件を事例として——
1. 序論:官製談合事件の深層と「偽装された自浄作用」
2026年(令和8年)2月に愛知県弥富市で発覚した官製談合事件は、公共工事における行政ガバナンスの完全な崩壊と、長年にわたる官民の癒着構造を白日の下に晒すものであった。
同市の当時の建設部長が、予定価格の算定根拠となる極秘データ(設計金額)を特定の地元業者に漏洩し、結果として落札率が99.09%という異常な高値で落札されていた事実が立件され、有罪判決が下された。
この事件は、単なる一職員の倫理的逸脱に留まらず、地方自治体の入札契約制度における構造的・組織的病理の必然的帰結である。
しかし、本事件発覚後の弥富市執行部の対応、とりわけ真相究明と再発防止を目的として実施された「庁内システムを利用した職員アンケート」の設計および運用手法については、重大な法的・倫理的疑義が存在する。
市長をトップとする内部の「再発防止対策検討委員会」が主導し、財政課等の市中枢部門が実施したこのアンケートは、形式上は匿名とされながらも、回答者の属性(所属・役職)の交差配列により容易に個人が特定されうる構造を有していた。
本報告書は、労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)におけるパワーハラスメントの法的定義、および公益通報者保護法の理念に照らし合わせ、当該職員アンケートの実施手法がいかにして「職場におけるパワーハラスメント」を構成しうるか、また組織的隠蔽や事案の矮小化に寄与しているかを網羅的かつ多角的に分析するものである。
特に、「組織への不信を前提とした踏み込んだ調査を、身元が特定されうる環境で強要すること」が、現代の労働環境においていかに深刻な心理的ハラスメントに該当するかを実証的に論じる。
2. 弥富市官製談合事件の構造的背景
事案の背景を正確に把握し、その後のアンケート調査の不当性を浮き彫りにするためには、弥富市における公共工事の発注体制とその歴史的経緯を理解する必要がある。
2.1. 事後公表制度への固執と癒着の温床
全国の多くの自治体が、談合防止や透明性確保の観点から予定価格の「事前公表」へと移行する中、弥富市は頑なに「事後公表制度」を維持し続けてきた。
事後公表制度下においては、建設業者は最低制限価格割れによる失格を回避しつつ、最大限の利益を得るための「正解(設計金額)」を探り当てようとする。
その結果、権限を持つ市幹部に対する執拗な接触が常態化する土壌が形成されていた。
行政側にとっても、予算消化のプレッシャーや入札不調による工期遅延を極端に恐れるあまり、業者に対して実質的な正解を漏洩することが、事業を円滑に進めるための「必要悪」として組織内で正当化されるブラックボックスが存在していた。
この観点から見れば、逮捕された前建設部長もまた、業者からの圧力と不完全な入札制度の板挟みとなり、「業者の言うことを聞かなければ自らの立場が危うくなる」という恐怖感に支配された、歪んだシステムの中の被害者的側面を内包していると言える。
2.2. ガバナンスを欠いた内部委員会の設置と利益相反
不祥事発覚当初、弥富市は第三者委員会の設置を表明していたものの、実際に立ち上げられたのは市長自らが委員長を務め、副市長や各部長などの内部の人間で構成される「官製談合再発防止対策検討委員会」であった。
日本弁護士連合会が定める「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」によれば、不祥事の調査は利害関係のない外部の有識者のみで構成し、独立した客観的な調査権限を付与することが強く求められている。
監督責任を問われるべき首長が自ら調査委員会のトップに座る構造は、極めて深刻な利益相反(コンフリクト・オブ・インタレスト)を引き起こす。
公務員の組織構造上、財政課や総務課は市長・副市長と直結する中枢部署であり、そこに独立性は存在しない。
このような「身内によるお手盛り調査」は、組織的関与の全容解明を阻害し、事案を特定の個人のコンプライアンス違反へと矮小化する機能しか果たさない。
この構造的欠陥こそが、後に実施される職員アンケートが「権力者による強圧的な情報収集」へと変質する根源的な要因となっている。
