なぜ「退職金」を棒に振るリスクを冒したのか
報道によれば、逮捕された建設部長(容疑者)は金銭の授受、いわゆる「贈収賄」については否定しているようです。私もその通りだろうと思います。家族もあり、長年勤め上げてきた役人が、わざわざ退職金を棒に振ってまで、個人のポケットマネーのために犯罪に手を染めるメリットなどどこにもないからです。
しかし、現実に情報は漏洩し、落札率は99%という異常値を叩き出している。そこには「そうせざるを得なかった何か」があったはずです。
「ホットライン」としての抜擢
私はここで、**「ホットライン複数説」**を提唱します。 「ホットライン」とは、行政・政治側と、業者側を繋ぐ「情報漏洩の連絡役」のことです。かつて、異例の抜擢で建設部長という要職に就いた背景には、組織として、あるいは政治側から「ホットライン役を引き受けろ」という無言の命令があったと考えるのが、30年前の経験則からすればあまりに自然な解釈です。
そして、このホットラインは本当に彼一人だけだったのでしょうか。
ハインリッヒの法則ではありませんが、一つの大きな事件の裏には、表面化していない無数の予備軍があるものです。年間何百件もの入札が行われる中で、特定の、しかも重要な案件の数字がピンポイントで漏れている。そこには、逮捕されたルート以外にも、複数の「ホットライン」が存在し、現在進行形で機能していると考える方が論理的です。
「トカゲのしっぽ」建設部長(容疑者)
業者の立場からすれば、複数のホットラインを持っていたとしても、警察に全てを正直に話す必要はありません。最も叩きやすく、最も分かりやすいターゲットを一人差し出せば、事態は収束へと向かうからです。
今回、建設部長(容疑者)が逮捕されたのは、彼が「最も太いホットライン」だったからかもしれません。あるいは、もっと大物、もっと「政治の核心」に近い人物が漏らした情報の罪を、彼一人が被るような形で「血祭りに上げられた」のではないか。
そう考えると、議長の「個人を責めるな」という言葉は、実は「彼一人が犯人ではない(組織的な闇はもっと深い)」という逆説的なメッセージとして響いてきます。
我々市民の「不作為の罪」
この事件を「一職員の不祥事」として片付けることは、真相から最も遠ざかる行為です。
30年前に日本中が経験した「贈収賄なき官製談合」の構図が、今なお弥富市の地下水脈に流れている。ドラマのような話ですが、これが地方自治の現場に残る、あるいは回帰した「古い景色」の正体です。
警察や検察には徹底した解明を望みますが、本人が口を割らなければ、物理的な証拠が出にくいのがこの手の犯罪の性質です。しかし、我々市民も無関係ではありません。これまで「見ざる・聞かざる・言わざる」の精神で、不透明な慣習を黙認し、犯罪の温床を耕してきたのは我々自身ではないでしょうか。
この事件を、単なる一個人のスキャンダルとして消費してはなりません。弥富市が抱える「組織の病理」を、より冷静に、より深く、そして広く見ていく必要があります。
弥富市・入札事務の具体的な「2つの問題」
1. 権限の過度な集中と「チェック機能の形骸化」
通常、公共工事の積算(予定価格の算出)は、担当課、係長、課長、部長、そして財政当局と、幾重もの決裁ラインを通ります。しかし、弥富市のケースで懸念されるのは、**「特定の幹部への情報のブラックボックス化」**です。
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抜け穴: 建設部長(容疑者)というポストに、積算の最終決定権と業者選定の事実上の影響力が集中していた場合、容疑者彼一人を「ホットライン」にすれば全てが完結してしまいます。
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構造的欠陥: 決裁ラインが単なる「ハンコのリレー」になり、部下や他部署が「部長が決めた数字に異を唱えられない」空気があれば、そこはもはや組織ではなく、一人の独裁官による「情報提供所」と化します。
2. 予定価格「事後公表」が生む、情報の「超・高付加価値化」
30年前の談合全盛期から変わらない最大の抜け穴は、**「予定価格を隠し続けていること」**そのものです。
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抜け穴: 予定価格が公表されていない場合、その数字は業者にとって「数千万円の利益」に直結する宝の地図になります。隠せば隠すほど、情報の価値は跳ね上がり、それを聞き出そうとする業者側の工作(接待や政治的圧力)は激化します。
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構造的欠陥: 「事前公表」をしていれば、誰でも知っている数字に価値はなくなり、ホットラインを作る動機そのものが消滅します。弥富市があえて「非公表」を貫いてきたことは、意図的に「裏ルート」の需要を作り出していたと言わざるを得ません。
「ホットラインは一箇所ではない」という構造的推認
なぜ、ホットラインが複数あると考えるのが自然なのか。それは弥富市の入札制度が、**「特定の人間に情報を集中させ、かつその情報を隠し抜く」**という、30年前の談合時代に最も適した古いOS(基本ソフト)で動いているからです。
建設部長(容疑者)という「メインの回線」が今回警察によって切断されましたが、基盤となるOSが変わっていない以上、他にも「サブの回線」や「隠し回線」が存在する可能性は否定できません。
例えば、市長や副市長といった「大枠の数字(予算規模)」を知る立場からのホットライン。あるいは、積算実務の末端で具体的な「単価」を握る担当者レベルのホットライン。 これらが重層的に存在し、業者側がパズルのピースを合わせるように複数のホットラインから情報を集めていたとすれば、落札率99%という「神がかり的な一致」も十分に説明がつきます。
我々が真に警戒すべきは、逮捕された部長個人(容疑者)の責任追及で終わらせることで、他のホットラインや、それらを生み出し続ける「腐ったOS(制度)」が温存されてしまうことなのです。
