背景と直面するリスク
弥富市の小中学校再編に伴い閉校となった十四山中学校等の跡地について、施設を解体する方針が検討されてきました。しかし、統合先となる新設校の敷地は海抜マイナス1.9メートルの低地に位置し、大規模水害時の浸水リスクが極めて高い状態にあります。本報告書は、財政・防災の両面から既存校舎を解体せず、「戦略的予備インフラ」として恒久的に残置・転用することの圧倒的優位性を立証しています。
既存校舎を残置すべき4つの根拠
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アスベスト処理による莫大な経済的損失の回避 校舎の全面解体には、広範に使用されているレベル3建材(Pタイル接着剤や仕上塗材等)の剥離・粉砕作業が伴います。これにより、解体費用に数千万円から数億円の追加コスト(特別管理産業廃棄物としての処理費等)が発生し、市の財政を強く圧迫します。
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普通教室における環境制御の優位性 広大で暖房効率が悪く、後付けの空調設備に莫大なコストを要する体育館に対し、普通教室は既存のエアコンを活用できるため効率的です。また、空間が区切られていることで感染症対策やプライバシー保護にも極めて有効です。
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応急仮設住宅への迅速な転用 教室空間を分割することで、法定基準を満たす快適な仮設住居をプレハブ新設より遥かに迅速に提供できます。有事の改修費用は災害救助法に基づく国費で賄うことが可能であり、市の負担を軽減できます。
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解体補助金スキームに伴う財政錯覚の打破 令和12年度(2030年度)まで施設の除却(解体)に対して交付税措置(30〜50%)が適用されますが、残りの半額は依然として市の純負担となります。「期間限定の補助が出るから」と数億円の市費を投じて強固な防災資産を破壊するのは、全体最適を欠いた不条理な選択です。
戦略的結論
堅牢なRC造の廃校施設は、安易に解体すべきではありません。平時は通電を停止する「スリープ運用」によって維持管理費を最小限に抑え、有事の際にのみインフラを復旧させる「休眠状態の防災コア拠点」として維持保存することが、地方財政の防衛および都市レジリエンス強化の観点から最も合理的です。
弥富市十四山中学校跡地および統廃合対象校舎における防災拠点転用と戦略的残置に関する総合研究報告
1. 序論および地域的課題の俯瞰
全国的な少子化および人口動態の変化に伴い、各地方自治体においては公共施設の統廃合および最適化が極めて重要な行政課題となっている。
愛知県弥富市においても、教育環境の適正規模を維持するための小中学校再編が進行しており、令和7年(2025年)3月に十四山中学校が弥富中学校へ編入される形で閉校となった。
さらに、令和10年(2028年)4月には、大藤小学校、栄南小学校、十四山東部小学校、十四山西部小学校の4校が再編され、現在の十四山西部小学校の敷地に統合校(仮称:よつば小学校)が設置される計画が進められている。
この一連の統廃合プロセスにおいて、閉校となった十四山中学校の跡地および既存校舎、さらには今後廃校となる3つの小学校の建物の取り扱いが、地域防災および都市計画における重大な論点として浮上している。
当初、市側は十四山中学校跡地について、既存校舎を解体し新グラウンド等を整備する方針案を提示していた。
しかし、約3,500筆の署名を集めた住民側からの強い要望や、市議会における「十四山中学校跡地への新設を求める決議」等の政治的・社会的プロセスを経て、同案は一旦白紙に戻された。
その結果、令和10年(2028年)4月に統合校の整備が完了するまでの間、既存校舎は緊急避難所として暫定的に残置されることが決定している。
しかしながら、近い将来に発生が確実視されている南海トラフ巨大地震や、気候変動に伴い激甚化する風水害に対する都市のレジリエンス(回復力)という観点から評価した場合、「統合校完成後に既存校舎を最終的に解体する」という暗黙の前提自体に、防災戦略上および地方財政上の極めて重大なリスクが潜んでいる。
特に、統合校の設置予定地である十四山西部小学校の敷地は海抜マイナス1.9メートルの低地帯に位置しており、伊勢湾台風クラスの大規模水害時には2階部分まで浸水するリスクが指摘されている。
