
弥富市民の皆様へ:次期「都市計画マスタープラン」に向けた重要なお知らせ
私たちの住む弥富市は、豊かな自然と歴史を持つ美しい水郷地帯である一方、市域の大部分が海抜ゼロメートル地帯に位置しています。近年激甚化する台風や豪雨、そして想定される南海トラフ巨大地震に対し、これからの弥富市の「まちづくり(都市計画)」は、抜本的な変革の時期を迎えています。
本サマリーは、概ね2028〜2029年に改訂予定の「次期都市計画マスタープラン」において、弥富市がどのような方向へ進むべきかをまとめた研究報告の要約です。
1. なぜ「今」、まちづくりの方針を変える必要があるのか?
現在の弥富市のまちづくりは、「コンパクトで利便性の高いまち(交通網の整備や駅周辺の拠点化)」を目指して進められてきました。しかし、これからの10年は「究極の防災・減災」を都市の構造そのものに組み込む必要があります。
現状の最大の課題は以下の2点です。
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堤防(ハード)への過度な依存
木曽川の堤防が高さ不足となっている箇所があるなど、巨大災害時に「堤防だけで完全に水防げる」という前提は崩れつつあります。万が一堤防が決壊した場合、長期にわたる深刻な浸水(最悪0.5〜5.0m)が想定されます。
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「市役所だけ」で対応できる限界(自前主義の崩壊)
災害時に動ける市職員は約100名程度です。広域避難の誘導や多数の避難所運営を、行政単独で完結させることは物理的に不可能です。
2. 次期プランの核心:「防衛的都市計画」へのシフト
次期マスタープランは、単なる土地の使い方のルールではなく、「市民の命と財産を守る生存戦略」へと生まれ変わる必要があります。
| 比較項目 | 現在のまちづくり(〜2028年) | これからのまちづくり(次期プラン提案) |
| 最大の目的 | 生活の利便性向上・拠点づくり | 命を守り抜く「防衛的都市計画」 |
| 水害への考え方 | 堤防などハード整備で「水を防ぐ」 | 浸水を前提とし「沈まない避難拠点を造る」 |
| 防災の担い手 | 行政中心(行政への要望が主) | 市民・民間企業・行政の「総力戦」 |
具体的な3つの新戦略
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浸水対応型のまちづくり
「すべてを安全にする」のは難しいため、商業施設やマンションの建て替え時に、2階以上を「緊急避難スペース」として開放してもらう代わりに、建物の規制(容積率など)を緩和する等、民間活力を生かして「絶対沈まない高台」を町中に増やします。
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「広域避難」を前提とした空間づくり
発災72時間前からの市外への広域避難をスムーズにするため、平時は物流拠点として使っているインターチェンジ周辺などを、緊急時には大型バスのターミナルや自衛隊の支援拠点として転用できるようなルールを作ります。
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独自「防災KPI(目標値)」の導入
「避難スペースの提供協定を結んだ民間施設の数」など、まちの防御力を測る具体的な目標を定めます。
3. まちづくりの新たな牽引役
この難易度の高い計画を成功させるため、次期の策定委員長として、東京大学の加藤孝明教授の就任が提言されています。
加藤孝明教授について
愛知県のゼロメートル地帯(大治町)出身であり、日本最大の海抜ゼロメートル地帯である東京の「江東5区(葛飾区や墨田区など)」において、水害リスクを受け入れた上で被害を抑える「浸水対応型市街地構想」を大成功させた、日本の防災まちづくりの第一人者です。
「100%安全でなければならない」という硬直化した思想ではなく、「水害リスクを受容しつつ、水辺の魅力と復元力を両立させる(防災”も”まちづくり)」という柔軟で現実的な哲学は、弥富市に最も適しています。
4. 市民の皆様へのお願い:新しいアンケートへの参加
