日本記者クラブ「高市現象と日本の政治」(3) 伊藤昌亮・成蹊大学教授 2026.4.9
以下AIを使って要約しました
ネット動画と「3つの対立軸」から読み解く高市現象
登壇者:伊藤 昌亮(成蹊大学教授/社会学・メディア研究) 司会:内田(日本記者クラブ企画委員・共同通信)
本日はシリーズ企画「高市現象と日本の政治」の第3回です。
先の衆院戦における自民党の歴史的大敗、中道改革連合の大幅議席獲得などをどう読むのか。
今回は成蹊大学の伊藤昌亮教授をお招きし、SNSやネット動画の分析といった社会学的な観点から「高市現象」の背景を解説していただきます。
1. 政治現象ではなく「社会現象」としての高市現象
今回の高市現象は、単なる政局の動きではなく、現代社会のモヤモヤとした動きを映し出した社会現象として捉える必要があります。
その背景には、ショート動画の普及、自己啓発ブーム、現役世代のリアルな不満などが複雑に絡み合っています。
「政策」よりも「キャラクター」が消費されるショート動画
かつてのSNS(XやFacebookなど)は「テキスト中心」で、インフルエンサーの言葉をフォロワーが読む形式でした。
しかし現在は、TikTokやYouTubeショートなどの「アルゴリズム型ショート動画」が主流です。
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切り抜き職人の台頭: 影響力を持っているのは公式アカウントではなく、無名の「切り抜き職人」たちです。彼らは収益目的で、30秒〜1分程度の動画を大量生産しています。
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自己啓発的なメッセージ: 高市氏の動画でバズっているのは、政策(積極財政や安全保障の中身)ではありません。「かっこいい」「倒れそうになっても頑張っている」「私は私(I am who I am)」といった、個人のキャラクターやポジティブ思考を強調する自己啓発的なコンテンツです。
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BGMによる感動の演出: 政治家の言葉に感動的なBGMを乗せ、AIによる架空のナレーション(本人の発言ではない名言など)まで混じることで、政治家が「自分を勇気づけてくれるロールモデル」として推し活的に消費されています。
これは先の東京都知事選における「石丸現象」と全く同じ構造です。
ロジカル思考で老害を打破する石丸氏と、ポジティブ思考で国民を守ると語る高市氏は、低成長時代に「自分を成長させてほしい(投資されたい)」と願う若者や非正規世代の心に強く刺さりました。
2. 変化する「3つの対立軸」
私たちは政治を「右か左か(左右対立)」で見がちですが、現在は対立軸そのものが変化(あるいは対立)しています。
① 左右対立(リベラル vs 保守)の機能不全
憲法改正や夫婦別姓といった従来のイデオロギー対立は、選挙のピーク時においてもSNS等でほとんど盛り上がっていません。
リベラル層が重視する「反貧困・反差別・反戦」のメッセージは、現代の有権者になかなか響かなくなっています。
② 新旧対立(若者・ニューメディア vs 高齢者・オールドメディア)
国民民主党が躍進した背景には、「現役世代 vs 高齢者」という社会保障を巡る世代間対立(若者応援・老害批判)がありました。
また、マイナ保険証問題や兵庫県知事選に見られるように、「既得権益(オールドメディアや地方議会)vs ネット世論」という構図が非常に強い熱を帯びています。
高市氏は、野田氏・斎藤氏という「オールド連合(高齢男性)」に対する「新しい存在(女性・元気)」として、イメージ上の新旧対立を勝ち取りました。
③ 上下対立(明白な格差から「曖昧な格差」へ)
2000年代は「富裕層 vs 貧困層(非正規)」という明白な格差が問題でした。
しかしインフレと円安株高が進む2020年代は、大企業や投資で恩恵を受ける「アッパーミドル層」と、物価高と社会保険料の負担に苦しむ中小企業・自営業などの「ローアーミドル層」という曖昧な格差が生まれています。
再分配(税金を取って貧困層に配る)は、中間層から反発を招きます。
そこで支持を集めたのが、「減税」や「積極財政(MMT的な発想)」を掲げる参政党や高市氏です。
彼らは「再分配よりも積極財政」「(外国人ではなく)普通の日本人を守る」と訴えることで、生活に苦しむ中間層の不満を吸収しました。
3. 「曖昧な弱者」の時代と今後の課題
かつてリベラルが救おうとしたのは、貧困層やマイノリティといった「明白な弱者」でした。
しかし今は、現役世代、日本人男性、ローアーミドル層といった、本来はマジョリティ(強者)であるはずなのに生きづらさを抱える**「曖昧な弱者」**が増加しています。
彼らの漠然とした不安や不満が、「財務省が悪い」「外国人が悪い」といった陰謀論や排外主義的なナラティブ(物語)に回収されやすくなっています。
今後の政治に求められるのは、集合的沸騰(お祭り騒ぎ)に頼るのではなく、こうした「曖昧な弱者」の不満を丁寧に紐解き、彼らが成長できる具体的な経済政策やビジョンを描くことです。
質疑応答(Q&A)
Q1. 高市現象や石丸現象のような熱狂は、今後も長く続くのでしょうか?(川北氏・個人会員)
A(伊藤教授): 感情的なレベルでの「集合的沸騰」は一過性であり、永続はしません。
粗や矛盾も必ず出てきます。
しかし、そうしたネット動画型の政治手法が「一つの体制・勝ちパターン」として認知されてしまった現実は残ります。
これを批判する側も、単に感情で叩くのではなく、経済・安保・文化の対案を冷静に提示していく必要があります。
Q2. なぜ高市氏は、女性政治家への風当たり(ミソジニー)のターゲットにならないのでしょうか?(柴田氏・個人会員)
A(伊藤教授): 高市氏が「急進的なフェミニズム」の側にいないと認識されているからです。
ネット上の反フェミニズム層から見れば、彼女は「敵の敵は味方」という位置づけになります。
また、男社会の中で現実主義的に立ち回る彼女の姿は、バリバリのフェミニストではない一般の女性たちにとっても「現実的な頑張り方のロールモデル」として受け入れやすい側面があります。
Q3. 切り抜き職人による「政治のマネタイズ」は民主主義を歪めませんか?(伊藤氏・M&Aオンライン)
A(伊藤教授): おっしゃる通り、非常に大きな問題です。
政治的なアジテーション(扇動)が動画の再生回数(収益)や、地方議員になるための社会的ステータス獲得の手段になってしまっています。
プラットフォーマー側の収益化規制や、公職選挙法の見直しなど、社会的な議論と対策が急務ですが、法規制が難しい領域でもあり、慎重かつ積極的な議論が求められます。
Q4. 新旧・上下の対立軸が強まる中、今後はどのような基軸が重要になりますか?(大崎氏・個人会員)
A(伊藤教授): 「新旧対立」と「上下対立」は今後も決定的に重要です。
例えば、イノベーションの遅れや社会保障の問題は、日本の硬直化した雇用構造(大企業の正社員優遇と非正規格差)と深く結びついています。
誰かを「敵」にして叩くのではなく、こうした構造的な問題(世代間格差や労働格差)にどう手をつけるか、メディアも含めて冷静にアジェンダ(議題)を設定し直すことが不可欠です。
