弥富の未来を「願い事」で終わらせない――第3次総合計画を経営再建計画へ 弥富市の総合計画を「願い事の一覧」から「命を守る実行計画」へ 第3次総合計画は、弥富市再建の最後のチャンス
第3次総合計画を「願い事の一覧」から「弥富を立て直す実行計画」へ
弥富市では、これから10年間の市政を決める「第3次総合計画」の策定が始まる。策定支援の委託費は上限約2,350万円である。
しかし、現在の仕様書は、アンケートやワークショップを行い、最終的に180ページ以内の計画書を作るという、従来型の内容にとどまっている。
そこには、厳しい財政の中で「何を優先し、何をやめるのか」という最も重要な判断が明確に示されていない。
市の財政見通しでは、基金残高は令和8年度の約22億7,000万円から、令和12年度には約5億3,000万円まで減少する一方、市債残高は約153億円から約175億円へ増加する。さらに、公共施設やインフラの更新には、年平均約17.8億円の財源不足が見込まれている。
この状態で従来事業を並べ直しても、実行できない「絵に描いた餅」が増えるだけである。
そこで、私たちは次の転換を提言する。
- 「何を新しく始めるか」より先に、全事業をゼロベースで点検する。
- 継続・改善・統合・廃止を明確にし、事業費と財源を示す。
- 洪水、高潮、地震、液状化、長期浸水を、土地利用や公共施設整備の最優先判断基準とする。
- 広報やとみの全戸配布に合わせ、紙とWEBによる全戸・全市民調査を実施する。
- 計画が固まる前から、市民と議会に選択肢、費用、リスクを公開する。
- 冊子を作って終わらず、毎年度、成果と費用を検証し、見直せる仕組みをつくる。
第3次総合計画は、行政の願望を並べる計画であってはならない。
「市民の命と暮らしを何としても守る」「将来世代に過大な借金を残さない」という目的から逆算し、限られた財源を本当に必要な事業へ集中させる、弥富市の経営再建計画に作り直すべきである。
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最大の問題は、この仕様書が「総合計画という冊子を作る手順」は定めている一方で、「弥富市が何をやめ、何を最優先で守り、限られた財源をどこへ振り向けるか」という政策判断を求めていない点である。
このままでも、アンケート、ワークショップ、人口推計、審議会を経た180ページの計画書は完成する。しかし、従来事業を並べ直しただけの「実行できない総花的計画」になる危険性が高い。
なお、2026年8月4日の選定委員会で、4者から株式会社ジャパンインターナショナル総合研究所が受託候補者に選定されている。公表日程では契約締結は9月上旬予定であり、契約協議で内容を補強するなら今が重要な時期である。弥富市・プロポーザル結果
主要な問題点
| 問題 | 仕様書上の欠落 | 想定される結果 |
|---|---|---|
| 目的が「第2次計画の更新」になっている | ゼロベース見直し、事業廃止、優先順位の決定がない | 現行事業を継ぎ足した総花的計画になる |
| 財政的裏付けがない | 10年間の財政フレーム、事業費、更新費、財源、職員数を基本計画に結び付ける規定がない | 財源のない「絵に描いた餅」になる |
| 防災が中心に置かれていない | 洪水・高潮・地震・液状化・長期浸水を全政策の判断基準にする規定がない | 防災計画と土地利用・公共施設・産業政策が別々に進む |
| 現行計画評価が内部評価だけ | 担当課による進捗確認が中心で、費用対効果・市民評価・外部評価がない | 「実施したか」だけを評価し、「効果があったか」を問えない |
| 市民調査が前回踏襲 | 一般市民3,000人、中学2年生という前回とほぼ同じ設計 | 地区別、世代別、災害弱者別の分析が難しい |
| 市民参加が単発的 | ワークショップ4回と最終段階のパブリックコメントだけ | 計画案が固まってから意見を聞く形式参加になる |
