弥富市の官製談合問題を「弱い者いじめ」で終わらせないための提言書
1. 提言の背景と現状への危機感
現在、弥富市において発生した官製談合問題への対策として、ほぼ全職員を対象とした「不正を見聞きしたか、関与したか」を問う強制的なアンケートが実施されています。
しかし、この手法には以下の重大な懸念があります。
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ハラスメント的性質と人権侵害の恐れ: 強い圧力の中で回答を迫る手法は、戦前の思想調査にも等しく、職員に対するパワーハラスメントに他なりません。
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匿名性の担保と恐怖心: 誰が何を言ったか類推されかねない状況では、真の職場風土の改善に繋がる率直な意見は決して出てきません。
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責任転嫁の構造: 入札結果の明らかな異常や、権力を持つ層の動向を棚に上げ、末端の職員に責任や証言を押し付ける「弱い者いじめ」の構図となっています。
市長・副市長が「風通しの良い職場」を口にする一方で、隠蔽体質が疑われる組織体制のままこのようなアンケートを行っても、組織の硬直化と職員の萎縮を招くだけです。
2. 根本的な課題:パターナリズムと組織の硬直化
今回の談合問題の根底にあるのは、権力を持つ年長者や上層部に対し、若手職員や女性職員が「おかしい」と意見できない、パターナリズム(温情主義・権威主義)と組織の硬直化です。
誰も不正を知らなかったはずがないにもかかわらず声が上がらなかったのは、個人のモラルの問題ではなく、「物を言えば自分が不利益を被る」「空気を読まなければならない」という閉鎖的な職場風土という構造的な問題です。
3. 解決に向けた具体策の提言:『行動する傍観者』の育成
職員を追い詰めるアンケートではなく、組織を内側から健全化するための建設的なアプローチとして、以下の施策を提言します。
① 「アクティブ・バイスタンダー(行動する傍観者)」研修の導入
朝日新聞の特集記事(安藤真由美・浜田真理氏の取り組み)でも注目されている、「第三者の介入」を促す研修などをを市の公式なプログラムとして導入することをお勧めします
ハラスメントや不正の場面に遭遇した際、誰もが「行動する傍観者」となれるよう、以下の「た・よ・レ・ま・す」の5つの視点を組織全体で共有することが有効です。
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た(助けを求める): 人事や外部窓口などへ間接的に支援を求める。
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よ(寄り添う): 介入が難しくても、後で被害者に声をかけ孤立を防ぐ。
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レ(レコーディングする): 事実を客観的に記録する。
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ま(間違いを指摘する): 可能な状況であれば、その場で是正を促す。
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す(すり替える): わざと物を落とすなどして、その場の空気を変え、会話を中断させる。
白黒をつけるだけの知識提供ではなく、ロールプレイ等を通じ「自分にもできることがある」と職員が当事者意識を持てる研修が必要です。
② 外部専門家の積極的な登用
現在の市の中枢(人事課等)が主導する形では、職員の警戒心は解けません。ジェンダー問題や組織風土改革に知見のある外部の有識者や市民グループを招き、第三者による透明性の高い検証と研修を実施すべきです。
③ 若手職員による「自主研究」の支援とボトムアップ改革
弥富市には職員の声を代弁する労働組合(職員組合)が存在しないという大きな弱点があります。
これを補うため、若手職員を中心とした「職場風土改善のための自主研究グループ」の立ち上げを市が支援し、上意下達ではないボトムアップ型の組織改革を推進することを提案します。
4. 結びに
組織は必ず間違える生き物です。重要なのは、間違いが起きた時にそれをどう正直に認め、自浄作用を働かせるかです。
今回の談合問題の解決策を、末端職員への「パワハラアンケート」で終わらせてはなりません。
職員一人ひとりが自己肯定感を持ち、勇気を出して行動できる真に風通しの良い組織へ生まれ変わるための、抜本的な組織風土の改革を強く求めます。