3. 職場におけるパワーハラスメントの法的定義と変遷
当該アンケートがパワーハラスメントに該当するかを論じる前提として、現代の法制度におけるパワーハラスメントの定義を明確にする。
30年前の行政組織であれば、「上層部の指示には黙って従い、組織の意向に沿った回答を提出する」ことが常識、あるいは必要悪とされていたかもしれない。
しかし、コンプライアンス意識が高度化した現在において、その認識は完全に時代遅れであり、法的に許容されない。
労働施策総合推進法に基づく厚生労働省の指針によれば、職場のパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たす言動を指す。
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優越的な関係を背景とした言動であること
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業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
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労働者の就業環境が害されるような言動であること
3.1. 優越的な関係の絶対性
「優越的な関係」とは、単なる職務上の上下関係に限定されない。
地方公務員組織において、予算編成権や人事評価権に直結する「財政課」や「総務課」が全庁的な調査を行う場合、そこには一般職員にとって抗うことのできない強固な「絶対的優越関係」が存在する。
アンケートの実施主体がこれらの部署である以上、職員はこれを任意の依頼ではなく、最高権力者(市長)からの事実上の業務命令として受け止めざるを得ない。
3.2. 精神的な攻撃と就業環境の阻害
厚生労働省はパワーハラスメントの代表的な6類型として、「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」を挙げている。
特に、「精神的な攻撃」には、意に沿わない行為の強要や、地位を失わしめるような恐怖感を与えることが含まれる。
また、プライバシーに過度に立ち入る行為や、内心の自由を侵すような強圧的な情報収集は「個の侵害」に該当する。
就業環境が害されるとは、これらの言動によって労働者が精神的苦痛を受け、看過できない程度の支障が生じる状態を意味し、必ずしも身体的な疾患を伴う必要はない。
4. 弥富市職員アンケートの構造的欠陥:偽装された匿名性
弥富市が令和8年6月に実施した「完全版:入札不正行為再発防止対策に係るアンケート調査結果」の詳細なデータを分析すると、調査設計そのものに重大な欠陥があり、実質的な匿名性が完全に破壊されていることが判明する。
4.1. 属性の交差配列(クロス集計)による個人特定の容易性
本アンケートはグループウェア「desknet’s(デスクネッツ)」のアンケート機能を利用して実施され、市側は「匿名で実施。作成者やシステム管理者であっても回答者の特定は不可」と主張している。
しかし、システムの仕様上の匿名性と、データ分析上の匿名性は全く別次元の問題である。
調査対象者227人のうち、回答者は209人である。ここで注目すべきは、所属(6区分)と役職(4区分)の掛け合わせである。例えば、「①部長級・次長級・課長級」の回答者は全庁でわずか32人である。これを6つの部に割り振った場合、1部署あたりの該当者は平均して5.3人しか存在しない。部署によっては、該当する課長級職員が2〜3名というケースも十分にあり得る。
このような極小の母集団において、仮にある課長が回答を拒否した場合、人事記録と照合すれば「どの部署のどの課長が未回答であるか」は逆算によって即座に特定可能である。
グループ単位での特定が可能な状態(グループ属性と役職のクロスによる絞り込み)で、極めてセンシティブな質問への回答を迫ることは、社会調査の基本である「心理的安全性の担保」を根底から破壊する行為である。
4.2. システムのログとメタデータへの恐怖
グループウェアを介したアンケートは、たとえ回答内容自体が匿名化されていたとしても、ログイン履歴、アクセス時間、IPアドレスなどのメタデータがシステム上に残存する。