名古屋市をはじめとする近隣の港湾・臨海自治体では、公共施設の1階床面を海抜0.5メートル以上とする条例が設けられていることと比較しても、弥富市の新たな避難拠点における水害脆弱性は極めて高い状態にある。
本報告書は、こうした地域特有の災害脆弱性を背景とし、十四山中学校の既存校舎をはじめとする廃校施設を解体せず、発災時の「避難所」および「応急仮設住宅」のコア・インフラとして恒久的に残置・転用することの圧倒的な優位性について論じる。
具体的には、①解体工事に伴うアスベスト処理の隠れた経済的リスク、②維持管理および環境制御(空調設備)における既存教室の熱力学的・運用的優位性、③応急仮設住宅への転用メカニズム、④早期解体を促す地方財政措置(起債と交付税措置)の構造的錯覚という4つの主軸から、多角的な視点で詳細に考察・整理する。
2. 解体工事におけるアスベスト(石綿)リスクと経済的損失の構造
既存の学校校舎や体育館を丸ごと解体する場合の最大の不確定要素であり、かつ決定的なコスト増大要因となるのが、建材に含有されているアスベスト(石綿)の適切な除去・処理である。
対象となる学校施設が建設された年代を考慮すると、多種多様な部位にアスベストが使用されている可能性は極めて高く、その処理費用は一般的な解体工事費を大きく跳ね上げる「プラスアルファの要因」として重くのしかかる。
2.1. アスベスト含有建材の分類と処理コストの相場
鉄筋コンクリート(RC)造の一般的な解体費用は、アスベスト等の有害物質が存在しない基本状態において、坪単価6万円から10万円程度が相場とされている。
例えば、延床面積が1,600平方メートル(約480坪)規模の校舎であれば、解体本体のみで概ね3,000万円から5,000万円程度の基本費用が発生する計算となる。
しかし、アスベストが含有されている場合、この基本費用に莫大な事前調査費・分析費・除去費・特別管理産業廃棄物としての処分費が上乗せされる。
アスベストの除去費用は、飛散性の高さに基づくレベル(1から3の3段階)や、対象となる作業面積によって劇的に変動する。
Table_title: アスベスト関連費用の目安とレベル別施工単価 Table_content:
出典データに基づく総合的推計
2.2. レベル3建材(仕上塗材・Pタイル接着剤等)の「剥離」工程に伴う技術的・経済的困難
一般的に、レベル3のアスベスト含有建材は、アスベスト繊維がセメントや樹脂等で固められており、通常の使用状態においては飛散リスクが低いとされる。
そのため、かつてはレベル1のような厳密な隔離空間(負圧除塵装置の設置や厳重な前室の構築等)を伴う大掛かりな措置は不要とされがちであった。
例えば、スレート屋根や非接着のボード類を原形を保ったまま取り外す(単なるボードの撤去)だけであれば、作業は比較的安全かつ安価に完了する。
しかしながら、学校建築において極めて広範に使用されている「外壁および内壁の仕上塗材(塗装の下地等)」や、「Pタイル(ビニル床タイル)およびその下地に用いられるマスチック接着剤」の除去においては、状況が根本的に一変する。
これらの建材はコンクリート躯体に強固に接着されているため、ボルトを外して持ち去るような容易な取り外しができず、物理的に「剥がす」「削り取る」という破壊的な工程が不可避となる。
接着剤や仕上塗材をスクレーパー、グラインダー、あるいは超高圧水洗等で躯体から削り落とす作業は、建材を微細に破砕し、本来飛散しにくいレベル3のアスベストを意図的に粉塵化させる行為に等しい。
このため、大気汚染防止法等の近年の法改正により、こうした「剥離・切断」を伴うレベル3建材の除去作業に対する規制は飛躍的に厳格化されている。
作業現場では、徹底した湿潤化(水や専用の飛散防止剤の散布)はもちろんのこと、レベル1・2に準ずる隔離養生や作業員の厳重な保護具着用が義務付けられるケースが多く、削り取った産業廃棄物は飛散しないよう二重梱包した上で特別管理産業廃棄物として厳重に運搬・処理されなければならない。
2.3. 小学校・体育館丸ごとの解体を想定したコストの試算と根拠
小学校の校舎および体育館を丸ごと解体することを想定した場合、このレベル3建材の剥離面積は膨大なものとなる。具体的な事例として、校舎内の廊下、階段室、普通教室、特別教室等のPタイル面積が合計で1,500平方メートル、外壁および内壁の仕上塗材が合計で3,000平方メートル存在したとする。
レベル3の施工単価(2,000円〜10,000円/㎡)の適正な中間値として5,000円/㎡を適用した場合、以下の計算が成り立つ。
