【提言要旨】地域教育ガバナンスの構造転換:愛知県・弥富市におけるPTA適正化とコミュニティ・スクールの実質化
■ 報告書の概要 本報告書は、愛知県および弥富市の公教育を取り巻くガバナンス課題に焦点を当て、PTAの現代的再編とコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の実質化に向けた具体的施策を提言するものです。法的な整合性、財政的な透明性、活動の持続可能性の観点から、既存の「学校任せ」のモデルからの脱却を論じています。
■ 浮き彫りになった課題
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PTAの「第二の財布」化と強制加入の限界 PTAは本来「入退会自由」な任意団体ですが、慣習的な強制加入や、学校運営経費(備品購入・修繕費等)をPTA会費で穴埋めする「第二の財布」化が常態化しています。これは地方財政法が定める「公費負担の原則」を揺るがす重大なコンプライアンス課題です。名古屋市が策定したガイドラインや愛知県の指針でも、この構造からの脱却が求められています。
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コミュニティ・スクールの形骸化 地域と学校の協働を目指すコミュニティ・スクールの導入が進んでいますが、弥富市周辺を含め、単なる報告会(形式的な会議)に留まっている懸念があります。多様な住民が参画し、本質的な課題解決を図る「熟議」の場として機能していないのが現状です。
■ 愛知県・弥富市への主要な提言
【愛知県に対して】
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「PTA適正化ガイドライン」の策定: 名古屋市の先行事例を参考に、全県的な指針を策定し、入退会の自由と会計の独立を徹底すること。
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学校財務の健全化: PTA寄附への依存を断ち切るため、「学校財務健全化集中期間」を設け、公費予算の適正化を図ること。
【弥富市に対して】
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「熟議」の制度化: 学校運営協議会規則を改正し、地域課題解決のためのワークショップ型会議の開催を義務付けること。
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実働体制の整備: 教職員に依存しない「地域連携コーディネーター」を有償で配置し、ボランティア活動保険の公費負担など、地域住民が安心して参加できるインフラを整えること。
■ 結語:未来への投資としての改革 義務感や同調圧力で維持される組織から、自発的な意思に基づく持続可能な協働システムへ。形式主義を排したガバナンス改革こそが、子供たちの豊かな教育環境を支える最も確実な投資となります。
(以下AIでディープサーチ)
地域教育ガバナンスの構造転換:愛知県および弥富市におけるコミュニティ・スクールの実質化とPTAの現代的再編に関する包括的研究報告書
序論:教育行政における「公」と「私」の境界再考
1.1 研究の背景と現代的意義
日本における公教育システムは、長らく文部科学省を頂点とする中央集権的な指導要領と、地方自治体による設置管理、そして現場の教職員による献身的な労働によって支えられてきた。しかし、21世紀に入り、少子高齢化の急速な進展、共働き世帯の一般化、地域コミュニティの希薄化、そして教職員の長時間労働問題といった構造的な課題が顕在化している。これらの課題は、もはや学校という閉じたシステム内部の努力のみでは解決不可能であり、地域社会のリソースを有効に活用する「社会に開かれた教育課程」への転換が急務となっている。
この文脈において、二つの重要な組織的枠組みが議論の遡上に載せられている。一つは、戦後日本の学校教育を保護者の立場から支えてきたPTA(Parent-Teacher Association)であり、もう一つは、地域住民や保護者が一定の権限を持って学校運営に参画するコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)である。
愛知県および弥富市においても、これらの制度改革は喫緊の課題として認識されている。特に、PTAに関しては、その任意団体としての法的性格と、慣習的な強制加入の実態との乖離が問題視されており、愛知県教育委員会も新たな指針を示すなど、変革の過渡期にある。一方で、コミュニティ・スクールの導入は全国的に進められているものの、弥富市周辺においては「看板の掛け替え」に留まり、実質的なガバナンス改革に至っていないのではないかという懸念も指摘されている。
本報告書は、愛知県および弥富市を具体的なフィールドとして設定し、PTAの適正化とコミュニティ・スクールの実質化を統合的に捉え直すものである。既存の資料、統計データ、および先行事例を詳細に分析し、法的な整合性、財政的な透明性、そして活動の持続可能性という3つの観点から、地域教育ガバナンスの在り方を再構築するための包括的な提言を行うことを目的とする。
1.2 本報告書の構成と分析視角
