JR名鉄自由通路裁判に関する意見陳述書

弥富市民オンブズマングループによる「JR名鉄弥富駅自由通路裁判」に意見書を提出しました

裁判を解説したユーチューブ動画はこちらから

1.私の経歴等

私は名古屋市役所で、造園職の行政職員として、36年間、都市公園の都市計画事業認可、基本計画、実施設計、国庫補助事業申請、設計、積算、工事監督、市の監査員事務局からの監査の対応、会計検査院からの検査の対応の各種業務を経験してきました。

その中で公共工事の計画内容、設計、工法選定が適正であるかどうか及び積算ミスはないかなどについては、市の監査当局や会計検査院から厳しいチェックを受け、常に細心の注意をはらってきました。もちろん市民からの無駄遣い批判にも敏感でした。

会計検査院の検査で、過大設計などの事項が指摘された場合、名古屋市から、国に補助金を返還しなければならないので大問題になります。

また公共工事は、組織で対応するので自分が担当した工事費目だけでなく、何十もの工事費目についてもチェックを重ねます。他都市の指摘事例も含めて、目を皿のようにして、組織を挙げて検討したうえ対応してきました。

また公共工事については、予算の無駄遣いを起こしてはならないだけでなく、見積もりを出した業者や施工業者に手心を加えたり不正を見のがすなどの不祥事をおこさないように、業者との関係を疑われないように努め、住民に対して説明責任を果たさなければ公共事業は成り立たないという責任感の重圧の中で一つ一つ公共工事を設計し、積算し監督してきました。

そのような私から、今回の弥富市の自由通路事業を見ると、計画内容、設計及び工法選定において、緻密な検証や市民に公表しても批判に耐えるだけの検討がとられていたのかどうか大きな疑問があります。本件訴訟においても、被告から、緻密な検証や検討がなされていたことを証明するに足る資料は裁判所に提出されていないからです。

2.自由通路の事業計画自体が違法であること

そもそも弥富市は、本件事業計画の必要性を緻密に検討していません。事業目的と内容が被告の裁量権を逸脱したものであり、公費の無駄遣いです。

仮に弥富市に鉄道事業者(JR東海や名鉄)を支援する必要があるとしても、市の予算を無駄遣いせず、いかに市民の鉄道利用の利便性をはかるべきかを最優先に考えるべきです。JR弥富駅の名鉄弥富駅の喫緊の問題は、①改札がない北側に改札を設けること②駅のバリアフリー化の2点に絞られていました。

これらの問題を解決するために本件事業のような多額の公費を用いたJR弥富駅の橋上駅舎化は必要ではありません。他都市の事例をみても、例えば岩倉市は、名鉄犬山線石仏駅に東側改札を新設し、西側改札のバリアフリー改修及び身障者対応のトイレ整備を全額寄付金の1億4千万円ですませています。また跨線橋のバリアフリー化についても、新城市は、JR飯田線新城駅にエレベーター付きの跨線橋を設置しましたが、設置費用については全額寄付金の5億円ですませています。

いずれも駅前広場などの道路関連施設については、自治体の管理ですが、今回のように鉄道をまたぐエレベーター付きの自由通路を自治体の管理とし、その結果長期間の管理費や最終的に建物撤去費の負担まで後世の市民に負わせるような選択はされていません。

また自由通路の設置について全国の事例を調べてみると、JR東海は橋上駅舎に固執しているようですが、JR東日本など他のJR各社はあくまで駅舎は地上のまま残したうえで、上り線及び下り線の両サイドに改札を設置し、市町村はエレベーター付きの自由通路を設置する方式で、橋上駅舎化までの負担を求めない例がいくらでもあります。その理由は、JR各社にとっても、弥富駅のように橋上駅舎方式にすると、橋上駅舎の構内に鉄道事業者が管理するエレベーターを設置する必要が生じ、そのための維持管理費用を将来にわたり継続して支出しなければならない負担が発生するからです。

鉄道を跨ぐ自由通路は自治体に委ね、鉄道事業者は、平面の駅舎の改札で済ませるほうが将来的な経費負担も少ないということです。

それが証拠に、本件でも名鉄は、弥富市から橋上駅舎化の提案を受けたにもかかわらず、将来の負担を考慮してあくまで地上の駅舎とする方式とし、エレベーターの維持管理費などの経費を発生させないという慎重な対応をとっています。

弥富市は国の指針に従っていると主張していますが、結局のところ限りなく安価に橋上駅舎化をはかるというJR東海の思惑に弥富市が協力しているに過ぎないことは、提出された乙第42号証の1を読むとわかります。

例えば以下のやりとりをみても、弥富市がJR東海の橋上駅舎化に押し切られて協力していく過程が如実に現れています。

市)市としては当面の財政状況から橋上駅舎化は凍結したが、市民ニーズから何だかの手立てをしなければならないとかんがえている。バリフリ整備と自由通路が同時期に整備するのが望ましいが、庁舎建設もあり市の財政状況から難しいと思われる。

JR)バリフリ整備が先行する場合の設計費はJRとなる。仮に単独整備した場合、後に自由通路としては使えない。

市)名鉄さんの協力にもよるが、自由通路だけの場合はどうか?

