全国年2,000億円の「鉄道委託事業の闇」を問う。
〜たった51万円の不当支出で巨大鉄道会社を提訴した本当の理由〜
弥富市議会議員 佐藤 仁志
プロローグ:なぜ私はこの場に立つのか
私は現在、市議会議員という政治家の立場におりますが、元々は名古屋市の公務員として長年勤めてまいりました。都市計画から工事の積算、現場監督、そして厳しい会計検査への対応に至るまで、公共工事のありとあらゆるプロセスを経験してきました。
政令指定都市である名古屋市では、市民やマスコミの皆様から常に厳しいご指摘を受けてきました。そこで私が学んだ真理は、**「厳しい市民の目、外部の目、マスコミの目が、行政の仕事を良くする」**ということです。自分たちが気付かない見落としを、外部の視点が気付かせてくれる。
しかし翻って、現在の弥富市の行政はどうでしょうか。極めて閉鎖的であり、そうした「厳しい外部の目」が全く届いていません。
この「外部の目にさらされる環境」の決定的な違いが、恐ろしいまでのチェック機能の麻痺、ガバナンスの崩壊という大失敗を生んでしまいました。
私が議員になったのは、弥富市の行政に「外部の多様な目」を入れ、情報の透明化を図り、取り返しのつかない大失敗を未然に防ぎたかったからです。
1.端緒となった「51万円の雨量計」と、異常な言い抜け
2026年3月31日、私と加藤明由市議の2名は、弥富市がJR東海に委託している「JR弥富駅の自由通路整備及び橋上駅舎化事業(総額約50億円)」に関し、不当な公金支出が行われたとして住民訴訟を提起しました。
争う金額は、わずか「約51万円」です。
発端は、移転する必要が全くない独立した「気象観測雨量計」に対し、51万3,000円の移転補償費が支払われたことでした。
私たちがこれを監査で追及すると、JR東海は突如**「雨量計の移設ではなく、落雷対策のケーブルを新設した費用である」**と説明をすり替えました。
たかだかケーブルの新設に51万円余の請求。実態も積算根拠も不明な、悪質な架空・水増し請求の疑いが濃厚です。
しかし、なぜこんなデタラメな請求が通るのか。
それは市のガバナンスが完全に崩壊しているからです。
市の担当幹部は、詳細な図面も持たず、タブレットの写真を数枚見ただけで、億単位の支払いを漫然と承認しています。
監査委員までもが、JRからの「保安上の理由」という言葉を盾に現場立ち入りを諦めました。 行政の自浄作用は、完全に死に絶えています。
2.問題の核心:「機能補償」という名の錬金術
これは単なる事務ミスではありません。
鉄道事業者に対する「公共補償のルール」が根本から歪んでいるのです。
線路で分断された街をつなぐため、自治体が「自由通路」を作ろうとすると、既存の古い駅舎が工事の邪魔になります。
すると**「原因者負担の論理」**が自治体に牙を剥きます。
「自治体が通路を作りたいと言い出したのだから、新しい駅舎の建設費も自治体が払いなさい」という論理です。
これが**【機能補償】の錬金術**です。
昭和に建てられた老朽化した木造駅舎を取り壊す補償として、最新の耐震・バリアフリー設備を完備した「ピカピカの巨大駅舎」を自治体の借金で建てて、そっくりJRに渡す。
鉄道会社は自らの設備投資を最小限に抑えつつ、資産価値の大幅な向上と耐用年数のリセットという莫大な利益を享受しているのです。
3.委託事業のブラックボックスと、隷属的な費用負担
さらに、線路上空の工事は、自治体が業者を選べず、すべてを鉄道会社に丸投げする「鉄道委託事業」となります。
検証機能は不在となり、鉄道会社の独自算定(言い値)を飲むしかありません。
これがどれほど異常な結果を招いているか。東海エリアの過去のデータがそれを物語っています。
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岐阜県の大垣駅(2003年)では、総事業費約36億円のうち市負担は約31.8億円。JRの駅舎増築に巨額の公金が充当されました。
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岐阜県の高山駅(2016年)は総事業費約42億円ですが、JRの負担はわずか1.8億円。
4.「高架化」との違いと、サンクコストの呪縛
愛知県の知立駅の高架化事業は、総事業費約1,000億円に達しますが、これは街を分断していた「踏切」を完全に消滅させる国家プロジェクトです。
翻って、弥富駅はどうでしょうか。
約50億円を投じても踏切は残り、渋滞は解決しません。
それどころか、50億円もかけて真新しい駅舎を作ってしまうことで、将来的な高架化への道すら閉ざしてしまう**「埋没費用(サンクコスト)の呪縛」**に陥るのです。
この構造的欠陥を克服するため、私は以下の3点を強く提言します。
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国や県レベルで、鉄道工事の積算に精通した外部専門家による**「第三者査定機関」**を創設すること。
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「原因者負担」の盾を許さず、新駅舎完成によって鉄道会社が得る利益を市側の負担額から相殺する**「利益按分(ベネフィット・シェアリング)」**へ転換すること。
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計画の初期段階から費用内訳を完全公開すること。
エピローグ:マスコミと社会へ投げかける「3つの問い」
本件は、相手に「騙し取ってやろう」という明確な悪意があったかを問うと、彼らにとってはこれが「普通のやり方(普通のどんぶり勘定)」であるため、裁判としては非常に厳しい戦いになると思っています。
それでも私たちが身銭を切って提訴するのは、今回見過ごされた「51万円」を巨大な闇の「蟻の一穴」として叩き、密室で行われたズサンな裁量を白日の下に晒すためです。
最後に、社会全体に**「3つの問い」**を投げかけます。
Q1「なぜ行政は、鉄道会社の言い値を妄信し続けるのか」
市が現場確認を求めても「保安」という絶対の盾で密室化され、タブレットの写真数枚で億単位の決済が通る。
巨額の公金は、OBが天下りした関連企業など「巨大コングロマリット」の内部だけで分配されていないでしょうか。
Q2「これは本当に、弥富市だけの問題なのか」
1円単位で福祉が削られる中、駅舎一つに市役所が丸ごと1棟建つ金額(約50億円)が消える。
今回の「51万円の雨量計」は、全国で毎年推定2,000億円が執行される鉄道委託事業のブラックボックスの、ほんの「蟻の一穴」に過ぎません。
Q3「なぜ我々は、勝ち目の薄い裁判に、身銭を切って挑むのか」
彼らにとっての「普通」は、納税者から見ればとんでもない異常事態だからです。
この訴訟は、「全国の自治体を蝕む巨大な病理」の存在を提示するための突破口です。
報道機関の皆様。どうか、このパンドラの箱を開け、「第四の権力」として徹底的な調査報道のメスを入れ、社会に警鐘を鳴らしてください。
そして全国の市民・地方議員の皆様。「あなたの町の駅は適正価格ですか」と問いかけてください。
次世代の人たちに、情報がしっかりと公開される「透明でまっとうな社会」を残すために。
皆様の厳しい目と、調査報道のお力添えを心よりお願い申し上げます。