【弥富市職員向け】心理的安全性を基盤とした組織再生の提言サマリー
現在、弥富市役所は官製談合事件とその後の不祥事対応により、極めて困難な状況にあります。本提言は、この事態を「一個人の不祥事」や「末端職員の責任」に帰結させることなく、組織全体の構造的な課題として捉え直し、皆様が専門職としての誇りを持って働ける職場を再構築するためのアプローチです。
1. 現在の組織が抱える「構造的病理」とは
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官製談合の本質は「システム・エラー」
落札率99%超という異常値は、前建設部長個人の倫理観の欠如だけで起きたものではありません。不完全な入札制度(事後公表制度)の維持や、不透明な人事による上層部からの圧力など、首長を頂点とした構造的な腐敗が生み出した必然的な結果です。
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「アンケート調査」という名のパワーハラスメント
事件後に実施された全庁アンケートは、所属や役職から個人が容易に特定される仕組みであり、実質的な匿名性がありませんでした。報復の恐怖を感じながら「密告か、隠蔽の共犯か」を迫られる状況は明確なパワーハラスメントであり、職員の皆様を精神的に追い詰めるものでした。
2. 組織を変える新概念「行動する傍観者(アクティブバイスタンダー)」
強圧的な管理や「見て見ぬふり」をせざるを得ない風土を変えるため、「行動する傍観者」という新しい概念の導入を提案します。これは、問題を一人で完全解決する「英雄」になる必要はなく、「0.5歩」の小さな行動で職場の空気を変え、事態の悪化を防ぐという現実的なアプローチです。
いざという時に、安全を最優先にしながら介入するための5つのアクション「たよレます®」を紹介します。
| 手法 | アクション | 職場での具体例(0.5歩の介入) |
| た (助けを求める) | Delegate | その場では反論せず、後から他部署の責任者や外部窓口に相談する |
| よ (寄り添う) | Delay / Support | 強い口調で叱責されたり悩む同僚に、後から「大丈夫ですか」と声をかける |
| レ (レコーディング) | Document | 不正の温床となる指示やハラスメントの事実を、日時・場所とともにメモに残す |
| ま (間違いを指摘) | Direct | 自身の安全が確保できる状況で、「それはルール違反では」と冷静に事実を伝える |
| す (すり替える) | Distract | 威圧的な会議中に「急ぎの市民対応が入りました」と割って入り、会話を中断させる |
3. 弥富市再生に向けた3つの具体的アクション
職員の皆様が自己肯定感を持ち、ボトムアップで声を上げられる組織へ生まれ変わるため、以下の3点を市の執行部に対して強く提言します。
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不当なアンケートの白紙撤回と「第三者委員会」の設置
現在のお手盛り調査を中止し、人事権を持つ市中枢部を排除した、完全独立の第三者委員会を設置します。公益通報者保護法に則り、皆様が報復の恐怖なく真実を語れる環境を法的に担保します。
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全職員向け「アクティブバイスタンダー研修」の導入
禁止事項を押し付けるだけの研修から脱却します。特に管理職層に対しては、自らの振る舞いが部下の沈黙を生む構造を自覚させ、「問題を解決する仲間」としてのチームビルディングを学ばせます。
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若手職員による「自主研究グループ」の創設と人事課の役割転換
中堅・若手職員が部署を越えて市政の課題を研究し、政策提言できる仕組みを作ります。人事課は「犯人探しをする機関」から、皆様の自主的な活動に予算や時間を割いて支援する「スポンサー」へと役割を180度転換させます。
おわりに
健全な組織とは「一度も失敗しない組織」ではなく、「異常の芽を早期に発見し、正直に情報を共有して是正できる組織」です。この提言が、皆様が過度な忖度や恐怖から解放され、本来の「市民のための市政」を取り戻すための第一歩となることを願っています。
若手職員を中心とした「自主研究グループ」は、トップダウンによる指示待ちの風土から脱却し、職員が当事者意識を持ってボトムアップで組織や市政を変えていくための非常に有効な手法です。