次期計画を作るにあたり、市からのアンケート調査の方法も大きく変わるべきだと提言されています。
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全世帯調査の実施
一部の市民への抽選ではなく、「広報やとみ」の配布網を活用したり、スマホから簡単にWEB回答できる仕組みを作り、全世帯の皆様の声を反映させます。
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リスクの「自分ごと」化
「自分の家がどれくらい水に浸かるのか」を3Dマップ等で視覚的に確認した上で、町内会単位で「このマンションの3階へ逃げさせてもらおう」といったローカルなルール(地区防災計画)を作り、それを市の都市計画に直結させていくプロセスを提案しています。
弥富市は、単なる「水害リスクの高いまち」ではなく、「リスクを正しく理解し、市民と民間が協力して生き延びる、次世代の防災都市」へと生まれ変わる可能性を秘めています。次期都市計画マスタープラン策定に向けた動きに、ぜひご注目とご協力をお願いいたします。
愛知県弥富市における次期都市計画マスタープラン策定に向けた根本的変革と委員会のあり方に関する総合研究報告
1. 序論:海抜ゼロメートル地帯における都市計画のパラダイムシフト
愛知県弥富市は、市域の大部分が満潮時の平均海面より低い海抜ゼロメートル地帯に位置し、木曽川をはじめとする多数の河川網に囲まれた水郷地帯である。
古くからの自然環境と干拓の歴史を持ち、農業や金魚養殖などの地場産業が発展してきた一方で、気候変動に伴う台風・集中豪雨時の河川氾濫や、南海トラフ巨大地震に伴う津波および液状化など、極めて複合的かつ甚大な自然災害リスクを抱える地域でもある。
最悪の被災シナリオにおいては、木曽川氾濫時に市全域で0.5メートルから5.0メートルの浸水が想定されており、南海トラフ巨大地震では最大震度7、建物被害約7,900棟、死者約1,200名という壊滅的な被害が危惧されている。
都市計画法に基づく「市町村の都市計画に関する基本的な方針」である都市計画マスタープランは、このような特異な地理的条件を持つ弥富市にとって、単なる土地利用の規制や施設整備の指針にとどまらず、市民の生命と財産を担保するための「生存戦略」そのものとして機能しなければならない。
現行の「弥富市都市計画マスタープラン」は、2019年(平成31年)3月に策定され、2028年度(令和10年度)を目標年次としている。
上位計画である「第2次弥富市総合計画」も同様に2028年度を計画期間の最終年度としており、本市はまもなく次期マスタープラン(第3次総合計画と連動)の策定に向けた準備期間に突入する。
本報告書は、現行のマスタープラン策定過程における委員会体制やアンケート調査等の実態を詳細に分析するとともに、次期改訂において都市計画が遂げるべき抜本的な変化の方向性を論じる。
特に、次期都市計画審議会および策定委員会の牽引役(委員長)として、東京都東部(江東区、墨田区、葛飾区等)の海抜ゼロメートル地帯において「浸水対応型市街地構想」などの先進的な防災まちづくりを牽引してきた東京大学の加藤孝明教授が最適任であるという仮説を学術的かつ実務的観点から検証する。
さらに、従来型のアンケート調査の限界を指摘し、市民の当事者意識を喚起する新たなリスク・コミュニケーション手法の導入について具体的な提言を行う。
2. 弥富市都市計画マスタープランの現況と過去の策定プロセス
2.1 現行マスタープランの概要と将来都市構造
現行の弥富市都市計画マスタープランは、2017年度から2018年度にかけて作業部会、策定委員会、市民アンケート調査、パブリックコメント等を経て策定された。
本計画は、2015年の国勢調査人口43,269人を基準とし、政策的な底上げを図ることで2028年度の将来人口を約43,000人に維持することを目指している。
将来都市構造の基本的な考え方として、市域を「住」「産」「農」の3つの空間に大別し、地域特性に応じた拠点を形成しつつ、東西・南北方向の交通軸でネットワーク化する「集約型都市構造(コンパクトシティ・プラス・ネットワーク)」への転換が志向されている。
