
弥富駅整備アンケートの設問と便益推計の検証
世帯人数による負担額の誤解と事業効果を強調する構成
2026年10月2日
1 検証結果
このアンケートには、世帯全体の負担額を誤解させる懸念と、事業の必要性や有効性を意識させたうえで金額を回答させる懸念がある。
これらは、回答から事業の金銭的便益を推計するCVMの信頼性に直接関わる。
約55.5億円の事業について費用便益比を判断材料とする以上、市は、回答者の理解と調査内容の中立性を検証した記録を示す必要がある。[1〜5]
中心となる問題は、4人世帯が「500円/月・人」を選んだ場合、市の設問上は一家で毎月2,000円の負担となることである。
一家で500円と受け取って答えたなら、その回答は同じ500円でも別の金額を意味する。
計算上の単位が合っていても、回答者が理解した単位が違えば、正しい便益推計にはならない。
確認できる設問の文言
調査票の問7には、「仮にあなたの世帯に世帯人員分の負担金を求めたとします。あなたの世帯は世帯一人当たりいくらまで負担して良いと考えますか」とある。
支払期間は整備完了から50年間で、選択肢は500円、1,000円、2,000円、3,000円、5,000円の「月・人」、その他、0円である。[1 本体3頁/PDF4頁]
したがって、設問を文字どおり読めば、一人当たりを尋ねていることは確認できる。
しかし、「あなたの世帯」を繰り返し主語にしながら、回答金額を世帯人数で割った単位に切り替えている。
本人の負担額、家族全員の負担総額、一人当たりの換算額を区別する説明が十分かが問題となる。

確認済み事実と未確認事項
確認済みなのは、世帯と一人当たりを組み合わせた表現、世帯人数や負担総額を記入する欄のない調査票、必要性を強調する導入、現状写真と完成イメージを用いた説明、そして人口44,616人を使う便益計算である。[1〜3]
世帯全体の金額と誤解した人が何人いたか、設問の順序や画像が回答額をどれだけ押し上げたかは、現時点では確認できない。
「多数が誤解した」「意図的な操作である」と断定せず、具体的な根拠に基づいて理解確認と再評価を求めるのが適切である。
2 子育て世帯の家計に生じる金額の違い
大人2人と子ども2人の4人世帯を例にすると、世帯全員を人数に含める設問の読み方では、次の負担を想定することになる。
調査票には、子どもを人数から除く説明はない。[1]
| 選択する金額 一人当たり月額 |
一家の月額 4人分 |
一家の年額 | 50年間の単純合計 |
| 500円 | 2,000円 | 24,000円 | 120万円 |
| 1,000円 | 4,000円 | 48,000円 | 240万円 |
| 2,000円 | 8,000円 | 96,000円 | 480万円 |
| 3,000円 | 12,000円 | 144,000円 | 720万円 |
| 5,000円 | 20,000円 | 240,000円 | 1,200万円 |
注 50年間の単純合計は、世帯人数と月額が変わらない仮定による家計負担の説明であり、割引計算をした事業便益ではない。
実際には子どもの独立などで世帯人数も変わる。
一家全体で月500円なら年6,000円で、50年間の単純合計は30万円である。
ところが一人月500円を4人分とすれば、年24,000円、単純合計120万円となる。
家計が受け入れる負担として、この違いは小さくない。
家計を単位とする問いと人数を単位とする回答
調査依頼文は「世帯の所得を把握されている家族」による代筆を認め、問7でも「あなたの世帯」がいくら負担してよいかを尋ねている。
この構成は、家計全体の支払い能力を考える方向に回答者を向かわせる。
一方、選択肢の金額は一人当たりであり、回答者は自分で世帯人数を掛け、家計の総負担に置き換える必要がある。[1 依頼文/本体3頁]
4人世帯が一家で月500円までならよいと考える場合、一人当たりは125円になる。調査票の印刷された正の選択肢は500円から始まるため、正確に答えるには「その他」に125円と記入しなければならない。
その他欄はあるので回答不能ではないが、単位の読み取りと割り算の両方を回答者に委ねている。
「一人当たり」とだけ書けば、家計から誰の分を支払うのかという問題がすべて解決するわけでもない。
少なくとも、子どもを含めるか、世帯全体で毎月いくらになるか、他の生活費がその分減ることを、具体例とともに確認する必要がある。
この問題の評価
「世帯一人当たり」は算術上は解釈できる表現である。
しかし、一般市民への郵送調査で、家庭ごとに同じ意味で理解されたと確認できなければ、金銭評価の尺度としての信頼性を十分に確認できない。