人事権を握る財政課が調査主体である以上、「本気になって調べられればバレるのではないか」という恐怖心(萎縮効果)が職員間に蔓延するのは必然である。
この「特定される恐怖」がある限り、職員は自己防衛のために「当たり障りのない無難な回答」を選択せざるを得ない。
5. アンケート設問が構成する心理的ハラスメントの実態
匿名性が担保されていない状況下で、本アンケートが職員に何を問うているかを分析すると、これが単なる実態調査を逸脱した「精神的拷問」に等しいことが明らかになる。
5.1. 内部告発の強要と「個の侵害」
アンケートの第3章および第4章では、職員に対して同僚や上司の不正行為を見聞きしていないかを執拗に問うている。
身元が特定されうる環境で、「上司から不当な働きかけを受けたか(問31)」「情報漏洩を見たか(問7-1)」と問われる職員の心理的負担は計り知れない。
仮に正直に「上司から働きかけを受けた」と回答した場合、その情報が市長・副市長直轄の財政課に筒抜けとなり、自身の立場が危うくなるリスクがある。
これは、職員を「不正を隠蔽する側(共犯者)」か「組織に刃向かう側(密告者)」かの二者択一に追い込むものであり、厚生労働省がパワハラの類型として定める「個の侵害」および「精神的な攻撃」に他ならない。
組織に対する不信感を前提として、地位を失う恐怖感をもって回答を支配する行為自体が、現代の基準では明明白白なパワーハラスメントである。
5.2. 責任転嫁の誘導と自己否定の強要
事件の認識を問う「問3」において、原因を複数回答で尋ねた結果、「業者・業界団体と職員の関わりの問題(74.6%)」「コンプライアンス・職員倫理の問題(55.0%)」が上位を占め、「入札契約制度の問題(24.4%)」や「上司等との関わりの問題(13.9%)」は低く留まっている。
この結果は、職員が事態の本質を見誤っているのではなく、「制度(市長の権限)」や「上司」を批判することを恐れ、当たり障りのない「個人の倫理」や「業者の責任」に丸め込まざるを得なかった結果と見るべきである。
また、「問17」において「個人所有の携帯電話で業者と連絡を取ったことがある」と37人が回答している点も深刻である。
公用携帯が十分に配備されていない等の業務上の実態があるにもかかわらず、これを「不適切な業者との関わり」として自己申告させることは、職員に過剰な自責の念を抱かせ、就業環境を著しく悪化させる。
5.3. 異常な回答率(92.1%)が示す「支配と恐怖」
市側は、227人中209人が回答した「92.1%」という高い回答率をもって、「職員がこの件について前向きに協力してくれた証左である」と自己評価している。しかし、これは心理的支配の構造を全く理解していない暴論である。
通常の人間であれば、自身に危険が及ぶ可能性があるセンシティブな調査や、直接関心のない事柄に対して、自発的に9割以上が回答することはあり得ない。
この異常な回答率は、「未回答であれば人事評価に響く」「非協力的だとして特定される」という極度の恐怖心と強制力が働いた結果に他ならない。
恐怖によって行動を強制し、それを「協力」と呼称すること自体が、典型的なハラスメント加害者の論理である。
6. 公益通報者保護法の潜脱と違法性の疑い
本アンケートの実施手法は、ハラスメントの側面だけでなく、法令遵守の観点からも極めて重大な違法性を孕んでいる。
2025年に改正・施行された公益通報者保護法は、内部通報に対する体制整備を事業者に義務付け、通報者を特定させる情報の漏洩に対して刑事罰(30万円以下の罰金)を伴う厳格な守秘義務を従事者に定めている。
また、同法では「通報者の探索(犯人探し)」や「通報を理由とした解雇・降格などの不利益な取扱い」を明確に禁止している。
本アンケートの「問22」において、市の公益通報制度要綱の内容を「よく知っている」「少し知っている」と答えたのは計65人に過ぎず、142人(約68%)が「内容は知らない」「要綱があることを知らない」と回答している。
このように適正な内部通報制度が全く周知・機能していない状況下で、市はアンケートという形で実質的な「疑似内部告発」を強制しているのである。
前述の通り、本アンケートは回答者を絞り込める構造にある。