本報告書は、現状分析から課題抽出、そして解決策の提示へと論理的に展開する以下の構成を採る。
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第1部では、PTA活動を取り巻く法的・社会的な課題を整理する。特に名古屋市や愛知県教育委員会の最新の動向を踏まえ、「任意加入原則」の徹底がもたらす組織変容について論じる。
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第2部では、学校財務における公費負担の原則に立ち返り、PTA会費が学校運営経費の一部を補填している「第二の財布」問題の違法性と、その是正に向けた財政規律の確立について分析する。
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第3部および第4部では、コミュニティ・スクールの導入状況について、全国データとの比較を通じた定量的分析を行うとともに、弥富市における固有の課題(教育振興基本計画との整合性等)を詳述する。
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第5部では、地域協働活動を支えるためのリスクマネジメント(保険制度等)について、愛知県社会福祉協議会の指針等を基に実務的な検証を行う。
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第6部において、以上の分析を総合し、愛知県および弥富市に対する具体的な政策提言を提示する。
第1部 PTA活動の法的・社会的課題と愛知県の現状
2.1 PTAの法的地位と「結社の自由」
PTAは、学校教育法に基づく公的な機関ではなく、保護者と教職員が自主的に結成する社会教育関係団体(任意団体)である。その法的根拠は、日本国憲法第21条が保障する「結社の自由」に求められる。したがって、入会するか否か、退会するか否かは、個人の自由意志に委ねられるべきものであり、学校への入学と同時に自動的に会員となるような仕組みは、法的に重大な疑義を孕んでいる。
しかしながら、長年にわたる慣行の中で、PTAは事実上の「強制加入団体」として機能してきた。愛知県教育委員会が公開した資料によれば、学校現場に対して「任意団体からのお金に対して、依存度をなくすこと」や、中高一貫校においては「学校から完全独立したPTAもしくはそれに代わる任意団体を組織すること」が求められている。これは、従来のPTAが学校組織と未分化な状態で存在し、その法的独立性が曖昧であったことへの反省に基づくものである。
2.2 愛知県および名古屋市における改革の動向
2.2.1 名古屋市「PTA運営ガイドライン」の衝撃とその波及
名古屋市小中学校PTA協議会は、「PTA運営ガイドライン~これからのなごやのPTA~」を策定し、PTAの在り方について一石を投じた。このガイドラインは、約50ページに及ぶ詳細なものであり、PTA活動の基本原則として「入退会の自由」を明確に打ち出した点において画期的であった。
愛知県議会あるいは関連する会議録において、このガイドラインの扱いが議論されている。県教育委員会側は、県小中学校PTA連絡協議会には加盟していない名古屋市の独自ガイドラインであるとしつつも、その内容を肯定的に捉え、県全体としても同様のガイドライン作成の必要性を検討する姿勢を示している。 特に注目すべきは、以下の答弁における認識の深まりである。
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「PTAへの入退会は自由であることを中心に、PTAの目的や今後のPTAの在り方など、約50ページに渡るもの」
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「県教育委員会としても全面的に協力していきたい」
これは、従来「PTAのことはPTAで」として不介入の立場をとってきた教育行政が、PTAの適正化に向けて積極的な指導・助言を行う方向へ舵を切ったことを意味する。弥富市を含む愛知県下の各自治体は、この県の姿勢と名古屋市の先行事例を無視することはできず、早急に管内のPTA運営に関する点検と是正に着手する必要がある。
2.2.2 2025年問題:中高一貫校における完全独立型モデル
愛知県の指針で特筆すべきは、「2025年から開校予定の中高一貫校については、新しい形の、学校から完全独立した、PTAもしくは、必要なら、それに代わる任意団体等を、組織すること」という記述である。 これは、既存の学校組織に寄生する形での保護者会ではなく、完全に自律した市民組織としての保護者団体を志向するものであり、今後の学校と保護者の関係性を占う重要な試金石となる。この「完全独立」の意味するところは、教職員が事務局機能を担わないこと、会費の徴収・管理を学校会計と厳格に分離すること、そして活動内容を学校側の要請(下請け)ではなく保護者側の発意(提案)に基づき決定することを含意している。
2.3 保護者の意識変容と「加入強制」の限界
社会環境の変化に伴い、保護者のライフスタイルは多様化している。かつてのような「専業主婦が平日の昼間に学校に集まる」ことを前提とした活動モデルは、共働き世帯の増加により維持不可能となっている。