市は、表記が存在するという説明に加え、家計の総負担を理解して回答したかを示す必要がある。
3 回答金額を全人口へ拡大する際の問題
市の計算資料は、月間支払意思額772円/月・人と、令和2年1月1日の人口44,616人を用い、年間便益を約4.13億円とする。
同じ基礎資料の世帯数は18,194世帯で、平均世帯人員は約2.45人である。[3]
| 772円の意味 | 掛ける数 | 年間金額 |
| 一人当たりと扱う市の計算 | 44,616人 | 413,322,624円 約4.13億円 |
| 一世帯当たりと仮定した比較 | 18,194世帯 | 168,549,216円 約1.69億円 |
同じ772円でも、人口を掛ける金額は世帯数を掛ける金額の約2.45倍になる。
この比較は、単位の違いが結果に与える大きさを示すものであり、「正しい便益は1.69億円である」と確定する計算ではない。
誤解した回答と正しく理解した回答が混ざっている場合、772円を一律に2.45で割っても正しい推計にはならない。
回答ごとの理解、世帯人数、抽出・回収の偏りを調べ、支払意思額の分布から再計算する必要がある。
市の772円は選択額の単純平均ではなく、受諾率曲線を使う推計値であることにも注意が必要である。[3]
抽出の単位と家計の単位が一致しているか
調査は18歳以上の市民1,000人を無作為抽出したもので、世帯を一つずつ抽出する調査ではない。
調査票の属性欄は性別、年代、居住学区であり、世帯人数、世帯内の成人数、子どもの人数を尋ねていない。[1、4]
成人を抽出すると、成人数の多い世帯ほど誰かが対象となる確率が高くなる。
一方、回答が家計全体の判断を一人当たりに換算した額なら、家計を代表する回答としてどのように重みを付けるかが問題となる。
調査票からは世帯構成を使う補正の可否を確認できない。
さらに、18歳以上の回答を、子どもを含む全人口に掛ける理由も必要である。
「家計を把握する成人が子どもを含む家族全員分を評価した」という設計なら、その理解と代表性を検証しなければならない。
個人自身の価値を尋ねたという設計なら、未調査の子どもに同じ額を適用する根拠が必要となる。
公表資料の単位の混在
市のアンケート結果の説明文には、問7の年齢別説明に「500円/月・世帯」、問8の説明に「0円/月・世帯」とある。
一方、設問と主要な選択肢は「月・人」である。誤記か、設計・集計段階の単位の変更かは未確認だが、単位を一貫して扱ったかを点検すべき具体的な不一致である。[4 結果14〜16頁]
4 事業の必要性を意識させてから金額を尋ねる構成
調査票は、整備の目的を説明し、利用状況と駅の現状を尋ねた後、支払額の質問に進む。利用経験者には、不満点を選ぶ質問が支払額の直前に置かれている。[1]
| 順序 | 提示する内容 | 対象 |
| 依頼文 | 分断と利便性・安全性の課題 にぎわいと交通環境の改善方針 |
全員 |
| 問1 | 性別 年代 居住学区 | 全員 |
| 問2と問3 | 利用する駅と利用理由 | 全員 |
| 問4 | JR・名鉄弥富駅の利用経験 | 全員 |
| 問5 | にぎわい 円滑な移動 景観 安全な居住地の満足度 |
利用経験者 |
| 問6 | 南北移動 改札 バリアフリー 送迎などの不満点を選択 |
利用経験者 |
| 問7 | 説明資料を読んで 世帯一人当たりの支払額を選択 |
全員 |
この流れでは、回答者はまず行政が示す課題と改善方針を読み、駅の利便性や不満を考え、その直後に金額を選ぶ。駅の現状への不満が強く意識されることで、具体的な整備内容の価値や実際の家計負担とは別に、「駅をよくすることへの賛同」が金額に表れる可能性がある。
これは構成から生じる懸念であり、実際に回答額が上昇した程度は別途検証を要する。
問5には満足・中立の選択肢もあり、回答者が必ず不満へ誘導される設問ではない。
ただし問6は不満点を選ぶ形式で、同じ場所で現在の利点や改善による不利益を整理する問いはない。
現状の問題を解消する必要性と、提示された整備方式を採用する妥当性が、一続きに理解されやすい構成となっている。
「利用したことはない」と答えた人は問5・問6を飛ばし、問7へ進む。利用経験者と未経験者では金額を答える直前の質問が異なるため、両者を同じ条件の回答として集計してよいかも確認が必要である。
順序の影響は、質問の順を変えた比較調査などで調べることができる。
国交省指針は、簡単な事実から印象や意見へ進み、最後に支払額を尋ねる順を勧めている。
したがって順序だけで指針違反とはいえない。
問題は、その順の中で、特定の計画の有効性を過度に印象付けたり、一般的な改善願望を当該事業の便益として取り込んだりしていないかである。[6 26頁]

