学校跡地を防災資産として残す妥当性
調査報告(2026年8月20日時点)
1. 結論
十四山中学校跡地と、2028年3月31日に閉校する大藤小・栄南小・十四山東部小については、直ちに一括解体するよりも、
- 安全性の低い棟だけを選別して除却
- 空調のある普通教室棟などは「防災休止施設」として一定期間保存
- 3~5年間の実績、南海トラフ地震対策、跡地利用計画を比較して最終判断
とする方が合理的です。
ただし「電気を全部止め、無管理の倉庫として置くだけ」では避難所として再使用できないおそれがあります。最低限、屋根・外壁、雨漏り、消防設備、アスベスト劣化、非常用電源接続、給排水、鍵・警備について定期管理が必要です。
また、市が「維持管理費・改修費が多額」として解体を選ぶなら、少なくとも次の比較を公表すべきです。
- 今すぐ全部解体
- 5年間防災休止
- 校舎だけ保存、老朽体育館等を解体
- 防災・地域施設に転用
弥富市自身も、学校跡地について「防災機能が損なわれないよう努める」「利活用決定までは必要最小限の経費で維持管理する」と定めています。
したがって、一定期間の保存は市の現行方針とも整合します。弥富市学校跡地利活用基本方針(8~9ページ)
2. 対象施設の規模
弥富市資料の各棟面積を合算すると、4跡地の校舎・体育館は合計約1万7,856平方メートルです。
| 施設 | 閉校時期 | 校舎・体育館合計 | 主な建築年度 | 現在の位置づけ |
|---|---|---|---|---|
| 旧十四山中学校 | 2025年3月 | 5,707㎡ | 1964~1991年度 | 閉校後も2次開設避難所 |
| 大藤小学校 | 2028年3月予定 | 3,899㎡ | 1960~1980年度 | 2次開設避難所 |
| 栄南小学校 | 2028年3月予定 | 4,635㎡ | 1972~2000年度 | 2次開設避難所 |
| 十四山東部小学校 | 2028年3月予定 | 3,615㎡ | 1960~1979年度 | 2次開設避難所 |
閉校時期は市の募集資料、規模・建築年度は市の基本方針によります。閉校時期、施設概要
特に重要なのは、旧十四山中学校が既に閉校しているにもかかわらず、現在も大藤小・栄南小・十四山東部小とともに「震度5弱以上又は避難指示時に開設する2次開設避難所」として掲載されている点です。弥富市指定避難所一覧
南海トラフ地震について「発生日のカウントダウン」という科学的予測はできませんが、地震本部は30年以内の発生確率を「60~90%程度以上」又は「20~50%」とし、いずれも最も高いⅢランク、防災上は高い方を念頭に行動するよう求めています。地震調査研究推進本部
3. アスベストリスク
使用の可能性
「全ての建物で極めて高い」とまでは、調査前には断定できません。
しかし対象建物の大半が2006年以前であり、石綿含有建材が存在する可能性は相当程度あります。
厚生労働省は、2006年以前に着工した建物について石綿使用の可能性があると説明しています。
解体時には規模にかかわらず、工事対象となる全材料の事前調査が必要で、建物解体が80平方メートル以上なら調査結果の報告も必要です。厚生労働省・石綿事前調査
想定箇所は次のとおりです。
- 吹付け材、耐火被覆材、保温材
- 天井・壁のボード、スレート板
- ビニル床タイル、長尺床材
- 床材・防水材の接着剤
- 外壁仕上塗材、下地調整材
- 屋根材、ルーフィング
- 配管エルボ等の保温材
環境省資料では、ビニル床タイルには1986年頃まで石綿含有製品が存在したとされています。環境省・非飛散性アスベスト建材資料
解体時の危険性
ボードや成形板が原形のまま外せる場合は、切断・破砕を避けて撤去できます。しかし、接着剤で強固に固定されたPタイル、下地材、防水材、塗材などは、剝離・研削が必要になりやすく、湿潤化、隔離、集じん、作業員保護、石綿廃棄物処理が費用増の原因になります。
一方、保存すれば常に安全というわけでもありません。
成形板は通常使用時には比較的飛散しにくいものの、破損・劣化したレベル3建材や、劣化した吹付け材は補修、囲い込み、封じ込め又は除去が必要です。国交省アスベストQ&A
したがって最善策は、閉校後の無人状態を利用し、天井裏・屋根下・床下・機械室まで含む「一部破壊調査」を先に実施することです。
4. アスベストによる費用増の目安と事例
国の参考単価
国土交通省が公表している吹付けアスベスト除去の参考値は、2007年実績に基づく古い数値ですが、幅の大きさを見る参考になります。
| 石綿処理面積 | 除去費用の目安 |
|---|---|
| 300㎡以下 | 2万~8.5万円/㎡ |
| 300~1,000㎡ | 1.5万~4.5万円/㎡ |