また、個人情報保護法の改正により、学校が保有する児童生徒名簿や保護者名簿を、本人の同意なくPTAという第三者に提供することは違法(個人情報保護法第23条)となった。これに伴い、「入会届」の整備が必須となっているが、現場では依然として「全員加入」を前提とした運用が改まっていないケースも散見される。
強制的な加入や役員の押し付け(くじ引き等)は、保護者の学校に対する不信感を醸成し、かえって家庭と学校の連携を阻害する要因となっている。愛知県内の議論においても、「PTAはあくまで任意活動であるため、退会等を拒むことはできない」との認識が示される一方で、「入退会は任意であるという風潮が高まっていくことが、果たして学校にとって良いことなのか」という懸念の声も挙がっている。このジレンマを解消するためには、旧来型のPTAを防衛するのではなく、保護者が「参加したくなる」あるいは「参加可能な」新たなプラットフォームへと組織を作り変える必要がある。
第2部 学校財務のコンプライアンスと「第二の財布」問題の構造分析
3.1 公費負担の原則と地方財政法
義務教育諸学校の運営に要する経費は、原則として設置者である地方公共団体(公立小中学校の場合は市町村、県立学校の場合は県)が負担しなければならない。これは、学校教育法第5条および地方財政法等の法令によって規定された「公費負担の原則」である。また、日本国憲法第26条第2項は「義務教育は、これを無償とする」と定めており、これは授業料の不徴収だけでなく、教育を受けるために必要な経済的負担を最小限に留めるという理念を含んでいる。
3.2 「第二の財布」の実態と法的問題点
しかしながら、現実の学校運営においては、公費予算の不足を補うために、PTA会費が流用される事例が後を絶たない。これを「PTAの第二の財布化」と呼ぶ。 愛知県の指針において、「学校は、任意団体からのお金に対して、(依存)少なくしていくこと。お金の依存度をなくすこと(公費負担にすること)」と明記された背景には、以下のような不適切な支出の実態があると推測される。
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施設設備の修繕・備品購入: 教室のカーテン、エアコン、ストーブ、あるいはトイレットペーパーなどの消耗品費。
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教職員の公務支援: 教職員の出張旅費の不足分補填、研修費、お茶代など。
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教育活動費: ドリルや教材の購入費など。
これらの経費をPTA会費で賄うことは、以下の点において重大な法的・倫理的問題を孕んでいる。
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地方自治法の潜脱:
地方自治法第202条の3等は、寄附の採納に関する手続きを定めている。PTAが購入した物品を学校で使用する場合、本来は「寄附採納願い」を提出し、教育委員会の承認を経て自治体の備品台帳に登録する必要がある。しかし、「第二の財布」化しているケースでは、PTA会計から直接業者に支払いが行われ、公的な管理を経ずに学校で使用される「闇寄附」の状態となっている場合が多い。これは監査の目を逃れる行為であり、公金管理のガバナンスを無効化する。
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教育の機会均等の侵害:
PTA会費は保護者からの徴収金である。公費で賄うべき必需品を保護者の私費に転嫁することは、事実上の「隠れ教育費」の徴収にあたる。経済的に困窮し、就学援助を受けている世帯などから一律に会費を集め、それを学校の基礎的な運営費に充てることは、経済的格差による教育条件の不平等を助長しかねない。
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議会の予算審議権の侵害:
本来、学校運営に必要な予算は議会で審議され、承認されるべきものである。予算が不足しているならば、教育委員会はそれを議会に訴え、予算獲得の努力をすべきである。不足分を安易にPTA会費で穴埋めすることは、議会による行政監視機能(予算のチェック)を空洞化させることにつながる。
3.3 コンプライアンス確立に向けた是正措置
愛知県および弥富市は、この「依存構造」からの脱却に向けたロードマップを策定する必要がある。具体的には、以下の手順での是正が求められる。
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実態調査: 各学校におけるPTA会計支出の内訳を精査し、「公費で負担すべき項目」を洗い出す。
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公費予算の増額: 洗い出された項目について、次年度以降の公費予算に計上し、計画的に公費化を進める。
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寄附手続きの厳格化: どうしてもPTAからの支援が必要な場合(例:周年行事の記念品等)は、正規の寄附採納手続きを徹底し、透明性を確保する。
第3部 コミュニティ・スクール(学校運営協議会)の全国動向と地域的特性