5 添付説明資料が事業の有効性を印象付ける仕組み
令和2年11月の事業概要説明資料は、左側に現在の駅舎、北側、跨線橋、送迎場の写真と位置図を置き、右側に自由通路・橋上駅舎の完成イメージと駅前広場の整備例を置いている。
右下には矢印でつなぐ「想定する事業効果」の欄がある。[2]

現状と完成イメージの視覚的な対比
現状写真に対して、整備後は晴天の下に新しい建物や広場がある画像で示される。
画像の具体性や見栄えは、文字で示された計画条件より直感的な判断に結び付きやすいと考えられる。
回答者が、自由通路による移動改善に加えて、美しい駅や広場、まち全体のにぎわいまで一括して評価する可能性がある。
これは資料の見せ方に関する分析であり、画像だけで誘導が実証されたという意味ではない。
完成イメージには「検討用」で「決定したものではない」との注意書きがある。
この留保は明記されているが、どこまで実現する計画で、どの程度の改善が生じるかを数値で確認できる説明にはなっていない。
別の駅の整備例を当該事業の印象に用いること
駅前広場の画像は、弥富駅の確定した設計図ではなく、近鉄蟹江駅の整備例であると明記されている。
参考例の使用自体は問題ではないが、回答者が同様の広場や効果が弥富で実現すると受け取ったなら、評価対象が実際の整備範囲を超える可能性がある。
参考例と実施予定の内容を区別できたかを確認する必要がある。
効果の説明に見られる肯定的な方向付け
資料は、自由通路と橋上駅舎化を進めて踏切の危険な状態を「解消する」と説明し、北側からのアクセス、近鉄弥富駅との連絡、安全性・利便性、地区のバリアフリー化、にぎわい空間の創出を期待効果として示す。
この説明は、課題と事業を結び付ける一方、効果の量、実現条件、限界を確認できる根拠をこの一枚に示していない。
例えば、踏切を通る人がどれだけ減るか、危険がどこまで残るか、移動時間が誰にどれだけ短くなるか、近鉄との連絡がどの経路で改善するかが分からない。
にぎわいと安全性も、同じ施設整備で同じ程度に実現するとは限らない。
事業を行わない場合や、機能を絞る場合の状況との比較もこの資料にはない。
実際の負担がないと強調する注記
問7の枠内には、事業の必要性を金額に置き換えて評価する設問で、実際には負担しないと太字・下線で説明する。
一方、家計で使えるお金が負担分だけ減ることを意識させる注意書きは、確認した調査票本体と説明資料にはない。[1、2]
仮定の支払いであるとの説明は、国交省の手引きの例にもあるため、それ自体を禁止された誘導と扱うことはできない。
しかし、家計の制約を意識させる説明と一体でなければ、生活費を減らして払える額ではなく、行政が示す改善への応援や期待を金額で答えるおそれが残る。[7 2-30頁]
6 国交省指針に照らして必要な検証
CVMは、実際に市場で支払われる価格がない効果を、仮定の支払意思額から評価する方法である。
そのため、回答者が何をどの負担条件で評価したかが、計算式と同じく重要になる。
国交省指針は、実施・非実施の状況、効果の示し方、理解の確認、事前の分かりやすさ確認、集計範囲の根拠を検討する枠組みを示している。[6 19〜20、22〜24、27〜28、35頁]
手引きの例と市の設問の違い
平成28年度版の手引きの例は、世帯全体の月額を尋ね、家計で使えるお金が減ることを意識して回答するよう説明し、世帯当たりの支払意思額に世帯数を掛ける構成である。
市はこれを「世帯一人当たり」と人口による集計に変えている。
変更だけで不適切と決まるわけではないが、変更の理由、理解確認、家族人数を含む代表性の確認が必要である。[7 2-28〜2-31頁]
手引きは事業の効果を住民に説明することも求めている。
説明や画像を使っただけで問題となるのではなく、対象となる効果を正しく理解するための情報と、特定案への賛同を促す情報の違いを点検する必要がある。[6 19〜20頁、7 2-28・2-30頁]
0円回答だけを点検しても理解の問題は残る
市の資料では、0円回答268人から162人を除き、金額のある回答209人と0円106人の計315人を推計に用いている。
税金による実施に反対とした83人も除外されている。抵抗回答を除く手法は指針で認められるが、適切な分類か、除外により回答者の構成がどう変わるかの説明が必要である。[3、6 32頁]
今回の設問に関する問題は、金額を選んだ209人にも理解の誤りがあり得る点である。
問8は0円の人だけを対象とし、正の金額を選んだ人が家族全員分の負担を理解したかは尋ねていない。
無回答24人についても、理解の難しさが理由かどうかは調べないと分からない。
無回答を一律に0円とすることも適切とは限らない。[1、3]

