一宮西港道路を「防災の道」に
新IC周辺の防災・物流拠点構想を、事実に基づいて考える
※この記事は、2026年9月21日時点の公開資料に基づいています。
一宮西港道路は、西尾張と名古屋港を南北に結ぶ、新たな高規格道路です。
愛知県が示している計画は、一宮ジャンクションから弥富市の伊勢湾岸自動車道まで、延長約28km、4車線。現在は、都市計画決定と環境影響評価に向けた手続が進められています。
この道路は、物流の効率化だけでなく、災害に強い道路網をつくる大きな機会でもあります。
私は、新たなアクセス地点の周辺に、平常時は物流・産業に使い、災害時には一時避難、救助活動、物資集積を支える「防災・物流拠点」を整備できないか、早い段階から検討すべきだと考えています。
ただし、人の命を守る施設について、期待だけを先行させてはいけません。
必要な高さ、場所、工法、収容人数、事業費を、調査前から一つに決めることも適切ではありません。
そこで、道路計画の現在地と弥富市の災害リスクを確認し、この構想を実現可能な政策にするための条件を整理します。
一宮西港道路は、まだ「完成形が決まった道路」ではありません
愛知県の公表資料によれば、一宮西港道路は、一宮市から弥富市までを結ぶ延長約28kmの高規格道路です。
2026年7月には「都市計画の基本方針(案)」と環境影響評価方法書が公表され、説明会と意見書の受付が行われました。
つまり、計画は確実に前進していますが、2026年9月21日現在は都市計画決定に向けた手続の途中です。
概略ルートや接続の考え方と、正式な都市計画決定、詳細設計、事業化、開通時期は区別して伝える必要があります。
過去の国の検討資料では、一宮ジャンクションから名古屋港方面までの所要時間を約65分から約17分へ短縮するとの試算も示されています。
しかし、これは一定の条件に基づく計画上の推計であり、将来の実走行時間を保証する数字ではありません。
新しいインターチェンジやアクセス地点の周辺利用を考えることは重要です。
一方、位置や構造を「決定済み」として土地利用を断定するのではなく、最新の都市計画資料と今後の手続を確認しながら検討するのが正確です。
なぜ弥富市に「近くて高い場所」が必要なのか
弥富市の大きな課題は、市域の広い範囲が海抜ゼロメートル地帯にあり、地震、液状化、津波、高潮、河川氾濫が重なる可能性があることです。
弥富市の津波避難計画では、液状化の影響を受ける夜間の高齢者の歩行速度を時速0.69km、避難限界距離をおおむね1,000mと設定しています。
また、地震による道路損傷、信号停止、落橋、渋滞などを考慮し、避難は原則徒歩、自動車避難は条件を限定して検討するとしています。
この前提に立てば、「市外の高台まで逃げればよい」だけでは十分ではありません。
住民が徒歩でも到達しやすい一時避難場所を増やし、救助・救援活動を継続できる拠点を市内に分散して配置する必要があります。
愛知県は、弥富市鳥ケ地の海南こどもの国第2駐車場に、高さ約15mの「ゼロメートル地帯広域防災活動拠点」を整備しました。
敷地面積は約2,900平方メートルで、ヘリポート、救助ボートの船着場、防災倉庫を備え、2026年9月28日に供用開始予定です。
これは浸水区域に取り残された人を救出するための重要な拠点です。
一方、新しい道路に隣接する防災・物流拠点には、別の役割を持たせることができます。
既存拠点と競合させるのではなく、平時の物流機能、避難者の受け入れ、緊急車両の展開、物資の荷さばき、電源・通信・燃料の確保などを補完するネットワークとして考えるべきです。
私が提案するのは「平時に使われ、災害時にも働く高台」です
人工的に造成した高台を、平常時は物流施設、駐車場、トラック待機場、事業所などに活用し、災害時には一時避難や救援活動に切り替える。
いわば「命山」の考え方を、広域道路と物流の機能に組み合わせる構想です。
公共施設だけで広大な敷地を維持するよりも、日常的に使われる民間施設と防災機能を組み合わせることで、維持管理と事業継続性を高められる可能性があります。
しかし、物流車両、避難車両、徒歩避難者、消防・自衛隊などの緊急車両が同じ出入口に集中すれば、かえって危険です。実現には、少なくとも次の条件が必要です。
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徒歩避難と車両動線を分離すること
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物流動線と緊急車両の動線を切り替えられること
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施設ごとの収容人数と滞在時間を定めること
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非常用電源、通信、給水、トイレ、備蓄を確保すること
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周辺の浸水で孤立しても、救助活動へ接続できること
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民間施設を災害時に使うための協定、費用負担、責任分担を平時から明確にすること
「大きな高台を一つつくれば解決する」のではありません。