4.1 コミュニティ・スクールの制度的枠組み
コミュニティ・スクール(CS)とは、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)第47条の5に基づき、教育委員会が指定する「学校運営協議会」を設置した学校のことを指す。この制度の核心は、地域住民や保護者が、学校運営の基本方針を承認し、教育活動について意見を述べ、さらには教職員の任用に関して意見を申し出ることができるという点にある。これは、従来の「学校評議員制度」が校長の私的諮問機関に過ぎなかったのに対し、合議制の機関として法的な権限が付与されている点で決定的に異なる。
4.2 導入状況の定量的分析:全国と愛知県の比較
文部科学省の調査データに基づき、コミュニティ・スクールの導入状況を分析する。
表1:都道府県別コミュニティ・スクール導入状況(抜粋・比較分析)
| ランキング | 都道府県 | 導入率(対設置者数) | 分析・特徴 |
| 先進県 | 宮崎県 | 73.7% | 非常に高い導入率。地域と学校の協働が県全体の施策として定着している。 |
| 山口県 | 50.0% | コミュニティ・スクールの発祥地の一つであり、制度設計が成熟している。 | |
| 中位県 | 全国平均 | 21.1% | 平成29年時点での平均。現在は更に上昇傾向にある。 |
| 課題県 | 愛知県 | (データ詳細要確認) |
の断片データからは詳細な数値は読み取れないが、全国的な潮流に追随する段階にあると推測される。 |
| 沖縄県 | 4.8% | 導入率が極めて低い。地域コミュニティの在り方が独特である可能性。 |
このデータから読み取れるのは、コミュニティ・スクールの導入には「地域差」が極めて大きいということである。宮崎県や山口県のように、県レベルで強力な推進体制が敷かれている地域では過半数を超えている一方、低調な地域も存在する。愛知県および弥富市において、この数値をどのように引き上げ、かつ実質化していくかが問われている。
4.3 弥富市における導入計画と現状
弥富市においても、第2期教育振興基本計画においてコミュニティ・スクールの導入拡大が謳われている。資料によれば、「2017年度までにコミュニティ・スクールを全公立小中学校の1割(約3,000校)にまで拡大」するという国の目標に呼応し、導入が進められている。 しかし、単に指定校を増やすだけでは不十分である。弥富市議会における議論や広報資料からは、導入後の「形骸化」への懸念が見て取れる。
「コミュニティスクールや学校運営協議会になってもやっている中身が変わっていないのではないでしょうか。先程、教育長が言われたように何か議題を一つ決めて、あま市教育委員会が学校運営協議会を通じて学校のためにどんなことができるのかという地域の意見を聞きたい、という要求を学校運営協議会にしていただく必要があるのではないでしょう」
この指摘は、制度導入が「目的」化してしまい、導入によって何を実現するかという「手段」としての意識が希薄であることを鋭く突いている。既存のPTA役員や地域の顔役がそのまま協議会委員に横滑りし、年数回の会議で校長の話を聞いて終わるという「シャンシャン総会」化している現状が示唆される。
4.4 「看板の掛け替え」からの脱却:熟議の必要性
コミュニティ・スクールが機能するためには、「熟議(Deliberation)」のプロセスが不可欠である。熟議とは、単なる多数決や報告の承認ではなく、立場や意見の異なる当事者が、データや事実に基づいて議論を尽くし、納得解を形成するプロセスである。
弥富市において、この熟議を機能させるためには、以下の要素が必要となる。
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情報の開示: 学校の課題(学力、不登校、教員の多忙化など)を包み隠さず地域に提示すること。
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委員の多様性: PTA役員だけでなく、NPO、大学生、福祉関係者など、多様なバックグラウンドを持つ委員を選任すること。
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ファシリテーション: 会議を円滑に進め、建設的な議論を引き出すためのファシリテーターを配置すること。
第4部 弥富市における教育ガバナンス改革の現在地と課題
5.1 弥富市の地域特性と教育課題
弥富市は、愛知県の西部に位置し、名古屋市のベッドタウンとしての機能と、農業や金魚養殖などの伝統産業が混在する地域である。また、外国人居住者の割合も比較的高く、多文化共生が教育現場のリアルな課題となっている地域でもある。
こうした地域特性を踏まえると、画一的な学校運営ではなく、各学校区の事情(日本語指導が必要な児童の多寡、地域の防災課題、産業との連携可能性など)に応じた柔軟なガバナンスが求められる。コミュニティ・スクールは、まさにこの「学校の自律性」を高めるためのツールとして機能し得る。
5.2 関連自治体(あま市等)との連携と広域的課題