ご質問にある神奈川県や八王子市では、この仕組みが組織の活性化や具体的な政策提言として見事に機能しています。その成功事例と、組織風土に与えるポジティブな影響について詳しく解説します。
事例1:神奈川県「かながわ政策法務研究会」
〜分権時代の政策形成能力を磨き、庁内外のネットワークを構築〜
神奈川県では、職員の自発的な政策立案能力の向上を目的とした自主研究活動が古くから根付いています。
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活動の概要
2000年に設立された「かながわ政策法務研究会」は、県庁職員を中心に、県内の他自治体職員や大学の研究者などを交えて構成される自主研究グループです。地方分権の時代において、自治体が自立して政策を運営するために不可欠な「政策法務」について研究を行っています。
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具体的な取り組み
四半期に一度のペースで研究会を開催し、産業政策や公契約条例など、地域が抱える新たな政策課題についてグループ単位で研究報告を実施しています。
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組織風土への効果(なぜ成功しているのか)
閉鎖的になりがちな役所組織の中で、外部の専門家や他自治体の職員とフラットに議論を交わすことで、「客観的な視野」と「論理的に政策を組み立てる力」が養われます。上司の顔色(忖度)ではなく、法的根拠や事実に基づいて議論する風土が、若手・中堅職員の間に醸成されています。
事例2:八王子市「自主研究グループ活動」
〜職員の「好き」や「関心」を形にし、実際の市政に還元する〜
八王子市では、人事部門等が職員の自主研究グループ活動を制度として積極的に後押ししており、多くのユニークかつ実用的な成果が生まれています。
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活動の概要と事例
有志の職員が部署や役職の壁を越えて集まり、以下のような具体的なアウトプットを生み出しています。
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環境教育の推進: 市の温暖化対策キャラクターを活用し、子どもたちが楽しく省エネを学べるオリジナルボードゲーム(すごろく等)を企画・製作。
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観光資源の再発見: 観光担当職員を中心に、地域・歴史好きの職員が休日に集まって市内をフィールドワーク。地域の魅力をまとめた「遊歩まっぷ」を作成し、最終的に一冊の地図帳(アトラス)へと進化させました。
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他市の成功事例研究: 他自治体の「食によるまちおこし(B級グルメなど)」を視察・研究し、市の施策のヒントにする活動なども行われています。
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組織風土への効果(なぜ成功しているのか)
「やらされる業務」ではなく「やりたいテーマ」で集まるため、モチベーションが高く、部署や年次の壁を越えた強固な「ヨコの繋がり」が生まれます。このヨコのネットワークこそが、いざという時に相談し合えたり、不正の連鎖を断ち切ったりするための「心理的安全性」の強固な基盤となります。
弥富市への応用:成功させるための3つの条件
これらの先進事例を、ガバナンス再生を目指す弥富市で機能させるためには、以下の条件を整える必要があります。
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管理部門(人事課・財政課)は「スポンサー」に徹する
活動を監視したり、研究結果を人事評価のダシにするようなことがあってはなりません。活動場所の確保、活動費用の助成(資料代や外部講師への謝礼など)、業務時間外の活動に対する支援など、側面支援(黒衣役)に徹する必要があります。
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「失敗が許される」安全な実験場とする
研究グループからの提案が、すべて実際の市の施策として採用される必要はありません。「役職に関係なく自由に意見を交わし、新しいアイデアを生み出すプロセス」そのものが、硬直化した組織をほぐす最良のトレーニングになります。
