「ユニークな学校」はどう生まれるか? – 映画「夢みる小学校」を題材に -(「未来の教室」キャラバン2021#5)
「未来の教室」キャラバン:映画『夢みる小学校』から考える教育の未来
【イベント趣旨】 文部科学省選定映画『夢みる小学校』で描かれたユニークな学校(「きのくに子どもの村学園」「伊那市立伊那小学校」「世田谷区立桜丘中学校」)を題材に、そこにある「教育の本質」を議論します。 なぜこうしたユニークな学校が生まれるのか? なぜ広がらないのか? そして、日本中の学校に「個別最適な学び」や「探究的な学び」を広げるにはどんな仕掛けが必要か? 産業構造審議会の委員や実践者を交え、デジタル(GIGAスクール)とアナログ(体験学習)の融合も含めて深掘りします。
1. 登壇者紹介
-
モデレーター: 浅野 大介(経済産業省「未来の教室」室長 ※当時)
-
パネリスト:
-
尾木 直樹(尾木ママ): 法政大学名誉教授、教育評論家
-
オオタ ヴィン: 映画『夢みる小学校』監督
-
加藤 寛: 南アルプス子どもの村小学校・中学校 校長
-
西郷 孝彦: 元 世田谷区立桜丘中学校 校長
-
苫野 一徳: 熊本大学教育学部 准教授
-
平井 聡一郎: 情報通信総合研究所 特別研究員(※文脈より推測)
-
今村 久美: 認定NPO法人カタリバ 代表理事
-
2. 映画『夢みる小学校』とは?(オオタ監督による解説)
「みんな同じサイズの靴を履かされていませんか?」
オオタ監督は、前作『いただきます』で保育園を取材した際、生き生きしていた子供たちが小学校に入ると元気がなくなることに疑問を抱きました。そこで出会ったのが、今回紹介する「子どもファースト」な学校たちです。
-
映画のメッセージ:
-
今の学校は、全員に同じサイズの靴を履かせて競争させているようなもの。足が合わずに走れない子も、「自分の努力不足だ」と思い込んでしまう。
-
「自分のサイズの靴でいいんだよ」と子供たちに伝えたい。
-
教育先進国のように、私立も公立も無償で、多様な教育スタイルから「自分に合う学校」を選べる日本になってほしい。
-
-
登場する学校の特徴:
-
きのくに子どもの村学園(私立): テストなし、宿題なし、先生(ティーチャー)もいない(大人はサポーター)。
-
伊那市立伊那小学校(公立): 60年以上、通知表がない。
-
世田谷区立桜丘中学校(公立): 校則ゼロ、定期テスト廃止。
-
監督は、「学校は楽しいだけでいい」という言葉の裏には、**「楽しさ(ドーパミン)が内発的動機となり、学びが循環していく」**という脳科学的な裏付けや、これからの社会に必要な資質があることを強調しました。
3. 実践報告:ユニークな学校のリアル
① 南アルプス子どもの村小学校・中学校(加藤校長)
「教えない教育。まずは子どもを幸せにしよう」
この学校の最大の特徴は、大人が「教える」のではなく、子どもが「学ぶ」のを待つことです。
-
ないもの尽くし:
-
チャイムがない: 自分たちで時計を見て動く。
-
テスト・宿題がない: 競争させない。学校に来た時が勝負。
-
通知表がない: 代わりに記述式の手紙で成長を伝える。
-
「先生」と呼ばない: 大人もニックネームで呼び、フラットな関係。
-
-
カリキュラムの特徴(プロジェクト学習):
-
時間割の多く(週14時間など)を「プロジェクト」が占める。
-
「家づくり」「料理」「農業」など、本物の体験(仕事)を通じて学ぶ。
-
基礎学習との連動: 例えば「石窯作り」の中で、セメントと砂の割合(3:1)から計算を学んだり、必要なブロックの費用を計算したりする。体験と言葉・数がリンクしている。
-
-
大切にしていること:
-
自己決定: クラスも、修学旅行の行き先も、ルールも子どもたちが話し合って決める。
-
感情の自由: A.S.ニールの言葉「感情が自由なら、知性はひとりでに発達する」を実践。まず子どもが「自分は自分でいい」と安心できる場所を作ること。
-
② 世田谷区立桜丘中学校(西郷 元校長)
「3年間を幸せに過ごす。校則をなくし、対話を増やす」
公立中学校でありながら、大胆な改革を行いました。
-
目標: すべての子どもたちが3年間を幸せに過ごすこと。幸せなら、問題行動は起きない。
-
校則ゼロ・定期テスト廃止:
-
制服を着ても着なくてもいい。スマホ持ち込みOK。授業中に寝ていてもいい(自分で判断する)。
-
ただし、「法律」は守る。(物を盗れば窃盗、いじめは侮辱罪や暴行罪として、社会のルールと同様に扱う)
-
-
自由な環境とICT:
-
廊下に3Dプリンターやドローンを設置し、自由に遊ばせる。
-
「あくどい」模擬店もOK(社会勉強)。
-
プログラミングやロボットを使って、英語で学ぶ授業など、先端技術も積極的に導入。
-
-
1人1票の生徒総会:
-
生徒が決めたことは、大人が全力で実現する(例:教室へのクーラー設置、校庭の芝生化など)。
-
「世界を変えるのは変な人」。みんなと同じじゃなくていい。
-
4. パネルディスカッション:なぜ広がらない? どう広げる?