もしある職員が「上司が不正に情報を漏らしているのを見た」と回答した場合、その職員は公益通報者保護法が本来提供すべき「匿名性の確保」や「不利益取扱いの防止措置」という法的保護の枠組みから完全に外れた状態で、市中枢部に情報を明け渡すことになる。
法が求める厳格な保護体制(外部窓口の設置や絶対的な秘密保持)を提供せずに、内部告発に等しい情報を人事権者が収集するアンケートの実施は、職員のプライバシー権の侵害であると同時に、公益通報者保護法の規定を骨抜きにする極めて悪質な潜脱行為である。
7. 「白石市事例」の不適切な援用と事案の矮小化の構造
弥富市は本件の事後対応において、宮城県白石市で発生した官製談合事件における職員アンケート調査を模倣し、自己正当化を図っている。
しかし、両者のアンケート手法と背景を比較分析すると、弥富市が白石市の事例を援用することの不当性が浮き彫りになる。
7.1. 実施主体と強制力(異常な回答率)の類似性
白石市も弥富市も、外部の有識者からなる第三者委員会ではなく、副市長や市内部の幹部職員のみで構成された「内部の検討委員会」がアンケートの実施主体となっている。
また、回答率を見ると白石市が92.3%、弥富市が92.1%と、いずれも9割を超える異常に高い数値を示している。
人事評価の権限を持つ内部中枢が実施する調査においてこれほどの回答率に達することは、自発的な協力というよりも、「未回答であれば特定され、不利益を被るかもしれない」という職員に対する実質的な強制力や心理的圧力が働いていたことを強く示唆している。
7.2. 実施されたフェーズと事案の性質の決定的な違い
両者の最も大きな違いは、事件の規模とアンケート実施のタイミング(フェーズ)である。
白石市の事例は、上下水道事業所の「係長クラス(中間管理職)」による単独の犯行であり、警察の捜査が終了し、刑事裁判で有罪判決が確定した後にアンケートが実施された。
つまり、事実関係が確定している状態を前提とし、今後の事務的なルール作りや倫理規程の策定といった「再発防止フェーズ」として行われたものである。
一方、弥富市の事例は、市全体の工事を統括する「建設部長(最高幹部クラス)」が関与し、落札率99%超という長年にわたる組織的な官民癒着や行政の構造的欠陥が疑われている事案である。
事実関係の全容が未解明であり、本来であれば「真相究明」が強く求められているフェーズでの実施であった。
7.3. 比較を通じた事案の矮小化と責任転嫁
弥富市のアンケートは、所属と役職のクロス集計によって回答者が極めて少人数のグループに絞り込める構造になっており、システム上特定される恐怖感をもって内部告発に等しい回答を強要している。
最高幹部の犯罪行為や組織的背景の全容解明を、市長や内部幹部による調査で暴くことは事実上不可能である。
弥富市が白石市の事例(事務的なアンケートの実施や、コンプライアンス研修の充実など)を引き合いに出し同列に扱うことは、客観的に見て不適切である。
単独犯の事件確定後に行われた白石市の事務的な対応を模倣することで、弥富市は自らが抱える「長年の構造的・組織的な腐敗」という本質的な問題から意図的に目を背け、事件の責任を末端職員の「個人の倫理観の欠如(心の問題)」へとすり替えようとしていると評価できる。
8. 自由記述(問36)の検閲・改竄:隠蔽の動かぬ証拠
本アンケートの信頼性を決定的に失墜させているのが、調査概要の「その他」の項目に記載された以下の文言である。
「アンケートで得られた自由記述(問36)は全て分析検証の対象とし、検討委員会で審議の上、一部内容について追加削除を行っている。」
アンケートの自由記述は、職員の生の声であり、組織の病理を明らかにする最も重要な一次データである。
これを、事件の監督責任を問われる立場にある市長をトップとする委員会が「審議の上で追加・削除(検閲・改変)」を行うと公言している事実は、客観的調査の完全な放棄である。
自分たちに都合の悪い記述(例えば市長や幹部への批判、特定業者の実名など)を削除し、都合の良い文言を追加する行為は、証拠隠滅や文書改竄と同義である。