| 審議体制が不明確 | 専門分野、委員構成、外部専門家、議会との協議方法が書かれていない | 市役所と受託者中心で計画が作られる |
| 審査基準が抽象的 | 防災・財政・都市計画・公共施設管理に独立した配点がない | 弥富市に必要な専門性より、見栄えや提案力が評価され得る |
| 成果品が冊子中心 | PDF、CD-ROM、印刷物が中心で、GIS、データベース、評価台帳等がない | 完成後に更新しにくい「本棚の計画」になる |
1.財政危機を計画策定の前提にしていない
仕様書では人口や財政状況を「基礎データとして整理する」としか定めていない。これは財政を紹介するだけであり、計画を財政制約の中に収めることとは全く異なる。
弥富市の中期財政計画では、令和8年度から12年度にかけて、
- 年度末基金残高:約22億7,500万円から約5億2,900万円へ減少
- 年度末市債残高:約153億5,000万円から約174億9,500万円へ増加
- 将来負担比率:114.7%から140.4%へ上昇
との見通しが示されている。弥富市中期財政計画
さらに、市の地域強靱化計画では、公共施設・インフラ更新に今後40年間で1,076.6億円、年平均約17.8億円の財源不足が見込まれている。弥富市地域強靱化計画
それにもかかわらず、仕様書には次がない。
- 10年間の財政収支見通しとの連動
- 各施策の概算事業費と維持管理費
- 新規事業を始める場合に廃止・縮小する事業
- 事業の優先順位
- サンセット方式
- 財政悪化時に中止・延期する基準
- 公共施設更新費との調整
これは重大な欠陥である。
2.防災を一分野として扱う危険がある
弥富市は市域のほとんどが海抜ゼロメートル地帯であり、市の立地適正化計画も、浸水区域が広範囲に及び、地震・液状化についても市全域を対象に分析する必要性を認めている。弥富市立地適正化計画・防災指針
したがって、防災は「防災分野の施策」ではなく、次の判断すべてに先立つ条件でなければならない。
- どこに住宅や産業を誘導するか
- どの公共施設を残すか
- 避難拠点をどこに置くか
- 学校、福祉施設、庁舎をどう再編するか
- 道路、排水、堤防にどう投資するか
- 災害後にどの機能を早期復旧するか
ところが仕様書には、ハザード情報をGIS上で人口、施設、避難困難者、土地利用、投資計画と重ね合わせる作業が明記されていない。これでは地域強靱化計画、都市計画、公共施設計画、総合計画が別々の計画として残る。
3.3,000人アンケートの限界
無作為抽出3,000人という標本調査自体は、全市的な傾向を推計する方法として不適切ではない。しかし、前回の有効回答は2017年が916人・30.5%、2022年が864人・28.8%まで低下している。第2次計画策定時調査、後期基本計画策定時調査
800~900人程度では、全市集計はできても、学区別、年齢別、家族構成別、災害リスク別に細分化すると回答数が極端に少なくなる。
このため、次の二層方式が必要である。
- 無作為抽出3,000人調査
統計的な代表性と過去調査との比較を確保する。 - 広報やとみの全戸配布に合わせた全戸・全市民調査
紙とWEBを併用し、地区別課題、避難行動、施設利用、事業の優先順位を広く把握する。
木曽川下流河川事務所は2017年、市町村広報と同時に8市町村へ117,338部を配布し、弥富市では21,528部配布、1,599件を回収している。この既存調査との比較は特に有効である。木曽三川下流部住民意識調査
ただし、全戸配布だけでは代表性は保証されない。同調査全体では回答者の76.7%が男性で、60歳以上が約7割を占めた。したがって、若者・女性・外国人・子育て世帯への追加調査と、人口構成に応じた補正集計が必要である。
4.ワークショップ4回では「市民協働」とはいえない
仕様書には参加者の募集方法、人数、開催地区、テーマ、世代構成が定められていない。