JR)自由通路だけの整備の場合JRとしてのメリットがないので、他の踏切を廃止してもらうことになると思われる。計画にあるように最終的には橋上駅舎化が約束されることが必要である。

と打合せ記録簿にあり、まさにJR東海の思惑に弥富市が唯々諾々と応じているさまがみてとれます。

まさに今回提出された打合せ記録簿による弥富市とJR東海との一連の協議経過を見ると、JR東海の言い分どおりに協力する。そのためには国からできる限り補助金を取ってきて、JR東海に有利な事業手法を弥富市が提供してきたものと評価できます。

私が思うに弥富市が主張する南北の街の分断解消のためには、総額40億円にも達する予算をつかっての橋上駅舎化及び自由通路の設置ではなく、弥富市によるエレベーター付きの自由通路の設置や踏切の改修などにより十分目的が達成できたものと考えます。なお弥富市は、街のにぎわいづくりといっていますが、JR弥富駅の周辺については既に開発する空地はほとんどなく、特に北側は、宅地開発ができない市街化調整区域になっています。弥富市が北側の開発をあきらめている証拠に、北側の都市計画道路3本について、昨年に都市計画道路計画を、「もうこれ以上交通量は増えない」として計画自体を廃止しています。

さらに、自由通路建設の費用に対する効果検証ですが、1.7あると言っていますがこれがあまりにもご都合主義で非現実的です。

費用対効果の算定は2種類あって、①純粋に完成後の利用者の時間短縮による経費節減効果や、経済誘発効果及び環境負荷低減の費用効果など、具体的な経済効果を積み上げたものが本来の費用対効果です。

しかし、弥富市はこのような手法では、効果が経費を上回らないため、②無作為抽出した1,000人の市民にアンケートを郵送し503人の回答を得て計算しています(甲15号証)。

アンケートには以下の設問があります。

「安全で利便性の高い交通拠点の形成」を目標として、説明資料にあるような整備・維持管理のために、仮にあなたの世帯に世帯人員分の負担金を求めたとします。あなたの世帯は世帯一人当たりいくらまで負担して良いと考えますか。(施設等の耐用年数を考慮して、整備完了から、50年間負担することとします。)(1つだけに○)」

一番多かったのは0円の53.3%でした。アンケートに現れた市民の声に従うのであれば、弥富市は費用負担できないはずです。

ところが1人当たり500円が24.3%あったので、計算式に当てはめて計算すると費用体効果は1.7になるのだと主張してます。

弥富市は、行政や財政についてほとんど知識のない住民に十分な情報を与えないままアンケートを実施し、本件事業には46億円もの巨額な費用がかかるということを強調して、これは相当な事業なので相当お金を払わなければいけないという幻想を抱かせ、1人当たりワンコイン500円の負担が妥当であると誘導したものにほかなりません。

仮に弥富市のアンケートにおいて、それぞれの予算の概算を示したうえで、平面駅舎改札の設置+エレベーター付きの跨線橋の設置と橋上駅舎化のどちらが妥当と思いますかという設問を実施していれば、少なくとも0円と回答した市民及び500円と答えた市民である約80%の市民が、より安価で費用対効果の高い方式を選択したことは間違いありません。

平面駅舎改札の設置+エレベーター付きの跨線橋の設置という他の手法があるということを敢えて示さず、市民アンケートを実施して自らの事業を正当化する材料としていることは許されない手法というほかありません。

3.弥富市が事業主体となったことの違法性

本件事業に類似した事業として、近鉄弥富駅の橋上駅舎化事業がありました。近鉄弥富駅の橋上駅舎化については、近鉄が事業主体となり、事業内容、設計単価などを決定し、弥富市が一定の割合で近鉄に補助金を拠出する方式がとられました。私は、このような方式こそが合理的であると考えます。

そして近鉄の事業の場合、当初の事業費見積もりは29億円と見込まれていましたが、近鉄が事業主体として適切な努力をした結果、26億円で完工し弥富市からの補助金は当初の29億円の37%から26億の37%に減額され約1億円の経費が節減されています。