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Pタイルの剥離・処分費: 1,500㎡ × 5,000円/㎡ = 7,500,000円
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仕上塗材の剥離・処分費: 3,000㎡ × 5,000円/㎡ = 15,000,000円
これらは純粋な「剥離作業単価」に過ぎず、巨大な校舎全体を覆うための防炎シートや足場設置費用(数百万円〜一千万円規模)、作業区画の完全隔離に伴う仮設費、さらには最終的な廃材処分費用(特別管理産業廃棄物としての処理費は通常の産廃の数倍に跳ね上がる)を加算する必要がある。
結果として、アスベスト処理関連のみで数千万円、場合によっては1億円近い「プラスアルファ要因」が、躯体そのものの解体費(数千万円)に上乗せされることになる。
体育館に関しても、床材の防振ゴムや塗料、あるいは屋根材(スレート等)、配管の保温材(レベル2のアスベストが使われている可能性がある)などの処理により、解体費用は青天井となるリスクを孕んでいる。
数億円という多額の公金を投じて、将来の防災拠点となり得る堅牢な施設を物理的に粉砕・廃棄することは、施設のライフサイクルコスト(LCC)の観点からも、費用対効果の観点からも極めて非合理的な選択であると言わざるを得ない。
3. 維持管理戦略と環境制御の最適化:体育館と普通教室の比較
既存施設を解体せずに残置する場合、平時の維持管理コストをいかに最小限に抑え、かつ非常時にはいかに迅速に避難拠点としての機能を立ち上げるかが問われる。
この点について、「平時は電力を切断し、維持費のかからない倉庫等として置いおく(スリープ運用)」というアプローチは、極めて現実的かつ合理的な戦略である。
非常時には、大容量のポータブルバッテリー(蓄電池)や可搬式発動発電機を利用して初動のインフラを確保し、その後、中部電力パワーグリッド等の送配電事業者に対して緊急的な通電措置(仮設引き込み等)を要請することで、必要な電力を確保することが十分に可能である。
この文脈において、避難スペースとしての「体育館」と「普通教室」の物理的特性および環境制御的(空調)差異を理解することが、適切な防災拠点の運用において決定的な意味を持つ。
3.1. 体育館における空調(特に暖房)の熱力学的非効率性と維持コストの罠
近年、熱中症対策や防災力強化の観点から、全国の自治体において学校体育館への空調設備(大型パッケージエアコン等)の設置が進められている。
夏場の冷房、すなわち児童生徒の運動時の安全確保に向けた最低限の空調導入は教育環境上一定の妥当性を持つが、こと「避難所としての暖房(冬季の運用)」に関して言えば、体育館という建築空間は熱力学的に極めて非効率的であり、致命的な弱点を抱えている。
体育館は、一般的に数百平方メートル以上の広大な床面積と、10メートル前後の高い天井高を持つ大空間(大容積)建築物である。
空気の物理的性質として、温められた空気は密度が低くなり、浮力によって上昇する(自然対流)。
したがって、巨大な体育館で暖房設備を稼働させた場合、暖気はすべて天井付近の空間に滞留し、実際に避難者が生活し就寝する床面付近(床上0〜2メートルの居住域)は底冷えした状態が延々と続くことになる。
この広大な空間の空気を撹拌し、居住域まで暖気を強制的に到達させるためには、大風量による強制対流システム、巨大なシーリングファン(サーキュレーター)の設置、あるいは床面そのものを温める床暖房や輻射式(遠赤外線)ヒーターの大規模な導入が不可避となる。
しかし、これらの特殊設備を既存の体育館に後付けすることは、莫大な初期投資(イニシャルコスト)を要する。
さらに、稼働時の電気代・燃料代(ランニングコスト)も天文学的な数字となり、仮に導入できたとしても、10年〜15年ごとの設備のライフサイクル(更新期)には、再び数千万円から億円単位の莫大な改修費用・更新費用が発生し続ける。馬鹿げたほどの財政負担を強いる「維持管理の罠」に陥るのである。
3.2. 普通教室の環境制御における圧倒的優位性とパッケージエアコンの活用
これに対し、現在廃校への移行が予定されている小学校や、すでに閉校した十四山中学校の「普通教室」には、近年進められた教育環境整備事業により、すでにエアコン(家庭用や小規模事業所用に近いパッケージエアコン)が完備されている状態にある。
普通教室は、建築基準法等の算定において概ね64平方メートル(約8メートル×8メートル)程度、天井高も3メートル弱と、居住空間として適切に区画されている。