4回を同じ参加者で行うのか、地区別に行うのかさえ不明である。これでは、声の大きい少数の参加者の意見を「市民意見」として扱う危険がある。
必要なのは、単なるアイデア募集ではなく、例えば次の選択肢を示した対話である。
- 公共施設をすべて維持する代わりに負担を増やすのか
- 施設を統合して防災性能を高めるのか
- 駅周辺投資と排水・避難対策のどちらを優先するのか
- 農地保全と物流開発をどの区域で分けるのか
市民に「何が欲しいか」だけを尋ねるのではなく、費用とリスクを示して選択を求める必要がある。
5.審議会と庁内体制が弱い
市の回答書では、庁内策定委員会は設置するものの、受託者の出席は原則想定せず、作業部会の開催も未定、その他の会議体も考えていないとしている。また、パブリックコメントは令和10年12月の議会上程直前に実施する予定である。プロポーザル質問回答書
これでは部局横断的な調整が弱くなる。
また、総合計画審議会条例は「20人以内」「市長が適格と認める者」とするだけで、専門分野や市民枠を定めていない。弥富市総合計画審議会条例
少なくとも次の専門性が必要である。
- 防災・地域安全
- 河川・排水・高潮
- 都市計画・土地利用
- 財政・公共施設マネジメント
- 農業・環境
- 福祉・医療
- データ分析・行政評価
- 市民参加・合意形成
議会への中間報告も仕様書に明記されておらず、議決対象は基本構想だけである。基本計画や財政フレームが議会審査の外側に置かれる点も問題である。
6.事業者選定基準の問題
審査基準100点のうち、防災、財政、都市計画、公共施設再編に対する個別配点は一切ない。一方、価格は10点、連絡調整体制は15点、類似業務実績は5点である。審査基準
また、参加資格を、
- 愛知・岐阜・三重に本社又は事業所がある
- 過去5年間に愛知県内で総合計画等の実績がある
と限定している。直ちに違法とはいえないが、全国から防災・財政・都市経営に優れた提案を集めるより、「県内で従来型総合計画を作った経験」を優先する条件になっている。
選定委員会も市職員だけで構成され、公開された結果は応募4者と受託候補者名のみである。委員名、各社得点、評価理由、提案概要は公表されていない。透明性にも改善余地がある。
7.国の新方針への即時対応が必要
仕様書公表後の2026年7月21日、国は新たな「地域未来戦略」を閣議決定し、地方版総合戦略の策定・改訂に関する通知も出している。地域未来戦略、地方人口ビジョン・地方版総合戦略
仕様書第5項には「新たな国・県の指針が示された場合は反映する」とあるため、この新方針は契約後の任意対応ではなく、直ちに整理して策定方針へ反映すべき事項である。
契約協議で最低限追加すべき事項
- 第3次計画を「事業追加型計画」ではなく「防災と財政を軸とする都市経営計画」と位置付ける。
- 全事業をゼロベース評価し、継続・改善・統合・廃止に分類する。
- 各施策に概算事業費、維持更新費、財源、担当部署、実施年度を付ける。
- 10年間の財政フレームと総合計画を一致させる。
- 災害リスクを土地利用・公共施設・産業立地・投資順位の共通判断基準とする。
- 無作為抽出調査と、広報やとみを利用した全戸・WEB調査を併用する。
- 木曽川下流河川事務所の2017年調査を再分析し、今回調査と比較する。
- 学区・地区別の人口、災害、施設、財政負担をGISで可視化する。
- パブリックコメント以前に、基本構想、財政枠、重点施策の各段階で市民・議会へ報告する。
- 冊子だけでなく、評価台帳、事業データ、GIS、毎年度更新できるダッシュボードを成果品に加える。
総括すると、この仕様書は「通常型の総合計画策定委託」としては成立しているが、弥富市が直面する災害リスク、基金減少、市債増加、公共施設更新問題を乗り越える仕様にはなっていない。部分修正ではなく、計画の目的そのものを「発展の計画」から「市民の命と暮らしを持続させる選択と集中の計画」へ転換する必要がある。