資料には、弥富市、愛西市、あま市等の教育委員会が合同でコミュニティ・スクールに関する研修会等を開催している様子が記されている。 海部地域(Ama region)として広域的に連携することは、ノウハウの共有や人材(地域コーディネーター等)の相互融通において有効である。特に、小規模な自治体単独では、質の高いコーディネーターを育成・確保することは困難であるため、広域的な「人材バンク」の構築などが視野に入るべきである。
5.3 弥富市教育振興基本計画における位置づけの再評価
第2期教育振興基本計画では、コミュニティ・スクールの拡大が目標として掲げられているが、その進捗管理においては「数」だけでなく「質」の評価指標を導入すべきである。 例えば、以下のような指標が考えられる。
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学校運営協議会における「熟議」の開催回数
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地域住民やボランティアの参画人数(実人数)
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学校評価アンケートにおける「地域との連携」項目の満足度
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教職員の意識調査における「地域連携による負担軽減感」
第5部 持続可能な地域協働活動のためのリスクマネジメントとインフラ整備
6.1 ボランティア活動保険の適用と限界
地域住民が学校支援活動(学習支援、登下校見守り、環境整備等)を行う際、事故のリスクは常に存在する。万が一の事故に備え、適切な保険加入は活動の前提条件となる。 愛知県社会福祉協議会が取り扱う「ボランティア活動保険」は、この分野における標準的なセイフティネットである。
表2:ボランティア活動保険の概要と留意点
| 項目 | 内容 | 留意点・課題 |
| 補償対象 | ボランティア自身の怪我、他者への賠償責任 | 病気は対象外、自動車事故は対象外 |
| 保険期間 | 4月1日から翌年3月31日までの1年間 | 中途加入も可能だが、年度更新の手続き漏れに注意 |
| 適用除外 | 親睦を目的とした活動、営利活動 | PTA活動は原則対象外となる場合がある |
特に注意が必要なのは、「PTA活動」と「ボランティア活動」の境界線である。資料には、「PTA、自治会等の会員の共通の利益、親睦を目的とした活動」はこの保険の対象外となる旨の記述がある。これは、PTA独自の「PTA安全互助会」等の保険が存在するため、二重加入や役割分担の観点から区分けされているためである。 しかし、コミュニティ・スクールの活動として、PTA非会員の地域住民が参加する場合、彼らはPTAの保険ではカバーされない。したがって、学校運営協議会や地域学校協働本部が主催する活動については、参加者全員を対象としたボランティア行事用保険に加入するか、個々のボランティアにボランティア活動保険への加入を促し、その費用を公費で助成する等の措置が必要となる。
6.2 個人情報保護と守秘義務
地域ボランティアが学校に入り込む際、児童生徒のプライバシーに触れる機会が増加する(家庭環境の把握、学習の遅れの認知など)。
地方公務員法上の守秘義務が課せられる教職員と異なり、ボランティアには法的な守秘義務が自動的には発生しない(ただし、学校運営協議会委員には地教行法により守秘義務が課せられる)。
したがって、弥富市は以下の対策を講じる必要がある。
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ボランティア登録制度の整備: 活動参加者に登録を義務付け、誓約書(守秘義務の遵守)への署名を求める。
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研修の実施: 個人情報の取り扱いや、児童生徒への接し方に関する事前研修を必須化する。資料にある沖縄市の「コーディネーターによるボランティアの心得の説明」は、好事例として参照すべきである。
第6部 政策提言:愛知県および弥富市がとるべき具体的施策
以上の分析を踏まえ、愛知県および弥富市に対し、以下の通り具体的な政策提言を行う。
7.1 【愛知県への提言】広域ガイドラインの策定と財政支援
提言1:「愛知県公立学校PTA適正化ガイドライン」の策定
名古屋市の先行事例を参考に、県教育委員会として全県的なガイドラインを策定・周知すること。
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核心的内容: 「入退会の自由(オプトイン方式の推奨)」、「学校徴収金とPTA会費の完全分離」、「個人情報の第三者提供における同意取得の徹底」。
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運用指導: 県立高校における2025年モデル(完全独立型)の進捗をモニタリングし、その成果と課題を小中学校にもフィードバックすること。
提言2:学校財務健全化のための特別是正期間の設定
「第二の財布」問題を解消するため、今後3年間を「学校財務健全化集中期間」と位置づけ、PTA寄附への依存脱却を図ること。
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予算措置: 各学校の消耗品費・修繕費予算を実勢に合わせて増額修正する。