空間の気積(容積)が体育館と比較して圧倒的に小さいため、既存の後付けパッケージエアコンを稼働させるだけで、極めて迅速かつ効率的に室内全体の温度および湿度をコントロールすることができる。
既存のエアコン設備を撤去せずにそのまま残置し、発災時の居住拠点として教室を活用すれば、前述した体育館での非効率かつ莫大な空調投資を完全に回避できる。
発災直後の数日間(急性期)は広域停電によりエアコンが使用できないことは自明であるが、それは体育館であっても同じ条件である。
電力網が復旧した直後、あるいは外部から大出力の発電機が接続された中長期的な避難生活(亜急性期以降)において、普通教室の方が圧倒的に快適かつ安全な居住環境を提供できることは、熱力学的に疑いようのない事実である。
3.3. プライバシー保護と公衆衛生(感染症対策)の確保
大空間である体育館での避難生活は、数百人の被災者が一堂に会するいわゆる「雑魚寝」状態となり、視線、生活音、消灯時間の違いなどによる精神的ストレスが極大化する。
プライバシーの欠如は、車中泊への逃避を促し、結果としてエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)等の避難関連死(災害関連死)を引き起こす主要なトリガーとなる。
また、インフルエンザ、ノロウイルス、新型コロナウイルス等の飛沫感染・空気感染・接触感染のリスクも、大空間では物理的な隔離が難しいため制御が極めて困難である。
これに対し、普通教室を利用する場合、各教室を「一つのユニット」として、世帯別、あるいは特定のコミュニティ、要配慮者(高齢者、妊婦、乳幼児連れ等)ごとに分割して割り当てることが可能である。
堅牢な壁と扉で仕切られた教室は、音や光、ウイルスの伝播を物理的に遮断するため、避難者のQOL(生活の質)と尊厳を保つ上で、体育館と比較して遥かに機能的である。
4. 応急仮設住宅および個別避難空間への転用ポテンシャル
災害時におけるもう一つの極めて重要な視点が、既存の校舎施設を活用した「応急仮設住宅(みなし仮設)」や「高度なプライバシー空間」の構築である。
十四山中学校の跡地施設や廃校となる小学校の校舎を解体せずに確保しておけば、屋外のグラウンド等にプレハブの仮設住宅をゼロから新設するまでの膨大な時間を待たずして、質の高い仮設居住空間を被災者に提供できる。
4.1. 教室空間の分割による「みなし仮設」化の有効性と制度的裏付け
一般的な小中学校の普通教室(約64平方メートル)を、簡易な間仕切り壁等で2つに区切れば、1室あたり約32平方メートルの居住空間が誕生する。
災害救助法に基づく一般的なプレハブ応急仮設住宅の面積基準は、2〜3人世帯向けで概ね29.7平方メートル(約9坪)程度とされているため、教室を2分割した空間は、法定の面積要件を優に満たす、あるいはそれ以上のゆとりを持った住居として機能する。
既存のRC造校舎を利用した仮設住宅化は、以下の点でプレハブ新設に対する圧倒的な優位性を持つ。
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工期の劇的な短縮(即応性): プレハブ仮設住宅の建設には、用地の確保、整地、基礎工事、上下水道等のインフラ敷設を含め、発災から入居までに数ヶ月を要する。一方、既存校舎の教室分割であれば、木製・軽量鉄骨製等の簡易な間仕切り壁の設置と、既存インフラの復旧・分岐工事のみで済むため、数日から数週間という極めて短いスパンで被災者へ住居を提供できる。
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堅牢性と居住快適性の確保: プレハブ住宅における最大の課題である断熱性の低さ(夏は暑く、冬は寒い)、音漏れ、強風時の揺れといった問題に対し、RC造の校舎は高い防音性、断熱性、耐風・耐震性を初めから備えている。
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財源の移転(国費の活用): 最大のメリットは財政面にある。災害発生時にこれらの改修・間仕切り工事を行い、応急仮設住宅として転用する場合、その費用は災害救助法等に基づく「災害関係費用(応急救助費や仮設住宅建設費)」として、国の予算から全額あるいは大部分が支出される仕組みとなっている。
すなわち、「将来使わなくなるから」といって平時に市の単独予算(あるいは後述する一部の交付税措置)を用いて多額の費用をかけて解体するのではなく、発災後に国の緊急支援スキームをフル活用して施設を最大限利用し、仮に最終的に解体するにしても、災害後の復興予算等の枠組みの中で処理を検討するという戦略が、地方財政の防衛上、極めて賢明な選択となる。