| 1,000㎡以上 | 1万~3万円/㎡ |
例えば処理面積300平方メートルなら約600万~2,550万円、1,000平方メートルなら約1,500万~4,500万円です。
ただし、これは建物延床面積ではなく「石綿を処理する面積」であり、現在の入札価格でもありません。
体育館の天井高さ、隔離範囲、機器、処分先などで大幅に変動します。国交省アスベストQ&A・Q40
学校関係の実例
| 事例 | 内容 | 金額・影響 |
|---|---|---|
| 葛飾区・道上小体育館等 | 事前調査で分からなかった屋根・床下等の石綿が解体中に判明 | 1億3,310万円→1億6,958.7万円、約3,648.7万円増、約27.4%増。工期も延伸 |
| 多摩市・旧南永山小 | 校舎・体育館・外構・設備解体、石綿除去、杭引抜きを含む | 4億8,950万円→4億9,773.9万円 |
| 東広島市・旧東志和小 | 校舎2棟計1,827㎡、プール・外構等。体育館は含まない | 予定価格6,474.5万円、税別 |
出典:葛飾区・道上小学校、葛飾区教育委員会資料、多摩市・旧南永山小、東広島市・旧東志和小
これらから分かるのは、「学校一校なら坪単価・平米単価で簡単に算定できる」というものではないことです。
アスベストがなければ追加額は小さい一方、隠蔽部に広く存在すれば数千万円単位の増額があり得ます。
さらに弥富市資料では、旧十四山中の校舎杭が42メートル、大藤小が最大46メートル、栄南小が43メートルです。杭を撤去する条件なら、これも大きな費用変動要因になります。
したがって現時点で弥富市4施設の解体総額を断定することはできません。
少なくとも、石綿調査前の概算額を最終的な判断材料にしてはいけません。
5. 電気を止めた「防災休止」は可能か
考え方としては可能ですが、完全放置ではなく次のような管理が必要です。
- 不使用棟の分電盤、給水、ガスを区画ごとに停止
- 雨漏り、屋根、外壁、窓、排水溝を定期点検
- 消防設備・非常照明の法定点検要否を確認
- 石綿含有材の破損・劣化確認
- 草刈り、防犯、害虫・小動物対策
- 給水再開時の水質・配管確認
- 年1回程度の避難所開設・非常電源接続訓練
- 普通教室エアコンの試運転と更新時期管理
ポータブル発電機や蓄電池は照明、通信、スマートフォン、冷蔵、医療機器、小型ポンプには有効です。
しかし複数教室のパッケージエアコンを同時運転するには容量不足になる可能性が高いため、次を事前設計しておく必要があります。
- 非常時に使う教室を限定する
- 非常用電源盤・接続口を整備する
- 大型可搬発電機、EV・PHEV、太陽光・蓄電池を組み合わせる
- 燃料備蓄と補給協定を定める
- 空調、トイレ、通信等の優先回路を分離する
「発災後に中部電力に頼めばすぐ再送電できる」とは限りません。
広域停電と建物側設備の安全確認を前提にした計画が必要です。
なお、弥富市は2023年の議会答弁で、4小学校を1校に統合した場合の維持管理費削減を令和4年度決算ベースで「約117万円」と説明しています。
ただし、これは閉校施設を防災休止状態で保有する費用の試算ではありません。
算定項目を開示させる必要があります。弥富市議会会議録
6. 体育館空調と普通教室
体育館の暖房は適切な能力の設備なら暖房はできますが、未断熱の大空間では設備費・電気代が非常に大きくなる。
文部科学省も、既存体育館は断熱性能が低く、冷暖房効率が悪いことを課題としています。文科省・体育館空調
文科省の延床930平方メートルの体育館モデルでは、次の試算です。
| 条件 | 必要冷房能力 | 空調工事費 | 年間電気代 |
|---|---|---|---|
| 断熱なし | 128kW | 3,900万円 | 280万円 |
| 断熱あり | 70kW | 2,600万円+断熱4,000万円 | 140万円 |
空調更新は15年で想定されています。文科省・断熱効果試算
したがって避難所は、体育館か教室かの二者択一ではなく、役割を分けるべきです。
- 体育館:初動受付、物資、情報、短期の大人数収容
- 普通教室:家族単位、乳幼児、高齢者、女性、要配慮者、医療・休養、長期避難
- 特別教室:診療、授乳、相談、ペット等の用途別区画
内閣府は避難所で1人当たり3.5平方メートル、開設時からの間仕切り・簡易ベッド、プライバシー、暑さ寒さ対策を求めています。避難所運営ガイドライン
実際に文科省も、2026年熊本地震の際、空調設備のある普通教室等を避難所として使うよう検討を依頼しています。文科省・普通教室活用要請
7. 教室を仮設住宅にできるか
「教室を二つに区切れば、そのまま応急仮設住宅になる」というのは、制度上は正確ではありません。
災害救助法上の応急仮設住宅は主に、