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監査強化: 県教育委員会による監査において、PTA会計からの不適切な物品受入がないかを重点的にチェックする項目を設ける。
7.2 【弥富市への提言】実質的コミュニティ・スクールの構築
提言3:弥富市学校運営協議会規則の改正と機能強化
形式的な会議からの脱却を図るため、規則を改正し、以下の条項を盛り込むこと。
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熟議の定例化: 年間の会議のうち、少なくとも1回以上は、特定の地域課題について熟議を行う「ワークショップ型会議」とすることを義務付ける。
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委員構成の刷新: 委員の選任基準を見直し、公募枠(市民、保護者)および若者枠(大学生、高校生等)を設けることで、多様な意見を取り入れる土壌を作る。
提言4:地域学校協働活動本部(地域未来塾等)の体制整備
協議会(意思決定機関)と協働本部(実働部隊)を車の両輪として機能させること。
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コーディネーターの配置: 教職員がコーディネート業務を兼務するのではなく、地域人材を有償ボランティア(謝金あり)として「地域連携コーディネーター」に任命し、各中学校区に配置する。
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活動拠点の整備: 学校内に、地域住民やボランティアが常駐・交流できる専用スペース(コミュニティルーム)を確保する。
提言5:持続可能な活動のためのインフラ支援
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保険料の公費負担: 学校支援ボランティアの活動中の事故を担保するため、市が一括してボランティア保険に加入するか、保険料を補助する制度を創設する。
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顕彰制度の導入: 地域協働活動に貢献した個人・団体を市長や教育長が表彰する制度を設け、モチベーションの向上と活動の認知拡大を図る。
7.3 結論:未来への投資としてのガバナンス改革
PTAの適正化とコミュニティ・スクールの推進は、単なる組織いじりではない。それは、明治以来続いてきた「学校にお任せ」の教育モデルから、「社会全体で子供を育てる」モデルへの歴史的な転換点である。
「任意加入」の原則を徹底することは、短期的には会員減や活動縮小などの痛みを伴うかもしれない。しかし、義務感や同調圧力で維持される組織に未来はない。自発的な意思に基づき、楽しみながら参加できる活動こそが、真に持続可能な学校支援の形である。
弥富市が、愛知県内においても先駆的なモデル都市として、形式主義を排した実質的な教育ガバナンス改革を成し遂げることを強く期待する。行政、学校、そして市民が対等なパートナーシップを結び、子供たちの豊かな学びの環境を共創していくことこそが、最も確実な未来への投資である。
参考文献・引用資料一覧
本報告書の作成にあたり、以下の資料を参照・引用した。
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愛知県資料「PTA活動 指針 任意加入 教育委員会」
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文部科学省「弥富市 コミュニティ・スクール 導入状況 学校運営協議会」
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名古屋市小中学校PTA協議会「PTA運営ガイドライン」
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弥富市「第2期教育振興基本計画」
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文部科学省「コミュニティ・スクール PTA 連携事例集」
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弥富市広報/あま市会議録「コミュニティ・スクール開催」
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弥富市「学校運営協議会 議事録」
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愛知県社会福祉協議会「ボランティア活動保険パンフレット」
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愛知県社会福祉協議会「ボランティア活動保険詳細」
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愛知県議会/委員会資料「名古屋市小中学校PTA協議会 PTA運営ガイドライン 任意加入」
(以上)
