約4万平方メートルの公共資産を、弥富市の未来にどう生かすのか
愛知県教育委員会は2026年8月27日、弥富市六條町にある旧愛知県立海翔高等学校の跡地について、土地と建物を買い取り、利活用する民間事業者の募集を正式に開始しました。
今回の公募は、価格だけで決める一般競争入札ではなく、事業内容と購入価格を合わせて評価する「公募型プロポーザル方式」で行われます。
旧海翔高校跡地は、弥富市南部の今後のまちづくりに大きな影響を与える土地です。
単なる県有地の売却として終わらせず、教育、防災、地域産業、雇用、交通、周辺環境などを含め、市民全体で将来像を考える必要があります。
公募される土地と建物
対象となるのは、次の土地と建物です。
- 所在地:弥富市六條町大崎22番地
- 土地面積:40,822.68平方メートル
- 建物:32棟
- 建物延べ面積:12,011.28平方メートル
- 主な施設:管理棟、教室棟、福祉科実習棟、体育館、武道場など
- 都市計画上の区域:市街化調整区域
約4万平方メートル、東京ドームのグラウンド約3個分に相当する大規模な土地です。
土地と建物は「一括売却」です
今回の公募で特に重要なのは、すべての土地と建物をまとめて買い取ることが応募条件になっている点です。
一部だけを購入することや、県から借りて利用する方式は、今回の募集条件には含まれていません。
建物は現在の状態のまま引き渡され、買い受けた事業者が、既存建物を利用するか、一部または全部を解体して建て替えるかを判断します。門扉、フェンス、樹木、残置物、地下埋設物なども、原則として一括して引き継ぐことになります。
最低売却価格は公表されておらず、それを下回る価格を提示した事業者は失格となります。
どのような事業者が応募できるのか
応募できるのは、単独の法人または複数の法人でつくる事業者グループです。
土地を実際に購入する法人は、応募グループの構成員に入らなければなりません。また、資金計画、事業の実施体制、開発手続、地域との連携などを具体的に示す必要があります。
今回の公募では、教育施設や研究施設としての利用は禁止されていません。
そのため、学校法人や企業などが連携し、例えば次のような施設を提案することも制度上は可能です。
- 高等教育機関や高専との連携施設
- 小中学生向けのSTEAM教育拠点
- 防災・治水・避難技術の研究、訓練施設
- ロボット、AI、自動運転、ドローンの実証施設
- 港湾・物流・農業分野の人材育成施設
- 地域企業との共同研究・職業教育施設
- 体育館やグラウンドを地域に開放する複合施設
ただし、教育的な提案であっても、土地・建物全体を買い取る資金力と、継続的に運営できる事業計画が必要です。
提案価格が評価の半分を占めます
審査は200点満点で行われます。
- 事業計画:100点
- 購入価格:100点
事業計画では、土地利用・施設計画、交通安全、周辺環境、資金計画、地域との連携などが評価されます。
このうち、地域行事への協力、施設の地域開放、雇用の創出、防災機能の強化などの「地域貢献」は15点です。
価格が全体の半分を占めるため、地域にとって魅力的な提案であっても、購入価格によっては選ばれない可能性があります。一方、地域貢献以外にも、公共施設として使われてきた経緯や周辺環境への配慮が評価項目に含まれています。
評価委員会は6人で構成され、学識経験者、愛知県職員とともに、弥富市職員も加わる予定です。
弥富市の地区計画が重要になります
旧海翔高校跡地は市街化調整区域にあるため、新たな開発や建築には、原則として都市計画法上の許可が必要です。
県の募集要項には、応募事業者が事前に弥富市都市整備課などと協議すること、また、開発に当たって弥富市が地区計画を策定することを想定していると明記されています。
つまり、県が土地を売却する公募ではありますが、どのような施設を認め、周辺環境への配慮をどのように求めるのかについて、弥富市にも重要な役割があります。
地区計画を定める場合には、少なくとも次の点を十分に検討する必要があります。
- 認める施設・用途の範囲
- 建物の高さや配置
- 交通量の増加と通学路の安全
- 騒音、振動、悪臭、夜間照明への対策
- 排水、治水、浸水・液状化対策
- 避難場所や防災機能の確保
- 体育館やグラウンドなどの地域利用
- 周辺農地や生活環境との調和
地区計画は、特定事業者の計画を通すためだけの手続ではありません。弥富市の将来像と地域住民の生活環境を守るための重要なルールです。
今後の主な日程
- 2026年9月1日:募集要項説明会の申込期限
- 9月3日:募集要項説明会
- 9月3日~17日:第1回質問受付
- 9月24日~10月8日:現地見学
- 10月8日~15日:参加表明書の受付
- 10月22日~11月12日:第2回質問受付
- 12月17日~24日:提案書類の受付
- 2027年2月上旬:プレゼンテーション
- 2月下旬:優先交渉権者の選定
- 3月:基本協定の締結
- 7月:県有財産売買仮契約、議会議決などの手続
優先交渉権者が決まった後には、近隣住民や旧十四山村の自治会に事業内容を説明し、理解を得るよう努めることも条件になっています。
しかし、住民説明が行われるのは優先交渉権者の選定後です。事業者が決まってから初めて説明を受けるのではなく、公募・審査の段階から、市民に情報を公開し、意見を聞くことが重要です。
教育・高専連携施設の可能性も検討を
愛知県は、2029年4月の開校を目標として、名古屋市千種区の愛知総合工科高校内に県立高等専門学校を設置する準備を進めています。
県立高専の本校を弥富市に誘致することは難しい状況ですが、旧海翔高校跡地を、県立高専や大学、企業などが利用する実習・研究・産学官連携拠点として提案する余地はあります。
例えば、「海部・名古屋港フィールドキャンパス」として、
- スマート物流
- 自動運転・搬送ロボット
- 防災・治水・水害避難
- ドローン
- スマート農業
- AI・デジタル人材育成
- 地元企業の技術課題を扱う実践教育
などに取り組む構想が考えられます。
近接する十四山中学校跡地の将来利用とも関係するため、旧海翔高校だけを切り離して考えるのではなく、教育、防災、地域利用を含む周辺一帯の将来像を整理する必要があります。
いま、市民と共有すべきこと
今回の公募開始は、旧海翔高校跡地の将来を左右する大きな節目です。
現時点では、跡地に何ができるのか、どの事業者が選ばれるのかは決まっていません。
だからこそ弥富市には、次の対応が求められます。
- 公募内容と県・市の協議状況を市民に分かりやすく公開する
- 教育、研究、防災、地域利用を希望する事業者や学校法人に情報提供する
- 地区計画を決める前に、住民や地域企業の意見を聞く
- 審査において地域貢献と公共性を十分に評価する
- 十四山中学校跡地を含む周辺地域の将来像を総合計画や都市計画マスタープランに位置付ける
旧海翔高校は、長年にわたり地域の教育を支えてきた公共資産です。
「県有地だから県に任せる」「事業者が決まってから考える」のではなく、弥富市の将来に何が必要なのかを、市民、行政、議会、教育機関、地域企業が一緒に考えることが大切です。