このような恣意的な操作が行われるアンケートは、真相究明のためのツールではなく、行政に都合の良いストーリーを構築し、市民と議会を欺くためのアリバイ作りに過ぎない。この一点のみをもってしても、本調査の正当性は完全に否定される。
9. 適正な調査モデルとの比較:外部弁護士(第三者委員会事務局)によるアンケート手法
本アンケートが抱えるハラスメント性や構造的欠陥をより明確にするため、仮に「完全独立した第三者委員会が設置され、外部の弁護士事務所を事務局としてアンケートを実施した場合」との比較検証を行う。
市長をトップとする現在の内部調査と、外部弁護士による独立調査とでは、その手法と職員に与える心理的影響において決定的な違いが生じる。
9.1. 情報の完全な遮断とシステム的独立性
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内部調査(弥富市方式): 庁内のグループウェアを使用し、市長直轄の中枢部門(財政課等)がデータを直接回収する。属性のクロス集計による個人特定の恐怖や、システムのログインログといったメタデータを通じた監視の恐怖がつきまとう。
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弁護士事務所方式: 外部の弁護士事務所が用意した独自の外部システム、あるいは厳封された郵送等を用いて回答を回収する。IPアドレスやログイン情報が市のネットワークを一切経由しないため、市側への情報漏洩が物理的・システム的に完全に遮断される。弁護士には厳格な守秘義務があり、市側(人事権者)に渡されるのは「完全に匿名化・不可逆化された集計結果」のみとなる。
9.2. 心理的安全性と「優越的な関係」からの解放
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内部調査(弥富市方式): 人事評価権や予算編成権を握る市長・副市長・財政課が調査主体であるため、「絶対的な優越関係」が存在する。意に沿わない回答をすれば不利益を被るかもしれないという恐怖心(精神的な攻撃)が働き、92.1%という異常な回答率や、組織批判を避けた無難な回答の強要という結果を招いている。
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弁護士事務所方式: 弁護士事務所は独立した外部の専門機関であり、市の職員に対する人事権や評価権限を一切持たない。優越的な関係が存在しないため、職員は「未回答による人事的な報復」や「告発による降格」といった恐怖(ハラスメント)から完全に解放される。これにより、上層部の不当な圧力や構造的欠陥についても、ありのままの真実を証言できる「心理的安全性」が担保される。
9.3. 自由記述の客観的検証と証拠保全
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内部調査(弥富市方式): 内部の検討委員会が自由記述を「審議の上で追加・削除」すると公言しており、幹部に都合の悪い情報が恣意的に検閲・改竄される構造になっている。
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弁護士事務所方式: 弁護士という法的専門家が、自由記述を「客観的な証拠」として保全・分析する。自己保身のための検閲や改竄が入り込む余地はなく、組織の病理を正確に抽出する真相究明の強力なツールとして機能する。
以上のように、外部弁護士事務所を事務局とする第三者委員会のモデルと比較することで、弥富市が現在行っているアンケート手法が、いかに職員の心理的安全性を破壊し、ハラスメント(恐怖による支配と自己保身のための情報強要)の温床となっているかがより一層明白となる。
10. ハラスメントおよびプライバシー侵害に対する公的救済措置
本アンケートの実施手法のように、実質的な強制力や個人の特定を伴う形で内部告発や自己情報の開示を強要され、精神的苦痛(パワーハラスメント)やプライバシーの侵害を受けた場合、職員は以下のような公的な窓口に告発や救済申立てを行うことが可能である。
10.1. 弁護士会による「人権救済申立制度」
日本弁護士連合会(日弁連)や各地域の弁護士会(本件の場合は愛知県弁護士会など)には、人権侵害に対する救済を求めるための申立制度が用意されている。