小中学校、津波避難ビル、既存の広域防災活動拠点、道路、舟運、ヘリコプターをつなぐ多重の防災網として設計する必要があります。
高さはT.P.+1.5~2.0mと決め打ちできません
標高を議論するときは、基準面の違いに注意が必要です。
名古屋港基準面のN.P.±0mは、東京湾平均海面を基準とするT.P.±0mより1.412m低い位置にあります。
したがって、N.P.の値から1.412mを差し引くと、概ねT.P.の値になります。
名古屋港の既往最高潮位は、1959年の伊勢湾台風で記録したN.P.+5.31mです。単純換算すると約T.P.+3.90mになります。
また、弥富市の2017年津波避難計画は、緊急避難場所について「想定津波高標高3.3mを上回る建物等」であることを参考要件として示しています。
このため、T.P.+1.5~2.0mを「絶対に安全な高さ」とすることはできません。
名古屋港の観測値をそのまま内陸の計画地に当てはめることも適切ではありませんが、少なくとも、地点別の浸水想定を確認せずに安全を断定できないことは明らかです。
必要な基盤高は、次の要素を重ねて決めるべきです。
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高潮、津波、洪水、内水氾濫ごとの想定浸水位と浸水深
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堤防の沈下・損傷や液状化を含む複合災害のシナリオ
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波、流速、漂流物、洗掘の影響
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地盤沈下と長期的な海面上昇
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避難施設や救援拠点に必要な余裕高
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アクセス道路が先に水没し、孤立する可能性
必要なのは「何メートル盛れば安全か」という先回りした答えではなく、「どの災害が起きても、誰を、何時間、どのように守るのか」という性能目標です。
EPS軽量盛土は有力な選択肢。ただし「唯一の解」ではありません
弥富市の軟弱地盤に大規模な盛土を行えば、圧密沈下、不同沈下、液状化、側方流動への対策が重要になります。
通常の土は重いため、地盤改良や沈下管理が大きな課題になる可能性があります。
EPSは、大型の発泡ポリスチレンブロックを盛土材として使う工法です。
製品資料では単位体積重量が0.12~0.35kN/立方メートルとされ、一般的な土砂より非常に軽く、地盤や構造物に加わる荷重を減らせる利点があります。
道路、橋台背面、造成地などで使われてきた実績があり、軟弱地盤上の高台を検討する際の有力な候補です。
一方で、軽い材料ほど、水に浸かったときの浮力が大きな設計課題になります。
地下水位や浸水位、排水、上載荷重、固定方法を誤れば、浮き上がりやずれが生じかねません。
大型車の繰り返し荷重、長期的な変形、火災、油類などへの保護、外周構造、舗装、維持管理も検討が必要です。
したがって、「EPSなら地盤改良は不要」「薄い鋼矢板だけでよい」「側方流動を無効化できる」と一律に断定することはできません。
鋼矢板も、地盤条件、根入れ、支保構造、地震時の変形を計算して選ぶ構造部材です。
比較すべき案は、少なくとも次のとおりです。
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土砂盛土と地盤改良の組み合わせ
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EPSなどの軽量盛土
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気泡混合軽量土や現場発泡ウレタンなど、他の軽量材料
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杭で支えるデッキ・建築物型の高所避難施設
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土砂、軽量材、杭、地盤改良を組み合わせた複合案
ボーリング調査と地下水調査を行い、耐震性、耐水性、施工性、維持管理、更新、撤去、環境負荷まで含むライフサイクルコストで比較するべきです。
能登半島地震の復旧事例から学ぶべきこと
能登半島地震の道路復旧では、被災箇所の条件に応じて、砕石、軽量盛土、鋼管杭など多様な工法が使われました。
軽量材料が運搬や施工を迅速化した事例は、災害復旧の選択肢を広げる重要な知見です。
ただし、特定箇所の応急・復旧工事で工期を短縮できたことと、広大な浸水想定区域に恒久的な物流・避難拠点を造ることは、設計条件が異なります。
能登の実績は「軽量盛土を検討する根拠」にはなりますが、「EPSと鋼矢板の組み合わせが、弥富市でも唯一かつ最安の解であることを証明した」とまでは言えません。
災害事例から学ぶときこそ、工法名だけではなく、被災原因、地盤、構造、施工目的、仮復旧か本復旧かを分けて見る必要があります。
都市計画マスタープランと都市計画法第53条は別の段階です
弥富市の現行計画の正式名称は「弥富市都市計画マスタープラン」です。