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組織のタブーにも切り込めるテーマ設定の自由
観光や環境といったテーマだけでなく、「弥富市における適正な入札・契約制度のあり方」や「若手が働きやすい職場環境の構築」といった、組織の核心に触れるテーマであっても、若手職員が自由に研究・提言できる自由度を保障することが重要です。
自発的な活動を通じて職員が「自分たちの声で組織や市を変えられる」という自己肯定感を取り戻すこと。これこそが、構造的な不祥事を防ぎ、自浄作用のある組織を再構築するための最も確実なプロセスと言えます。
地方自治体におけるガバナンス崩壊の深層と心理的安全性を基盤とした組織再生の提言——愛知県弥富市「官製談合事件」と事後対応の病理を起点として
1. 序論:不祥事対応が浮き彫りにした地方自治体の構造的病理
地方自治体は、住民の生活と安全を支える最も基本的な公共機関であり、その組織運営には高度な透明性と倫理観、そして適正なガバナンスが求められる。
しかし、2026年に有罪判決が確定した愛知県弥富市の前建設部長による官製談合事件は、一個人のモラルハザードという枠組みを大きく超え、首長を頂点とする行政組織全体の構造的腐敗と自浄作用の喪失を白日の下に晒すこととなった。
本報告書が最も重大な問題として提起するのは、この官製談合事件そのものに加えて、事件発覚後に弥富市中枢部(市長、副市長、財政課など)が「真相究明と再発防止」を名目として実施した全職員対象のアンケート調査の手法である。
この調査は、実質的な匿名性が担保されていない状況下で、職員に対して内部告発を強要する踏み絵として機能しており、明白なパワーハラスメント(個の侵害・精神的攻撃)に該当する極めて悪質なものであった。
不祥事の根本原因である上層部の責任や制度的欠陥から目を背け、末端の職員に責任を転嫁し「弱い者いじめ」を行う権威主義的な組織風土は、現代のコンプライアンス経営において最も忌避されるべき状態である。
本稿では、弥富市の事例を題材に、強権的で硬直化したパターナリズム(温情主義的支配)がもたらす組織の機能不全を徹底的に解剖する。
さらに、これに対峙する新たなアプローチとして、一般社団法人アクティブバイスタンダー協会(代表:安藤真由美氏・濵田真里氏)が提唱する「行動する傍観者(アクティブバイスタンダー)」の概念を導入し、風通しが良く心理的安全性の高い組織を再構築するための具体的かつ実践的な提言を行う。
本報告書は、弥富市の問題を単なる地方自治体の一不祥事として終わらせず、全国の公共組織が直面し得るガバナンス崩壊の処方箋として機能することを目的とする。
2. 弥富市官製談合事件の全容と根底にあるガバナンスの崩壊
2.1 事件の概要と天文学的な異常値
2026年2月、愛知県警は弥富市の前建設部長を官製談合防止法違反などの疑いで逮捕した。同氏は2025年5月に行われた「弥富まちなか交流館」のリニューアル工事を含む複数の一般競争入札において、秘密事項である設計金額を複数の建設業者に漏洩し、入札の公正を害した罪に問われた。同年6月には懲役2年、執行猶予3年の有罪判決が確定している。
この事件の背景には、長年にわたり放置されてきた「落札率99%超」という天文学的な異常値が存在する。
通常の健全な競争入札が行われた場合、落札率は80%〜85%程度に落ち着くのが一般的である。99.09%という数字は、事前に正解(上限額)を知得していなければ統計学的にほぼ不可能な数値であり、これによって推計約8億円もの市民の血税が特定の業者へと不当に流出したと試算されている。
これは単なる情報の漏洩ではなく、特定業者と行政トップが結びついた「構造的腐敗」の帰結であると指摘されている。
2.2 制度的欠陥と権力の私物化
なぜこのような異常な癒着が長期間にわたって維持されたのか。
その最大の要因は、多くの自治体が予定価格の「事前公表制度」へと移行する中で、弥富市が頑なに「事後公表制度」を維持し続けたことにある。
国内経済がインフレ基調にあり急激なコスト上昇が起きる中で、事後公表制度の下では建設業者は失格を回避しつつ利益を確保するため、予定価格を握る市幹部への執拗な接触を常態化させざるを得ない。
加えて、事件を起こした前建設部長は、市長による異例の「引き抜き人事」によってそのポストに就けられていた。
公判において元部長が「業者との関係が悪化すると自分の立場が危うくなる」と供述した事実は、上層部の意向や業者からの圧力と不完全な制度の板挟みになっていた実態を示唆している。
すなわち、この犯罪は個人の倫理観の欠如だけで説明できるものではなく、不透明な人事権を行使する首長と、それに従わざるを得ない硬直化した組織構造が生み出した必然的なシステム・エラーであった。