書面で申立の趣旨や理由などを提出すると、弁護士会の人権擁護委員会が事実関係を調査する。
調査の結果、人権侵害やそのおそれがあると認められた場合、弁護士会から加害者やその監督機関(市長や市当局)に対して、状況の改善を求める「警告」「勧告」「要望」などの処置が行われる。
ただし、この制度は弁護士が個人の代理人として直接的な訴訟活動を行うものではなく、調査から結論が出るまでには一定の期間を要する点に留意が必要である。
10.2. 人事委員会・公平委員会への苦情相談・措置要求
地方公務員法に基づき、地方公務員には自身の勤務条件やハラスメントに関する苦情について、自治体に設置されている独立行政委員会である「人事委員会」または「公平委員会」に対して申し立てを行う権利が保障されている。
単なる「苦情相談」に留まらず、不適切な就業環境の改善やアンケートの運用是正等を法的に求める「措置要求」を行うことも可能である。
10.3. 法務局(人権擁護委員)への相談
法務省の管轄である地方法務局の人権相談窓口においても、パワーハラスメントや強要に関する相談を受け付けている。
事案によっては、人権擁護委員や法務局が「人権侵犯事件」として調査に乗り出し、行政機関に対する勧告や当事者間の調整を行う場合がある。
10.4. 証拠保全の重要性
いずれの機関に申し立てを行う場合でも、客観的な証拠が極めて重要となる。
アンケートの設問画面の保存、システム上匿名性が担保されていないことを示す仕様の記録、回答を事実上強要された際のメールや指示内容(録音やメモ)などを、市の中枢部門がアクセスできない安全な個人的環境に保全しておくことが、救済を求めるための第一歩となる。
11. 結論およびガバナンス再構築に向けた提言
以上の網羅的かつ多角的な分析から、弥富市が実施した「入札不正行為再発防止対策に係るアンケート調査」は、真の真相究明を目的としたものではなく、以下の理由により明確な「職場におけるパワーハラスメント」に該当すると結論付ける。
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絶対的な優越関係の濫用: 市長直結の中枢部門が、人事権を背景に調査を実施している。
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匿名性の意図的な破壊: 所属と役職のクロス集計により個人が特定可能な状態(絞り込み)で、内部告発に等しいセンシティブな回答を強要している。
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就業環境の甚大な阻害: 職員に「特定され、地位を失うかもしれない」という恐怖心を植え付け、無難な回答や自己否定を強要することで、精神的な苦痛を与えている。
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法令の潜脱: 公益通報者保護法が求める厳格な保護体制を敷かずに情報を収集し、かつ自由記述の検閲・改竄を行うなど、コンプライアンスの基本原則から著しく逸脱している。
組織の上に立つ者が、従来の手法(部下は黙って従うべきという前時代的な意識)を疑わず、無自覚なままに権力を行使し、恐怖をもって下部を統制することは、現代の社会通念上許容されないハラスメントである。
このアンケートは、不完全な制度の犠牲となりうる職員をさらに追い詰める二次的加害に等しい。
弥富市が真の信頼回復と再発防止を図るためには、現在の内部調査に基づく欺瞞的な報告書を直ちに白紙撤回しなければならない。
そして、首長や市幹部を完全に排除し、外部の弁護士事務所を事務局として情報の遮断を確約した独立の「第三者委員会」を直ちに設置すべきである。
真のアンケート調査は、市側が一切の回答情報(属性、システムログ含む)にアクセスできない完全な匿名化と、回答者に対する人事上の免責(不利益取扱いの禁止)が法的に確約された環境下でのみ実施されなければならない。
弥富市行政が自らの構造的欠陥と向き合い、責任を末端に転嫁する体質から脱却することこそが、崩壊したガバナンスを立て直す唯一の道である。