2019年3月に改定され、2019年度から概ね10年間を計画期間としています。
都市計画マスタープランは、将来像や土地利用、道路、公園などの基本的な方針を示すものです。
マスタープランに「物流・防災ゾーン」と書いただけで、直ちに建築制限がかかるわけではありません。
都市計画法第53条の許可が必要になるのは、都市計画として定められた道路や公園などの都市計画施設、または市街地開発事業の施行区域内で建築物を建てる場合です。
これは建築を一律に禁止する制度ではなく、許可制度です。
公共目的、区域、施設内容、事業の見通しを明らかにし、地権者や住民への説明、都市計画手続、農地・環境との調整を丁寧に進める必要があります。
今、市に求めたい五つの調査
構想を絵に描いた餅にしないため、私は市に次の調査を求めたいと考えます。
1.候補地を地図上で重ねる
道路の計画、アクセス地点、高潮・津波・洪水、液状化、標高、避難困難地域、農地、既存施設、緊急輸送道路をGIS上で重ね、どこに何の機能が必要かを可視化します。
2.既存の広域防災活動拠点との役割を整理する
鳥ケ地の拠点、消防、学校、民間物流施設、新道路を含め、救助、避難、物資集積、ヘリ・舟運、広域応援部隊の活動をどう分担するか、愛知県や国と協議します。
3.避難需要と交通容量を検証する
「数万人を収容できる」と先に置くのではなく、徒歩圏人口、要配慮者、駐車可能台数、流入時間、交差点容量、道路閉塞をシミュレーションします。
4.地盤と工法を比較する
ボーリング、地下水、圧密、液状化、側方流動の調査を行い、複数の盛土・高架案について、概算事業費、工期、耐震・耐水性能、維持管理費を同じ条件で比較します。
5.官民連携の条件を先に決める
民間事業者に防災機能を求めるなら、災害時の使用権、施設開放の判断、維持管理、訓練、費用、損害責任を協定や契約で明確にします。
企業誘致の付帯条件だけにせず、市民の安全を公的に担保する仕組みが必要です。
道路が地域の安全を高める計画に
一宮西港道路は、弥富市の物流と産業に大きな可能性をもたらします。
同時に、この地域が抱える水害と地震のリスクに向き合い、道路、土地利用、避難、救援を一体で考える機会でもあります。
新たなアクセス地点の周辺に、平常時にも使われ、災害時にも機能する高台を整備する構想には、十分な検討価値があります。
しかし、「この高さなら絶対安全」「この工法だけが正解」と急ぐべきではありません。
市民の命に関わる計画だからこそ、公開資料と現地調査に基づき、複数案を比較し、費用と限界も示す。
そのうえで、国、県、市、民間事業者、地域住民が役割を分担する。
私は、そのための調査と協議を、道路計画が具体化する今から始めるべきだと考えます。
検証結果の要点(編集用)
| 原稿の主な記述 | 検証結果・修正方針 |
|---|---|
| 一宮西港道路は約28km | 愛知県の2026年公表資料で確認できる。4車線の高規格道路として手続中。 |
| 所要時間は約65分から約17分 | 国の検討資料にある試算として扱う。将来の実走行時間を保証する数字ではない。 |
| 国道1号・23号との交点にICが決定 | 都市計画決定前のため、「計画・検討中」と表現する。最新の基本方針(案)で位置・構造を確認する。 |
| T.P.+1.5~2.0mが絶対安全 | 根拠不足。既往最高潮位の換算値や市の津波避難計画とも整合しない。地点別解析で決める。 |
| EPSなら地盤改良不要、薄い鋼矢板でよい | 一般化できない。EPSは有力候補だが、浮力、車両荷重、地震時変形、外周構造を含む個別設計が必要。 |
| 能登の事例がEPSの優位性を完全に証明 | 軽量盛土の施工性を示す事例ではあるが、弥富の大規模恒久拠点へそのまま適用できる証明ではない。 |
| マスタープラン改定で第53条の制限が発動 | 誤り。第53条は、都市計画施設等として都市計画に定められた区域内の建築に対する許可制度。 |
| 「都市計画マスタープラン2030」が正式計画 | 市の現行計画の正式名称は「弥富市都市計画マスタープラン」。2019年度から概ね10年間が計画期間。 |
| 数万人の命を救う | 収容面積、到達可能人口、道路容量、運営条件の裏付けがないため削除。 |
主な確認資料
- 愛知県「一宮西港道路(愛知県区間)の都市計画及び環境影響評価」
- 愛知県「都市計画の基本方針(案)及び環境影響評価方法書について」
- 環境省「一宮西港道路に係る計画段階環境配慮書に対する環境大臣意見」
- 弥富市「弥富市津波避難計画」
- 愛知県「ゼロメートル地帯広域防災活動拠点(木曽三川下流域2・弥富市)」
- 名古屋港管理組合「名古屋港の潮位」
- 弥富市「弥富市都市計画マスタープラン」
- 弥富市「都市計画法第53条の許可申請について」
- EDO-EPS工法 製品資料
- 国土交通省北陸地方整備局「のと里山海道 能登大橋付近の盛土復旧」
- 鹿島建設「令和6年能登半島地震 緊急復旧工事」
掲載時の推奨メタ情報
- SEOタイトル:一宮西港道路を弥富の防災の道へ|新IC周辺の防災・物流拠点構想を検証
- メタディスクリプション:一宮西港道路の計画を契機に、新IC周辺へ防災・物流拠点を整備する構想を検証。標高、EPS軽量盛土、能登の復旧事例、都市計画法53条を公開資料に基づいて整理します。
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