具体的には、弥富駅や佐古木駅周辺を暮らしを支える「都市拠点(住)」、十四山支所周辺を公共公益施設が集積する「地域生活拠点(農)」、そして名古屋港(弥富ふ頭・鍋田ふ頭)を中心としたエリアを国際的な「物流・交通拠点(産)」と位置づけている。
土地利用方針においては、中低層を主体とする「一般住宅エリア」や、過度に自動車に頼らない生活圏の形成を目指す一方、広域交通の利便性を活かした「新産業エリア」や、幹線道路沿道の「沿道サービス利用調整エリア」などが設定されている。
近年では、市域の約8割を占める市街化調整区域内において、不用となった公共施設跡地を周辺環境に配慮しつつ有効活用するため、地区計画による適切な規制・誘導を図る改訂が行われるなど、状況に応じた柔軟な運用もなされている。
2.2 過去の策定過程における調査手法と市民アンケートの実態
現行計画の策定過程では、市民の意向や都市の現状に対する評価を把握するため、市民アンケート調査が実施された。
過去の調査結果を分析すると、市民のニーズや課題認識は以下の傾向に集約されていたことが判明している。
| 評価軸 | 市民アンケートから抽出された主な傾向と課題 |
|---|---|
| 満足度が低い項目 |
「コミュニティバス(きんちゃんバス)のルート・本数」、「避難路・避難所の場所の分かりやすさ、充実度」 |
| 今後の重要度が高い項目 |
「病院・診療所の充実度」、「日常の買い物の利便性」、「電車・駅関連施設の利用しやすさ」 |
| 土地・建物の現状認識 |
「商店などの空き家が目立ってきた」、「農地が広がる地域で住宅がぽつぽつと建つようになってきた(スプロール化の懸念)」 |
| 防災への期待と役割分担 |
「市民の命や財産を守る観点から、避難所・避難路や堤防の整備など、市が県や国と連携しながらハード対策を中心に進める」という行政主導の対策への支持が多数 |
これらのアンケート結果から読み取れるのは、典型的な「行政への要望抽出型」の調査構造である。
市民は、公共交通の充実や医療施設の誘致、そしてハード面(強固な堤防や避難所)の整備を行政の責務として強く求めている。
しかし、後述するように、海抜ゼロメートル地帯において行政のインフラ整備(ハード対策)だけで完全な安全を担保することは不可能である。
現行のアンケート手法は、自らが水害リスクを許容し、地域社会全体でリスクをシェアしながら主体的に行動するという「市民の当事者意識」を引き出す設計にはなっていない。
次期の策定プロセスにおいては、この調査のあり方自体を根底から見直す必要がある。
2.3 都市計画審議会・策定委員会の体制と委員長(学識経験者)の分析
弥富市の都市計画の方針を審議・決定する法定機関である「都市計画審議会」は、学識経験者、市議会議員、市民代表(区長会長、商工会長等)、関係機関代表(蟹江警察署長、海部建設事務所長、農業協同組合役員など)によって構成されている。
現在(令和5年度〜令和6年度)、この弥富市都市計画審議会の会長(委員長)を務めているのは、大同大学大学院工学研究科・工学部建築学科教授の嶋田喜昭氏である。
嶋田教授は、「弥富市地域公共交通活性化協議会」の座長なども歴任しており、都市交通計画や建築計画、公共交通の再編を専門とする学識経験者である。
前回のマスタープラン策定時(2017〜2019年)において、弥富市が直面していた都市構造上の最大の課題は、「コミュニティバスの利便性向上」や「公共交通を軸とした集約型都市構造への転換(駅周辺拠点の整備等)」であった。
市民アンケートでも交通利便性への不満が顕著に表れていたことからも、交通と都市計画の専門家である嶋田教授が審議会のトップに就任し、コンパクトなまちづくりと交通網の再編を牽引したことは、極めて合理的かつ適切な人事であったと高く評価できる。
しかしながら、次期マスタープラン(概ね2029年〜2038年)が対峙すべき社会課題は、当時とはフェーズが決定的に異なっている。
気候変動に伴う水害の激甚化・頻発化、木曽川堤防等の構造的脆弱性に対する危機感の顕在化、そして「自前主義(基礎自治体単独での防災完結)」の物理的限界が露呈する中、次なる10年のマスタープランは、「究極の防災・減災」を都市空間の構造そのものに組み込む高度な知見が不可欠となる。
3. 次期改訂に向けた課題:海抜ゼロメートル地帯の脆弱性と自前主義の限界
次期都市計画マスタープランが大きく変化しなければならない最大の理由は、弥富市が抱える地理的脆弱性と、それに相反する行政リソースの限界にある。