3. 「真相究明」を偽装したパワーハラスメント:職員アンケートの異常性
事件発覚後、弥富市は再発防止策の策定に向けた状況把握を名目とし、庁内グループウェア「desknet’s」を利用してほぼ全職員を対象としたアンケート調査を実施した。
市側はこれを「完全匿名」であると主張し、92.1%という高い回答率をもって「職員の協力的な姿勢の表れ」と自己評価した。
しかし、社会調査手法および労働法・コンプライアンスの観点から分析すると、このアンケートは職員に対する重大な人権侵害であり、極めて悪質なパワーハラスメントに他ならない。
3.1 偽装された匿名性とプライバシーの侵害
市の主張する「匿名性」は、データ分析の基本を無視した詭弁である。
アンケートでは「所属(6区分)」と「役職(4区分)」の回答が求められた。
調査対象者227人のうち、例えば「部長級・次長級・課長級」は全庁でわずか32人である。これを6つの部に割り振れば、1部署あたりの該当者は平均約5人となり、部署によっては2〜3名に絞り込まれる。
このような「属性の交差配列(クロス集計)」を行えば、特定の回答者が誰であるかは人事記録と照合することで容易に逆算可能である。
さらに、庁内ネットワークを使用している以上、アクセスログやログイン履歴といったメタデータがシステム管理者の手元に残る。人事権や評価権を握る市長や財政課が調査主体である状況下において、職員は「本気で調べられれば自分が特定される」という極度の恐怖(萎縮効果)を抱くのは当然の帰結である。
92.1%という異常に高い回答率は、協力的姿勢の表れではなく、「未回答であれば不利益な扱いを受けるのではないか」という恐怖心による強制力の産物と評価すべきである。
3.2 密告の強要と「個の侵害」
実質的に身元が特定され得る環境下で、アンケートの設問内容は戦前の思想調査を彷彿とさせ、職員を精神的な極限状態に追い込むものであった。
「業者決定前に外部に漏れている状況を見聞きしたか(問7-1)」「他の職員が秘密情報等を求められるのを見聞きしたか(問11)」「上司等から特定業者を優遇するよう働きかけを受けたか(問31)」といったセンシティブな問いに対し、職員は回答を強いられた。
仮に正直に「上司の不正を見た」「働きかけを受けた」と回答すれば、その情報は調査主体である首長直轄の財政課に筒抜けとなり、自身のキャリアが破壊されるリスクがある。
一方で「見ていない」と虚偽の回答をすれば、組織の不正隠蔽に加担した共犯者としての精神的重圧と良心の呵責を背負うことになる。
職員をこのような二者択一の板挟みにすることは、厚生労働省が定義するパワーハラスメントの類型である「個の侵害」および「精神的な攻撃」に明確に該当する。
3.3 公益通報者保護法および消費者庁指針への明白な違反
消費者庁が定める公益通報者保護法に基づく指針によれば、内部調査を行う際には、通報者や情報提供者が特定されないための厳格な秘密保持が義務付けられている。
経営上のリスクに係る情報を把握するためには、可能な限り外部(法律事務所等)に通報窓口を整備し、匿名アンケートを行う場合でも完全な秘密保護体制の構築が必要であるとされている。
内部調査等の従事者が通報者を特定させる情報を漏洩した場合には、30万円以下の罰金が科されるなど、その保護は極めて厳格である。
弥富市のアンケートは、監督責任を問われるべき立場にある市長や副市長が直轄する内部部署が実施主体となっており、明らかな利益相反(コンフリクト・オブ・インタレスト)の状態にある。
外部の専門家による独立した第三者委員会を設置せず、身内による「お手盛り調査」で内部告発に等しい情報を強要することは、公益通報者保護法の趣旨を完全に骨抜きにする悪質な潜脱行為である。
3.4 議会監視機能への弾圧と責任転嫁のレトリック
さらに看過できないのは、市執行部がこのアンケートの自由記述欄を自己保身と議会批判のために悪用した点である。
全22ページに及ぶ調査結果のうち、全体の傾向を客観的に分析するのではなく、「談合問題について厳しく追及し、発信している議員がいるので悲しい(心が折れる)」といった特定の趣旨の回答を、財政課長が議会の特別委員会という公の場で意図的に取り上げたのである。
二元代表制の下で、行政の不正や組織的欠陥を厳しく追及し、任命権者の責任を問うことは、議会および議員に課せられた当然の法的・道義的責務である。
本来、現場の職員は歪んだガバナンスと不透明な人事の「被害者」であるにもかかわらず、行政側が都合の良いアンケート結果を抽出し、追及する議員を「職員を傷つける悪者」に仕立て上げる印象操作を行った。
