経審があるのに、なぜ業者を指名するのか――弥富市の入札参加資格と競争を考える
2026年9月24日現在の公表資料に基づく
弥富市の官製談合事件では、価格に関する情報だけでなく、入札参加業者・指名業者に関する秘密情報も漏えいしました。
入札の仕組みを見直すなら、「予定価格を公表するか」だけでなく、「誰が、どの条件で競争に参加できるか」を調べる必要があります。名古屋地方裁判所判決(2026年6月23日)
1 一般競争入札と指名競争入札の境目
地方自治法では、指名競争入札は政令で定める場合に限って利用できる方式です。
一方、一般競争入札でも、工事の内容に応じて客観的な参加資格を設けられます。「一般競争」とは、無条件で誰でも参加できるという意味ではありません。地方自治法・地方自治法施行令(e-Gov)/弥富市一般競争入札(建設工事)実施要領
弥富市の要領では、一般競争入札の対象は原則として、土木一式・舗装・その他の工事で設計金額5,000万円以上、建築一式工事で1億円以上です。
ただし、それ未満でも市長が対象とすることができ、逆に特別な理由で指名競争入札とする余地もあります。
この基準を維持する理由と、実際に例外がどう使われているかを市は説明すべきです。弥富市一般競争入札(建設工事)実施要領・第3条
2 経営事項審査と「指名」は同じ役割ではない
建設業者が公共工事を受注するには、経営状況や技術的能力などを数値で評価する**経営事項審査(経審)**が必要です。
ただし、経審の結果だけで、個々の工事に必要な施工実績、配置予定の技術者、他の業者との資本関係などがすべて確認できるわけではありません。
弥富市も、一般競争入札の参加資格として、入札参加資格者名簿への登載や、工事に応じた追加要件を定めています。愛知県・経営事項審査制度/弥富市一般競争入札(建設工事)実施要領・第4条
つまり、「経審を受けているのだから、指名は必ず不要」とまでは言えません。
しかし、参加に必要な能力を公開された条件で審査できる工事まで、発注者による業者の指名が必要なのかは、改めて問えます。
市は、指名方式を採用した理由と、一般競争では対応できない理由を案件ごとに示してほしいと思います。
3 地元業者の力を生かしながら、参加者を固定しない
弥富市建設工事等請負業者選定要領は、指名業者の選定に際して「市内業者を優先することができる」と定めています。
地域の業者が道路や水路を支え、災害時にも対応できることは、発注制度を考えるうえで大切です。
一方、この規定だけを根拠に「市外業者はすべて排除されている」とは言えません。実際の資格要件、指名記録と応札結果を見る必要があります。
公正取引委員会は、地元事業者に受注の機会を設けることと、特定事業者の受注という結果まで確保することを区別しています。
地域要件を設ける際には、十分な参加者数を確保し、顔ぶれが固定しないよう配慮する必要があるとしています。公正取引委員会・地域要件と競争
地域の業界団体が存在すること自体も、談合の証拠にはなりません。
ただし今回の事件について、名古屋地裁判決は、元建設部長が地元業者らで構成される団体からの求めに応じ、3件の入札に関する秘密情報を伝えたと認定しています。
団体と市との日常的な協力関係を尊重しつつ、個別の入札に関する接触と情報のやり取りには明確なルールが必要です。名古屋地方裁判所判決
4 予定価格を公表する時期も、案件ごとに確かめる
弥富市予定価格事前公表実施要領は、電子入札案件のうち事前公表する対象を市長が決定すると定めています。
弥富市の入札がすべて事前公表、またはすべて事後公表というわけではありません。
入札方式と予定価格の公表時期を別々に記録し、その組み合わせごとに結果を比べることが必要です。
国の入札契約適正化指針は、予定価格の事前公表には価格の高止まりや談合を容易にするおそれがあると指摘しています。
同時に、地方公共団体による事前公表を禁止する法令はないとも明記しています。
事後公表を採用しても、職員の情報漏えいを防ぐ管理が欠かせません。どちらか一方を選べば事件が防げる、という問題ではありません。
5 落札率から何を調べるか
弥富市が公表する2025年度の建設工事の平均落札率は**95.99%**です。
ただし、これは対象工事の落札率の単純平均であり、指名競争入札だけの平均ではありません。
この数字だけで談合の有無や損害額は確定できません。
また、「広域の一般競争入札なら必ず85~90%になる」という根拠も、原稿で挙げられた資料からは確認できません。弥富市・平均落札率
他方、談合の証拠が具体的に認定されれば、賠償が問題になり得ます。
熊取町の入札談合を巡る住民訴訟では、大阪地裁の第一審が約5億5,732万円を認定し、控訴審では約3億7,475万円に変更され、その判断が確定しました。
これは個別の証拠に基づく事件であり、高い落札率だけから弥富市の損害額を推定できることを意味しません。熊取町議案資料・事件経過
市に求めたい資料と検証
市には、少なくとも過去数年の工事について、次の情報を金額帯・工種別に整理して公表してほしいと思います。
- 一般競争・指名競争を選んだ理由と、通常基準から外れた案件の決定理由。
- 案件ごとの参加資格・地域要件、資格を満たし得た業者数、指名業者数、実際の応札者数と辞退者数。
- 落札率、不落・不調、最低制限価格、同じ業者への受注集中の状況。
- 業者からの働きかけの記録と、設計金額・予定価格・参加業者情報へのアクセス管理。
この資料を基に、一般競争入札の対象を広げる案や地域要件を見直す案を比較したいと思います。
価格だけでなく、施工の品質、地域の事業者が担う災害対応、発注事務への影響も評価すべきです。競争相手を増やすことは大切ですが、それだけで談合や情報漏えいが不可能になるわけではありません。
事件を個人の倫理だけに押し込めず、参加資格の決め方、業者との接触、情報管理まで含めて組織として検証することが必要です。