3.1 既存インフラの構造的欠陥と縦割り行政の弊害
弥富市の都市構造における最大の弱点は、都市の存立そのものを「木曽川等の堤防」という単一の防壁(ハードウェア)に過度に依存している点にある。
専門家の検証によれば、尾張大橋(国道1号)周辺などでは計画高潮堤防高(T.P.+6.00m)に対し1.1〜1.3mの高さ不足が生じており、緊急時の「大型土のう」運用に依存しているという深刻な現状がある。
さらに、地震による液状化対策として、川裏(住宅地側)の地盤拘束(シートパイル打設等)が未実施の区間が多く存在し、地震時に堤防が住宅地側へすべり崩壊し、直後の高潮や津波で市街地が壊滅する「単一障害点リスク」が放置されている。
従来の計画体系においては、「堤防等の河川管理は国の所管、都市計画は市の所管」という縦割りの弊害が存在した。
現行のマスタープランも「防災拠点の整備」や「市街地の耐震化・不燃化」、「公共施設の総合管理」等を掲げているものの、大前提として「大規模氾濫により堤防が決壊し、長期湛水が発生した場合の都市機能の完全喪失」を織り込んだ空間設計には至っていない。
3.2 自治体単独での災害対応(自前主義)の崩壊
弥富市地域防災計画等に基づく推計によれば、災害初動において実際に稼働できる市職員数は約100名程度とされている。
この極めて限定された物理的リソースで、市内10箇所以上の指定避難所の開設・運営(各3交代制)、自力避難困難者の安否確認・救出支援、福祉避難所の開設支援などを同時並行で行うことは、行政機能の完全な麻痺(システム崩壊)を意味する。
特に広域避難が必要な水害時においては、住民を市外へ誘導し、広域輸送手段(バス等)を手配し、幹線道路の交通整理を行うという極度の緊張を伴う業務が追加される。
自前主義(すべての災害対応を基礎自治体単独で完結させる思想)からの脱却は、もはや選択肢の一つではなく、唯一の生存戦略である。
3.3 「防衛的都市計画」へのパラダイムシフト
次期のマスタープランにおいては、「まちづくり(都市計画)」と「国土強靱化(防災)」を抜本的に融合させる『防衛的都市計画』へのシフトが急務である。
これは、「巨大インフラによって災害は完全に防げる」という幻想から脱却し、「巨大災害による決壊・氾濫は不可避である」という前提に立ち、最悪の事態が発生した際にも「市民の命を確実に守り抜き、都市の機能を極限まで早く復旧させる」ための空間配置と建築ルールを定める計画への転換を意味する。
弥富市のようなゼロメートル地帯においては、長期間水が引かない事態(湛水)が予想されるため、以下の2段構えの防衛線を都市計画に組み込む必要がある。
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広域避難を前提とした都市構造: 発災72時間前からの広域避難を円滑にするための幹線道路網へのアクセス強化、物流拠点の広域輸送拠点への転用。
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浸水対応型市街地の形成: 広域避難が困難な者(要配慮者等)の命を守り、水が引いた後の復旧拠点となる「絶対的に沈まない拠点建築物・高台」を、民間開発を誘導しながら市街地に計画的に配置する。
この高度な概念を、用途地域、地区計画、立地適正化計画などの都市計画の法体系に落とし込むためには、ゼロメートル地帯特有の防災まちづくりに精通した学識経験者の強力なリーダーシップが不可欠となる。
4. 次期マスタープラン策定委員会のあり方と委員長選任の提言
次期策定委員会の体制づくりにおいて、最も重要な意思決定は「誰を委員長(座長)に据えるか」である。本研究に基づく結論として、東京大学生産技術研究所の加藤孝明教授(都市計画、まちづくり、地域安全システム学)が、次期弥富市都市計画マスタープラン策定委員会の委員長として最も相応しいと推断する。
4.1 加藤孝明教授(東京大学)の招聘の妥当性
加藤教授は、日本の防災まちづくりの第一人者であり、2004年頃から「広域ゼロメートル市街地」という概念を提唱し、長年にわたりゼロメートル地帯における都市計画と防災の融合を研究・実践してきた人物である。