テーマ①:学習指導要領との整合性と「学力」の不安
浅野(モデレーター): これだけ探究的な学習をしていて、学習指導要領や受験勉強との整合性はどう取っているのですか? 親は「基礎学力は大丈夫か」と不安になりませんか?
加藤(きのくに): 指導要領はあくまで指針です。プロジェクト学習(体験)の中に、国語や算数の要素は全て含まれています。体験を通して学ぶことで、「生きた知識」になります。また、先生自身が「苦労」ではなく、カリキュラムを作ることを「楽しんで」います。
平井: 実は、きのくにの実践は指導要領を深く読み込んでいないとできません。体験活動を分解すると、教科の学びとしっかりリンクしている。ICTやAIドリルは、基礎定着の「ツール」として割り切って使えばよく、本質はリアルな探究(総合的な学習)にあるべきです。
苫野: 「ドリルか探究か」という二項対立ではありません。探究(プロジェクト)を中核に置けば、必要な知識は子どもたちが自ら学び取ろうとします。「点数を取るための勉強」という親の価値観との折り合いは必要ですが、本質的な学びはすでに実証されています。
テーマ②:教員養成の課題
尾木ママ: 大学で教員志望の学生を育てていますが、教育実習に行くと現場のあまりの惨状(管理教育、多忙)に絶望し、教員になるのを辞めてしまう学生が増えています。理想の教育を知った学生が、今の公立学校の現場とのギャップに苦しんでいるのが現状です。
苫野: 学生たちは、こうした良い教育の事例を「見ちゃった、知っちゃった」状態になります。彼らが現場に出たとき、小さな「対話」から変化を起こそうとしています。時間はかかりますが、希望はあります。
テーマ③:「1人1票」と民主主義の練習
浅野(モデレーター): 子どもたちがルールを決める「1人1票」や「全校集会での決定」は、大人の管理側からするとリスキーに見えますが?
加藤(きのくに): 私たちは効率を目指していません。「遠回りすること」こそが民主主義の練習です。 多数決で切り捨てるのではなく、少数意見を聴き、調整し、納得解を作るプロセスを経験させたいのです。
西郷(桜丘中): 最初は生徒総会で意見なんて出ませんでした。でも「決めたことは必ず実現する」と約束し、実際に動いたことで、生徒たちは「自分たちの意見で学校が変わる」と信頼し始めました。1人1票は人権の基本であり、それを学校で教えるのは当然のことです。
今村(カタリバ): いきなり学校全体を変えるのは難しくても、「ルールメイキング」から始めるのはどうでしょうか。「校則」という身近なテーマについて、生徒・先生・保護者が対話することから、学校の空気を変えていけます。これは全国の学校ですぐに取り組める第一歩です。
5. まとめ:未来の教室に向けて
浅野(モデレーター): 今日登場した学校は、特別な「突然変異」のように見えるかもしれません。しかし、GIGAスクール構想でハードウェアが整った今、次は「OS(学びの在り方)」を変える番です。 デジタルを活用しつつ、本質的な「体験」と「対話」を取り戻すこと。そして、「みんな同じでなければならない」という同調圧力(保護者や社会の目)をどう解きほぐしていくかが、次の大きな課題です。
尾木ママ: コロナ禍で閉塞感がある今だからこそ、子どもたちに「頼る」ことが大切です。子どもたちは主体性を持たせれば、大人以上に創造的に問題を解決していきます。
結論: 映画『夢みる小学校』や今日の実践事例は、決して夢物語ではなく、公立・私立問わず実現可能な「未来の教室」の姿です。まずは大人が思考の枠(バイアス)を外し、子どもを信じて任せることから変革は始まります。