検証と再調査の方法
まず、設問案の変更履歴、調査会社への仕様書、プレテスト又は類似事例の検討記録、匿名化した原票、計算ファイルを提出し、単位と除外処理を点検する。
世帯人数を調べていなければ、家族構成別の誤解と負担の理解を追加調査で確認する。
説明の影響は、元の説明と、同じ情報量で効果の条件・限界と非実施の場合も示す説明を無作為に割り当て、金額と理解の差を比較する。
順序の影響は、同じ説明資料の下で問5・問6の配置を変えて調べる。
単位、説明、順序を同時に変えるだけでは、差の原因を分けられない。
追加調査は2020年当時の誤解の割合をそのまま復元するものではない。
現在の評価として再調査するなら、現在の事業範囲、人口・世帯の将来見通し、家計事情をそろえて便益を更新し、事業費約55.5億円と対応する費用便益比を再提示する必要がある。
7 市に求める説明と設問の改善案
市には、次の点を、根拠資料と数値を添えて説明するよう求める。
1 一世帯当たりの設問を採用せず、世帯一人当たりとした理由と、設問の作成・変更の経緯。
2 4人世帯が500円を選ぶと一家で月2,000円になることを、回答者が理解したと確認した方法。子どもを世帯人員に含めるかの説明の有無。
3 世帯人数を尋ねず、18歳以上の回答を44,616人に拡大した根拠と、抽出・回収・回答除外による偏りの補正方法。
4 完成イメージ、近鉄蟹江駅の整備例、踏切の危険の解消、にぎわいの創出について、評価対象との一致と回答者の理解を確認した記録。
5 調査票と説明資料の中立性、家計負担、設問順序を点検したプレテスト又は類似事例の検討記録。
6 結果報告に月・世帯と月・人が混在する理由、正の金額を選んだ人の理解の確認、0円・無回答の処理、現在の事業費に対応した再計算結果。
家計全体の月額を尋ねる改善案
「この事業によって説明した改善が得られる場合、あなたの世帯全体で、毎月いくらまで追加で負担してもよいと思いますか。
これは家族全員を合わせた金額です。
一人分の金額ではありません。
負担する分だけ、食費、教育費、貯蓄などに使えるお金が減ると考えてお答えください。
負担は整備完了後50年間続くと仮定します。実際にこの回答に基づいて徴収するものではありません。」
一人当たりを維持するなら、子どもを含む人数の定義と4人世帯の負担例を示し、世帯人数と月額総額を記入させて理解を確認する。
どちらの方式でも、事業の範囲と効果の条件をそろえ、理解確認をしたうえで集計する必要がある。
問うべきなのは、一般的に駅をよくしたいかだけではなく、具体的な整備で得られる改善に対して、家庭がどの負担を受け入れるかである。
市が意図的に誘導したかにかかわらず、この対応関係が確かめられない便益推計は、事業の費用対効果を十分に裏付けない。
資料と出典
[1]弥富市「JR・名鉄弥富駅の利用・整備事業に関するアンケート調査」令和2年11月。添付スキャンPDF全4頁。依頼文と回答シート1〜3頁。
[2]弥富市「JR・名鉄弥富駅周辺地区 事業概要説明資料」令和2年11月。追加の添付画像1枚。
[3]市の費用便益分析に関する添付画像4枚。回答採用表、人口・世帯数、支払意思額推計、便益・費用計算。資料の年代と最新計算の対応は市に確認を要する。
[4]弥富市アンケート公表ページ及び結果PDF。調査対象・回答数、公表B/C1.7及び協定変更後1.57。
https://www.city.yatomi.lg.jp/shisei/1000749/1006126/1006274/1004363.html
結果PDF https://www.city.yatomi.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/004/363/anke-to3.pdf
[5]弥富市事業概要ページ。総事業費約55.5億円。
https://www.city.yatomi.lg.jp/shisei/1000749/1006126/1006274/1003914.html
[6]国土交通省「仮想的市場評価法 CVM 適用の指針」平成21年7月。本文頁を記載。
https://www.mlit.go.jp/tec/hyouka/public/090713/cvmshishin/cvmshishin090713.pdf
[7]国土交通省「都市再生整備計画事業 評価の手引き 平成28年度版」平成29年3月。2-28〜2-31頁。市の添付計算資料では、まちづくり交付金評価の手引きと表記。
https://machikou-net.org/public/jigohyouka/pdf/jigo_hyouka_h28.pdf