自らの不正の温床を棚に上げ、議会の監視活動を弾圧するこの手法は、腐敗した組織が責任転嫁を図る際の典型的なレトリックであり、地方自治の根幹を破壊する暴挙である。
| 評価項目 | 消費者庁指針等に基づく適正な対応 | 弥富市職員アンケートの実態 |
|---|---|---|
| 調査主体 |
独立した第三者委員会や外部の専門機関 |
利益相反状態にある市長・副市長・財政課主導 |
| 匿名性の担保 |
厳格な秘密保持義務、特定を防ぐデータ保護 |
所属・役職のクロス集計による容易な個人特定 |
| 職員の心理 |
心理的安全性の確保、不利益取扱いの禁止 |
未回答や告発に対する報復の恐怖(強烈な萎縮効果) |
| 結果の取り扱い |
客観的な原因究明と体制改善への迅速な活用 |
都合の悪い事実の隠蔽、議会批判・議員弾圧への悪用 |
4. パターナリズム(温情主義的支配)の限界と心理的安全性の喪失
弥富市の事例は、日本の伝統的な官僚制組織や企業が陥りやすい「沈黙の螺旋(Spiral of Silence)」の極致を示している。
トップダウンによる強圧的な管理や、事なかれ主義、家父長制的な忖度文化が蔓延する組織では、職員は「物申すことでうるさい人物と思われたくない」「波風を立てたくない」という自己防衛の心理から、不正や不条理を目にしても見て見ぬふりをするようになる。
このような目に見えないパターナリズム(権威主義的支配)は、短期的な組織の統制には有効に見えるかもしれないが、中長期的には組織を硬直化させ、致命的な不祥事や競争力の低下を引き起こす。
社会から信頼を得て成長を続ける優良企業(エクセレント・カンパニー)の組織風土と比較すると、現在の弥富市役所の手法は「すべて裏返し(真逆)」であると言わざるを得ない。
失敗の根本原因を個人のモラルの問題に押し込め(トカゲのしっぽ切り)、自己保身のために都合の悪い情報を隠蔽しようとする組織では、首長がいかに口先で「風通しの良い職場」と標榜したところで、誰一人として真実を語ることはない。
とりわけ地方自治体の現場においては、依然として若手職員や女性職員が構造的に弱い立場に置かれていることが多い。上意下達の組織において、彼らが自己肯定感を持ち、組織の誤りを正す声を上げることは極めて困難である。
必要なのは、職員に「密告者」か「共犯者」かの選択を迫る魔女狩りではなく、一人ひとりが自律的なプロフェッショナルとして、安全な環境で組織の異常に気づき、行動を起こせる実践的な仕組みを作ることである。
5. 組織風土改革の新たなアプローチ:「行動する傍観者(アクティブバイスタンダー)」
強権的なアンケートによる実態調査や、「ハラスメントをしてはならない」「不正をしてはならない」という禁止事項中心の従来型コンプライアンス研修(白か黒かの判断や法的リスク回避の知識提供)だけでは、組織の風土は根本的には変わらない。
ここで極めて示唆に富むのが、朝日新聞の特集記事等でも取り上げられ、近年多くの企業や自治体で導入が進んでいる一般社団法人アクティブバイスタンダー協会(共同代表:安藤真由美氏、濵田真里氏)が提唱する「行動する傍観者(アクティブバイスタンダー)」という概念である。
5.1 概念の誕生と背景:ジェンダー的視点と組織硬直化への危機感
この概念を日本に定着させた二人の代表の経歴は、弥富市が抱えるような「硬直化した組織」の問題を解き明かす上で非常に重要である。
安藤真由美氏は、ファンドマネージャーやアナリストとして20年以上のキャリアを持つ経営分析と組織開発の専門家である。
彼女は金融市場の第一線で数多くの企業と接する中で、「ダイバーシティを謳いながらも管理職を特定大学出身の男性が占めている企業」や、「力を持つ年長者に若手や女性が意見できず、明らかに失敗するプロジェクトが止まらずに巨額の損失を出す企業」を目の当たりにしてきた。
これは、無謀と分かりながら戦争に突き進んだ旧日本軍とも重なる構造的病理である。
一方、濵田真里氏は政治分野におけるハラスメントの実態と、その背後にある組織文化の研究を専門とし、日本初の議員向けハラスメント相談窓口を設立した実績を持つ。
海外を往来する中で日本の女性の自己肯定感の低さに気付き、その背景にある家父長制などのジェンダー問題、年齢や性別の違いから生み出される不平等や閉鎖的な空気がハラスメントに繋がっていく構造を研究してきた。
両氏が着目したのは、ハラスメントや不正の現場において、被害者や加害者よりも圧倒的に数が多い「第三者(傍観者)」の存在である。
ハラスメントや同調圧力に対して第三者が何もしないことは、結果としてその行為を容認し、加害者を勢いづかせることに繋がる。