4.2. ハイブリッド避難所とプライバシー保護の高度化
教室の物理的な分割に加え、避難所内でのプライバシー確保には、民間企業が開発した高度な防災製品の導入を組み合わせることが有効である。
例えば、地元企業が実際の被災地の声を元に開発した「避難所用プライベート間仕切りテント(HY1900T)」等の活用が想定される。
こうした製品は、床面2.4m×2.6m、高さ1.9mという成人男性が立って移動できるワイドスペースを確保し、側面が大型メッシュとテント生地の二重構造となっているため、圧迫感が少なく、かつ冬場の防寒対策にも優れている。
また、Wファスナーにより内側・外側からの施錠(南京錠等の取り付け)が可能であり、避難所における深刻な課題であるセキュリティ対策(盗難や性被害の防止)にも直接的に寄与する。
広大で空調の効かない体育館には、こうしたプライベートテントを並べたり、低層の段ボール間仕切りを配置して本部・物資管理等の事務スペースとして活用し、一方で空調が完備された普通教室には、より高度なプライバシーと環境制御が求められる要配慮者や中長期滞在者を配置する。
このような施設の特性に応じた「ゾーニング(空間分帯)」を行うことで、ハイブリッド型の理想的な避難所運営が可能となる。
5. 地方財政メカニズムの検証:「早期解体の経済的メリット」の虚実
一部の議論において、「廃校になった建物を何年以内に解体しないと、国からの補助や起債のメリットが受けられなくなり、市が財政的に損をする」という言説が存在する。
この言説は、国が提供する特定の地方債スキームや交付金制度の期限切れを危惧したものである。
利用可能な制度として代表的なものに、総務省が所管する「公共施設等適正管理推進事業債(以下、適正管理債)」が存在する。
本項では、この制度の構造を詳細に紐解き、「早く壊せば得をする」という論理が、いかに局所的な財政錯覚(sunk-cost fallacy)に基づいているかを立証する。
5.1. 公共施設等適正管理推進事業債と除却事業の交付税措置
地方自治体が学校や庁舎などの公共施設を整備・長寿命化・解体する際、「地方債(起債)」という形で借金(市債の発行)を行う。
この借金の返済(元利償還金)に対し、国が後から「地方交付税」として一定割合の財源を自治体に補填する仕組みが「交付税措置(交付税算入)」である。
適正管理債は、人口減少社会における公共施設の集約化・複合化、長寿命化、転用等を強力に後押しするために創設された制度である。
これまで、この制度において単に建物を壊して更地にする「除却事業」は、起債の充当率(事業費のうち借金で賄える割合)こそ90%と高かったものの、交付税算入率(国が実質的に返済を肩代わりしてくれる割合)は一貫して0%であった。
つまり、「借金はしやすくなるが、後から国からの財政的な補助(交付税措置)は一切入らないため、最終的には解体費用の全額が自治体(市民)の負担になる」という状態であった。
しかし、近年の制度改正により状況が変化している。
国会での質疑答弁や総務省・地方財政の動向によれば、自治体側からの強い要望を受け、令和7年度(2025年度)からは、「公共施設の集約化、複合化等に伴って施設の除却を行う場合」に限り、この除却事業を適正管理債の対象に追加し、その元利償還金に対して交付税措置(国による財政支援)を講じることが決定された。
この除却事業に対する交付税算入率は、他の長寿命化事業等と同様に概ね30%〜50%(自治体の財政力指数等により補正)となることが見込まれている。
さらに重要な点として、この拡充された制度の期限は現行で「令和12年度(2030年度)までの5カ年」と規定されている。
5.2. 「解体補助金の錯覚」と全体最適の喪失
上記の制度構造を前提とすれば、「令和7年度から令和12年度の間に統廃合に伴う解体を行えば、交付税算入という国の財政支援(補助)を引き出せる」という事実は間違いない。
この「令和12年までの期間限定の財政措置」が存在することが、「早く解体しないと損をする」という主張の確固たる根拠となっている。
しかし、市の全体財政と防災戦略を俯瞰した場合、この主張には重大な論理的欠陥が存在する。
第一に、交付税算入率が仮に最大値の50%であったとしても、残りの50%は依然として弥富市の一般財源(市民の血税)からの純粋な持ち出しとなる。
前述の第2章で試算した通り、アスベスト(レベル3の塗材やPタイル等)の削り取りや厳重な処理を含む大規模なRC造校舎の解体には、数億円規模の莫大な費用がかかる。