同氏は愛知県大治町(弥富市と同じく海部地域のゼロメートル地帯)の出身であり、濃尾平野の地理的特性や地盤沈下の歴史、伊勢湾台風の教訓に対する深い理解を有している。
実際、2023年9月には弥富市で開催された防災講演会(弥富防災・ゼロの会主催、弥富市後援)に登壇し、「東京湾ゼロメートル地帯の水害対策最前線〜浸水対応型まちづくりに向けて〜」と題して講演を行っており、地域課題のコンテクストを既に市民と共有している実績がある。
4.2 東京都東部(江東区・墨田区・葛飾区等)における卓越した実践実績
加藤教授を推薦する最大の理由は、東京都の江東5区(墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区、足立区)という、日本最大の海抜ゼロメートル地帯において、極めて先進的な都市計画の実績を上げていることにある。
① 葛飾区における「浸水対応型市街地構想」の策定と実践
葛飾区は区の半分近くが海面より低いゼロメートル地帯であり、荒川氾濫時にはほぼ全域が水没するリスクを抱える。
加藤教授はここで『浸水に対応した街づくり検討会』の委員長を務め、2019年に「葛飾区浸水対応型市街地構想」を策定した。
これは、気候変動により水害を防ぎきる(治水対策)ことの限界を認め、「浸水しても最低限の避難生活を維持できる『浸水に強い街』」への転換を図る画期的な構想である。
具体的には、緊急時の人命確保のための「避難空間(高台・非浸水階)」と、災害時にも自立可能なライフライン(地域マイクログリッド等による電力自給)を備えた「浸水対応型拠点建築物」を市街地に計画的に配置するものである。
この構想は第9回「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靱化大賞)」でグランプリを受賞し、国レベルでも高く評価されている。
② 墨田区・江東区等における「高台まちづくり」と広域避難の連動
江東5区では、大規模水害時に人口の約9割(約250万人)が長期間の浸水被害に遭う想定がなされており、発災72時間前からの「広域避難計画」が共同で策定されている。
しかし、交通網の麻痺等により広域避難が間に合わない事態に備え、国土交通省や東京都と連携した「高台まちづくり」が並行して推進されている。
江東区や墨田区では、大規模な工場跡地の開発や都市計画道路の整備、市街地再開発事業を契機として、スーパー堤防やペデストリアンデッキ、建物の上層階を人工的な「高台(避難スペース)」としてネットワーク化する都市計画手法が展開されている。
加藤教授はこれらの計画において、建物の耐震・耐火性能の向上や、地区計画を活用した防災インフラの整備を学術的見地から指導してきた。
4.3 「防災【も】まちづくり」の哲学と弥富市への適用
加藤教授の都市計画アプローチの根底には、「防災【も】まちづくり」という独自の哲学がある。
「防災【だけ】」を追求する「安全至上主義(100%安全でなければならないという硬直化した思想)」に対し、氏は強い違和感を呈している。
木造密集市街地や広域ゼロメートル地帯において、「完全に安全な場所へ全住民を移転させる」ことは社会的・経済的に非現実的である。
加藤教授は、100%安全ではない現状を前提とし、一定のリスクを許容(受容)した上で、日常の生活の豊かさ(親水空間の活用、地域コミュニティの誇り、日常の利便性向上)を追求し、その延長線上に災害時のフェールセーフ(避難・生存拠点の確保)を織り込むアプローチを提唱している。
弥富市もまた、豊かな農業や金魚養殖、水郷としての景観など、水と共生してきた歴史を持つ都市である。
ゼロメートル地帯だからといって都市開発を放棄するのではなく、水害リスクを都市計画の「前提条件(制約)」として受け入れ、民間活力や地区計画を駆使して「浸水しても生き延び、すぐに復旧できるまち」へとアップデートする。
この高度なビジョンを描き、市民と合意形成を図れる人物は、加藤教授を置いて他にない。
5. 市民意識調査(アンケート)の刷新と東京都の先進事例の適用
次期マスタープランの策定において、従来型の紙ベースの要望聴取型アンケートを踏襲することは避けるべきである。東京都等の先進事例を参考に、リスク・コミュニケーションを主軸とした新たな市民参加手法を導入するとともに、調査対象の抜本的な拡大を図る必要がある。