しかし、第三者が適切な介入を行えば、職場の空気を変え、事態の悪化を防ぎ、さらなる不祥事の発生を予防する強力な抑止力となる。
5.2 傍観者効果の克服:「0.5歩」の介入がもたらす抑止力
アクティブバイスタンダー研修の根幹は、「たった一人で問題を完全解決する英雄になる必要はない」という点にある。
安藤氏が指摘するように、第三者が介入しても問題の根本的な解決に至らない困難な状況は多々存在する。
しかし、急に人が倒れた際に、病気の根本治療はできなくともAED(自動体外式除細動器)を使って一時的な救命処置を行うように、アクティブバイスタンダーも「緊急対応」としてとりあえず命(キャリアや尊厳)を救うことが目的である。
「0.5歩でも良いから傍観しないで行動を起こす」というこのアプローチは、組織の心理的安全性を高める上で非常に現実的である。
法的にセーフであっても、「職場で放置されて何をしていいかわからない」「風通しが悪く意見が言えない」といった微細な兆候を見逃さないことが、結果的に競争力の低下や重大な官製談合のような不祥事の発生を防ぐ防波堤となる。
5.3 実践的介入指針「たよレます®」の体系と応用
いざ不正の兆候やハラスメントの現場に遭遇しても、傍観者効果や「報復への恐怖」から、とっさに判断して行動することは極めて困難である。とくに相手が人事権を持つ上層部であればなおさらである。
アクティブバイスタンダー協会は、安全を最優先にしながら状況に応じた介入を行うための5つの実践的アクションを「たよレます®」として体系化している。
この手法を弥富市役所のような自治体組織に当てはめると、以下のような具体的行動が想定される。
| 介入手法(頭文字) | 英語概念 | 定義および自治体職場における具体的応用例 |
|---|---|---|
| た (助けを求める) | Delegate |
一緒に動いてくれそうな人に声をかけたり、外部窓口を頼る。上司から特定業者への優遇圧力を感知した際、その場では反論せず、後から他部署の責任者や、外部のコンプライアンス窓口に報告・相談する。 |
| よ (寄り添う) | Delay / Support |
被害者に「味方である」と態度や言葉で示す。強い口調で叱責されたり、不正の板挟みで悩む同僚(例:かつての建設部長のような立場)に対し、後から「大丈夫ですか」「一人にしませんよ」と声をかけ孤立を防ぐ。 |
| レ (レコーディング) | Document |
事実関係を客観的証拠として記録する。不正の温床となるような指示、業者との不適切な面会の事実、あるいは今回のパワハラ的なアンケート画面などを、日時・場所と共にメモやスクリーンショットで保存する。 |
| ま (間違いを指摘) | Direct |
自身の安全が確保できる状況において、加害者に直接指摘する。「その業者への事前情報提供はルール違反ではないですか」「その口調はハラスメントに当たります」と、冷静に事実を伝える。 |
| す (すり替える) | Distract |
話題や空気を変え、加害者の注意を逸らす。威圧的な会議や不適切な会話が行われている最中に、わざと物を落としたり、「急ぎの市民対応が入っています」と割って入ることで、意図的に会話を中断させる。 |
この研修では、これらの選択肢を状況に応じてどう使い分けるかを、ロールプレイを通じて体感させる。「やった感」で終わる知識提供型研修ではなく、意味のある参加型シナリオを通じて、組織のメンバーを「問題を解決する仲間」へと変容させていくのである。
6. 弥富市再生に向けた実践的提言:ボトムアップ型組織風土改革
愛知県弥富市における官製談合問題と、その後の強権的なアンケートによる二次被害を、単なる「権力者による弱い者いじめ」で終わらせてはならない。
市の中枢部が主導する恐怖政治から脱却し、真の意味で風通しの良い、自己肯定感に満ちた強靭な組織へと再生するため、以下の3つの具体的なアクションを提言する。
提言1:不当なアンケートの即時白紙撤回と、完全独立の「第三者委員会」の設置
現在市が行っている「官製談合再発防止対策検討委員会」によるお手盛り調査およびアンケート結果は、手続き的な瑕疵と重大な人権侵害を含んでおり、法的な正当性を欠くため直ちに白紙撤回すべきである。
その上で、市長、副市長、財政課など、監督責任と人事権を持つ者を完全に排除し、利害関係のない外部の弁護士や有識者のみで構成される「第三者委員会」を速やかに設置しなければならない。
調査体制においては、システム上のアクセスログ等から個人が特定されない厳格な情報隔離措置(チャイニーズ・ウォール)を講じ、公益通報者保護法に則った完全な秘密保持体制を構築する。
職員が報復の恐怖なく、ありのままの真実を証言できる心理的安全性を法的に担保することが、真相究明の絶対条件である。
