エスコンフィールドに学ぶ――スポーツで弥富の未来をどう変えるか 人が集まり、地域が潤う―弥富に必要なスポーツ戦略とは つくって終わりにしない――市民に愛されるスポーツ拠点とは
前沢賢氏とエスコンフィールドを「スポーツマーケティング」から読み解く
結論
前沢賢氏の最大の業績は、単に立派な新球場を造ったことではありません。
「プロ野球の試合を売る経営」から、「スポーツを核に、体験・交流・観光・地域・企業をつなぐ経営」へ転換したこと
にあります。
エスコンフィールドは球場でありながら、Fビレッジ全体では「一日過ごす行楽地」「企業の実証実験の場」「地域の交流拠点」「将来のまちづくりの核」として設計されています。
1 スポーツマーケティングとは何か
スポーツマーケティングは、広告やスポンサー集めだけではありません。
選手や試合の魅力を起点に、ファン、住民、観光客、企業、自治体との関係をつくり、収益と社会的価値をスポーツへ還元する経営です。
| 従来型の球場経営 | Fビレッジ型 |
|---|---|
| 試合を観戦してもらう | 一日を通した体験を提供する |
| 対象は野球ファン | 家族、高齢者、子ども、観光客、企業にも広げる |
| スポンサーは広告主 | 一緒に施設やサービスをつくる事業パートナー |
| 球場は試合の日に使う | 試合のない日にも人が訪れる |
| 球団が球場を借りる | 自ら所有・運営し、素早く改善する |
| 観客数を重視 | 滞在時間、再来訪、消費、満足度、地域効果まで測る |
前沢氏の発想は、「野球を売る」よりも「野球が生み出す人の流れと感情を、地域全体の価値に変える」というものです。
2 前沢氏の経歴が示すもの
前沢氏は、競技出身の球団経営者というより、スポーツ事業を各段階で経験してきたマーケティングの専門家です。
- 2005年 北海道日本ハムファイターズ入社
- 2011年 パシフィックリーグマーケティング執行役員
- 2012年 横浜DeNAベイスターズ取締役事業本部長
- 2013年 日本野球機構で侍ジャパンの事業戦略を担当
- 2015年 ファイターズに復帰し、事業部門を統括
- 2018年 北海道ボールパーク取締役
- 2019年 FSE取締役
- 2026年3月 FSE代表取締役社長に就任
球団、リーグ、侍ジャパン、IT企業系球団、球場開発を横断したことが特徴です。FSEの公式略歴
3 具体的な業績
①「借りる球場」から「自分たちで変えられる球場」へ
札幌ドームでは、球団が施設を所有していないため、飲食、広告、施設改修、運用変更などを球団だけで決められませんでした。
エスコンフィールドでは、FSEが所有と運営を一体化しています。そのため、来場者の不満や要望を把握したら、担当部署がすぐ改善できるようになりました。前沢氏自身も「今がベストではない」として、アンケートやSNS、現場観察を改善に利用しています。前沢氏のインタビュー
これはマーケティング上、非常に重要です。

②スポンサーを「共創パートナー」に変えた
Fビレッジには130社以上がパートナーとして参加しました。
従来のように看板を掲示するだけでなく、農業学習施設、ドッグパーク、子どもの遊び場、球場内醸造所などを企業と共同で運営しています。
つまり企業に売ったのは「広告枠」ではなく、
自社の技術やサービスを、来場者の前で実践できる場所
です。
前沢氏は、企業を巻き込む際、都合の悪い情報を含めて説明し、企業規模より意思決定の速さや価値観の一致を重視したと説明しています。「共同創造空間」に関するインタビュー
③野球以外の来訪を、野球来場者以上にした
2025年の年間来場者は459万1,357人でした。
- ファイターズ公式戦71試合:223万2,364人
- 公式戦以外のイベント等:235万8,993人
公式戦以外が全体の約51%を占め、野球公式戦の来場者を上回っています。
また、試合時間の平均3時間12分に対し、Fビレッジでの平均滞在時間は4時間52分です。観客は試合以外の飲食、買物、散策、イベントなどに約1時間40分を使っていることになります。Fビレッジ・アニュアルレポート2025
これはスポーツマーケティングの大きな成果です。チケット収入だけでなく、飲食、物販、観光、施設利用、スポンサー価値を同時に高められるからです。
④事業として利益を出す段階に進めた
日本ハムの2026年3月期スポーツ・エンターテイメント事業は、
- 売上高 310億円
- 事業利益 54億円
とされています。日本ハム・スポーツ&エンターテイメント事業
ただし、これはFビレッジ単体ではなく、球団などを含む事業部門全体の数字です。「球場だけで54億円の利益」と解釈してはいけません。
4 エスコンフィールドの本質
エスコンフィールドの本質は、施設の豪華さではなく、次の循環をつくったことです。

2027年には新ホテル、2028年にはJR新駅と北海道医療大学の移転が予定され、前沢氏は次の段階を「観光地化と街化の融合」と説明しています。FSE社長就任会見
5 成功を過大評価しないための注意点
一方、数字は慎重に読む必要があります。
- 459万人は有料入場者だけではなく、Fビレッジ区域への来訪者を含む
- 来場者数は自社計測と位置情報等を使った推計を含む
- 310億円・54億円はFビレッジ単体の収支ではない
- 経済波及効果には球場建設費、住宅開発、周辺消費などが含まれ、自治体の税収増や投資回収額とは異なる
- 北広島市は土地、税制、道路、上下水道、交通、新駅などで相当の公的負担と責任を負っている
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、北広島市への直接的な経済効果を年間500億円超と推計していますが、これは企業会計上の利益や市の純増収ではなく、一定の仮定を置いた経済効果です。統合的価値評価レポート
したがって、Fビレッジを評価するには、来場者数だけでなく、市の負担、税収、雇用、交通、住民利用、地元企業への波及を継続的に検証する必要があります。
6 十四山中学校跡地に生かすなら
十四山中学校跡地で、エスコンフィールドの規模や商業性をまねる必要はありません。参考にすべきなのは「施設を造る前に、利用と運営の仕組みをつくる」という考え方です。
市の整備案に当てはめると、問うべきなのは次の点です。
- 多目的グランドは、誰が年間何日使うのか
- 野球やスポーツをしない住民が訪れる理由は何か
- イベント広場で年間どのような事業を行うのか
- 特別教室棟を誰が管理・運営するのか
- 地域団体、農業者、福祉事業者、企業をどう参加させるのか
- 使用料、イベント収入、協賛金と年間維持費をどう見込むのか
- 来場者数だけでなく、利用日数、滞在時間、住民満足度、防災機能をどう測るのか
- 本格整備前に、仮設施設による試験利用を行うのか
最も重要なのは、
グランドを整備すれば人が集まるのではなく、人が継続して集まる運営を設計した結果として、必要な施設が決まる
という順序です。
この視点から見ると、十四山中学校跡地案には配置図だけでなく、「年間運営計画」「運営主体」「収支」「利用者像」「試験利用結果」がまだ必要です。前沢氏の仕事から学ぶべきなのは、豪華な施設ではなく、施設・事業・地域・利用者を一体で考える経営手法だと思います。