5.1 「広報やとみ」全戸配布網を活用した全世帯調査とWEB回答の推進
現在、弥富市では「広報やとみ」などの行政配布物を、民間業者への委託によって市内全世帯へポスティング(全戸配布)する体制が確立されている。
次期マスタープランの市民アンケートにおいては、従来の無作為抽出(サンプリング)調査から脱却し、この全戸配布インフラを活用してアンケートを合わせて配布することで、全世帯・全市民を対象とした「悉皆(しっかい)調査」を実施すべきである。
また、回収率や利便性を高めるため、紙面だけでなくスマートフォン等から手軽に回答できるWEB回答システムを積極的に利用する体制を整える必要がある。
さらに注目すべき点として、過去に木曽川下流河川事務所が台風からの避難行動に関して全戸調査を実施した実績がある。
この調査から得られた避難行動の実態や市民の意識データは極めて有用であり、「この結果を利用しない手はない」。
こうした既存の全戸調査の成果を最大限に統合・修正し、次期マスタープランにおける防災まちづくりの基礎データとして直結させる仕組みが不可欠である。
5.2 リスクの可視化と3D都市モデルの活用
従来のアンケートでは、市民は行政に対してハード整備を要望する客体にとどまりがちであった。
これに対し、葛飾区等の先進事例では、市民アンケートやワークショップにおいて、3D都市モデル(3Dマップ)やGIS(地理情報システム)を活用している。
「自分の家がどれほどの深さまで水に浸かるのか」「川の水面の方が市街地よりも高い」という過酷な現実(リスク)を視覚的かつ徹底的に市民に直視させるプロセスを設けることで、「なぜ自分の住む地域で2メートルの浸水を許容(前提と)しなければならないのか」というリスクコミュニケーションが可能になる。
次期調査においては、こうしたデジタル技術を活用した双方向の意識調査を実施すべきである。
5.3 地区防災計画と都市計画のボトムアップ連動
東京都墨田区や葛飾区では、行政が一方的にマスタープランを定めるのではなく、「輪中会議」などのコミュニティ組織を立ち上げ、町会レベルでの「地区防災計画」の策定を支援している。
| 計画の階層 | 役割と特徴(東京先進事例のモデル) |
|---|---|
| 地区防災計画(ソフト) |
町内会単位で策定。「あのマンションの3階以上を自主的な避難協定先とする」等のローカルルール、高齢者の避難支援体制の構築。 |
| 都市計画マスタープラン(ハード) |
地区防災計画を空間整備でバックアップ。該当エリアの容積率を緩和し、民間による浸水対応型建築物の建設を誘導する。 |
弥富市においても、町内会や自主防災組織を対象とした「地区防災計画策定ワークショップ」を実施し、そこから得られたローカルな課題や合意事項をマスタープランの「地域別構想」に反映させるという双方向の策定プロセスが求められる。
5.4 「市民先行・行政後追い」の官民学協働モデル
葛飾区の「浸水対応型市街地構想」が社会実装された背景には、「市民先行・行政後追い」のモデルが存在した。最初に行政が動いたのではなく、NPOや東京大学(加藤研究室)が市民と共に勉強会を始め、そこで醸成された危機感とまちづくりのアイデアを、後から行政が都市計画として制度化したのである。
弥富市においても、すでに「弥富防災・ゼロの会」のような民間・市民活動の蓄積がある。
次期マスタープラン策定委員会では、加藤教授のファシリテーションのもと、市民・NPO・大学・行政(市・愛知県・国交省)がフラットに議論できる「官民学協働」のプラットフォームを構築するべきである。
6. 弥富市の都市計画が遂げるべき根本的変革と具体的戦略
次期改訂時期(概ね2028〜2029年)に向け、弥富市の都市計画マスタープランは以下のように大きく変化(アップデート)する必要がある。これらは加藤教授が提唱する「氾濫の計画化」と「防衛的都市計画」を具現化するものである。
6.1 広域避難拠点の空間的明示と「自前主義」からの脱却
前述の通り、市職員のリソースから見て単独での全市民救護は不可能である。
マスタープランにおいては、「愛知県や周辺自治体(広域)との連携」を前提とした空間利用を明記すべきである。