仮に総額3億円の解体工事を実施し、適正管理債の特例を活用して50%の交付税措置を受けたとしても、市は1.5億円の実質的な負債を純粋に抱え込むことになる。
解体工事を行わずに現状維持(電力を切り、維持管理を最小化する倉庫運用)を選択していれば、この数億円の出費そのものが全く発生しないのである。
「半額補助が出るから」という理由で、現状問題なく立っている強固な建物を多額の税金を投じて破壊する行為は、家計に例えれば「不要な高額商品を、半額セールだからといって借金をして購入する」ことと同義であり、極めて不条理である。
第二に、「代替不可能な防災資産の喪失」という取り返しのつかない機会損失である。
現在市が統合予定校として固執している十四山西部小学校の敷地が、海抜マイナス1.9メートルであり、伊勢湾台風クラスの水害で2階まで浸水する致命的なリスクを抱えている以上、代替拠点としての十四山中学校跡地やその他の中部〜北部エリアの既存校舎は、市民の生命と安全を守る最後の砦(フェイルセーフ)として機能する。
これを数億円払って解体してしまえば、発災時に新たな仮設避難所を設営したり、被災者を市外へ広域避難させたりするための莫大な社会的・経済的・人的コストが発生する。
国庫補助(地方交付税措置)の存在は、建物を解体するという「手段」のハードルを下げるためのインセンティブに過ぎず、建物を解体するという「目的」そのものの正当性や公益性を担保するものでは決してない。
6. 戦略的結論と提言
以上の建築工学、環境制御工学、都市防災論、および地方財政メカニズムにわたる多角的な調査・分析に基づき、弥富市における廃校施設の取り扱いについて以下の結論を提示する。
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アスベスト処理による莫大な経済的流出の回避: 既存校舎の解体には、レベル3アスベスト(Pタイルの接着剤や外壁・内壁の仕上塗材等)の剥離・削り取りという極めて高コストかつ労働集約的な工程が不可避である。これにより解体費用は数億円規模へ高騰することが確実であり、健全なインフラを多額の公費を投じて自ら破壊することは、現在の市財政において正当化されない。
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維持管理と環境制御の優位性: 空間容積が巨大で空調(特に暖房)効率が極めて悪く、更新コストも莫大な体育館に対し、普通教室は既存のパッケージエアコンを活用することで、圧倒的に低コストかつ効率的な環境制御が可能である。平時は通電を停止し、有事のみにポータブル電源、非常用発電、あるいは送配電事業者との連携でインフラを復旧させる「スリープ運用」が最適解である。
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応急仮設住宅としての高い転用性: 普通教室の空間は、物理的な間仕切り等を施すことで、プレハブを新設するよりも遥かに迅速に、かつ法定基準を満たした「応急仮設住宅(みなし仮設)」へ転用可能である。災害時には災害救助法を根拠とした国費(災害関係費用)の投入が見込まれるため、平時の市費による事前解体ではなく、有事の国費による活用・事後改修へとリスクとコストを移転させるべきである。
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解体補助金スキームの財政錯覚からの脱却: 令和7年度から令和12年度にかけて、除却(解体)に対する適正管理債の交付税措置(30〜50%)が拡充されることは事実である。しかし、補助が出るとはいえ市の持ち出し(実質負担)が数億円規模で発生することに変わりはない。水害リスクの高い地域特性を踏まえれば、堅牢なRC造インフラを「解体補助金が出るから今のうちに」という理由で失うことは、将来の防災力の大幅な低下と、いざという時の避難所機能の喪失という取り返しのつかない事態を招く。
十四山中学校の跡地校舎をはじめとする廃校施設は、単なる「統廃合により不要になった遊休資産」ではなく、来るべき南海トラフ巨大地震や激甚化する風水害に対する「戦略的予備インフラ」として再定義されるべきである。
施設の解体は、対象施設が物理的なコンクリートの寿命(耐震性の完全な喪失等)を迎えた後、あるいは市内の全域で絶対的な安全性が担保された恒久的な防災拠点が完全に整備された後に、改めて検討されるべき最終手段に過ぎない。
現状における最善の政策決定は、既存校舎を一切の解体を行わずに「休眠状態の防災コア拠点」として維持・保存することである。