提言2:全職員および管理職を対象とした「アクティブバイスタンダー研修」の導入
従来の「懲戒処分の基準を厳格化する」「規則を暗記させる」といった上から目線の指導は、防衛本能による隠蔽体質をさらに強化するだけである。
そうではなく、組織の全員が「問題を解決する仲間」であるというポジティブな当事者意識を持たせる研修へとパラダイムシフトを図るべきである。
安藤氏や濵田氏が提唱するような、ロールプレイを交えた実践的なアクティブバイスタンダー研修を導入し、「見て見ぬふり(傍観者効果)」に陥る心理的メカニズムを解明するとともに、「たよレます」の5つの介入スキルを全職員に習得させる。
特に市長を含む管理職・幹部層に対しては、自らの権威的な振る舞いや同調圧力が部下の沈黙を生み、結果として100億円規模の損失や数億円の税金流出に繋がる構造を自覚させ、心理的安全性の高いチームビルディングの技法を学ばせることが不可欠である。
提言3:若手職員を中心とした「自主研究グループ」の創設と人事課による側面支援
弥富市において職員組合(労働組合)が十分に機能していない状況下では、組織の硬直化を打破し、ボトムアップで物申すための受け皿が存在しない。
そこで、全国の先進的な自治体(例えば神奈川県庁の「政策法務研究会」や八王子市、総務省などで成果を上げている自主研究制度など)の事例に倣い、「職員による自主研究グループ」の仕組みを導入することを提唱する。
これは、中堅・若手職員が部署の垣根を越えて有志で集まり、市政の課題(今回のケースであれば入札契約制度の抜本的見直しや、風通しの良い職場風土の構築など)について自主的に研究し、ボトムアップで政策提言を行う仕組みである。
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人事課の役割の転換: 組織の中枢部(人事課や財政課)は、アンケートを通じて回答を類推する「犯人探し」や「思想調査」を行う機関であってはならない。若手職員の自主的な研鑽を支援し、活動時間の確保や、外部有識者を招く際の謝礼・費用を助成する「スポンサー」へと役割を180度転換すべきである。
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外部リソースとの連携: 自主研究の過程で、外部の市民グループや、前述のジェンダー総合研究所等の専門家を招いて知見を深める。これにより、地方自治体に根強く残る「女性が弱い立場にある」「若手が物を言えない」という旧態依然とした家父長制的な空気を打破し、自己肯定感と多様性(ダイバーシティ)を尊重する組織へとアップデートすることが可能となる。
組織というものは、人間が集まる以上、制度の不備を含めて必ず過ちを犯すものである。
しかし、健全な組織(エクセレント・カンパニーや本来の公共組織)とは、一度も失敗しない組織ではなく、「失敗や異常の芽を早期に発見し、正直に情報を共有して是正できる組織」を指す。若手職員が勇気を持って自発的に動き出し、それを上層部が受容するメカニズムを構築することこそが、正しい意味での「組織の保守(メンテナンスと持続可能性)」に繋がるのである。
7. 結論
愛知県弥富市で発生した官製談合事件と、それに続く強圧的な職員アンケートの実施は、首長をはじめとする行政トップへの権力集中と、それを牽制できない組織の構造的病理を見事に体現している。
情報漏洩や特定業者との癒着を生み出した歪んだ入札制度の責任を末端職員の倫理問題へと矮小化し、プライバシーと心理的安全性を剥奪する形で情報を強要する手法は、現代のコンプライアンス管理においては明確なパワーハラスメントであり、言語道断の措置である。
この危機的状況から脱却するためには、監視と罰則、そして恐怖に基づく権威主義的なパターナリズムを完全に放棄しなくてはならない。
その代替となるのが、「アクティブバイスタンダー(行動する傍観者)」という概念を中核に据えた、相互支援と当事者意識の醸成である。
職員一人ひとりが、自らの安全を確保しつつも「0.5歩の介入」を行い、不正やハラスメントの芽を摘み取る。そして、若手職員を中心とした自主研究を通じて、ボトムアップで組織を絶えず研鑽していく。
弥富市が真の意味で「市民のための市政」を取り戻すためには、この事件を単なる一部職員の汚職事件や、権力者による弱い者いじめの顛末として処理するのではなく、自己の組織風土を客観視し、開かれた対話と心理的安全性を土台とした「新たな組織」へと生まれ変わるための歴史的契機としなければならない。
本提言が、弥富市のみならず、同様の課題を抱える全国の地方自治体におけるガバナンス再生の一助となることを強く期待する。