名古屋港背後地や伊勢湾岸自動車道、国道23号などのインターチェンジ周辺(新産業エリアや物流拠点)を、平時は物流・産業拠点として活用しつつ、発災時(特に発災72時間前からの広域避難時)には、広域避難のための大型バスターミナルや、自衛隊等の広域支援部隊のベースキャンプ(受援拠点)として転用できるよう、地区計画等で空間的余裕(大規模空地や広幅員道路)を確保・誘導する。
6.2 浸水対応型拠点建築物の誘導と民間活力の活用
行政の財源だけで高台や巨大な避難ビルを新設することは極めて困難である。
弥富市の財政状況(投資的経費の減少傾向など)を鑑みても、都市計画の規制誘導手法を活用し、民間開発に乗じてまちの防災性を高める戦略へのシフトが必須である。
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民間開発へのインセンティブ付与: 商業施設、マンション、物流施設などの新規開発・建替えの際、電気室(キュービクル)や非常用発電機を非浸水階(2階以上)に設置し、地域住民の緊急一時避難スペース(デッキ、屋上広場、集会室等)を無償提供する協定を結んだ事業者に対し、容積率の割増や高さ制限の緩和を認める制度(江東区等での実践応用)を導入する。
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公共施設の高台化と統廃合の連動: 現行マスタープランでも「施設の統廃合検討」が掲げられているが、これを単なるコスト削減ではなく、「小規模で水没する施設を売却し、その財源で水害時に機能停止しない堅牢な浸水対応型拠点(受援拠点)へと集約・建替える」という防災ファシリティマネジメントの観点から再定義する。
6.3 「氾濫の計画化」によるリスクの偏在化と土地利用のメリハリ
加藤教授が指摘するように、河川管理を「ロシアンルーレット」にしないためには、「すべての場所を安全にする」のではなく、「ここは浸水を許容して水を貯める場所」「ここは被害を最大限抑える絶対防衛ゾーン」というように、リスクを計画的に偏在化させることが求められる。
深い浸水が想定されるエリアや、堤防の側方流動リスクが高いエリアについては、新規の居住誘導を厳格に抑制し、農地や自然環境エリア(親水空間、遊水地機能)として保全する。
一方で、比較的リスクの低いエリアや広域避難に直結する幹線道路沿道に都市機能を集積させる「極端なメリハリ」を土地利用方針に適用する。
6.4 独自「防災KPI」の導入
計画の実効性を定量的に担保するため、単なる「都市計画道路の整備率」や「下水道普及率」といった従来の指標に加え、都市のレジリエンスを測る弥富市独自の「防災KPI(重要業績評価指標)」を設定する。
具体的には、「浸水想定区域内における浸水対応型建築物(2階以上への避難空間確保済み)の割合」や、「民間事業者との避難スペース提供協定締結件数」、「地区防災計画が策定され、都市計画と連動した町内会のカバー率」などを次期マスタープランの達成目標として組み込むべきである。
7. 結論
弥富市の次期都市計画マスタープランは、現行の「コンパクトシティの形成」という平時の利便性向上を中心とした計画から、気候変動と南海トラフ巨大地震という未曾有の国難を生き抜くための「防衛的都市計画」へと、その設計思想を根底から書き換えなければならない。
前回の策定時において、公共交通と都市基盤の専門家である嶋田喜昭教授を委員長に据えたことは当時の都市課題に対して最適であった。
しかし、来るべき次期改訂(目標年次2038年頃)においては、日本屈指のゼロメートル地帯である江東5区において「浸水対応型市街地構想」を実証し、行政・市民・大学の協働(輪中会議など)を成功に導いてきた東京大学の加藤孝明教授を委員長として招聘することが、本市の未来を決定づける最重要の戦略人事となる。
加藤教授の提唱する「防災【も】まちづくり」の思想を取り入れることで、弥富市は単なる「危険な海抜ゼロメートル地帯」という宿命論から脱却し、「水害リスクを正しく受容し、市民と民間活力を巻き込みながら、水辺の魅力と極めて高い復元力(レジリエンス)を両立させた次世代の親水・防災都市」という新たなアイデンティティを確立することが可能になる。市民調査手法においても、従来型の「行政への要望アンケート」を刷新し、既存の全戸配布インフラやWEB回答を活用した全世帯調査へと直ちに転換することが強く推奨される。