- 民間賃貸住宅を借り上げる「賃貸型」
- プレハブ・木造等を建設する「建設型」
- 廃止した公営住宅等を使う「その他適切な方法」
です。内閣府・被災者支援制度
ただし、教室を区切って「長期避難用の応急居住スペース」「二次避難所」として使うことは十分現実的です。正式な住宅として数カ月・数年使う場合は、次の確認・改修が必要です。
- 耐震・被災後安全確認
- 避難経路、防火区画、火災報知
- トイレ、浴室、炊事、洗濯
- 遮音、断熱、換気
- 段差解消
- 建築基準法・消防法上の用途変更
弥富市のような低地では、1階を居住用とすることや、校庭への建設型仮設住宅配置について、津波・高潮・長期浸水と両立するかの検討が不可欠です。
むしろ多層校舎の上階を保存することに、防災上の意味があります。弥富市浸水津波ハザードマップ
災害救助法適用時には避難所や応急住宅等の費用について国庫負担がありますが、「教室改修なら無条件に全額国費」という制度ではありません。救助基準・県と国の協議に適合する必要があります。
8. 「早く解体しないと損」なのか
結論からいえば、一般的な「廃校を何年以内に壊せば解体補助金がもらえる」という制度は確認できません。
ただし、補助金とは別に、条件を満たす統廃合関連の解体には、有利な地方債措置があります。
| 制度 | 起債充当率 | 元利償還金の交付税措置 | 主な条件 |
|---|---|---|---|
| 集約化・複合化等に伴う除却 | 90% | 50% | 総合管理計画・個別施設計画、統合施設供用又は旧施設廃止から5年以内等 |
| 単独の除却事業 | 90% | なし | 計画への位置づけ等 |
したがって、「単なる解体なら国による償還支援はない」という理解はおおむね正しい一方、学校統合に付随する除却が条件を満たす場合には、現在は50%の交付税措置があります。
ただしこれは、
- 現金補助金ではなく地方債
- 市の借金であることに変わりはない
- 対象事業費から土地価格相当分が控除される
- 残りの市負担と利息は残る
- 防災資産を失う費用は評価されない
という制度です。
現在の「公共施設等適正管理推進事業債」は2026年度までで、2026年度中に着手した事業には経過措置があります。
2028年閉校の3小学校に将来も同じ制度が使えるとは、現時点では断定できません。
総務省自治財政局・令和8年度地方財政関係資料(47~48ページ)
また、学校統合に対する文部科学省の国庫補助は、主として統合校の新築・増築等を支援するものであり、閉校校舎を早期解体すること自体への一般的報奨ではありません。文科省・公立学校施設国庫補助
旧校舎が過去の国庫補助で整備されている場合、解体・転用は財産処分手続の確認も必要です。災害時の一時使用は手続不要となる場合があります。文科省・財産処分手続ハンドブック
9. 弥富市に求めるべき具体的資料
解体の議決・予算化前に、市へ次の資料を求めるのが有効です。
- 棟別・部位別アスベスト調査結果
吹付け材、床材、接着剤、塗材、屋根下、床下、配管保温材の面積・重量を明示。 - 解体費の内訳
通常解体、石綿対策、杭抜き、外構、廃棄物、設計監理、予備費を分離。 - 保存案の年間費用
電気、上下水道、警備、消防点検、草刈り、保険、雨漏り補修、空調試運転を項目別に提示。 - 20年間の比較
全部解体、5年保存、校舎のみ保存、転用の現在価値を比較。 - 防災能力の比較
よつば小開校後を含め、避難所面積を「公称収容人数」ではなく1人3.5平方メートル、通路、備蓄、要配慮者室を控除して再計算。 - 地方債の正確な適用
起債名称、対象額、充当額、交付税措置見込額、土地価格控除、返済期間、実質市負担額、期限を施設別に提示。 - 空調設備の残存価値
普通教室エアコンの設置年度、型式、残存年数、再使用可能性、非常電源必要容量を確認。
なお、旧十四山中跡地に対するパブリックコメントでも「多額の維持管理費・改修費の具体的試算を開示すべき」と求められましたが、市回答は「今後の参考とする」にとどまり、数値を示していません。市は2028年4月までは既存校舎を解体しないと回答しています。十四山中学校跡地パブリックコメント結果
最終評価
最も説得力のある主張は、「全部を永久保存せよ」ではなく、
石綿・杭・解体費、防災上の代替価値、普通教室空調の残存価値、地方債の実質効果を数字で比較するまで、不可逆な一括解体を行わない。安全な校舎棟を防災休止施設として選択保存する。
というものです。
特に、旧十四山中が閉校後も現に2次開設避難所であること、市自身が防災機能維持と必要最小限の維持管理を基本方針としていることから、数値比較のないまま「維持費がかかる」「有利な起債がある」という理由だけで解体するのは、説明として不十分です。