本件事業についても、弥富市が事業主体となるのではなく、JR東海及び名鉄が事業主体となり、弥富市は適切な補助金を出すと言う方式を採用するべきでした。その意味でそもそも弥富市が事業主体となったこと自体が違法なものであると言えます。

4.弥富市が工事費を秘匿する違法性

しかし本件事業は、あくまで弥富市が事業主体となって行われています。

弥富市が事業主体となって自由通路を建設し、鉄道関連施設については補償事業として行うと主張しています。ということは完全に公共事業であり、まさに、公共事業の透明性、公開性、最小費用のルールに則った事業として行われなければなりません。

であるならば、実際に工事費の積算について、JR東海から資料の提供を受けたとしても、提供を受けた後の設計単価は「弥富市の設計単価」にほかなりません。

蟹江町で、施工済みのJR蟹江駅自由通路事業のJR東海から蟹江町に対する工事費請求の文書を蟹江町に情報公開請求したところ、単価が全て黒塗りで、その理由はJR東海が非開示だと言っているということでした。公共事業は公開が原則です。いくら資料のでどころがJR東海であったとしても、発注者は地方公共団体であり、地方公共団体がその単価を審査し妥当だと判断した結果、JR東海に対して代金を支払った。地方公共団体が公金を支払った以上、住民に対して単価を開示できないというのは違法であり、長年携わってきた行政職員として、私は、天と地がひっくり返ったような気分です。あり得ない。許しがたい。全国の公共事業において、公務員が努力し築いてきた成果に対する背信ではないでしょうか。

設計内訳、施工単価を開示できないということは、住民に対する背信行為であり、地方自治法に対する挑戦ではないでしょうか。

5.会議を秘匿する違法性

弥富市は、本件事業において事業主体として、適法な監督をおこなっておらず、すべてJR東海に丸投げしています。

弥富市はJR東海と定期的に行っている会議を、弥富市役所の会議室にJR東海を呼んで行うのではなく、JR東海の会議室に呼び出されて行っています。弥富市は、JR東海から示された資料を基に口頭で説明を聞き打ち合わせをしたと称していますが、議事録の内容を確認事項として双方で決裁を取って作成されるはずの正当な議事録は作成されていません。

弥富市に対して情報開示請求をしたところ、会議録は開示されませあんでした。開示されたのは、担当者が持ち帰ったメモのみであり、それも、JR東海が開示を拒んだという理由でJR東海が何を言ったかはすべて黒塗りの開示でした。会議メモ自体を開示できないことも弥富市に主体性がない証拠です。

「協定に基づく事業」で議事録を、双方で確認して作成していないことは、まともな民間企業では考えられません。

これは本件事業がすべてJR東海のペースですすめられ、弥富市の課長が出席し聞き取ってきたことは、市の部長どまりの会議メモに過ぎず、弥富市が組織的に対応できていない証拠です。

結局は、JRの言いなりで事業が進められているという悲しい証拠です。

弥富市が事業主体であれば、JR東海に何を指示し、どういう要求をし、その結果JR東海がどういう回答したかということについて、きちんと議事録として残し確認事項にしておくことが必要不可欠と思われます。

仮に弥富市が指示したことに対してJR東海が義務を履行していないことが問題になった場合、議事録がなければ確認すらできません。そんなこと言いませんでしたと言い逃れたらそれでおしまいです。法的対抗措置は取れません。

本件事業がこのようにすべてJR東海の都合で進んでいたにもかかわらず、なにゆえ弥富市市長は等閑視していたのでしょうか?

すべてJR東海が事業主体であり、弥富市は、JR東海の弥富駅橋上化のスポンサーになっていたに過ぎないと考えれば納得がいきます。

私も、現職のときには、常に畑違いの分野との折衝によって仕事をしてきました、他の分野が基準と称するものについて鵜呑みにするのではなく、常に原点、根拠条文、根拠資料、証拠書類に直接あたり、相手の言うことを鵜呑みにするのは恥であり、組織と住民に対する背信行為だと自分を律してきました。

自分に不満があっても、相手の要求を受け入れた以上は、自分が事業主体の一員として、会計検査院や監査委員はもちろん、住民に対してもガラス張りで、きちんと説明責任が果たしきれなければならない。責任は自分と自分の組織でとるという覚悟で事務を執行してきました。

6.まとめ

弥富市が本件事業の事業主体であるというならば、事業の進め方、JR東海に対する指示・監督、工事の施工法・施工単価の決定において、弥富市にはまったく主体性が担保されておらず、このような言いなりの事業は公共事業とはいえません。

結局JR東海の私的事業に弥富市が利用されているとしか言えません。

私は、本件事業について上述した数々の違法な側面を、本件住民訴訟で問題とされていることを十分に認識して、適切な判決を言い渡されるよう切に願います。

令和5年11月17日

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